襲われたい令嬢と紳士になりたい婚約者

壱真みやび

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6. 入学と再会   エルミナ視点

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やっと、やっと入学できる。
ずっと夢見ていた王立学院――ルディのいる場所。


侯爵家の娘として生まれ、体が弱いという理由で勉学は全て家庭教師が担当してくれた。
それにはとても感謝している。
両親は私を思ってそうしていたのだろうし、家庭教師の先生はとてもきめ細かく教育してくれた。
尊敬だってしている。
でも、それでも私は学校に通ってみたかった。
家庭教師と主治医の先生達の後押しもあり、一年という期限付きで両親を説得できた。



そして私は今、王立学院の門をくぐり生徒の仲間入りを果たした。
たった一年だけの学院生活、途中入学なんて自分以外にいるのだろうかと不安だったが気にすることはなかったようだ。
集められた部屋にいる生徒の年齢は様々で、入学式に大きなホールを使うほどの人数はいない。
同じ年齢なのは男の子が一人。

教師たちも途中入学の生徒には慣れているようで、戸惑う様子もない。
まだ幼いこどもがこの場にいないことを考えると、本当の『新一年生』は別の場所で入学式をしているのかもしれない。



式典が終わり、教師が学園内を大まかに説明する列について歩いた。

話には聞いていたし、『王立』というだけあってその敷地はとても広く立派な建物が立ち並んでいる。
ここで子ども時代の10年を過ごす生徒もいるというが、これだけ充実していれば不便はないだろう。
むしろ貴族の子どもたちにとっては、唯一子どもでいられる自由な空間なのではないだろうか。


在学している生徒たちが、こちらを気にして集まっているのが見えた。
ルディ…ルディウスに会いたい。
びっくりするかしら。
それとも…お邪魔だと思われてしまうかしら。
私のこと…覚えているかしら。


学院の案内を一通り終えた生徒は、次に寮に入る。
私も流れに乗って、女子寮の自分の部屋に入る。
二人で一つの部屋を使って生活するらしい。ルームメイトは在学生。まだ寮にその姿はない。
人と同じ空間で生活するのは初めてだ。

(仲良くなれるといいな…)

部屋の使い方を確認してからのほうがいいなと思い、自分の荷物を部屋の隅によけて置いておく。
夜は入学歓迎のパーティーがあると、さっき教師が言っていた。
すごい。王立学園てすごい。

(どこに集合だっけ…)

私服参加といっていた。私服って、本当に私服?
貴族の私服って、本当にこれでいいの?浮かない?
そう不安に思いながら、入学式のために来ていた制服から、お気に入りの深い緑色をしたワンピースに着替える。
ルディの瞳の色は、こんな深い緑色だった。

(会えたらいいな)

そしてパーティー会場へ向かうべく、部屋を後にした。



部屋を出るとすぐに女の子たちが興奮気味にきゃあきゃあ話しているのが聞こえた。

「誰か待っているみたい!」
「え、どうしよう…緊張する!」
「やだ、あんた!前通るだけでしょ!」

そんなふうに楽しそうに歩いて行った。
友達ができたら、私もあんな風に――そう思って廊下を一人歩く。



前方、女子しか入れないエリアのギリギリ向こうで誰かがこっちを見ているのがわかった。
男の人だ。

「あ…」

短く、整えられたミルクティーのような淡い茶色の髪。
私を見る、深い緑色の瞳。

「エルミナ…」


迎えに行くから――

あの別れの日、彼はそう言っていた。覚えてくれていたのだろうか。
ずっとずっと会いたかった、大好きなルディウス。
入学してしばらくはルディウスに会える機会を待ちつつ、学院生活を頑張ろうと思っていた。
こんなにすぐにルディに会えるだなんて。嬉しい。



横に並んで歩く彼は、背もすごく高くなっていて、体もなんだかがっしりしていた。
話す声はもう記憶の声とは全然違っていて、すごく心地いい。

(男の子って、こんなに変身しちゃうんだ…)

なんだかルディの視線を感じて、振り向くとパッと目を逸らされた。
…気のせい、だろうか。
さっき手を引かれたときも、すごくそっと触れられた。
あまり…関わりたくないのだろうか。もうあの頃のようには、なれないのだろうか。

(寂しい…)

たとえそれが婚約者だから、という理由であっても。
迎えに来てくれたこと、こうして並んで歩いてくれること…関わりたくないならしないはず。
気持ちを切り替えて、話しかける。
会話ができる。嬉しい。



私たちは婚約しているけれど…ルディウスにとってこの婚約は、きっといいものではない。
それでも私は、ルディウスに結婚してよかったって思ってほしい。
私と、結婚してよかったって。

ずっと会えなかったけれど、この学院生活で距離を縮めて――ルディに私のことを好きになってもらいたい。
そのためにもまず、この一歩を踏み出すんだ。


そしてルディが差し出してくれた手に、自分の想いを重ねるようにして、二人でパーティーホールに足を踏み入れた。
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