襲われたい令嬢と紳士になりたい婚約者

壱真みやび

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7. 入学歓迎パーティー   ルディウス視点

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エルミナの手を引いてホールへ入ると、もうすでに大勢の生徒がパーティーを楽しんでいた。
ざわざわとした喧騒が、潮が引いていくように静かになった。
みんながエルミナを見ている。
俺は自慢したいような、舌打ちしたいような複雑な気持ちになった。


そんな時、エルミナと目が合った。
何かこっそりと言いたげにしていたので、少し屈んで耳を傾けた。
俺の耳元で小さくエルミナの声がする。

「緊張しちゃうから、まだ一緒にいてね」

何を言うのかと思えば…そんなの決まってる。一人になんてしない。
エルミナに頼られているのが嬉しくて、思わず頬が緩んだ。

「あぁ。わかった」

それを聞いて安心したのか、エルミナが微笑む。

(あぁ…いいな)

エルミナが微笑んだのを確認したかのように、周囲にもざわめきが戻る。



ホールの中まで進むと、たくさんの料理やデザート、ドリンクが並んだテーブルがある。
そろそろ落ち着いただろうかと、エルミナの手を離す。
エルミナもホール内の様子が気になっているようで、辺りを見回している。
ちょっと口元が緩んでいるのが、ものすごく可愛い。

「普段は昼も夜も食堂で食べるんだが、今日みたいに何か催しがある時は食堂は手一杯だ。みんなこういう会場で好きに食べる。立食でもいいし、奥に行けばテーブル席もある。外でするように形式にこだわらず、みんな好きにしているからエルミナも楽しむといい。ただ夜食はないから、話すのに夢中になって食べるのを忘れないように。しっかり食べろ」


自分の過去の失敗を思い出しつつ、エルミナに説明する。
それを聞いたエルミナが驚いた顔をしている。

「え…ここにあるもの全部、食べていいの?」
「どれでも好きに食べていい」
「一人いくつまで…?」
「いくつでも」

エルミナの目が輝いた。

「すごい…すごいわ、なんてこと」

侯爵令嬢ならこんなことで感動しないのだろうが…食事も管理されていたのかもしれない。
それが今の彼女を作っているのだから、間違ってはいないのかもしれないが…
好きなものを、好きなだけ食べさせてやりたい。甘やかしてやりたい。


「ごめん!食事の前にちょーっといいかい?」

エルミナに声を掛ける男。クリスだ。

「俺はクリス・レヴォーグ。ルディウスの友人だよ。よろしくね。学年長と女子寮長を紹介したくて連れてきたんだ。何かあったらこの二人を頼るといいよ」

クリスの紹介に、男女二人が前へ進み出る。

「学年長のエドガーです。よろしく」
「女子寮長のミリーゼよ。あなたの部屋と私の部屋、同じ階なの。よろしくね!」
「あ、ありがとうございます。はじめまして。エルミナ・クラインと申します。私からご挨拶に伺わず、申し訳ありません」

少し焦った様子でレディのお手本のような美しいお辞儀をした。

「いいのいいの。そういう堅苦しいのはここではなし。それにみんな君に話しかけるの怖気づいてたから、まとめて僕が連れてきたんだ~」

怖気づく?と小首をかしげるエルミナに、ミリーゼが話しかける。

「ねぇクラインさん!向こうで女子寮の仲良し組でちょうど食事するの。テーブル席確保したのよ。よかったら一緒にどう?」

ミリーゼがエルミナの手を引いて、奥のテーブル席へと誘う。
手を引かれたことに一瞬驚いたようだが、すぐに嬉しそうに笑った。

「嬉しい!ぜひご一緒させてくださいな」

そして俺を振り返ることもなく、ミリーゼについて行ってしまった…少し寂しい。



俺が一人になったのを待っていたかのように、クリスがガシっと肩に手を回してくる。

「可愛いね。どういう関係?まさか君が女性をエスコートして入ってくるなんて…って女の子たちが絶句してたよ。ストイックで女遊びもしないあのルディウス・ヴィクトールが、って。僕も君のあんな顔初めて見たよ」
「あんな顔ってなんだよ…あいつは俺のだから。手出すなよ」
「俺のって…婚約者とか?」

婚約者。そう言われて顔に熱が集まる。熱い。

「え…ちょっと。そこ照れるとこ?いやいや、君の言ったセリフのほうが何倍も恥ずかしいでしょ」
「うるさい。俺たちも飯食うぞ」

からかってくるクリスを置いて、空いているテーブル席へと移動する。

「いやぁ~君とは長い付き合いだけど…君がこんなに面白い人間だとは知らなかったよ。楽しくなるね、ルディウス!」


後ろでクリスが何か言っていたが、俺もエルミナの位置を確認しつつ、食事をとることにした。
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