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4◆美猫のサンゴ
◆1
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「皆に大事なお知らせがあります」
僕は三匹の猫に、それぞれの年齢や体格に見合った朝ご飯を出したあと、皆がそれを食べたのを見計らってから切り出した。僕の神妙な顔つきに、三匹は姿勢を正す。
右から、ヨモギ猫のトラさん。ノルウェージャンフォレストキャットのチキ、ハチワレ猫のハチさん。
今現在、僕のアパートに住んでいる猫たちだ。この狭さでは縄張り争いをしても虚しい。
狭くて悪いんだけど、僕が開こうとしている猫カフェは、現在オープニングの準備中。絶賛手直し中だから、まだ入れない。しばらくはこの狭いアパートで我慢してもらっている。
でも、だからといって、譲れないこともある。
僕は三匹を前にして、申し訳ないけれど言い放った。
「今日、これから掃除機をかけます」
その途端、三匹は目を点にした。それから、事情を呑み込むと、トラさんはひどく嫌な顔をし、チキは怯えて震え、ハチさんは首を傾げた。
そう、野良だったハチさんは掃除機を知らない。ハチさんがうちに来て初めての掃除機だ。
これでも粘着テープで毛を取ったりして結構我慢したんだけど、やっぱりそろそろ一度はかけなくちゃ。
にゃっ! にゃっ!
チキが前足をバタつかせて懇願する。それだけはやめてくれって?
トラさんも、半眼になってひと言。見損なった、と。
「え、ちょっと待ってよ。僕をヒトデナシみたいに扱わないで……」
僕はただ、部屋を綺麗にしたいだけなんだ。それをわかってほしい。
一体何が始まるんだ? って、ハチさんはトラさんの顔を見た。トラさんは長い尻尾をパシン、と畳に叩きつける。
にゃあ。
興味があるなら見ておくといい。ただ、そんな気は二度と起こらないと思うけどね。
どうしてそう、ハチさんの不安を煽るようなことを言うかなぁ。
「あー、はいはい。掃除機はかけるけど、何も部屋の中で待っててとは言ってないよ。皆、しばらく外で遊んでおいで」
それを聞き、チキは心底ほっとしたようだった。
にゃっ、にゃっ。
そうするって。
ハチさんは皆が恐れる掃除機なるものを見届けるべきか迷っているふうだった。
僕はとりあえず、玄関の戸を開けた。そうして、押し入れからホースのついた掃除機を取り出す。これ、学生の頃から使ってる年代物だ。
掃除機の白いボディを見た途端、トラさんとチキはサッと外へ出た。ハチさんは難しい顔をして眺めている。
にゃあ?
それが掃除機かって。
「そうだよ。これは部屋を綺麗にする道具なんだ」
僕は答えながらコンセントを差し込んだ。
ハチさんは掃除機をじっと見ている。戦って勝てそうかって考えているのかも。白くて鈍くて、とても皆が恐れるようには見えなかったのかもしれない。でも――
「ハチさん、ごめん。――行くよ」
僕はそう言うと、掃除機のスイッチをオンにした。
ブオオオオオオォ。
旧型の掃除機は大音量でゴミを吸う。
ハチさんは、目を白黒させながら慌てて部屋を出ていった。
掃除機の音、大体の動物は嫌いだよね……
悪いけど、今後もたまにはやるからね。
――さて。
皆の反感を買いながらも掃除機をかけた甲斐あって、僕の部屋は綺麗になった。
あー、気持ちがいいなぁ。
掃除機の音ももうしなくなったし、そのうち皆も戻ってくるだろう。僕は今のうちに自分の朝ご飯をパパッと取った。
そうしていると、隙間を開けておいた扉から皆が帰ってきた。
にゃあ。
終わったんだろうね、とトラさんが不機嫌そうに言う。
「終わったよ。綺麗になってるだろ?」
僕は苦笑しながら流し台の前で振り返る。すると――
いち、にい、さん、し。
四匹の猫がいた。増えてるし。
「え? どちらさんで?」
それは、白いメス猫だった。
雪みたいに真っ白な毛をした綺麗な猫だ。美人ならぬ美猫。
なんともいえず品がある。これは野良じゃない。
その辺で仲良くなって、うちに寄っていきなよとかいう話になって連れてきたのかな。
にゃぁ。
その猫はか細い声で言った。
私を雇ってほしいんです、と。
「ええと、そりゃあ、僕は来てくれたらいいなって思うけど、大丈夫なの? 飼い主がいるんじゃないかな?」
すると、チキが援護するように、にゃっと鳴いた。
「帰りたくないんだって? だからいいんだって……。ええと、どういうこと?」
トラさんはいつものごとく戸を閉めてから戻り、ハチさんは壁際で体を横たえた。長い話になるってことを皆がわかっている。
僕はいつもの座布団を白猫に勧めながら言った。
「君の名前はなんていうの?」
白猫はやや躊躇いがちに座布団の上に座ると、長い尻尾を体に巻きつける。
にゃぁ。
「……サンゴっていうんだね。うん、綺麗な名前だ」
白い猫だけど、耳や鼻、肉球は綺麗な珊瑚色だから。
サンゴは緊張しているのかな。ボソボソ、と小さな声で語り出した。
僕は三匹の猫に、それぞれの年齢や体格に見合った朝ご飯を出したあと、皆がそれを食べたのを見計らってから切り出した。僕の神妙な顔つきに、三匹は姿勢を正す。
右から、ヨモギ猫のトラさん。ノルウェージャンフォレストキャットのチキ、ハチワレ猫のハチさん。
今現在、僕のアパートに住んでいる猫たちだ。この狭さでは縄張り争いをしても虚しい。
狭くて悪いんだけど、僕が開こうとしている猫カフェは、現在オープニングの準備中。絶賛手直し中だから、まだ入れない。しばらくはこの狭いアパートで我慢してもらっている。
でも、だからといって、譲れないこともある。
僕は三匹を前にして、申し訳ないけれど言い放った。
「今日、これから掃除機をかけます」
その途端、三匹は目を点にした。それから、事情を呑み込むと、トラさんはひどく嫌な顔をし、チキは怯えて震え、ハチさんは首を傾げた。
そう、野良だったハチさんは掃除機を知らない。ハチさんがうちに来て初めての掃除機だ。
これでも粘着テープで毛を取ったりして結構我慢したんだけど、やっぱりそろそろ一度はかけなくちゃ。
にゃっ! にゃっ!
チキが前足をバタつかせて懇願する。それだけはやめてくれって?
トラさんも、半眼になってひと言。見損なった、と。
「え、ちょっと待ってよ。僕をヒトデナシみたいに扱わないで……」
僕はただ、部屋を綺麗にしたいだけなんだ。それをわかってほしい。
一体何が始まるんだ? って、ハチさんはトラさんの顔を見た。トラさんは長い尻尾をパシン、と畳に叩きつける。
にゃあ。
興味があるなら見ておくといい。ただ、そんな気は二度と起こらないと思うけどね。
どうしてそう、ハチさんの不安を煽るようなことを言うかなぁ。
「あー、はいはい。掃除機はかけるけど、何も部屋の中で待っててとは言ってないよ。皆、しばらく外で遊んでおいで」
それを聞き、チキは心底ほっとしたようだった。
にゃっ、にゃっ。
そうするって。
ハチさんは皆が恐れる掃除機なるものを見届けるべきか迷っているふうだった。
僕はとりあえず、玄関の戸を開けた。そうして、押し入れからホースのついた掃除機を取り出す。これ、学生の頃から使ってる年代物だ。
掃除機の白いボディを見た途端、トラさんとチキはサッと外へ出た。ハチさんは難しい顔をして眺めている。
にゃあ?
それが掃除機かって。
「そうだよ。これは部屋を綺麗にする道具なんだ」
僕は答えながらコンセントを差し込んだ。
ハチさんは掃除機をじっと見ている。戦って勝てそうかって考えているのかも。白くて鈍くて、とても皆が恐れるようには見えなかったのかもしれない。でも――
「ハチさん、ごめん。――行くよ」
僕はそう言うと、掃除機のスイッチをオンにした。
ブオオオオオオォ。
旧型の掃除機は大音量でゴミを吸う。
ハチさんは、目を白黒させながら慌てて部屋を出ていった。
掃除機の音、大体の動物は嫌いだよね……
悪いけど、今後もたまにはやるからね。
――さて。
皆の反感を買いながらも掃除機をかけた甲斐あって、僕の部屋は綺麗になった。
あー、気持ちがいいなぁ。
掃除機の音ももうしなくなったし、そのうち皆も戻ってくるだろう。僕は今のうちに自分の朝ご飯をパパッと取った。
そうしていると、隙間を開けておいた扉から皆が帰ってきた。
にゃあ。
終わったんだろうね、とトラさんが不機嫌そうに言う。
「終わったよ。綺麗になってるだろ?」
僕は苦笑しながら流し台の前で振り返る。すると――
いち、にい、さん、し。
四匹の猫がいた。増えてるし。
「え? どちらさんで?」
それは、白いメス猫だった。
雪みたいに真っ白な毛をした綺麗な猫だ。美人ならぬ美猫。
なんともいえず品がある。これは野良じゃない。
その辺で仲良くなって、うちに寄っていきなよとかいう話になって連れてきたのかな。
にゃぁ。
その猫はか細い声で言った。
私を雇ってほしいんです、と。
「ええと、そりゃあ、僕は来てくれたらいいなって思うけど、大丈夫なの? 飼い主がいるんじゃないかな?」
すると、チキが援護するように、にゃっと鳴いた。
「帰りたくないんだって? だからいいんだって……。ええと、どういうこと?」
トラさんはいつものごとく戸を閉めてから戻り、ハチさんは壁際で体を横たえた。長い話になるってことを皆がわかっている。
僕はいつもの座布団を白猫に勧めながら言った。
「君の名前はなんていうの?」
白猫はやや躊躇いがちに座布団の上に座ると、長い尻尾を体に巻きつける。
にゃぁ。
「……サンゴっていうんだね。うん、綺麗な名前だ」
白い猫だけど、耳や鼻、肉球は綺麗な珊瑚色だから。
サンゴは緊張しているのかな。ボソボソ、と小さな声で語り出した。
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