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①
4-5 二人の距離
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で、こうなったと。
うん。まぁ、一緒に帰るくらいはいいんだけどさ。さっきのことがあるから、少しだけ気まずい。それでいて、一緒にいれて嬉しい気持ちもある。もう、ぐちゃぐちゃだな。
今は白瀬が忘れ物をしたとかで、白瀬の教室に向かっているところだった。ついてこなくてもいいと言われたが、どうせだからとついて行った。
そして、着いた場所で事件は起こった――。
(うん? なんだ?)
三組の教室に明かりがついていた。話し声も聞こえてくる。中に人がいるんだと理解した。人がいるとわかって俺と白瀬は、様子を見ることにした。
「でさー、それがマジでウケんの」
「きゃはは、それまじウケる!」
(なんだそのバカっぽい会話。同じことしか言ってないぞ)
どうやら中にいるのは二人の女子生徒のようだ。会話も重要なことではなさそうだし、入っても大丈夫か。
そう考えて、白瀬に目を配ると、白瀬は頷いた。そうして、白瀬が扉の前まで行ったところでだ。
「あ、そういやさ。メイトに白瀬利莉花とかいうのいんじゃん」
「あー。あの、転校生? が、何?」
(白瀬の話? 一体どんな?)
白瀬も二人の会話に動きが止まっていた。
「あたし、その学校に友達いたんだけどー。そいつがゆーに、白瀬ってレズなんだって」
「レズって女同士でヤったりするやつでしょ? うわー、きも」
「!?」
「きも」という言葉を聞き、白瀬の体がびくっと震えた。その二人は、扉の前に立つ白瀬の姿を見えない場所にいるのか、気づかずにその後も話を続けていく。
「で、あっちで女に告ったんだって。そして振られて学校中に知れ渡ってー」
「耐えきれずに転校ってこと? ははは! それ、ウケんし」
「でしょ? 一緒にいたら、まじ絶対なんかされるって」
「でも、その白瀬って、名前忘れたけど何か小っこいのと一緒いんじゃん」
「それ、もうヤってんじゃね?」
「ははは! それそれ」
何だよ、この胸糞悪い会話。
言ってることの大半は事実だ。けど、それのどこに笑う要素がある? どこにもないだろ。ふざけんな。
白瀬は未だ、扉の前に立ったまま、動かなかった。後姿からでも、分かる。白瀬の悲しみ。見ていると、無性に腹立たしく感じた。我慢ならなかった。
俺は、白瀬のいる扉とは違うもう一つ扉から、中に入った。
「おい、お前ら」
俺の声に、その二人は振り向く。
「あんた、誰?」
「白瀬の友達だ」
「え? じゃあさっきの聞いてた?」
「ああ」
そう返すと、二人は顔を見合わせ、少しだけ気まずそうな顔をした。けれど、開き直ったのか、俺に聞いてくる。
「でも、実際、白瀬がレズとか本当なんしょ? あたしら悪くないよ」
「そうそう。事実を語ってただけだし」
「事実だと? なら、何が事実でそうでないのか。きちんと説明してもらいたいな」
「は、はぁ? なんであたしらが、んなめんどくさいこと……」
「自分の言葉には責任を持て。そう言ってんだよ。白瀬と伊久留がヤってるだと? そんなものお前らの推測だろうが!」
感情の高ぶりを抑えれず、怒鳴り散らす。二人はびっくりしたような、怯えたような表情を見せた。
「確かに、白瀬はレズだ。告白して、振られ、学校中に知られて転校した。それもあってる。だから、それを話すだけならいい。だがな、俺がこうしてここに入ってきたのは……許せなかったのはお前らが白瀬の気持ちを笑ったからだ!!」
そうだ、許せない。こいつらが白瀬のことを割ったから。馬鹿にしたから。
「白瀬は本気だった。本気で好きになったんだ! だから、告白した! 自分の相手に受け入れてもらえないかもしれない。それでもいいって。たとえ、受け入れられなくても、自分の気持ちに嘘はつきたくないって。学校中に知られた時でも、白瀬は受け入れた。それだけの覚悟を持っていたんだ!」
白瀬は自分で自分を『普通じゃないと思っていた』。その自分を隠していた。
けど、それをさらけ出してでも告白した。好きな人に好きと伝えた。
この気持ちを理解せずに、ただきもいの一言で済ませ、馬鹿にするのが、どうしようもないほどに腹が立つし、ムカつくんだ。
「人の真剣を……本気を笑うな!」
俺は最後に、そう叫ぶ。言いたいことは言った。俺の言葉を聞いて、少しでも考えを改めてくれればいいと思った。けど……。
「なんなの、あんた。さっきから熱くなってきもいって」
「意地にならなくてもいいじゃん。女が女を好きだなんてきもいって思うじゃん」
!? こいつら……。もう、本当に我慢の限界だった。いや、最初から我慢なんてしていなかった。だから、今も衝動に駆られて、本能のままに動いた。
俺は鬼の形相で近づき、握りしめた拳を振り下ろそうとして――
「巧人さん!」
「!? 白瀬……」
白瀬がそう叫んで、俺の後ろから抱きついてきた。
「いいですから……私のことは気にしないでいいですから」
そこで、俺は冷静に返る。俺は白瀬の言葉に黙ってしまう。
「…………」
「あ……あたしら、なんも悪いことしてないからね」
さっきまで散々言っていた二人は白瀬の姿を確認すると、一目散に逃げていった。そして、教室内に俺と白瀬の二人だけが取り残される。
未だ、白瀬は後ろから俺を抱きしめてくる。会話もなく時間だけが流れる。その中でも、白瀬に反応して素直なほど捻くれた俺の股間のモノが熱くなっていくのがとても憎らしく、情けなかった。
しばらくして、白瀬はそっと離れる。俺はそのままの状態で白瀬に話しかける。
「ごめん。勝手なことして」
正直、言わなくていいようなことまで言ってしまった。それに、噂が本当であると認めてもしまったし。いや、後悔先に立たずか。
「ううん。私、嬉しかったです。巧人さんが私のために、怒ってくれて」
その声は確かに、少しだけ明るかった。けど、それは部室の時と同じものだ。本当の悲しさを抑えた……。
今こそ、言うべきなのかもしれない。
「白瀬」
「何ですか?」
「俺たちは仲間……友達だよな?」
「……はい。私はそう思ってます」
「でも、お前の態度は正直よそよそしいというか……まだどこかに遠慮しているところがあるように思うんだ」
俺がずっと覚えていた違和感。
白瀬は仲間、友達になることを望んでいたのに、俺たちに敬語で話していた。その理由がさっきなんとなくわかった。
「白瀬は恐れていたんじゃないか? 今回みたいなこと。自分が原因で周りに迷惑をかけることを」
性格からしても、あり得ると思った。俺は、気にすることじゃないと言おうとした。
けれど、白瀬は俺の質問に毅然とした声で返す。
「考えすぎです。別に、そこまでは考えてません。だったら、伊久留ちゃんに抱きついたりはしませんし」
「あ」
それもそうか。
「けど、確かに心の隅にそういった気持ちがあったことは否定しません。でも、それよりも私が気になっていたのは」
白瀬は、歩いて俺の正面までやってくる。白瀬は俺の目を見ていった。
「私は本当に、巧人さんの友達になれているのかなって……」
そうか……。俺が、名前で呼ばなかったから。まさか、俺の名前で呼ぶのが恥ずかしいとかいう、変なプライドが、白瀬をこんなにも困らせていたなんて……。くそ。一番白瀬に心配をかけさせているのは、俺じゃないか。
名前で呼んでしまったら、今まで以上に、白瀬のことを……。けどそんなの、今の白瀬の悲しみと比べればどうでもいいことだと思った。
「俺もさ、悩んでたんだ。白瀬は本当に俺たちと友達になれてるのかって。それに、白瀬の言う通り、俺少しだけお前のこと遠ざけてた」
俺の言葉に白瀬は落ち込んだように顔を俯かせた。
「でも、お前に言われて、はっきり思ったよ。俺、お前の友達になりたい」
今度はその言葉に、顔をあげる。
「お前は俺のこと『さん』って呼ぶよな。でも、友達なんだからさ。『君』とか、呼び捨てとかで呼んでほしい」
「…………」
「それじゃダメかな? 利莉花」
「! ……ううん。それでいいよ、巧人君」
利莉花は飛び切りの笑顔を俺に向けてくれた。
うん。まぁ、一緒に帰るくらいはいいんだけどさ。さっきのことがあるから、少しだけ気まずい。それでいて、一緒にいれて嬉しい気持ちもある。もう、ぐちゃぐちゃだな。
今は白瀬が忘れ物をしたとかで、白瀬の教室に向かっているところだった。ついてこなくてもいいと言われたが、どうせだからとついて行った。
そして、着いた場所で事件は起こった――。
(うん? なんだ?)
三組の教室に明かりがついていた。話し声も聞こえてくる。中に人がいるんだと理解した。人がいるとわかって俺と白瀬は、様子を見ることにした。
「でさー、それがマジでウケんの」
「きゃはは、それまじウケる!」
(なんだそのバカっぽい会話。同じことしか言ってないぞ)
どうやら中にいるのは二人の女子生徒のようだ。会話も重要なことではなさそうだし、入っても大丈夫か。
そう考えて、白瀬に目を配ると、白瀬は頷いた。そうして、白瀬が扉の前まで行ったところでだ。
「あ、そういやさ。メイトに白瀬利莉花とかいうのいんじゃん」
「あー。あの、転校生? が、何?」
(白瀬の話? 一体どんな?)
白瀬も二人の会話に動きが止まっていた。
「あたし、その学校に友達いたんだけどー。そいつがゆーに、白瀬ってレズなんだって」
「レズって女同士でヤったりするやつでしょ? うわー、きも」
「!?」
「きも」という言葉を聞き、白瀬の体がびくっと震えた。その二人は、扉の前に立つ白瀬の姿を見えない場所にいるのか、気づかずにその後も話を続けていく。
「で、あっちで女に告ったんだって。そして振られて学校中に知れ渡ってー」
「耐えきれずに転校ってこと? ははは! それ、ウケんし」
「でしょ? 一緒にいたら、まじ絶対なんかされるって」
「でも、その白瀬って、名前忘れたけど何か小っこいのと一緒いんじゃん」
「それ、もうヤってんじゃね?」
「ははは! それそれ」
何だよ、この胸糞悪い会話。
言ってることの大半は事実だ。けど、それのどこに笑う要素がある? どこにもないだろ。ふざけんな。
白瀬は未だ、扉の前に立ったまま、動かなかった。後姿からでも、分かる。白瀬の悲しみ。見ていると、無性に腹立たしく感じた。我慢ならなかった。
俺は、白瀬のいる扉とは違うもう一つ扉から、中に入った。
「おい、お前ら」
俺の声に、その二人は振り向く。
「あんた、誰?」
「白瀬の友達だ」
「え? じゃあさっきの聞いてた?」
「ああ」
そう返すと、二人は顔を見合わせ、少しだけ気まずそうな顔をした。けれど、開き直ったのか、俺に聞いてくる。
「でも、実際、白瀬がレズとか本当なんしょ? あたしら悪くないよ」
「そうそう。事実を語ってただけだし」
「事実だと? なら、何が事実でそうでないのか。きちんと説明してもらいたいな」
「は、はぁ? なんであたしらが、んなめんどくさいこと……」
「自分の言葉には責任を持て。そう言ってんだよ。白瀬と伊久留がヤってるだと? そんなものお前らの推測だろうが!」
感情の高ぶりを抑えれず、怒鳴り散らす。二人はびっくりしたような、怯えたような表情を見せた。
「確かに、白瀬はレズだ。告白して、振られ、学校中に知られて転校した。それもあってる。だから、それを話すだけならいい。だがな、俺がこうしてここに入ってきたのは……許せなかったのはお前らが白瀬の気持ちを笑ったからだ!!」
そうだ、許せない。こいつらが白瀬のことを割ったから。馬鹿にしたから。
「白瀬は本気だった。本気で好きになったんだ! だから、告白した! 自分の相手に受け入れてもらえないかもしれない。それでもいいって。たとえ、受け入れられなくても、自分の気持ちに嘘はつきたくないって。学校中に知られた時でも、白瀬は受け入れた。それだけの覚悟を持っていたんだ!」
白瀬は自分で自分を『普通じゃないと思っていた』。その自分を隠していた。
けど、それをさらけ出してでも告白した。好きな人に好きと伝えた。
この気持ちを理解せずに、ただきもいの一言で済ませ、馬鹿にするのが、どうしようもないほどに腹が立つし、ムカつくんだ。
「人の真剣を……本気を笑うな!」
俺は最後に、そう叫ぶ。言いたいことは言った。俺の言葉を聞いて、少しでも考えを改めてくれればいいと思った。けど……。
「なんなの、あんた。さっきから熱くなってきもいって」
「意地にならなくてもいいじゃん。女が女を好きだなんてきもいって思うじゃん」
!? こいつら……。もう、本当に我慢の限界だった。いや、最初から我慢なんてしていなかった。だから、今も衝動に駆られて、本能のままに動いた。
俺は鬼の形相で近づき、握りしめた拳を振り下ろそうとして――
「巧人さん!」
「!? 白瀬……」
白瀬がそう叫んで、俺の後ろから抱きついてきた。
「いいですから……私のことは気にしないでいいですから」
そこで、俺は冷静に返る。俺は白瀬の言葉に黙ってしまう。
「…………」
「あ……あたしら、なんも悪いことしてないからね」
さっきまで散々言っていた二人は白瀬の姿を確認すると、一目散に逃げていった。そして、教室内に俺と白瀬の二人だけが取り残される。
未だ、白瀬は後ろから俺を抱きしめてくる。会話もなく時間だけが流れる。その中でも、白瀬に反応して素直なほど捻くれた俺の股間のモノが熱くなっていくのがとても憎らしく、情けなかった。
しばらくして、白瀬はそっと離れる。俺はそのままの状態で白瀬に話しかける。
「ごめん。勝手なことして」
正直、言わなくていいようなことまで言ってしまった。それに、噂が本当であると認めてもしまったし。いや、後悔先に立たずか。
「ううん。私、嬉しかったです。巧人さんが私のために、怒ってくれて」
その声は確かに、少しだけ明るかった。けど、それは部室の時と同じものだ。本当の悲しさを抑えた……。
今こそ、言うべきなのかもしれない。
「白瀬」
「何ですか?」
「俺たちは仲間……友達だよな?」
「……はい。私はそう思ってます」
「でも、お前の態度は正直よそよそしいというか……まだどこかに遠慮しているところがあるように思うんだ」
俺がずっと覚えていた違和感。
白瀬は仲間、友達になることを望んでいたのに、俺たちに敬語で話していた。その理由がさっきなんとなくわかった。
「白瀬は恐れていたんじゃないか? 今回みたいなこと。自分が原因で周りに迷惑をかけることを」
性格からしても、あり得ると思った。俺は、気にすることじゃないと言おうとした。
けれど、白瀬は俺の質問に毅然とした声で返す。
「考えすぎです。別に、そこまでは考えてません。だったら、伊久留ちゃんに抱きついたりはしませんし」
「あ」
それもそうか。
「けど、確かに心の隅にそういった気持ちがあったことは否定しません。でも、それよりも私が気になっていたのは」
白瀬は、歩いて俺の正面までやってくる。白瀬は俺の目を見ていった。
「私は本当に、巧人さんの友達になれているのかなって……」
そうか……。俺が、名前で呼ばなかったから。まさか、俺の名前で呼ぶのが恥ずかしいとかいう、変なプライドが、白瀬をこんなにも困らせていたなんて……。くそ。一番白瀬に心配をかけさせているのは、俺じゃないか。
名前で呼んでしまったら、今まで以上に、白瀬のことを……。けどそんなの、今の白瀬の悲しみと比べればどうでもいいことだと思った。
「俺もさ、悩んでたんだ。白瀬は本当に俺たちと友達になれてるのかって。それに、白瀬の言う通り、俺少しだけお前のこと遠ざけてた」
俺の言葉に白瀬は落ち込んだように顔を俯かせた。
「でも、お前に言われて、はっきり思ったよ。俺、お前の友達になりたい」
今度はその言葉に、顔をあげる。
「お前は俺のこと『さん』って呼ぶよな。でも、友達なんだからさ。『君』とか、呼び捨てとかで呼んでほしい」
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