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6-1 尾行は一日にしてならず
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伊久留のテストが登場してみんなで騒いだりしつつ、今日もいつも通りの部活をしていた。けど、少し違うことも――。
俺は利莉花に目を配らせる。すると、利莉花はその視線に気づき、そして頷いた。俺はそれを確認すると、荷物を持って立ち上がる。
「? どうした、巧人。今日はもう帰るのか?」
突然何も言わずに立ち上がった俺に、透が声をかけてくる。それもそのはず。俺は部活となれば時間いっぱいはいるほうだ(関羽は別だが)。その俺が、いつもよりも一時間も早く帰ろうとしているのだ。
他の者も(伊久留以外)俺に目を向け顔をした。その視線に答えるように、隣の絵夢を見つつ、言った。
「ああ、ちょっと絵夢とやらないといけない用事があるからな」
「え? 私別に……」
絵夢がそこまで言いかけて、俺の視線の語り掛けに気づく。
『とにかく、今は俺の言葉に従ってくれ』
『……わかったよ、ヌッキー』
「ああ、ごめん! 忘れてたよ。私から誘ったのにね」
絵夢は少しわざとらしい演技をし、俺に笑いながら謝ってくる。俺もその演技に返すように、答える。
「ったく……しっかりしてくれよな」
「だから、ごめんって」
「うぉい。お前ら、またかよ。このままじゃ巧をとられちまうな、峰内」
「っく……巧人。今度は俺と一緒に帰っては――」
「じゃあな、みんな」
関羽に煽られて少し焦り気味に俺に声をかけてきた透をスルーし、絵夢とともに部室を出た。
出る時、再び利莉花とアイコンタクトを取る。そのとき利莉花は微笑を浮かべた。
*****
「それで、どういうことか説明してくれるかな? ヌッキー」
部室を出たあと、俺は絵夢と一緒に自分の教室まできた。
中には誰もいなかったので、二人きりだ。それもあってか、絵夢は着くとすぐにそんな質問をしてきた。
(本当は利莉花たちが来てから話をしたいんだが……いいだろう)
「実はな、前から利莉花と企画していたことがあってな。そのためにまず、絵夢を連れ出したんだ」
「企画していたこと? なにそれ」
「簡単に言うと、透の尾行」
「とおるんを尾行……って、ええ!? なんでそんなことになってるの!? リリーとどんな会話してたの!?」
興奮気味に言い寄ってくる絵夢を「まぁ落ち着けよ」となだめる。
それを聞いて少しだけ申し訳なさそうに俺から一歩離れる。そのあと俺は話を続けた。
「話自体は絵夢が俺に勉強を教えてと頼みに来る前の日……俺が利莉花と仲良くなった日のことになるんだがな。本格的にその話を進めていったのは、その二日後の日だ。ほら、土曜に学校に来て、俺が利莉花と部室を離れて話をするために、休憩時間になっただろ? あのときだ」
「ええー……あのときリリーとヌッキーって遊びの話をしてたの? 私と完熟が必死に勉強している最中に……」
すまんが、必死さが微塵も感じられなかったんだが。
「でも、どうして尾行なんてやることになったの?」
「当然そう思うよな……まぁ、利莉花が何故か提案したからとしか言いようがないな。対象が透なのは消去法だが」
「リリーって……」
絵夢が何か残念な人を見るような目をする。だがそれも一瞬で、すぐにテンションを上げる。
「うん、でも尾行か~……今からワクワクしてきたよ!」
そう言う絵夢の声は弾み、体もなんだがうずうずしている。やっぱりなんだかんだ言っても、この目の前の面白そうなことに期待を覚えているんだな。この企画。やって正解だったな。
*****
そうこうして利莉花と関羽もやってきた。正直、関羽がその辺のことをうまくやれるとは思えないので、利莉花の苦労が目に浮かぶ。
さて、これでここには四人が揃ったな。
「あれ? なんでお前らここにいんだよ? 先に帰ったんじゃねーのか?」
まだ状況を理解していない関羽は俺にそう聞いてくる。
「あれはあの場の嘘だ。そうでもしないと、透を省いて帰るなんてできないだろ?」
「はぁ? んだよ、それ。峰内をいじめてんのかよ」
何だか説明が面倒になってきた。絵夢に任せよう。
「私たち、とおるん、尾行」
「うぉー! んだよそれ! めちゃくちゃおもしろそうじゃねーか! テンション上がってきたぜ!」
何故、今のだけで理解するんだ。いつもはただの馬鹿なのに。いや、スムーズに話が進んでいくのはいいことだ。先に進もう。
俺は利莉花に話しかける。
「で? どうだ?」
「……はい。連絡が来ました、今部室を出たそうです」
「そうか……」
ここまでは計画通りだな。俺たちが真剣な話をしていると、絵夢と関羽は一旦落ち着いたのか、「どうした?」と聞いてきた。
「今、透が部室を出たそうだ。まぁ、メンバーがほとんどいなくなったのに留まっている理由はないからな」
「ああ確かにな――っておい、そこまで考えてたのかよ!」
「当たり前だろ。もっと言えば俺たちがそれぞれ別々に部室を離れたのだって、透に怪しまれないためだからな」
「おお……ヌッキーが何だかとても頼もしく見えるよ……!」
当然だ。すずねちゃん(11)を通して、極限まで磨き上げた。尾行において、俺は相当のレベルだからな。
「でもそれだったら、俺たちに言ってくれてもよかったんじゃねーのか? そっちのほうが一人ずつ部室を出られただろーしよ」
関羽はそんな馬鹿みたいなことを言う。俺はそこである種の懐かしさを覚えた。
「関羽、やはりお前はお前だったか。少し安心したぞ」
「どういう意味だ?」
「気にするな……さて、もし一人ずつ部室を出たとしよう。すると計四回の退出をしなければならない。しかもそれぞれが何らかの理由があってだ。明らかにおかしいと思うだろう? それに比べ、二人ずつ同時に退出すれば二回で済むうえに、その用事というのも二人が関わっているものだから、不自然さがあまりでない」
まぁ、一番の理由は関羽と絵夢に事前に話しておくと、絶対隠し通せないと思ったからだが。そっちは関羽がうるさいだろうからやめる。
だが、そんなことは知らない絵夢と関羽は俺のことを尊敬するような眼差しで見てくる。……悪くないな。
「さて、そろそろいいだろう。透の尾行開始だ」
「あ、そういえば、とおるんが部室でてから結構時間経ってるんじゃないの?」
「逆に、それなりに時間が経ってからでないと、意味がないんだよ。昇降口でばったり……なんてことも有り得るからな」
「でも見失っちまったら、元も子もねーぜ?」
「大丈夫だ。事前に透のことは少しだけつけた。そこで尾行の際の透との距離も、大体把握した。それに、アイツは電車を利用しているから向かうなら駅だろう。もちろん、寄り道する可能性もあるが、最終的には駅にいくことは確かだし、それにどの駅で降りるべきかも俺は知っているからな。先回りすればいいだけだ」
電車の時間も確認している。移動時間を省いても、来るまで、それなりに時間もある。俺の中ではもう完璧だ。後はへましないように注意し、この頭の中の予定通り行動するだけ。
「今日一日のためにそこまでやるなんて……ヌッキー、すごい気合の入りようだね」
「当たり前だ。やるからには本気だ。俺の持ちうるすべてのテクニックを駆使して、透のすべてを暴いてやる!」
「流石、ヌッキー! そこにシビれる、あこがれるぅ――!!」
「へい! 巧さん……俺もこのやまぁ……全力で取り組ませてもらいやすぜ!」
絵夢は、はやし立てるようなキャラでノリノリで俺を称賛する。
関羽も何だか刑事ドラマの、あんまりパッとしないやつみたいなキャラで俺の言葉に返してきた。
ただ、利莉花一人がその俺の言葉に、少し苦笑していた。
俺は利莉花に目を配らせる。すると、利莉花はその視線に気づき、そして頷いた。俺はそれを確認すると、荷物を持って立ち上がる。
「? どうした、巧人。今日はもう帰るのか?」
突然何も言わずに立ち上がった俺に、透が声をかけてくる。それもそのはず。俺は部活となれば時間いっぱいはいるほうだ(関羽は別だが)。その俺が、いつもよりも一時間も早く帰ろうとしているのだ。
他の者も(伊久留以外)俺に目を向け顔をした。その視線に答えるように、隣の絵夢を見つつ、言った。
「ああ、ちょっと絵夢とやらないといけない用事があるからな」
「え? 私別に……」
絵夢がそこまで言いかけて、俺の視線の語り掛けに気づく。
『とにかく、今は俺の言葉に従ってくれ』
『……わかったよ、ヌッキー』
「ああ、ごめん! 忘れてたよ。私から誘ったのにね」
絵夢は少しわざとらしい演技をし、俺に笑いながら謝ってくる。俺もその演技に返すように、答える。
「ったく……しっかりしてくれよな」
「だから、ごめんって」
「うぉい。お前ら、またかよ。このままじゃ巧をとられちまうな、峰内」
「っく……巧人。今度は俺と一緒に帰っては――」
「じゃあな、みんな」
関羽に煽られて少し焦り気味に俺に声をかけてきた透をスルーし、絵夢とともに部室を出た。
出る時、再び利莉花とアイコンタクトを取る。そのとき利莉花は微笑を浮かべた。
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「それで、どういうことか説明してくれるかな? ヌッキー」
部室を出たあと、俺は絵夢と一緒に自分の教室まできた。
中には誰もいなかったので、二人きりだ。それもあってか、絵夢は着くとすぐにそんな質問をしてきた。
(本当は利莉花たちが来てから話をしたいんだが……いいだろう)
「実はな、前から利莉花と企画していたことがあってな。そのためにまず、絵夢を連れ出したんだ」
「企画していたこと? なにそれ」
「簡単に言うと、透の尾行」
「とおるんを尾行……って、ええ!? なんでそんなことになってるの!? リリーとどんな会話してたの!?」
興奮気味に言い寄ってくる絵夢を「まぁ落ち着けよ」となだめる。
それを聞いて少しだけ申し訳なさそうに俺から一歩離れる。そのあと俺は話を続けた。
「話自体は絵夢が俺に勉強を教えてと頼みに来る前の日……俺が利莉花と仲良くなった日のことになるんだがな。本格的にその話を進めていったのは、その二日後の日だ。ほら、土曜に学校に来て、俺が利莉花と部室を離れて話をするために、休憩時間になっただろ? あのときだ」
「ええー……あのときリリーとヌッキーって遊びの話をしてたの? 私と完熟が必死に勉強している最中に……」
すまんが、必死さが微塵も感じられなかったんだが。
「でも、どうして尾行なんてやることになったの?」
「当然そう思うよな……まぁ、利莉花が何故か提案したからとしか言いようがないな。対象が透なのは消去法だが」
「リリーって……」
絵夢が何か残念な人を見るような目をする。だがそれも一瞬で、すぐにテンションを上げる。
「うん、でも尾行か~……今からワクワクしてきたよ!」
そう言う絵夢の声は弾み、体もなんだがうずうずしている。やっぱりなんだかんだ言っても、この目の前の面白そうなことに期待を覚えているんだな。この企画。やって正解だったな。
*****
そうこうして利莉花と関羽もやってきた。正直、関羽がその辺のことをうまくやれるとは思えないので、利莉花の苦労が目に浮かぶ。
さて、これでここには四人が揃ったな。
「あれ? なんでお前らここにいんだよ? 先に帰ったんじゃねーのか?」
まだ状況を理解していない関羽は俺にそう聞いてくる。
「あれはあの場の嘘だ。そうでもしないと、透を省いて帰るなんてできないだろ?」
「はぁ? んだよ、それ。峰内をいじめてんのかよ」
何だか説明が面倒になってきた。絵夢に任せよう。
「私たち、とおるん、尾行」
「うぉー! んだよそれ! めちゃくちゃおもしろそうじゃねーか! テンション上がってきたぜ!」
何故、今のだけで理解するんだ。いつもはただの馬鹿なのに。いや、スムーズに話が進んでいくのはいいことだ。先に進もう。
俺は利莉花に話しかける。
「で? どうだ?」
「……はい。連絡が来ました、今部室を出たそうです」
「そうか……」
ここまでは計画通りだな。俺たちが真剣な話をしていると、絵夢と関羽は一旦落ち着いたのか、「どうした?」と聞いてきた。
「今、透が部室を出たそうだ。まぁ、メンバーがほとんどいなくなったのに留まっている理由はないからな」
「ああ確かにな――っておい、そこまで考えてたのかよ!」
「当たり前だろ。もっと言えば俺たちがそれぞれ別々に部室を離れたのだって、透に怪しまれないためだからな」
「おお……ヌッキーが何だかとても頼もしく見えるよ……!」
当然だ。すずねちゃん(11)を通して、極限まで磨き上げた。尾行において、俺は相当のレベルだからな。
「でもそれだったら、俺たちに言ってくれてもよかったんじゃねーのか? そっちのほうが一人ずつ部室を出られただろーしよ」
関羽はそんな馬鹿みたいなことを言う。俺はそこである種の懐かしさを覚えた。
「関羽、やはりお前はお前だったか。少し安心したぞ」
「どういう意味だ?」
「気にするな……さて、もし一人ずつ部室を出たとしよう。すると計四回の退出をしなければならない。しかもそれぞれが何らかの理由があってだ。明らかにおかしいと思うだろう? それに比べ、二人ずつ同時に退出すれば二回で済むうえに、その用事というのも二人が関わっているものだから、不自然さがあまりでない」
まぁ、一番の理由は関羽と絵夢に事前に話しておくと、絶対隠し通せないと思ったからだが。そっちは関羽がうるさいだろうからやめる。
だが、そんなことは知らない絵夢と関羽は俺のことを尊敬するような眼差しで見てくる。……悪くないな。
「さて、そろそろいいだろう。透の尾行開始だ」
「あ、そういえば、とおるんが部室でてから結構時間経ってるんじゃないの?」
「逆に、それなりに時間が経ってからでないと、意味がないんだよ。昇降口でばったり……なんてことも有り得るからな」
「でも見失っちまったら、元も子もねーぜ?」
「大丈夫だ。事前に透のことは少しだけつけた。そこで尾行の際の透との距離も、大体把握した。それに、アイツは電車を利用しているから向かうなら駅だろう。もちろん、寄り道する可能性もあるが、最終的には駅にいくことは確かだし、それにどの駅で降りるべきかも俺は知っているからな。先回りすればいいだけだ」
電車の時間も確認している。移動時間を省いても、来るまで、それなりに時間もある。俺の中ではもう完璧だ。後はへましないように注意し、この頭の中の予定通り行動するだけ。
「今日一日のためにそこまでやるなんて……ヌッキー、すごい気合の入りようだね」
「当たり前だ。やるからには本気だ。俺の持ちうるすべてのテクニックを駆使して、透のすべてを暴いてやる!」
「流石、ヌッキー! そこにシビれる、あこがれるぅ――!!」
「へい! 巧さん……俺もこのやまぁ……全力で取り組ませてもらいやすぜ!」
絵夢は、はやし立てるようなキャラでノリノリで俺を称賛する。
関羽も何だか刑事ドラマの、あんまりパッとしないやつみたいなキャラで俺の言葉に返してきた。
ただ、利莉花一人がその俺の言葉に、少し苦笑していた。
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