ロリコンだった俺がある日突然何の脈絡もなくロリコンじゃなくなったから再びロリコンに戻りたい!

発酵物体A

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8-2 マネージャーってなに?→知るか!

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「ここ……だよな?」

 自信なさげに、一人呟く。

 俺はさっき指示された場所のドアの目の前まできた。
 その指示というのは、あのあかりちゃんのマネージャーをしろとかいう、意味不明なことだ。
 なんでも、マネージャーが来れなくなったらしい。それで、とりあえずスタッフである俺が近くにいて……ってことだ。

 うん。まず聞こう。こんなことが実際にありえるのか? いや、実際に起こったけども。にしたって、スタッフにマネージャーを頼みとか、常識知らずもいいところだろ。頭がおかしいんじゃないのか?

 さらに、今度は俺が分からないことだが、マネージャーってなんだよ。何すればいいんだよ。俺は、ア○マスとか、やってないんだよ。名前しか知らねーんだよ。大体アイ○スはプロデューサーだよ。説明しろよ。おい。

 本当にどうかしていると思う。だって、説明は聞こうとしたんだ。けど、ここでまた、早くここに行けって場所の紙を渡された。聞くに聞けなくなったんだ。
 仕方なく、ここに来る間に、ケータイで調べたけど、仕事をとってくる、スケジュール管理、ケアなどだった。

 ……とくにやることないんだけど。仕事はもうこのライブだし。スケジュール管理とか、まず俺がスケジュールを知らない。ケア……ぎりぎりできるかなくらい?

 とにかく、あかりちゃんだって俺なんていらないはずだ。それ以前に、素人になにしろっつーんだ。
 俺としては、さすがにご本人に直接会うのは気が引ける。一対一形式で会うとか、ロリコン時代でもなかったことだぞ。しかも、相手がアイドル! ロリコンでもない俺が、会うなんておこがましいにもほどがあるってものだ。

 しかし、頼まれて(一方的にだが)しまったからには、会う必要はあるんだろうな。まぁ、さっきも考えたように、俺やることなにもないだろうし、大丈夫だろう。
 そこまで考えて腕時計で時間を確認する。

(おう、いつものあれだったな)

 さっさと入ろう。つーか、さっきの間に誰とも会わなくてよかったなと思うわ。滅茶苦茶不審者に見えるし。
 俺は、ゆっくりと扉を開け、弱弱しい態度で、

「しつれいしま~す……」

 と声にだしながら、入った。中に入ると、やはりというか、あのあかりちゃんがいた。
 あかりちゃんは中で一人、スマホをいじっていた。流石、いまどきの小学生はこれくらいやっているものだ。
 俺の声に反応したのか、こっちを見て姿を確認すると、怪訝そうな目つきで眺めてくる。対して俺のほうは、

(こ……これが生あかりちゃん……!)

 と、感嘆していた。
 いつも見ていた、パソコンの画面越しの君や、ライブで見ていた遠巻きの君とも違う。この距離だからこそ、味わえるあかりちゃんの姿!

 椅子に座り、こっちを眺めている、金髪ツインテールがよくマッチングしたロリフェイス。とにかく、そのすべてが、最高と言わざるを得ない。

 もしも俺がロリコンのままならば、この場で昇天していたことだろう。そして、「わが生涯に一片の悔いなし……!」と言って、この世を去っていたかもしれない。

 今まさに、ここには美の女神が降臨している。そう言っても、差支えないほどだ。
 あかりちゃんは未だ、声も出さずに俺を眺めている。あかりちゃんはきっと、「この人は誰?」って思っているに違いない。よし、ここはひとつ、俺がどういう人かしってもらわなければ。

「えっと、こんにちは。俺は別に怪しいものじゃないよ」

 あれ? 何を言っているんだ、俺? 怪しい人じゃないっていうやつほど怪しいだろ。やばいな。これは早く撤回しなければ、あかりちゃんが「ふぇぇ……私のことどうするつもりなのぉ……?」と怯えてしまう。
 俺が、説明をしようとしたその時、あかりちゃんが口を開いた。

「いや、怪しくないとか言うやつほど、怪しいから。馬鹿じゃないの?」

 その時聞いた声は、俺がいつも知っているあかりちゃんの声とは違い、酷く冷たく、相手を蔑むようなものだった。

「っていうか、あんた誰? まぁいいわ。さっさとどこかに消えてくれる? この不審者」

 あかりちゃんはそう言って手を払う。出ていけということだろう。だが、俺はその場を動けないでいた。

 ……待ってくれ。どういうことだ? あかりちゃんは清純派はアイドルだぞ? キャラが違いすぎるだろ!
 俺が知っているのは――

『今日は私のライブに来てくれてありがとうございます! 私とっても嬉しいです!』

『最近、学校の勉強が難しくなってきたり、お仕事もあって結構大変です。でも、こうやって応援してくれるファンのみんなを見ると、がんばろうって思えます! いつもありがとうございます!』

『私のセカンドアルバム「ネコネコまっしぐら」が好評発売中! あなたに注入! 私の元気!』

 とか言っているようなキャラだったのに! あ、最後のはCMね。
 いわゆる、二面性ってやつか? だとすると、俺は今まであかりちゃんの演技に騙されていたというのか! 馬鹿な! この俺が、ロリのことを理解できていなかったなんて! 俺もまだまだってことか……。

「聞こえなかった? さっさとどこかに行ってくれる?」

 おっと、物思いにふけってしまっていたな。早く本当のことを言わないと。

「ああ、そうそう。マネージャーが来れないらしくて、俺が代わりに来たんだよ」
「はぁ? あんたが代わり?」
「うん」
「確かに、さっきメールでマネージャーが代わりにくるって聞いてはいたけど……まさか、ここまで若いとはね……」

 あかりちゃんはそう口に出すと、じろじろと見てくる。

「見るからに、頼りないやつね。まぁいいわ、どうせ今日一日の辛抱だし。それに、やることなんて何もないんだし」

 やっぱり何もないんだ。いる必要性はなんなんだろう。もう聞こうかな。

「それで、俺がいる必要性ってなに?」
「別に知らないけど……ていじゃないの?」
「帰っていい?」
「はぁ? まぁ、私は別に困らないけど。代わりにきたのにそれってどうなの?」
「だって俺、元はただの一般客だよ?」

 俺がそう答えると、あかりちゃんはさすがに絶句した。

「だってさ。行けって言われたんだよ」
「行けって言われたって……はぁ。どれだけ、私に期待がないのかよくわかったわ」

 そうして、あかりちゃんは悲しそうに目を伏せる。

「そんなはずないじゃないか! あかりちゃんは人気者なんだよ? 現にこのライブだって、チケット完売だし。期待されてないわけないじゃないか!」

 あかりちゃんは、熱弁する俺を見て、目を丸くする。そして呆然としていたかと思うと、顔を引きつらせるように、言った。

「うわ……キモ」

 ……酷い。俺は当たり前のことを言っただけなのに。

「いや、客って聞いた時点でわかってたけど、あんたロリコン? 普通に引くわー」
「でもアイドルをしてるわけだし、そういう人を相手にしているって、わかってるんじゃないの?」
「そうだけど、目の前で熱く語られてもね。キモイって」

 仕事は仕事って、割り切ってるだけか。

「まぁ、体裁上いてもらったほうが都合はいいから、適当にその辺にいて」
「あ、うん」

 そう言われたので、俺はあかりちゃんから少し離れたところに座った。いや、結構離れている。教室の一番前と真ん中くらい。とりあえず、位置は横顔見えるイメージ。

「……ねぇ。あんたは幻滅とかしてないの?」
「へ? 何が?」

 特にすることもなく、そわそわと部屋の中を見ていたら、突然話しかけられた。何も聞いてなかった。「天井の隅と、床の隅では、どちらも直方体においては、同じ位置なのに、全然違く見えるのはどうしてか?」という題で議論するところだったのに。
 俺が聞き返すと、あかりちゃんはため息をついて、もう一度言ってくれた。

「あんたは、私の本性知って幻滅しなかったのって」

 ああ、なんだ。そんなことか。

「別に。あかりちゃんはあかりちゃんだし。それが変わってるわけじゃない。だから、アイドルとしてのあかりちゃんと、素のあかりちゃんが違っているところなんて、どこにもないよ」
「ふ~ん。よくわからない」

 あかりちゃんは自分で聞いてきたにもかかわらず、興味なさそうに適当に流す。
 それでも俺は、もう少し続けた。

「でも、俺はアイドルのあかりちゃんしか知らなかったし、こうして素のあかりちゃんを見ることができたのは、単純に嬉しく思ったよ」

 まぁ、素かどうかを見抜けなかった自分のことは情けないけど。

「やっぱ気持ち悪いわ。あんた」
「それでいいよ。俺が好きだって気持ちは変わらないし。君が君でいれるならそれで」

 そう答えると、今度はあかりちゃんの動きが止まる。

「…………」

 そうして黙って、何かを考えているようだった。

「俺は、あかりちゃんらしくあれば、いいと思うよ」
「私らしい……ってなに?」

 あかりちゃんは小さい声で、疑問の言葉を投げかけてくる。不安そうなそんな、声。だから俺は、笑って答える。

「アイドルやっているあかりちゃんもそうだし、こうやって俺と話しているときのあかりちゃんもそう。全部が全部、あかりちゃんで、それがあかりちゃんらしさだよ」
「……そっか」

 あかりちゃんは小さくそう呟く。けれど先ほどとは違い、そこには確かな元気があった。

「なんかちょっとは元気でたかな? ありがとう」

 そう言って俺に笑いかけてくる。年相応のその笑顔に、自然と俺も顔がほころぶ。
 そこでドアがノックされた。

「あかりちゃん、出番です」
「はーい。……それじゃ、行ってきます、マネージャー!」
「うん、頑張ってね」

 そうして俺はあかりちゃんを見送り、部屋を出て行った。

「ふぅ……」

 俺は一つため息をつく。そして考える。

(さっきの反応……)

 あかりちゃんは、俺と出会ってから、まだそう時間が経っていないにも関わらず、二回ほど暗い顔をしている。

 一度目は、『期待されていない』と。
 二度目は、『自分らしさについて』。

 俺ができたことは、とにかく励ますだけだった。元気にもなってくれた。だから俺としてはそれでいい。
 けど、あかりちゃんは結構思いつめている。だからこそ、初対面の俺が感じるほどに、悩みが表に出ていた。未だ、根本の解決には至ってない。そのために、もっとあかりちゃんのことを知らないといけない。

(って言っても、今の俺にできることなんてないけどな)

 わざわざ誰かに聞いて回るなんてこと、したりはしない。するなら、本人に直接聞く。それが俺のやり方だし、悩みっていうのは、本人がどう思っているかが一番重要だから。
 さて、考えるのはやめだ。ここからは……ここからは……あれ?

(俺は、どうしていればいいんだ?)
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