ロリコンだった俺がある日突然何の脈絡もなくロリコンじゃなくなったから再びロリコンに戻りたい!

発酵物体A

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一年生 5月-5

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 というわけで、2回目を始めるに当たり、また部室から一度俺は外に出ていた。

 今回は、伊久留側のキャラ設定と大まかな背景だけが最初に決めたことだ。俺の設定と流れは決めてない。だからそこから先はアドリブになる。
 とはいえ、実際には流れが決まっている本番なんてないんだ。だとしたらこれは、俺の技量が試されるものになるだろう。

 さて、始まる前にもう一度、設定のおさらいしておこう。
 まず、今回伊久留は小学生ということになっている。性格はおとなしい。あんまり喋らないキャラと、普段とあまり変わらない。
 背景は、俺が怪我していた伊久留を背負って家まで運んであげた。そして、仲良くなっていき、告白をされて付き合うことになった。今日は、その後初めて会った日ということになっている。

 ただ、これシミュレーションだからいいが、本当だったらテンション上がり過ぎで冷静に思考をすることはできないだろうな。いや、そうならないためのシミュレーションか。

「……もういいかな?」

 結構経ったし中に入るか。
 にしても、なんで一旦外に出ないとならないのだろう。伊久留が言ったから出てるだけで、よくわからん。準備って言ってたけど、何を準備しているんだ。さっきは何かあったか? ……キャラ作りの時間とかなのかな?

「まぁ、それはいいか。さっさと入ろう」

 俺はため息をついて、ドアに手をかける。
 スライドさせて、がららっと音を立てて、開く。

「悪い、待ったかー」

 って俺、さっきの時と同じこと言ってるな。まぁ、最初って逆に難しいし。これからの展開次第だろう。
 そんな風に考えて気を取り直していると、あることに気付いた。

「……いない」

 そう、伊久留がいないのだ。辺りを見回すがどこにもその姿はない。
 廊下にはずっと俺がいたから、伊久留がこの部屋の中にいるのは間違いない。当然、隠れられる場所なんてたかが知れてる。あるとすれば、そう。あの掃除用具のロッカーくらいだ。

「ここにいるのか?」

 俺は目の前まで行き、開けてみる。そこには――

「……見つかった」

 案の定、伊久留がいた。ただ、予想外だったことがあるとすれば、立っていたのではなく、体育座りでいたことか。
 俺は呆れを含んだ声でたずねる。

「……どうしてそんなところにいるんだ?」
「……かくれんぼ」

 やばい。いきなり何言ってんだ、この子は。つーか、おとなしいキャラだったんじゃないのか。いや、伊久留自身ならこれもあり得るか。
 俺は伊久留に手を貸し、立ち上がらせながら、答える。

「全く、来たのにいないから驚いただろ」
「怒ってる?」
「怒ってはないよ。ただ心配になるっていうか。普通に待っててほしい」
「……ごめんなさい」

 伊久留は頭を下げる。その声はどこか元気なさげだった。
 そういう風に反応されると、こちらとしても気分はよくない。俺はフォローするように話しかけた。

「そうじゃなくて、早く会いたかったんだよ。その……恋人に」

 言ってる途中で、こっちが恥ずかしくなった。伊久留を見るとその表情はいくらか和らいでいたから、結果としてはいいが。

「……伊久留も……早く会いたかった」
「っつ……!」

 なんだよ、この雰囲気は。すごく初々しいカップルって感じが、ひしひしと伝わってくる。相手が伊久留でも緊張してきた。
 いや、ポジティブに考えろ。ここまではいい感じなんだ。だったら、本番も同じようにやればいいってことだ。

「とりあえず座ろっか?」

 俺はこの微妙な空気から逃れるように聞くと、伊久留はこくんと頷く。俺はどこかほっとした様子で椅子に座る。すると、伊久留は俺の膝の上に座ってきた。

「ええ~っと……いくるちゃーん?」

 一応小学生を相手にしているということになっているので、そう呼ぶことにしたが……。それよりも、この状況に頭が追いつかない。何をしているんだ。伊久留は。

「ここがいい……ダメ?」

 くそ。そんなすがるような上目づかいでお前に見つめられたら、断るに断れないだろ。
 待て。落ち着けよ、俺。相手は小学生ということになってるんだ。俺はあくまでもそれも念頭に置いて、話を進めていかなければならない。
 小学生とこんな状況で落ち着けるわけはないが、そのための今だ。ここは冷静かつ着実に俺ならどうするのかを考えるんだ。

 そのためにもここでは、『伊久留』と言う存在を忘れろ。『いくるちゃん』だけに目を向けるんだ。

「……ダメなわけないだろ」

 俺はそう言って、いくるちゃんを後ろから抱きしめる。

「俺は、いくるちゃんを傍に感じられて、温もりを感じられてすごく嬉しいよ」
「……うん」

 俺の腕に、いくるちゃんの小さな手が触れる。そこに込められた弱弱しい力は、大切なものを確かめるような、慈しむ行為だった。
 そんないくるちゃんのことを想うと、心が幸せで溢れてくる。

「恋人と過ごすのって、これだけですごく満たされた気分になれるんだね」
「じゃあずっとこのまま?」

 俺の言葉に、いくるちゃんはどこか不安そうに顔を上に逸らして見つめてくる。

「そんなことないよ。いくるちゃんが望むなら、どこまででもいくよ」

 俺はいくるちゃんと見つめ合う。そうしているだけで、とても愛おしくて。目が離せない。
 いくるちゃんのほうもそうなのか、じっとこちらを見ている。その頬は上気し、瞳は潤んでいる。そんないくるちゃんのことを自分のものにしたいと、自分だけのものにしたいといった欲望が湧いてきた。
 自然といくるちゃんの顔が近くなっていく。いや、俺が近づけて行っていた。
 そうして、唇がもう少しで触れそうになったというところで――

「巧人。そろそろやめて」

 いくるちゃんはそう声をかけてきた。

「え?」

 俺は呼びかけに間抜けな声を出して、動きを止める。一体、いくるちゃんはどうしたんだ? と、考えていたら、次第に思い出してきた。

「…………」

 そうだ。俺は、伊久留とシミュレーションをしていたんだ。
 そして、途中で相手は小学生であると思いこむことにして、やりづらい恥ずかしさを払拭して。
 いい雰囲気になって、キスを――

「うわー!?」

 俺は現状を完全に理解すると、驚きの声と共に体をのけ反らせる。と同時に、俺の腕から解放された伊久留は、膝から降りる。伊久留とじゃ慣れることができたのは、ありがたいことではあったが、今はそれどころではなかった。

(そ、そんな……。もう少しで、俺のファーストキスが消えていたっていうのか?)

 こんな場所で、こんな形で? いや、確かにそれも重大なことではあるが、それよりも――

(どうして声をかけられるまで気づかなかったんだよ、俺は!)

 いくら思い込んでいたからって、おかしいだろ。それに拒絶反応のようなものも起きなかったし。実は俺は、ロリが相手じゃなくてもいいのか? そういうことなのか?

 ごめん、ちえちゃん(12)……。俺、みんなへの愛が足りてなかったみたいだ。不甲斐ない……な。

「やっぱり、男はせっかち」

 くそ、今度も言い返せない。確かに、結構展開速かったしな。しかも、後半の流れはほとんど同じだったような気がするし。

「そしてせっかちなのはホモ」

 待て、いきなり何を言っている。なんだか不穏な流れだぞ。

「つまり男は全員……」
「それ以上は言うな」

 何を言おうとしているのか理解した俺はさすがに止める。気持ち悪い。そして、今回は少なくとも、異性同士だっただろ。それは関係ないはずだ。

 というか、そんな超理論が成立してたら、子供が生まれないだろ。片手間か。片手間で異性同士は交わるのか。真の愛は同性なのか。……俺のほうがおかしくなってるな。

「はぁ……」

 その後、沈んだ気持ちから回復するのに時間がかかったのだった。

*****

「んじゃ、今日はこれまでだな」

 時間も遅くなり、背伸びをしながらそう言う。
 一回目の部活だったけど、それなりに楽しんだし充実していたなと思う。ただ、次の日もこれくらいの密度だと、疲れを感じるだろうな。もう今日みたいなことをやりたいとは思わないし。
 そうして俺は帰ろうと立ち上がるが、伊久留はその気配さえなかった。

「? どうした、帰らないのか?」
「伊久留はまだやることあるから」

 そう言うと、伊久留は自分の鞄の中から日誌を取り出す。そう言えば、活動報告をつけないといけないんだっけ。忘れていた。

「別に、それをつけるだけなら待つけど?」
「いい。それに他にもやらないといけないことあるから」

 それが何なのかはよくはわからないが、部のことに関するものであることは何となく分かった。
 そして同時に感じる、壁。伊久留との心の距離。俺はそれが無性に悲しかった。
 だってそれは、これまでに伊久留と話してきたことのすべてをなかったことにされているようで。
 本当は、あの言葉が嘘だったんじゃないかって思えて。

 でも、分かってるんだ。あれは嘘なんかじゃない。伊久留の言葉は本当だった。
 だから、さっきの言葉もまた伊久留の本心なんだ。それを俺は知っている。
 友達だからわかってる。

 伊久留は俺を求めてくれた。
 友達を求めてくれた。
 だから俺がやることは、この気持ちを伊久留に伝えることだ。

「なぁ、この場所は俺たちのものだよな? この部も。だったら、どうしてお前一人が、そんな風に全部の責任を抱え込もうとするんだよ」
「巧人のことは伊久留が誘ったんだから、伊久留が色々とがんばらないといけない」
「違う。俺は俺の意思で選んだんだ。伊久留と居ようとそう思ったんだ」

 俺は強い口調で伊久留の言葉を否定する。そして俺はすぐに笑いかける。

「それに、俺は伊久留に誘ってもらえてよかったと思ってるんだよ。だって、俺にとって伊久留はこの学校でできた初めての友達で、部活仲間なんだから」
「…………」

 伊久留は特に反応を示すこともなく、黙ったままでいた。俺はそんな伊久留に話を続けた。

「伊久留が俺のことを友人だと思ってくれるなら……わかちあわせてくれ。俺はお前と一緒に、理解しあえる存在として、支え合って部活をしていきたいんだ」

 俺はそこで完全に言葉を止める。俺が喋らないでいると、伊久留は視線を下に向ける。俺はそんな伊久留を黙って見続けた。
 そうして沈黙がしばらく続き、伊久留は顔を上げると、俺を見て口を開いた。

「……わかった」

 そう言うとともに、日誌を手渡される。

「じゃあ、これは巧人に任せる」
「ああ」

 受け取りつつ、そう返す。これからは俺がこの仕事をやるんだな。

「よろしく、副部長」

 頼られている。ちゃんと心を通わせることができた。それが嬉しかった。
 俺は何を書くか考えながら日誌を眺める。そして数十秒後、活動内容の欄に「人との友好関係の築き方について」と書き記したのだった。
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