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③
10-1 1日目の終わりと2日目の始まり
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「じゃあ、また週明けにね! バイバイ巧人君!」
「おう」
分かれ道に来て、去っていく利莉花に手を振る。
なんだかんだで、お腹がすいたということで一緒に食事をした。まさか、そんなことになるとは考えてなかった。男女一人ずつで食事って……デートだろ。
緊張した。
興奮した。
何を食べたか全然覚えてない。というか、帰ってくる間に放心状態から抜け出すまでのことを何も覚えてない。
利莉花との初めての食事なのに、すごく勿体無いことをしたな(友達的な意味で)。
そうして、利莉花がいなくなるまで見送って、俺も自らの家に向かい歩き出す。
さて、これでとりあえず今日は終わった。まだ15時前だが、ここからは俺のフリータイムだしな。振り返ると、いい日だったと思う。利莉花も楽しそうにしていたし、普段とはまた違った姿を見れたしな。
ただ、一番の問題は……
「明日だな……」
つまりは絵夢とのこと。そりゃ、絵夢も楽しく笑うだろう。
だが、ベクトルが違う。利莉花のほうはもっと純粋だ。絵夢のほうは……けがれてる。
今日関羽にあって、無理やり押し付けてやろうと最初は思っていたが、あんなことを聞いちゃ、とてもそれはできない。
よって、結局俺がやるしかないのだ。Mになりたいとかよくわからないこと言いやがって。お前は元から絵夢だろ。
(……はぁ。やっぱり、明日は憂鬱だな)
*****
そうしてやってきた……やってきてしまった、土曜日。
全く、朝から体が重い。行く前から疲れてる。でも、一度は引き受けたことだ。……仕方ない。行くか。
俺は、準備をして家を出た。
*****
既に絵夢から連絡は来ていた。待ち合わせは絵夢の家。場所は、前に彼氏彼女として付き合っていた時に知っていたので、俺もそれでよかった。だが、問題は時間だ。
「なんで、こんな朝早くから行かないといけないんだ」
向かう途中の道でため息をついて、独り言を言う。
そりゃ不満も漏らしたくなる。だって待ち合わせ時間は7時だぞ? 俺の家からなら、6時半前に出なきゃ間に合わない。
しかも、準備する時間とか考えれば、もっと早くに起きなればならない。何で休日に、平日よりも早く起きなければならないのか。全く持って理解できん。
それに、俺が起きたことで唯愛もなぜか起床し、朝ごはんを作ってくれた。正直、有難かったが、眠い目をこすりながら準備する唯愛を見ていると、同時に申し訳なかった
そんなことを思っていると、絵夢の家に着く。時間を確認すれば、6時50分。十分前行動をしっかりと心がけているな、俺。
どうでもいいことを思いため息をつきつつ、インターホンを押そうとする。そこで、俺はあることに気づき、手を止める。
(今頃だが、絵夢の両親は居るのか?)
いるとしたら、ものすごく気まずいんだが。絵夢の家も共働きらしいから、会ったことはない。
そんな中で、一介の友人でしかない俺が、こんな時間に娘を訪ねてくる。しかも、相手は男。
さらには会いに来た理由が、絵夢を鞭でバシバシ叩いたりすること……なんて最低なんだ。俺が親なら、絶対に家に入れないぞ。
(……どうしよう。帰ろうかな?)
そう思って踵を返そうとしたところで、もう一つ、気づいた。
絵夢は、今日のことを楽しみしていただろう。あの性格だ。隠すこともできずに、すぐ顔に出る。
つまりは、だ。親も今日のことを知っている可能性は高い。内容まで知っているかは定かではないが、もしもここで俺が訪ねなかった場合、絵夢は落ち込むことだろう。すると、親とは娘を悲しませた張本人である俺を恨むということになる。
なんてこった。どんな選択しても、最低な結果しかないじゃないか。
(さて……どうするか)
俺は再び考え込む。俺が取れるのは、絵夢の意思を尊重して、家の中に入るのか。俺が白い目を向けられるのを嫌がって、このまま帰るかだ。
だが、人の家の前でずっと悩み続けるのもあれだな。
……よし。決めた。ここは絵夢だ。絵夢の意思のほうを尊重しよう。結局、俺が悪者になるのが変わらないし、だったら実際に会ってからそう思われた方がマシだ。
俺は、意を決してインターホンを押した。ピンポーンと言う音が鳴り響き、それが止んだころ、中からドタドタと足音が聞こえてきた。そして――
「ふふふ……ついにきたね! ヌッキー! 待っていたよ!」
ドアを開けられ、不敵な笑みを浮かべる絵夢が現れた。……まずは第一段階クリアだ。開けてすぐに親が出てくるパターンなら、面倒だった。
「君は?」から始まり、絵夢の友達であることと、今日は絵夢に呼ばれたことを説明し、そして「君一人?」とか聞かれたり、どうにかこうにか家に入れても不審な目で見られたことだろう。たぶん、一番最悪な出会いになった。よかったぜ。
「さぁさぁ、早く中に入ってよ!」
「急かすなよ」
絵夢に促され、中に入る。にしても、緊張する。親に会ってしまうのかもというのもあるが、絵夢の家と言うもの自体が慣れてないようだ。まぁ来たと言っても2、3度だしな。それに、あれからはずいぶんと長い期間があったし。
俺は絵夢について、階段を上がる。けど……なんだ? この家、妙に静かだな。
「なぁ、絵夢。親はどうしたんだ?」
俺は疑問に思ってたずねると、肩越しに俺を見てきて答える。
「え? いないよ?」
「いない?」
……じゃあ、なんだ? さっきまで、俺が脳内でやっていた考えは全く必要なかったってことか?
……いや、それはそうか。絵夢だって馬鹿だけど、そこまでじゃないよな。親がいない日を見計らって、俺を呼んだんだ。土曜日と指定してきたのも、そのためだ。そう考えるのが普通だった。
……はぁ、なんか無駄に緊張して損したぜ。でも、逆にそれで、リラックスできたから、結果オーライというやつか。
絵夢は続ける。
「私の両親って、すごく仲良くてね。こっちが困っちゃうくらいなんだ」
ああ、俺の家と同じか。まぁ、こっちは職場も同じであっちでもいちゃこらしてるんだろうと考えると、こっちのが酷いが。
「それで、二人は今朝、早くから旅行に出かけたよ。帰ってくるのは日曜の夜」
「絵夢は行かないのか?」
「だって二人の邪魔はできないっていうか……居心地が悪いから」
「あー……」
想像してすぐに分かる。俺のほうもそんなんだった。
昔行った家族旅行。こっちそっちのけで、ラブラブとしていた。
小学校の頃ならまだそれでも、あんまり気にはしてなかった。が、中学生になると、それが見ていて恥ずかしいし、こっちのほうが距離を置きたくなってくる。
それに、あっちが二人きりだから、俺のほうは唯愛と一緒になって、無駄に引っ付いてきてうざかったし。
唯一の救いは、温泉に行った時に、ロビーや廊下で風呂上がりの幼女を見れたことくらいだ。あんな姿はそうそう拝めるものではなかったしな。
でも、俺と違って絵夢はとくにやることもないだろうし、退屈だろうな。
「とにかく、ヌッキーには今日一日付き合ってもらうからね!」
「分かってるよ」
文句は言いたいけど、もう覚悟は決めたし。……でも、やっぱり嫌だな。
そうして階段を上がり終えてすぐのところ。その部屋の前に来て絵夢は立ち止まる……ことなく、そのまま素通りする。
「おい。あそこって絵夢の部屋だったよな? 絵夢の部屋でやるんじゃないのか?」
「そんなわけないでしょ。私の部屋じゃムードもへったくれもあったもんじゃないよ!」
確かに。絵夢の部屋って、案外普通の女子の部屋だしな。SM関係の本とか……別になかったし。
っていうか、俺がここに来た時点では、SM趣味なんて知らなかったくらいだ。それほど、絵夢の部屋はどこにも変態的な要素はない。
けれど、ない理由と言うのは何となくわかる。絵夢は、俺のような部のメンバー以外には、その性癖は隠しているほうだ。
だから、普段関わっている友人は絵夢の変態を知らない。けれど、その友人たちと遊ぶことになって、絵夢の部屋に呼んだりすることもあるだろう。そのときのことを考えれば、普通な部屋であるのも理解できる。
「それに、私の家には、もっとふさわしい場所と言うものがあるのだよ」
絵夢はふふふっと笑う。そうしてそのまま連れられて向かったのは、一番奥の部屋。そこで立ち止まると、絵夢はドアを開いた。
「おう」
分かれ道に来て、去っていく利莉花に手を振る。
なんだかんだで、お腹がすいたということで一緒に食事をした。まさか、そんなことになるとは考えてなかった。男女一人ずつで食事って……デートだろ。
緊張した。
興奮した。
何を食べたか全然覚えてない。というか、帰ってくる間に放心状態から抜け出すまでのことを何も覚えてない。
利莉花との初めての食事なのに、すごく勿体無いことをしたな(友達的な意味で)。
そうして、利莉花がいなくなるまで見送って、俺も自らの家に向かい歩き出す。
さて、これでとりあえず今日は終わった。まだ15時前だが、ここからは俺のフリータイムだしな。振り返ると、いい日だったと思う。利莉花も楽しそうにしていたし、普段とはまた違った姿を見れたしな。
ただ、一番の問題は……
「明日だな……」
つまりは絵夢とのこと。そりゃ、絵夢も楽しく笑うだろう。
だが、ベクトルが違う。利莉花のほうはもっと純粋だ。絵夢のほうは……けがれてる。
今日関羽にあって、無理やり押し付けてやろうと最初は思っていたが、あんなことを聞いちゃ、とてもそれはできない。
よって、結局俺がやるしかないのだ。Mになりたいとかよくわからないこと言いやがって。お前は元から絵夢だろ。
(……はぁ。やっぱり、明日は憂鬱だな)
*****
そうしてやってきた……やってきてしまった、土曜日。
全く、朝から体が重い。行く前から疲れてる。でも、一度は引き受けたことだ。……仕方ない。行くか。
俺は、準備をして家を出た。
*****
既に絵夢から連絡は来ていた。待ち合わせは絵夢の家。場所は、前に彼氏彼女として付き合っていた時に知っていたので、俺もそれでよかった。だが、問題は時間だ。
「なんで、こんな朝早くから行かないといけないんだ」
向かう途中の道でため息をついて、独り言を言う。
そりゃ不満も漏らしたくなる。だって待ち合わせ時間は7時だぞ? 俺の家からなら、6時半前に出なきゃ間に合わない。
しかも、準備する時間とか考えれば、もっと早くに起きなればならない。何で休日に、平日よりも早く起きなければならないのか。全く持って理解できん。
それに、俺が起きたことで唯愛もなぜか起床し、朝ごはんを作ってくれた。正直、有難かったが、眠い目をこすりながら準備する唯愛を見ていると、同時に申し訳なかった
そんなことを思っていると、絵夢の家に着く。時間を確認すれば、6時50分。十分前行動をしっかりと心がけているな、俺。
どうでもいいことを思いため息をつきつつ、インターホンを押そうとする。そこで、俺はあることに気づき、手を止める。
(今頃だが、絵夢の両親は居るのか?)
いるとしたら、ものすごく気まずいんだが。絵夢の家も共働きらしいから、会ったことはない。
そんな中で、一介の友人でしかない俺が、こんな時間に娘を訪ねてくる。しかも、相手は男。
さらには会いに来た理由が、絵夢を鞭でバシバシ叩いたりすること……なんて最低なんだ。俺が親なら、絶対に家に入れないぞ。
(……どうしよう。帰ろうかな?)
そう思って踵を返そうとしたところで、もう一つ、気づいた。
絵夢は、今日のことを楽しみしていただろう。あの性格だ。隠すこともできずに、すぐ顔に出る。
つまりは、だ。親も今日のことを知っている可能性は高い。内容まで知っているかは定かではないが、もしもここで俺が訪ねなかった場合、絵夢は落ち込むことだろう。すると、親とは娘を悲しませた張本人である俺を恨むということになる。
なんてこった。どんな選択しても、最低な結果しかないじゃないか。
(さて……どうするか)
俺は再び考え込む。俺が取れるのは、絵夢の意思を尊重して、家の中に入るのか。俺が白い目を向けられるのを嫌がって、このまま帰るかだ。
だが、人の家の前でずっと悩み続けるのもあれだな。
……よし。決めた。ここは絵夢だ。絵夢の意思のほうを尊重しよう。結局、俺が悪者になるのが変わらないし、だったら実際に会ってからそう思われた方がマシだ。
俺は、意を決してインターホンを押した。ピンポーンと言う音が鳴り響き、それが止んだころ、中からドタドタと足音が聞こえてきた。そして――
「ふふふ……ついにきたね! ヌッキー! 待っていたよ!」
ドアを開けられ、不敵な笑みを浮かべる絵夢が現れた。……まずは第一段階クリアだ。開けてすぐに親が出てくるパターンなら、面倒だった。
「君は?」から始まり、絵夢の友達であることと、今日は絵夢に呼ばれたことを説明し、そして「君一人?」とか聞かれたり、どうにかこうにか家に入れても不審な目で見られたことだろう。たぶん、一番最悪な出会いになった。よかったぜ。
「さぁさぁ、早く中に入ってよ!」
「急かすなよ」
絵夢に促され、中に入る。にしても、緊張する。親に会ってしまうのかもというのもあるが、絵夢の家と言うもの自体が慣れてないようだ。まぁ来たと言っても2、3度だしな。それに、あれからはずいぶんと長い期間があったし。
俺は絵夢について、階段を上がる。けど……なんだ? この家、妙に静かだな。
「なぁ、絵夢。親はどうしたんだ?」
俺は疑問に思ってたずねると、肩越しに俺を見てきて答える。
「え? いないよ?」
「いない?」
……じゃあ、なんだ? さっきまで、俺が脳内でやっていた考えは全く必要なかったってことか?
……いや、それはそうか。絵夢だって馬鹿だけど、そこまでじゃないよな。親がいない日を見計らって、俺を呼んだんだ。土曜日と指定してきたのも、そのためだ。そう考えるのが普通だった。
……はぁ、なんか無駄に緊張して損したぜ。でも、逆にそれで、リラックスできたから、結果オーライというやつか。
絵夢は続ける。
「私の両親って、すごく仲良くてね。こっちが困っちゃうくらいなんだ」
ああ、俺の家と同じか。まぁ、こっちは職場も同じであっちでもいちゃこらしてるんだろうと考えると、こっちのが酷いが。
「それで、二人は今朝、早くから旅行に出かけたよ。帰ってくるのは日曜の夜」
「絵夢は行かないのか?」
「だって二人の邪魔はできないっていうか……居心地が悪いから」
「あー……」
想像してすぐに分かる。俺のほうもそんなんだった。
昔行った家族旅行。こっちそっちのけで、ラブラブとしていた。
小学校の頃ならまだそれでも、あんまり気にはしてなかった。が、中学生になると、それが見ていて恥ずかしいし、こっちのほうが距離を置きたくなってくる。
それに、あっちが二人きりだから、俺のほうは唯愛と一緒になって、無駄に引っ付いてきてうざかったし。
唯一の救いは、温泉に行った時に、ロビーや廊下で風呂上がりの幼女を見れたことくらいだ。あんな姿はそうそう拝めるものではなかったしな。
でも、俺と違って絵夢はとくにやることもないだろうし、退屈だろうな。
「とにかく、ヌッキーには今日一日付き合ってもらうからね!」
「分かってるよ」
文句は言いたいけど、もう覚悟は決めたし。……でも、やっぱり嫌だな。
そうして階段を上がり終えてすぐのところ。その部屋の前に来て絵夢は立ち止まる……ことなく、そのまま素通りする。
「おい。あそこって絵夢の部屋だったよな? 絵夢の部屋でやるんじゃないのか?」
「そんなわけないでしょ。私の部屋じゃムードもへったくれもあったもんじゃないよ!」
確かに。絵夢の部屋って、案外普通の女子の部屋だしな。SM関係の本とか……別になかったし。
っていうか、俺がここに来た時点では、SM趣味なんて知らなかったくらいだ。それほど、絵夢の部屋はどこにも変態的な要素はない。
けれど、ない理由と言うのは何となくわかる。絵夢は、俺のような部のメンバー以外には、その性癖は隠しているほうだ。
だから、普段関わっている友人は絵夢の変態を知らない。けれど、その友人たちと遊ぶことになって、絵夢の部屋に呼んだりすることもあるだろう。そのときのことを考えれば、普通な部屋であるのも理解できる。
「それに、私の家には、もっとふさわしい場所と言うものがあるのだよ」
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