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③
12-1 『at_me』の正体
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「う~む」
俺はケータイの画面とにらめっこする。
というのも、さっきのメール……『at_me』から会おうというそのメールが届いたためだ。
俺はとりあえず、暇ではあったので、それを『いいぞ』と返信し、待ち合わせに指定した、この駅前の場所であいつがくるのを待っていた。
これだけの情報量なら、誰も何も思わないだろう。
だが、俺がこうやってメールを凝視していたのは、次の理由だ。
「……どうして会おうなんて……」
そう、あいつは今までずっと、頑なに会おうとはしなかった。近所に住んでいることを知っても。俺が本名を教えようとも。俺があいつに住所を教えるまでになっても。
こっちは、あっちの住所も名前も何も知らない。あっちは知っているらしいが、こっちは姿も知らない。
それなのに、今日はなぜか直接会うことになった。
そのことが俺には、不思議で怪しく思っていたのだ。
「……悪いと思ってくれたってことか?」
考えられる理由があるとすればそれくらいだ。
俺から連絡したのに、怒りもしなかったし。罪滅ぼしだということかもしれない。
けれど、そうだとも言えないわけで。考えていても仕方ない。実際に会って、話をしてみればわかることだろう。
俺はそう思って、あいつが来るのを待った。
*****
その後待つこと十数分。俺に誰かが声をかけてきた。
「やぁ。島抜巧人君だね?」
俺はその声のした方向を見る。
そこには、チェック模様の服を着て、メガネにバンダナをつけ、リュックを背負った小太りの男性がいた。
言うならばそう……オタクの人を絵にかいたような、そんな人物だった。
「えっとあなたが『at_me』……?」
俺は自信なさげにたずねる。というか、言っちゃ悪いのかもしれないが、ものすごくイメージを逸脱していた。まさか、こんな感じの人だったとは。
「ああ、熱海(あたみ)群司(ぐんじ)だ。よろしく」
『at_me』……もとい、群司さんは、そういって俺に手を差し伸べる。俺はその手を掴み握手をした。
「はい。よろしく……お願いします」
そう敬語で返す。最初どうするか迷ったけど、これは明らかに俺よりも先輩だしな。今は、仮想空間じゃないし。リアルではこういうところ、ちゃんとしたほうがいい。
けれど、それを群司さんも気にしたのか、言ってきた。
「別に敬語じゃなくていいよ。いつもそうでしょ?」
「あ~でも、群司さんは何歳ですか?」
「大学一年生。19だ」
「やっぱり先輩じゃないですか」
ただ、正直もっと上かと思ったけど。だって大学一年って言えば、去年卒業した先輩と同じじゃないか。それと群司さんを比べると……やっぱり、もっと上だと思う。
「君のほうは高校かな?」
「はい、二年です」
「ふむふむ。なるほど」
そのことに何やら頷き、右手の親指と人差し指を顎の下に充てる。……またしても言っちゃ悪いが、すごく様になってない。
……と、そんなことよりも。
「連絡しましたよね? あかりちゃんのことで、相談に乗って欲しいんですけど」
俺がそう言うと、考え事をやめてこちらに視線を向ける。そして、微笑むと答えた。
「ああ、わかった。じゃあまずは落ち着いて話をできる場所に移ろうか」
「あ、はい!」
俺が返事をすると、群司さんは踵を返し歩き出す。
俺はその後をついていく。このときの群司さんは、なんだがすごく頼もしく見えた。
*****
「あの……落ち着いて話をできる場所に行くんじゃなかったんですか?」
俺は怪訝な目で群司さんをみる。というのも、この場所。
周りを見回すと、そこにはアニメとか漫画とか。それに随するグッズだとかであふれかえっている。こんな場所まず来ないからな。居心地が悪い。
しかし、群司さんはそんな俺のことになど、気づく様子もなく、少し楽しそうに答えた。
「うん? ああいや、まぁここも落ち着くでしょ?」
落ち着きませんから。ていうか、こんな場所で話なんてできるわけがないでしょ。
「お~……これは、『重火器少女と装甲車』の新刊! 俺としたことが忘れていた。不覚!」
それに、群司さんも俺のことそっちのけで、何か見てるし。ガトリングガンを持った女の子のイラストがでっかく書かれているのが分かる。いわゆる萌えか。
……まさか、群司さんが見たまんまのオタクだったなんて。さっきはいつくつもの死線を潜り抜けてきた戦士くらいかっこよくみえたのに。あれは何だったんだ。
(……やることないな)
群司さんからは放置状態だし。漫画とかならまだ見るけど、アニメとは全然見ないから、よくわからないし。
周りを見ると、その萌え作品ってのが多すぎて息が詰まる。
俺はとりあえず暇だったので、近くで流れていたアニメの映像を眺める。
『えー中二!? 確かに若いなって思ってたけど……』
22。
『うん……ごめんなさい。騙すようなマネして』
27。
『別に小春ちゃんが謝る必要なんてないよ。あんな手紙がきて不安だったんだろうし』
35。
『そうそう。小春ちゃんは若いし可愛いんだから。ちゃ~んと、注意して助けを呼ばないと。怖ーい目にあっちゃうんだから』
31。
『まぁ、ロッテちゃんのほうが若いし、可愛いもんね! えっへん!』
42。
暇すぎて、声年齢判別してみたけど。以外といけたな。どんな話かはいまいち理解できなかったけど。
22歳のやつが27、35、31、42歳のやつに助けを求めたっていうのだけはわかった。まぁ、それでなんで年齢を偽っていたような表現があったのかはわからないな。
これ以上の興味は湧かないから、永久に知ることもないだろうが。
しかし、最後のやつ。あれは自分の名前なのだろうが、お前が一番年取ってるよ。
そして自分のことを名前で呼ぶな、気色悪い。自分の年齢を考えろ。
(……いや、作中的には、いいのか?)
あまりにも気持ち悪くて、これが創作なことを忘れていた。やはり、こんな現象が起こる以上は、アニメなんて見てられないな。
(さて……群司さんは――)
「おー! こっちは『手榴弾使いのグレイ』! そういえば、単行本は買ってなかった!」
まだ、興奮気味に本を物色している。
これは時間がかかりそうだな。
俺のほうもただこんな場所にいても、あれだし。暇なのことも変わらない。
珍しい機会だ。苦手だと遠ざけるよりも、一度歩み寄ってみるか。よし、ちょっと店内を見て回ろう。
そう思って、群司さんから離れて、適当に歩きはじめた。
俺はケータイの画面とにらめっこする。
というのも、さっきのメール……『at_me』から会おうというそのメールが届いたためだ。
俺はとりあえず、暇ではあったので、それを『いいぞ』と返信し、待ち合わせに指定した、この駅前の場所であいつがくるのを待っていた。
これだけの情報量なら、誰も何も思わないだろう。
だが、俺がこうやってメールを凝視していたのは、次の理由だ。
「……どうして会おうなんて……」
そう、あいつは今までずっと、頑なに会おうとはしなかった。近所に住んでいることを知っても。俺が本名を教えようとも。俺があいつに住所を教えるまでになっても。
こっちは、あっちの住所も名前も何も知らない。あっちは知っているらしいが、こっちは姿も知らない。
それなのに、今日はなぜか直接会うことになった。
そのことが俺には、不思議で怪しく思っていたのだ。
「……悪いと思ってくれたってことか?」
考えられる理由があるとすればそれくらいだ。
俺から連絡したのに、怒りもしなかったし。罪滅ぼしだということかもしれない。
けれど、そうだとも言えないわけで。考えていても仕方ない。実際に会って、話をしてみればわかることだろう。
俺はそう思って、あいつが来るのを待った。
*****
その後待つこと十数分。俺に誰かが声をかけてきた。
「やぁ。島抜巧人君だね?」
俺はその声のした方向を見る。
そこには、チェック模様の服を着て、メガネにバンダナをつけ、リュックを背負った小太りの男性がいた。
言うならばそう……オタクの人を絵にかいたような、そんな人物だった。
「えっとあなたが『at_me』……?」
俺は自信なさげにたずねる。というか、言っちゃ悪いのかもしれないが、ものすごくイメージを逸脱していた。まさか、こんな感じの人だったとは。
「ああ、熱海(あたみ)群司(ぐんじ)だ。よろしく」
『at_me』……もとい、群司さんは、そういって俺に手を差し伸べる。俺はその手を掴み握手をした。
「はい。よろしく……お願いします」
そう敬語で返す。最初どうするか迷ったけど、これは明らかに俺よりも先輩だしな。今は、仮想空間じゃないし。リアルではこういうところ、ちゃんとしたほうがいい。
けれど、それを群司さんも気にしたのか、言ってきた。
「別に敬語じゃなくていいよ。いつもそうでしょ?」
「あ~でも、群司さんは何歳ですか?」
「大学一年生。19だ」
「やっぱり先輩じゃないですか」
ただ、正直もっと上かと思ったけど。だって大学一年って言えば、去年卒業した先輩と同じじゃないか。それと群司さんを比べると……やっぱり、もっと上だと思う。
「君のほうは高校かな?」
「はい、二年です」
「ふむふむ。なるほど」
そのことに何やら頷き、右手の親指と人差し指を顎の下に充てる。……またしても言っちゃ悪いが、すごく様になってない。
……と、そんなことよりも。
「連絡しましたよね? あかりちゃんのことで、相談に乗って欲しいんですけど」
俺がそう言うと、考え事をやめてこちらに視線を向ける。そして、微笑むと答えた。
「ああ、わかった。じゃあまずは落ち着いて話をできる場所に移ろうか」
「あ、はい!」
俺が返事をすると、群司さんは踵を返し歩き出す。
俺はその後をついていく。このときの群司さんは、なんだがすごく頼もしく見えた。
*****
「あの……落ち着いて話をできる場所に行くんじゃなかったんですか?」
俺は怪訝な目で群司さんをみる。というのも、この場所。
周りを見回すと、そこにはアニメとか漫画とか。それに随するグッズだとかであふれかえっている。こんな場所まず来ないからな。居心地が悪い。
しかし、群司さんはそんな俺のことになど、気づく様子もなく、少し楽しそうに答えた。
「うん? ああいや、まぁここも落ち着くでしょ?」
落ち着きませんから。ていうか、こんな場所で話なんてできるわけがないでしょ。
「お~……これは、『重火器少女と装甲車』の新刊! 俺としたことが忘れていた。不覚!」
それに、群司さんも俺のことそっちのけで、何か見てるし。ガトリングガンを持った女の子のイラストがでっかく書かれているのが分かる。いわゆる萌えか。
……まさか、群司さんが見たまんまのオタクだったなんて。さっきはいつくつもの死線を潜り抜けてきた戦士くらいかっこよくみえたのに。あれは何だったんだ。
(……やることないな)
群司さんからは放置状態だし。漫画とかならまだ見るけど、アニメとは全然見ないから、よくわからないし。
周りを見ると、その萌え作品ってのが多すぎて息が詰まる。
俺はとりあえず暇だったので、近くで流れていたアニメの映像を眺める。
『えー中二!? 確かに若いなって思ってたけど……』
22。
『うん……ごめんなさい。騙すようなマネして』
27。
『別に小春ちゃんが謝る必要なんてないよ。あんな手紙がきて不安だったんだろうし』
35。
『そうそう。小春ちゃんは若いし可愛いんだから。ちゃ~んと、注意して助けを呼ばないと。怖ーい目にあっちゃうんだから』
31。
『まぁ、ロッテちゃんのほうが若いし、可愛いもんね! えっへん!』
42。
暇すぎて、声年齢判別してみたけど。以外といけたな。どんな話かはいまいち理解できなかったけど。
22歳のやつが27、35、31、42歳のやつに助けを求めたっていうのだけはわかった。まぁ、それでなんで年齢を偽っていたような表現があったのかはわからないな。
これ以上の興味は湧かないから、永久に知ることもないだろうが。
しかし、最後のやつ。あれは自分の名前なのだろうが、お前が一番年取ってるよ。
そして自分のことを名前で呼ぶな、気色悪い。自分の年齢を考えろ。
(……いや、作中的には、いいのか?)
あまりにも気持ち悪くて、これが創作なことを忘れていた。やはり、こんな現象が起こる以上は、アニメなんて見てられないな。
(さて……群司さんは――)
「おー! こっちは『手榴弾使いのグレイ』! そういえば、単行本は買ってなかった!」
まだ、興奮気味に本を物色している。
これは時間がかかりそうだな。
俺のほうもただこんな場所にいても、あれだし。暇なのことも変わらない。
珍しい機会だ。苦手だと遠ざけるよりも、一度歩み寄ってみるか。よし、ちょっと店内を見て回ろう。
そう思って、群司さんから離れて、適当に歩きはじめた。
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