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15-5 利莉花はやっぱり「そういう」やつ
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「好きなこと……ですか?」
「うん。題材についてのことなら、どんなものでもいいよ! じゃあ、私はまた黙るからね!」
絵夢は座り直すと、口にチャックをするように、両手で口を抑える。
にしても、『自分の好きなことについて』か。話題としては……どうなんだ?
こう、ふんわりとしているっていうか。もう少し具体性のあるもののほうが……。
例えば好きな食べ物とか。そういうやつのほうが方向性とかも決まってよかったんじゃ。いや、むしろそのなんでも話題にできるところがいいのか?
まぁ、何にせよこれでひとまずは、あの嫌な空気から脱却できるな。利莉花も絵夢に言われた話題について考えていて、メンタルは持ち直したみたいだし。
問題は……
「…………」
あの終始不機嫌な望がどのくらい乗ってきてくれるかだが。
「う~ん……私が好きなことってなんでしょうか? 伊久留ちゃんを抱きしめることは好きですが、それは単純に伊久留ちゃんが好きだから、それに関連すること全部が好きなだけですし……」
「部長先輩ですか……。利莉花先輩はその人のことばかりですね」
「え?」
利莉花は驚いた様子で、望に目を向ける。そのときの望は今までに見たことがないほど、冷たい雰囲気を放っていた。望は目を閉じて話し出す。
「ボクは当然、先輩といることが好きです。先輩のことを考えることが好きです。先輩のことを大切に思っています。だから、ボクは先輩の気持ちを……尊重するんです」
そう語る望は今度は儚げな様子だった。望は目を開くと、利莉花を真っ直ぐに見据える。
「ボクにとっては先輩さえいればそれで十分なんです。でも、利莉花先輩はどうですか? 部長先輩のことを想いあっていますか? その気持ちを考えていますか? いたとして、利莉花先輩にとっては、その人だけで十分ですか?」
そこまで言うと一度言葉を区切り、望は一拍を置いてから、大事なことを投げかけるように口にした。
「利莉花先輩は他の人のこと大切に思ってないんですか?」
「…………」
利莉花はその問いに対して黙る。その中で俺はなんとなく、望の真意を理解した。
(あいつ……余計と言うかなんというか)
結局お前も、透と同じことしてるじゃねーかよ。
それに俺は……『そういう』んじゃない。
確かに俺は、前に進みたいと思った。
相手の想いを知りたいと思った。
だけど、関係ないんだ。相手の気持ちがどうであっても、俺は自分を変えるつもりはないから。
だから、知らなくていい。このままでいい。少なくとも、今はまだ。
望……お前は色々と勘違いしているな。
いや、こういう場だからそう聞こえているだけかもしれないが……利莉花がどういう人間か、まだわかってない。
その質問で利莉花はどう返すか、俺にはなんとなく想像はついている。
まぁ、直にお前にもわかる。だって、利莉花は望のいきなりの言葉にただあっけに取られていただけだろうからな。
と、そんなことを思っていると、やはり利莉花は口を開きだした。
「望くんが何を考えてそんなことを言ったのかよくわかりませんけど、私は自分なりに伊久留ちゃんのことは考えているつもりです。でも、そうですね……。私は伊久留ちゃんだけだなんて……そんな世界で十分だなんて、絶対に思いません」
利莉花は自分の胸に手を当てると、自分の中の思いを確認するように語りだす。
「私はここにいるみなさんのことを大切に思っています。思わないわけがないんです。私を受け入れてくれたんだから。ずっとずっとみなさんといたい」
利莉花はさきほどのお返しをするように、真っ直ぐに望に視線を向ける。
「私は皆さんとこうして一緒の場所に集まって、お話ししたり遊んだり……そうやって過ごしている時間が大好きなんです」
……そうだ、利莉花。お前は……そういうやつだ。
一人よりも全員を取る。だって俺たちはお前にとって、そのすべてを認めてくれた仲間で。それこそが、お前にとっての得ることのできた大切な場所だから。
俺も同じだ。利莉花に恋をしていて……それでも俺は、この中から一人はきっと選べない。みんな大切な存在だ。
それは小学校のみんなも含まれる。俺は……全員が大好きだから。
「……もちろん、そこには望くん。君もいるんだよ」
利莉花はそういつになく崩した口調で笑いかける。それは諭すような優しい感じで……とても暖かな印象を与えた。
「……そうですか。よくわかりました」
望は驚いたようにしていたがすぐにそう答える。そして、先ほどまでとは打って変わって、気を抜いた……普段の調子で申し訳なさそうに頭を下げた。
「それと、すみません。利莉花先輩を試すようなことを聞いて」
「え? えっと……試す?」
利莉花は意味が分からない様子で戸惑っている。
やっぱ、分かってなかったんだな。自分でもそう言っていたから、想像はしていたけど。望は「いいんです。わからないならそれで」と笑って返す。
「でも、おかげでわかったこともありました。利莉花先輩ってボクが思っていた以上に子供なんですね」
「こ、子供ですか?」
「だって、ここにいる全員と一緒に居たいとか言うんですもん。そこは百合なんですから、あとは絵夢先輩がいれば十分だーくらい言ってほしかったですね」
「ええぇ……そんなリアクションを求められても困るんですけど……」
利莉花は真面目だからな。そいつがたまに馬鹿なことしてるから面白かったりするんだけど。
「だけどそれ以上に、利莉花先輩がすっごくいい人で、純粋な人なんだなってそう思いました! 思わず好きになっちゃいそうですよ!」
(なっ!)
好きだと……? 望が利莉花をか?
望が俺から離れてくれるのは普通に嬉しい。しかも女子相手に向かってくれるのもグッジョブだ。だが、その相手が利莉花っていうのは認めたくないジェラシー的なものを感じるというか……。
(うおー! 俺はどうすればいいんだ!)
「あははっ。ありがとうございます。望くん」
そんな望に利莉花は純真な表情で微笑む。っく、利莉花にあんな風に微笑まれるとは……望め。やはりジェラシーを感じる……!
と、二人の会話も一段落したところで、俺たちの無言も終わる。
「う~! リリー! すごくいい言葉だよ~。私思わず感動しちゃったよ~!」
「わ! どうしたんですか、絵夢さん!? いきなり抱きつくなんて」
絵夢は感極まった様子で利莉花の元に行き抱き付いた。うん、普通に考えたら、こういうのは女子特有のボディタッチで仲の良さがとっても現れていて、いい光景だな。
そう、普通に考えたら……な。
「はぁ……でも、あの絵夢さんから抱きつかれちゃうなんて……。こういうときは大抵私から抱きつくことしかないのに……こんなこと初めてで、なんだか興奮してきました!」
(……だよな。利莉花は……百合だもんな)
利莉花はそう言って、はぁはぁと息を荒げる。
「はっ!」
そして、さすがにその利莉花の異常な様子に気付いて、さっと利莉花から離れて、距離を取る。そこで、絵夢は一息をついた。
「ふぅ、危ないところだったよ」
「いや、まだ助かってないぞー」
「え?」
俺の声に反応して、絵夢は声を漏らす。
そして恐る恐ると視線を変えるとそこには――
「うん。題材についてのことなら、どんなものでもいいよ! じゃあ、私はまた黙るからね!」
絵夢は座り直すと、口にチャックをするように、両手で口を抑える。
にしても、『自分の好きなことについて』か。話題としては……どうなんだ?
こう、ふんわりとしているっていうか。もう少し具体性のあるもののほうが……。
例えば好きな食べ物とか。そういうやつのほうが方向性とかも決まってよかったんじゃ。いや、むしろそのなんでも話題にできるところがいいのか?
まぁ、何にせよこれでひとまずは、あの嫌な空気から脱却できるな。利莉花も絵夢に言われた話題について考えていて、メンタルは持ち直したみたいだし。
問題は……
「…………」
あの終始不機嫌な望がどのくらい乗ってきてくれるかだが。
「う~ん……私が好きなことってなんでしょうか? 伊久留ちゃんを抱きしめることは好きですが、それは単純に伊久留ちゃんが好きだから、それに関連すること全部が好きなだけですし……」
「部長先輩ですか……。利莉花先輩はその人のことばかりですね」
「え?」
利莉花は驚いた様子で、望に目を向ける。そのときの望は今までに見たことがないほど、冷たい雰囲気を放っていた。望は目を閉じて話し出す。
「ボクは当然、先輩といることが好きです。先輩のことを考えることが好きです。先輩のことを大切に思っています。だから、ボクは先輩の気持ちを……尊重するんです」
そう語る望は今度は儚げな様子だった。望は目を開くと、利莉花を真っ直ぐに見据える。
「ボクにとっては先輩さえいればそれで十分なんです。でも、利莉花先輩はどうですか? 部長先輩のことを想いあっていますか? その気持ちを考えていますか? いたとして、利莉花先輩にとっては、その人だけで十分ですか?」
そこまで言うと一度言葉を区切り、望は一拍を置いてから、大事なことを投げかけるように口にした。
「利莉花先輩は他の人のこと大切に思ってないんですか?」
「…………」
利莉花はその問いに対して黙る。その中で俺はなんとなく、望の真意を理解した。
(あいつ……余計と言うかなんというか)
結局お前も、透と同じことしてるじゃねーかよ。
それに俺は……『そういう』んじゃない。
確かに俺は、前に進みたいと思った。
相手の想いを知りたいと思った。
だけど、関係ないんだ。相手の気持ちがどうであっても、俺は自分を変えるつもりはないから。
だから、知らなくていい。このままでいい。少なくとも、今はまだ。
望……お前は色々と勘違いしているな。
いや、こういう場だからそう聞こえているだけかもしれないが……利莉花がどういう人間か、まだわかってない。
その質問で利莉花はどう返すか、俺にはなんとなく想像はついている。
まぁ、直にお前にもわかる。だって、利莉花は望のいきなりの言葉にただあっけに取られていただけだろうからな。
と、そんなことを思っていると、やはり利莉花は口を開きだした。
「望くんが何を考えてそんなことを言ったのかよくわかりませんけど、私は自分なりに伊久留ちゃんのことは考えているつもりです。でも、そうですね……。私は伊久留ちゃんだけだなんて……そんな世界で十分だなんて、絶対に思いません」
利莉花は自分の胸に手を当てると、自分の中の思いを確認するように語りだす。
「私はここにいるみなさんのことを大切に思っています。思わないわけがないんです。私を受け入れてくれたんだから。ずっとずっとみなさんといたい」
利莉花はさきほどのお返しをするように、真っ直ぐに望に視線を向ける。
「私は皆さんとこうして一緒の場所に集まって、お話ししたり遊んだり……そうやって過ごしている時間が大好きなんです」
……そうだ、利莉花。お前は……そういうやつだ。
一人よりも全員を取る。だって俺たちはお前にとって、そのすべてを認めてくれた仲間で。それこそが、お前にとっての得ることのできた大切な場所だから。
俺も同じだ。利莉花に恋をしていて……それでも俺は、この中から一人はきっと選べない。みんな大切な存在だ。
それは小学校のみんなも含まれる。俺は……全員が大好きだから。
「……もちろん、そこには望くん。君もいるんだよ」
利莉花はそういつになく崩した口調で笑いかける。それは諭すような優しい感じで……とても暖かな印象を与えた。
「……そうですか。よくわかりました」
望は驚いたようにしていたがすぐにそう答える。そして、先ほどまでとは打って変わって、気を抜いた……普段の調子で申し訳なさそうに頭を下げた。
「それと、すみません。利莉花先輩を試すようなことを聞いて」
「え? えっと……試す?」
利莉花は意味が分からない様子で戸惑っている。
やっぱ、分かってなかったんだな。自分でもそう言っていたから、想像はしていたけど。望は「いいんです。わからないならそれで」と笑って返す。
「でも、おかげでわかったこともありました。利莉花先輩ってボクが思っていた以上に子供なんですね」
「こ、子供ですか?」
「だって、ここにいる全員と一緒に居たいとか言うんですもん。そこは百合なんですから、あとは絵夢先輩がいれば十分だーくらい言ってほしかったですね」
「ええぇ……そんなリアクションを求められても困るんですけど……」
利莉花は真面目だからな。そいつがたまに馬鹿なことしてるから面白かったりするんだけど。
「だけどそれ以上に、利莉花先輩がすっごくいい人で、純粋な人なんだなってそう思いました! 思わず好きになっちゃいそうですよ!」
(なっ!)
好きだと……? 望が利莉花をか?
望が俺から離れてくれるのは普通に嬉しい。しかも女子相手に向かってくれるのもグッジョブだ。だが、その相手が利莉花っていうのは認めたくないジェラシー的なものを感じるというか……。
(うおー! 俺はどうすればいいんだ!)
「あははっ。ありがとうございます。望くん」
そんな望に利莉花は純真な表情で微笑む。っく、利莉花にあんな風に微笑まれるとは……望め。やはりジェラシーを感じる……!
と、二人の会話も一段落したところで、俺たちの無言も終わる。
「う~! リリー! すごくいい言葉だよ~。私思わず感動しちゃったよ~!」
「わ! どうしたんですか、絵夢さん!? いきなり抱きつくなんて」
絵夢は感極まった様子で利莉花の元に行き抱き付いた。うん、普通に考えたら、こういうのは女子特有のボディタッチで仲の良さがとっても現れていて、いい光景だな。
そう、普通に考えたら……な。
「はぁ……でも、あの絵夢さんから抱きつかれちゃうなんて……。こういうときは大抵私から抱きつくことしかないのに……こんなこと初めてで、なんだか興奮してきました!」
(……だよな。利莉花は……百合だもんな)
利莉花はそう言って、はぁはぁと息を荒げる。
「はっ!」
そして、さすがにその利莉花の異常な様子に気付いて、さっと利莉花から離れて、距離を取る。そこで、絵夢は一息をついた。
「ふぅ、危ないところだったよ」
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