ワイルドロード ~獣としての道~

エルセウス

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序章 獣としての始まり

第十話 執念の戦槌 (後編)

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「“俺達”は…これに勝たなきゃ明日はないんだよ!!」


ブランの意地がこもった声が響く。


「…どういうことだ?」


ルーフが聞く。


「…俺達の村が壊された。両親が目の前で燃やされた…」


「なっ…」



ブランにはあまりにも過酷な過去があった。


◇◆◇◆


「それじゃ、行ってくるよ。」


「行ってらっしゃいブラン。」


「気を付けるんだぞ。」


その日の朝はいつもの日常だった。両親の見送りを背に受け、ブランは出稼ぎに山の梺の町に下りる。


「お、ブラン!今日も来たな!」


「親っさん、今日もよろしくお願いします。」


「よし、じゃあやるか!」


ブランは建設の仕事をしていた。この当時、ブランの村では凶作が続き、村の収入の大部分を占めていた農作物の取引が出来なくなってしまっていた。

そのため、ほとんどの若者は村を離れていった。しかし、ブランはこの村を愛していた。出稼ぎで村を必死に支えるほどに。



…数時間後


「…こんなもんでいいだろ。ブラン、今日はあがるぞ!」


「はい!お疲れ様でした!」



こうして、1日の仕事が終わった。

ブランは親っさんに挨拶をして山へ戻る。月明かりに照らされ、薄い光に包まれている帰路を歩く。


その時、ブランは妙な胸騒ぎを感じた。


(何か…嫌な予感がする…)


胸の辺りがざわつく。それを振り払うかのように、ブランは足を早めた。



その嫌な予感が的中するのは、その後すぐだった。


焦げ臭い嫌な空気が鼻を抜ける。


(!?)


それを感じたとたん、ブランはすぐに走り出した。


(父さん…母さん…皆…)



ついに村に着いた。しかし、ブランは残酷な現実を突き付けられた。


「なんだ…これ…」


呆然として言葉がでなくなる。







村が、燃えていた。


「キャアア!!」


「やめてくれぇぇ!!」


悲鳴が響いていてくる。炎はゴウゴウと重い音を鳴らしながら、周りの物を焼き尽くす。


(そうだ!!父さん達は!?)


我にかえり家族を探しに自分の家に向かう。

そこには、何故か正座している両親の姿があった。


「父さん!!母さん!!」


生きているのを見つけ駆け寄る。しかし、


「来るなぁ!!ブラン!!!」


それを聞き思わず足が止まる。温厚な父の、聞いたことの無いような怒号だったのだから。


「なんだ…うるさいぞ…」


家の陰からヒトが出てくる。


「なっ…」


異様な容姿に驚愕する。そこには黒い防護服を着たヒトがいた。片手には火炎放射機を持っていた。


「おいおい…まだいたのかよ…」


そう呟くと、後ろからもう1人防護服の人物が現れた。


「おい、そっちは終わったか?」


「いや、ちょうど捕まえたとこだ。」


「ならさっさと処理するぞ…『アノお方』を怒らせると面倒だ。」


そう言って火炎放射機を両親に向ける。両親の命が危ないと肌で感じた。


「やめろぉぉぉ!!」


ブランはたまらず止めに入る。だが、


「邪魔だ。」


「くがっ!!」


強烈な蹴りをみぞおちに決められてしまった。


「ぐぅぅ…」


「こいつも後で焼くか。」


「そうしよう…じゃあまずはこっちからだ。」


再び砲口が両親の方を向く…


「…あ…が…」


痛みで動けない。這いつくばった状態で2人に手を伸ばす。2人を助けようと身体を動かそうとする。


その時、母が口を開いた。









「ブラン…愛してるわ…」










ゴォォォォ!!!






2人の身体が、炎に包まれた。





「あ…あ…」


声が出なかった。それは1人の少年のにはあまりにも酷なものだった。


「ったく手間取らせやがって…次はお前だ!このクソガキ!」


ブランはそれを聞き、激痛が走る身体に無理矢理力を入れる。


「い…だ……」


「ああ?」



「嫌だぁぁぁぁ!!!!」


ブランは逃げ出した。少しでも離れようと、最期の両親の声を振り払おうと、あの悲劇を…夢だと思おうと。



「この…待て!」


片方が感情に任せ追おうとする。それをもう1人が制止した。


「待て、俺らの仕事はもう終わりだ。1人ぐらい逃がしても変わらん。」


「…それもそうだな。さっさと報告するか。」



こうして、業火の悪夢は幕を閉じた。1人の少年に深い爪痕を付けて。


◇◆◇◆


「…そこから俺達の時は止まってる…だから…」


目に強き光が灯る。


「ギルドに入ってあいつらを探す!そいつらを殺して…俺達の…明日を…動かすんだ!!」


その叫びはもはや慟哭だった。


それと共に、ルーフに戦槌を振るう。


「ふっ!」


ルーフはそれを避けた。


「なにっ!」


「もうパターンは読めた!!」


今度はルーフが棍棒を振るう。
それはブランの胴をしっかり捉えた。


「ぬぅ!」


それを受け声を出す。


「…はん…効かねぇよ…お前と俺じゃ覚悟が違いすぎるんだよ!!」


すると、ブランは戦槌を地面に刺す。


「はぁぁぁ…」


(なんだ!?)


ブランの魔力が高まる。そして、



「ぬぅぅあぁぁぁ!!」


戦槌を引き抜く。先端には大きな土の塊が付いていた。


「『グラン・グロウス』…」


戦槌は更に巨大になっていた。



「さぁ…いくぜ!!」



それが先程よりも早く振るわれる。


(早い!!)


すぐに反応して後ろに跳ぶ。




ドォォォン!!!




代わりに打たれた地面が深くえぐれる。



「食らえぇ!!」


「しまっ…」


跳ね上がってきた戦槌が迫る。それはルーフの片腕を掠めた。


「ぐぅぅ!!」


それだけなのに、激しい衝撃を感じた。思わず倒れ込んでしまう。そのままフィールド端まで飛ばされる。


「…生半可なテメェなんてすぐ砕いてやるよ…」


起き上がるルーフにブランが歩き近づいて来る。


「っ…生半可だと…?」


ルーフが反抗的な目を向ける。


「そうだ。俺はテメェらみたいに、背負うもの無くただギルドになりたいってだけじゃないんだよ。」





「なんだと…」







その言葉にルーフは、怒った。









「俺は…そんなんじゃない…」


「は?」

ルーフの脳裏に前にみた悪夢が甦る。そこで聞いた声…自分を呼んだ悲しい声を思い出した。




ルーフの目に、決意が宿った。





「俺は、取り戻さないといけないものが有る!俺を待ってるんだ!!」


ルーフがブラン同様、大きな声を張り上げる。思わずブランは怯んでしまうが、すぐに我にかえり、


「しゃらくせぇ!!!」


と叫び戦槌を振り上げた。


「じゃあこれ受けてみろ!!」


大きな土塊が頭目掛けて降ってくる。フィールド端まで跳ばされたせいで、追い詰められてしまっている。



(こうなったら…)


腕のハドウを高める。


(これで受ける!!)


腕のハドウを集める。すると、纏っていただけのハドウが形になっていった。


(これは…)




ゴォォォン!!





(手応え有り!やったか!?)


ブランが心の中で呟く。しかし、舞う土埃の中に、立っていルーフがいた。


その腕には青い手甲が装備されていた。



「なんだ!?」


その手甲は圧倒的な硬さでブランの一撃を受けたのだ。


「まだまだ…」


更に腕に…1ヶ所にポイントを定めハドウを溜める。


「いくぞ!『アームポイント・ライズ』!!」


ハドウガンの時のように即興で技名を叫ぶ。


手甲の形が更にハッキリとしたものになった。


「ぐぅっ!」


「いくぞ!ブラン!!」


ルーフはブランに肉薄する。そして、竜巻のような連撃を繰り出す。


「ぐ…お…」



形勢逆転。ハドウを“装備”したことにより威力の上がった攻撃にブランは防戦一方になってしまう。


「くそがぁ!!」


負けじと戦槌で応戦する。しかし、腕や足、胴と様々な所を打たれてしまう。
竜巻は止まらなかった。


「はぁぁぁ!!」



「ぐぅぅぅぅ…」



ひたすら打つ、突く、薙ぐ。
そして、強烈な横薙を放った。


「はぁ!!」



「がぁぁ!」



ついに、ブランのど真ん中を捉えた。


「ぐはぁ!!」



そのまま吹き飛ばされ倒れてしまう。



「…まだ…だ…」



(ここで…諦めたら…皆の無念が…)



だが、ブランは諦めていない。ガクガクと震える身体を起こす。


しかし、ブランの喉には棍棒のが突きつけられていた。


「なっ…」


「俺の…勝ちだ…」


嵐のような打ち合いが終わり、静寂に包まれたバトル場にルーフの声が通った。


「しょ…勝者!ルーフ選手!!」


ルーフの勝利を叫ぶ審判の声が響き渡った。



第1ブロック3回戦が終わった。


決意に燃える連撃が、途方もない執念を煮えたぎさせる戦槌を打ち砕いたのだ。


◇◆◇◆


マリンシアギルドを背に港に向かう1人の影があった。

激闘の末敗北したブランがマリンシアを後にしようとしていた。


(俺は…執念ではアイツに勝っていたはずだ…だが…)


「決意が…違ったな…」


あの時のルーフの目を思い出す。腹の奥で悔しさが沸々と沸いている。


そうして歩いていると、不意に後ろから声を掛けられる。


「おい。」


「ん?」


そこにはシアンが立っていた。


「…誰だ?」


今は虫の居所が悪い。ブランはやさぐれた目線を送る。


「私はシアン・エルカーズ。ギルドの教官をしている者だ。」



「…ギルドの教官?そんなヒトが俺に何の用だよ?」



「今日の試合、惜しかったな。」


その一言を聞き、腹で煮えていたものが爆発する。


「うるせぇ!!テメェバカにしに来たのかよ!!」


人目を憚らず声を荒げてしまう。


「…もういいか?さっさとどっか行ってくれ。」


ブランはそう言い放ち去ろうとした。


「待て。」


シアンが呼び止める。


「なんだよ!!」


ブランのイラつきは最大まで溜まっていた。


「お前はこれからどうするつもりだ?」


「どうするって…適当に傭兵でもやりながらアイツらを探す。それだけだ。」


「そうか…」


シアンが少し考える。そして、驚きの提案をした。


「やはり惜しいな…」


「なにがだよ?」


「よし、お前はマリンシアギルドに入れ。」


それはギルドへの勧誘だった。


「は?」


「言葉のままだ。どうした?ギルドに入りたくないのか?」


「いやいやいや…そりゃ入りたいけど…俺さっき負けたのわかってるよな?」


「あぁ。」


「ならどうして…」


「ただのスカウトというやつだ。」


ブランの言葉を遮る。


「お前のような強力な人材は野放しにしておくには惜しい。どうだ?」


それを聞き、ブランは少し困惑する。しかし、こんなうまい話しに乗らない手はないと感じた。


「そういうことなら入らせてもらうぜ。」


シアンの提案を承諾した。


「そうか。なら良かった。」


そう言うとシアンは何故か町の外に出る道に向かう。


「おい!何処行くんだよ?」


思わず呼び止める。


「これからお前を見極める。着いてこい。あと未来の上司には敬語を使え。」


「わかっ…はい!」


ブランがこの後、シアンの厳しい特訓に疲労困憊するのはまた別のお話…
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