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序章 獣としての始まり
第十一話 遺産でできた渦
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ブランとの試合が終わり、ルーフはトーナメント最終戦まで駒を進めた。
「次で…決勝…」
忘れたはずだった緊張が肌を伝う汗となる。
それを海斗は感じ取った。
「なぁに緊張してるんや!ルーフなら大丈夫って何回も言うたで?気張っていきゃ何とかなる!」
「海斗…うん!頑張るよ!」
「私と一緒にギルドになるわよ!ルーフ!」
そこへルナも鼓舞しに来る。ルーフはそれらに勇気をもらった。
「あぁ!!絶対なるさ!!」
「これより第1ブロック決勝を始める!ルーフ選手とオーワン選手はバトル場に来なさい!」
ギルド団員の声がかかった。
こうしてルーフはバトル場に向かった。
その目に決意の灯火を宿して。
◇◆◇◆
バトル場に着くと、そこには小さなネズミの少年が立っていた。
(こんな小さな子供が決勝まで…侮れないな…)
「それでは試合前の握手をしなさい。」
ギルド団員の一言で2人が近づく。
そしてお互いの手を握った。
「よろしく。絶対負けないよ!」
ルーフがそう言って手を差し出す。
しかし、
「……」
それを無視し握手だけで離れてしまった。
(…クールな子だな…)
ルーフはそう思って開始位置に戻った。
「よし、準備は良いな?」
審判が声をかける。
「はい!」
「……」
ルーフは返事をし、オーワンは手を挙げる。
「…それでは第1ブロック決勝…はじめ!!」
始まってすぐにルーフは踏み込む。
「はぁぁ!」
そして棍棒の一撃はオーワンの腕を捉える。
「……」
しかし、オーワンは何の反応もしない。
(なんだこいつ…でもチャンスだ!)
『アームポイント、ライズ!!』
(一気に畳み掛ける!)
ルーフは棍棒の連撃をオーワンに打ち込み続ける。だが、やはりオーワンは表情1つ変えずにそれを食らう。
「いけぇ!ルーフ!!」
場外から海斗の応援が飛ぶ。
ルーフはこのまま勝てると確信した。
しかし、ここで異変が起きる。
ヒュン!
(!?)
ルーフの棍棒が初めて空を切った。
ガン、ガン、ヒュン、ガン、ヒュン
少しずつ避けられるペースが上がる。
(何だ?)
ヒュン、ヒュン、ガン、ヒュン、ガン
(これ…早く決めないと!)
そう考えたルーフは一旦距離をとろうとバックステップをする。そして、
『ハドウガン!!』
ハドウガンをオーワンの身体のど真ん中に放つ。
だが、
ガアァァン!
オーワンは腕をクロスしてそれを受けてしまった。そして、
『…分析…完了』
小さく、無機質な声でそう言った。
『反撃…開始!』
そして、ルーフへ疾風のような踏み込みで距離を詰める。
(はやっ!)
『スパイラル!』
手に風の渦を作り、それをルーフの顔へ放つ。
「ぐっ!」
それをなんとか避ける。
「はあぁ!」
そしてすぐに反撃をする。しかし、
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
(くそっ!)
反撃を全てかわされてしまう。それは少し前のオーワンの動きとは別物だった。
『スパイラル・ショット!』
小さな渦を物凄い早さでいくつも飛ばしてくる。
「ふっ!」
ルーフは棍棒で受ける。しかし、渦に気を取られてしまい、肉薄してきたオーワンに気づかなかった。
オーワンの掌底がルーフの腹を捉えてしまった。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされ、倒れ込んでしまう。
(腹の中で…爆発が起きたみたいだ…)
受けた衝撃が強すぎる。すぐには起き上がれなかった。
『…シュランク・スパイラル…』
槍の様な細長い渦がルーフを襲う。
「くっ…『レッグポイント、ライズ!』」
ルーフは咄嗟に技を応用し、ハドウの鎧を足に装備し脚力を上げる。
そして、素早く横に転がり渦を避けた。
(あの掌底と魔法…とても子供の物とは思えない…)
膝をつくルーフにオーワンが詰め寄る。
(おまけに攻撃はかわされる…だったら!)
『ハドウガン!』
『…!』
ルーフはハドウガンを地面に放ち、土煙を発生させた。
『……?目標…消失…』
オーワンは土煙に巻かれてルーフを見失ってしまう。
すると、
「食らえ!『ハドウガン』!!」
オーワンの背後に回り込んだルーフがハドウガンを撃った。
『!!』
完全にオーワンの虚をついたと思った。だが、
『ガドン・スパリオン!』
巨大な渦の盾がハドウガンを防いでしまった。
(マジかよ!?)
ルーフの機転を効かせた一撃は全く通用しなかった。
◇◆◇◆
(こいつ…強い…)
多彩で強力な魔法を前にルーフは苦戦を強いられていた。
『グラン・スパリオン…』
オーワンの両手に魔力が溜まっていく。
(でかいのが来る!)
ルーフはそれを読み取り回避行動を選択する。
オーワンの両手が開かれた瞬間、ルーフは左に跳ぶ。しかし、
『左回避率…87%…』
(なっ!)
ルーフが跳んだ瞬間、オーワンは標準を左にずらしたのだ。
空気を切り裂きながら進む大きな渦が、ルーフに直撃してしまった。
「うわぁぁ!」
「ルーフ!!」
思わず応援席の海斗も声を出してしまう。
「ぐっ…」
全身を切り刻まれ、ルーフは血塗れになってしまった。
(こいつ…俺の動きを読んだのか…?)
もはやルーフには、オーワンが異次元の存在に感じた。
ルーフの意識が薄れていく。そんなことはお構い無しにオーワンはトドメを刺そうと近づいてくる。
(俺…負けるのか…?)
そして、オーワンの拳が顔を迫ってきた。
その時、
(…※∠∪▽…∞≦≧%!!)
(ツッ!!)
何かがルーフを、呼んだ気がした。
ガン!!
オーワンの拳は、地面を捉えていた。
ルーフは間一髪それをかわしたのだ。
「そうだよ…俺はこんなとこで終われない…」
その目には、再び決意が灯る。“あの声”が、思い出させてくれたのだ。
ここから、ルーフは勝利へのヒントを掴み始める。
◇◆◇◆
「はぁぁぁあ!」
『……』
何度攻撃してもかわされる。だが、ルーフは最初との違和感の正体に気づき始めた。
(最初との違い…こいつ動きを読んでるんじゃない…もしかして“学習”してるのか?)
学習しているとなると、最初と今の動きの違いに合点がいく。
『……!』
「くっ!」
反撃を受けながらも、ルーフは思考を止めない。
(学習してるならもう攻撃は効かない…だったら新しい攻撃をするしかない!)
ルーフは考える。今の自分で出来る新しい攻撃を…そして、
(!!…アレなら俺でも…)
1つのアイデアが浮かぶ。
「…やってみるしかねぇ!!」
ルーフは覚悟を決める。
『…グラン・スパリオン…』
(来た!)
先程の大技の魔力が溜まる。
そして、両手が開かれた。大きな渦がルーフの方へ強襲する。
しかし、ルーフはそれに真っ向から走っていった。
「うおぉぉぉぉ!!!」
「無茶だ!!ルーフ!!」
海斗が叫ぶ。
無情にもルーフの身体を風の刃が抉る。
だが、それでもルーフは止まらなかった。腕の鎧でガードしながら無理矢理進む。
『……!!』
ルーフはボロボロになりながら渦を抜けた。しかし、それでもオーワンに棍棒の攻撃は効かない。そこで、
「一緒に…吹き飛ぼうぜ!」
『ナッ…!』
予想外の行動にオーワンは声を出してしまう。
ルーフは手の平にハドウガンを作り、そこで爆破した。
ドォォォン!!
正に捨て身の一撃。ルーフは己の身もろとも自爆したのだ。
『グウゥゥ!!』
ガードが間に合わず、オーワンはダメージを受けてしまう。
再び土煙が上がる中、オーワンはルーフを探す。
「はぁぁぁあ!!」
ルーフは背後でハドウを溜めていた。しかし、
『ガルド・スパリオン!』
すぐに渦の壁を固めオーワンは防御体勢に入ってしまう。
それなのに、ルーフは笑みを浮かべた。
この展開はルーフの想像通りだったのだ。
(この渦を出したらこいつは視界が切れる!)
ルーフは腕ではなく、“棍棒に”ハドウを溜めていたのだ。
武器に魔力を溜める、ブランと同じように。
「いくぞ!!『チャーグル・スピア』!!」
ルーフは棍棒からハドウの槍を打ち出した。
それは渦が一番薄くなる目の部分に正確に飛んでいく。
そして、渦の壁を貫いた。
『!!』
切られた視界からの一撃。オーワンは回避しきれなかった。
青き光が、オーワンの肩を貫いた。
『ガァァァ!ア…ァ…』
それを食らった途端、大きな声をあげ、糸の切れた操り人形の様にガクリと崩れ落ちた。
「…やったか…?」
「1、2、3…!」
ダウンと判断した審判のカウントが始まる。
「6、7、…」
オーワンは動かない。そしてついに、
「9、10!勝者!ルーフ選手!!」
10カウントされ、ルーフの勝利が決まった。
「やった…のか…?」
ルーフは現実を理解するまで時間がかかった。
そして、
「いぃぃやったぁぁ!!!!」
理解した途端、今までで一番の咆哮が出た。ルーフの努力の成果が出た瞬間だった。
ルーフの周りを歓声が包み込む。彼はこの戦いがついに終わったと達成感に浸っていた。
しかし、それは大きな間違いだった。
『ジンダイナハソンヲカンチ…デストロイプログラム…オン…』
そんな声と共に、倒れていたオーワンは立ち上がった。
貫かれた肩から、血の代わりに煙を上げて。
「なっ…なんだ…?」
それは異様な光景だった。肩からショートした電気の音と煙の音が出ている。
『ギィィ!!』
オーワンが醜い声をあげルーフに肉薄する。
「なにっ!?」
しかし、満身創痍のルーフには避けられない。
強烈な掌底がルーフを捉えた。
「ぐあぁぁ!!!」
余りにも急な出来事。誰も反応出来なかった。
ルーフは壁に叩きつけられてしまう。
「がはっ!」
激しい衝撃にルーフは血を吐き倒れてしまう。
(ヤバイ…動けねぇ…)
そして、
『グラディオス…スパルダクス…』
とてつもない魔力の渦がルーフに放たれた。
「しまっ…」
気付いたときには、渦は眼前まで飛んできていた。
(死…)
そう考える暇も無かった。
ドォォォォォォォン!!!!!
その渦はルーフを包み、辺り1面に爆音が鳴り響いた。
渦が当たった地面は抉れ、ギルド本部の壁も削られていた。
「ルーーーフ!!!」
海斗が必死の表情で駆け寄る。最悪な状況を頭に浮かべて。
しかし、煙の中に人影があることに気が付いた。
「あれは……?」
ルーフの前に、シアンが結界を張って立っていた。
ルーフが倒れ込んでいる地面には傷1つ付いていなかった。
「…シアン…さん…?」
ルーフがかすれた声を掛ける。
「喋るな。傷が広がるぞ。」
しかし、シアンはすぐに声を遮りオーワンに強烈な殺気を向ける。
「…貴様…勝負はもうついているぞ。今すぐ手を下ろせ。」
『クグ…ギャア!』
それに返ってきたのは怪物の様な声だった。
それが最早獣人では無いことは誰の目から見ても明白だった。
「…それがお前の答えか…」
『クギャ!!』
すると突然オーワンが『スパイラル・ショット』を放ってきた。
幾つもの渦の凶弾がシアンに飛んでいく。
だが、そんなものはシアンに通用しなかった。
「シィィイ!」
両脇から透明なクリスタルナイフを抜き、全て弾いてしまったのだ。
『ギイッ!?』
オーワンが狼狽える。
その瞬間、シアンの姿が消える。そしてオーワンの背後にいつの間にか立っていた。
「…終わりだ…」
オーワンは声すら出なかった。
何故なら、既にその身体に大きな切り傷が幾つもの付いていたからだ。
「ギィ…ァ…」
オーワンは膝から崩れ落ちた。そして、
ボォォォン!!
そのまま爆発を起こし、粉々になってしまった。
周りが静寂に包まれる。
「…そうだ!ルーフは?」
それを破り海斗がルーフに駆け寄る。
そこには血みどろで意識を失っているルーフの姿があった。
「ルーフ…ルーフ!!」
必死の呼び掛けにも返事は無い。
「すぐに救急部隊を呼べ!早く!」
シアンも周りの団員に指示を出す。
トーナメント決勝は、波乱の中での閉幕となった。
◇◆◇◆
某所にて、
「実験番号01の停止を確認。シグナルも切れました。」
「そうか…」
そこには黒塗りの制服を来た集団がいた。薄暗い指令室の中で、1人の人が呟く。周りは様々な機材が付けられ、沢山のモニターが置かれている。
「偵察データ表示します。」
1人の犬獣人が中心の大きなモニターに幾つものデータを送信する。
そこにはルーフの写真もあった。
「…ここで処理できればと思ったが…そういう訳にはいかんものだな…」
ため息混じりにそう言う。そして、ルーフの写真を睨む。
「まぁいい。いずれは跡形もなく消すことが出来るだろう…」
その人はニヤリと笑う。
「私の計画の障害になるものは全て消す。待っていろ…ルーフ…いや、
…“牙崎、太狼”…」
そう言って指令室を後にした。
ルーフの…太狼の物語が、また1つ動き出した。
「次で…決勝…」
忘れたはずだった緊張が肌を伝う汗となる。
それを海斗は感じ取った。
「なぁに緊張してるんや!ルーフなら大丈夫って何回も言うたで?気張っていきゃ何とかなる!」
「海斗…うん!頑張るよ!」
「私と一緒にギルドになるわよ!ルーフ!」
そこへルナも鼓舞しに来る。ルーフはそれらに勇気をもらった。
「あぁ!!絶対なるさ!!」
「これより第1ブロック決勝を始める!ルーフ選手とオーワン選手はバトル場に来なさい!」
ギルド団員の声がかかった。
こうしてルーフはバトル場に向かった。
その目に決意の灯火を宿して。
◇◆◇◆
バトル場に着くと、そこには小さなネズミの少年が立っていた。
(こんな小さな子供が決勝まで…侮れないな…)
「それでは試合前の握手をしなさい。」
ギルド団員の一言で2人が近づく。
そしてお互いの手を握った。
「よろしく。絶対負けないよ!」
ルーフがそう言って手を差し出す。
しかし、
「……」
それを無視し握手だけで離れてしまった。
(…クールな子だな…)
ルーフはそう思って開始位置に戻った。
「よし、準備は良いな?」
審判が声をかける。
「はい!」
「……」
ルーフは返事をし、オーワンは手を挙げる。
「…それでは第1ブロック決勝…はじめ!!」
始まってすぐにルーフは踏み込む。
「はぁぁ!」
そして棍棒の一撃はオーワンの腕を捉える。
「……」
しかし、オーワンは何の反応もしない。
(なんだこいつ…でもチャンスだ!)
『アームポイント、ライズ!!』
(一気に畳み掛ける!)
ルーフは棍棒の連撃をオーワンに打ち込み続ける。だが、やはりオーワンは表情1つ変えずにそれを食らう。
「いけぇ!ルーフ!!」
場外から海斗の応援が飛ぶ。
ルーフはこのまま勝てると確信した。
しかし、ここで異変が起きる。
ヒュン!
(!?)
ルーフの棍棒が初めて空を切った。
ガン、ガン、ヒュン、ガン、ヒュン
少しずつ避けられるペースが上がる。
(何だ?)
ヒュン、ヒュン、ガン、ヒュン、ガン
(これ…早く決めないと!)
そう考えたルーフは一旦距離をとろうとバックステップをする。そして、
『ハドウガン!!』
ハドウガンをオーワンの身体のど真ん中に放つ。
だが、
ガアァァン!
オーワンは腕をクロスしてそれを受けてしまった。そして、
『…分析…完了』
小さく、無機質な声でそう言った。
『反撃…開始!』
そして、ルーフへ疾風のような踏み込みで距離を詰める。
(はやっ!)
『スパイラル!』
手に風の渦を作り、それをルーフの顔へ放つ。
「ぐっ!」
それをなんとか避ける。
「はあぁ!」
そしてすぐに反撃をする。しかし、
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
(くそっ!)
反撃を全てかわされてしまう。それは少し前のオーワンの動きとは別物だった。
『スパイラル・ショット!』
小さな渦を物凄い早さでいくつも飛ばしてくる。
「ふっ!」
ルーフは棍棒で受ける。しかし、渦に気を取られてしまい、肉薄してきたオーワンに気づかなかった。
オーワンの掌底がルーフの腹を捉えてしまった。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされ、倒れ込んでしまう。
(腹の中で…爆発が起きたみたいだ…)
受けた衝撃が強すぎる。すぐには起き上がれなかった。
『…シュランク・スパイラル…』
槍の様な細長い渦がルーフを襲う。
「くっ…『レッグポイント、ライズ!』」
ルーフは咄嗟に技を応用し、ハドウの鎧を足に装備し脚力を上げる。
そして、素早く横に転がり渦を避けた。
(あの掌底と魔法…とても子供の物とは思えない…)
膝をつくルーフにオーワンが詰め寄る。
(おまけに攻撃はかわされる…だったら!)
『ハドウガン!』
『…!』
ルーフはハドウガンを地面に放ち、土煙を発生させた。
『……?目標…消失…』
オーワンは土煙に巻かれてルーフを見失ってしまう。
すると、
「食らえ!『ハドウガン』!!」
オーワンの背後に回り込んだルーフがハドウガンを撃った。
『!!』
完全にオーワンの虚をついたと思った。だが、
『ガドン・スパリオン!』
巨大な渦の盾がハドウガンを防いでしまった。
(マジかよ!?)
ルーフの機転を効かせた一撃は全く通用しなかった。
◇◆◇◆
(こいつ…強い…)
多彩で強力な魔法を前にルーフは苦戦を強いられていた。
『グラン・スパリオン…』
オーワンの両手に魔力が溜まっていく。
(でかいのが来る!)
ルーフはそれを読み取り回避行動を選択する。
オーワンの両手が開かれた瞬間、ルーフは左に跳ぶ。しかし、
『左回避率…87%…』
(なっ!)
ルーフが跳んだ瞬間、オーワンは標準を左にずらしたのだ。
空気を切り裂きながら進む大きな渦が、ルーフに直撃してしまった。
「うわぁぁ!」
「ルーフ!!」
思わず応援席の海斗も声を出してしまう。
「ぐっ…」
全身を切り刻まれ、ルーフは血塗れになってしまった。
(こいつ…俺の動きを読んだのか…?)
もはやルーフには、オーワンが異次元の存在に感じた。
ルーフの意識が薄れていく。そんなことはお構い無しにオーワンはトドメを刺そうと近づいてくる。
(俺…負けるのか…?)
そして、オーワンの拳が顔を迫ってきた。
その時、
(…※∠∪▽…∞≦≧%!!)
(ツッ!!)
何かがルーフを、呼んだ気がした。
ガン!!
オーワンの拳は、地面を捉えていた。
ルーフは間一髪それをかわしたのだ。
「そうだよ…俺はこんなとこで終われない…」
その目には、再び決意が灯る。“あの声”が、思い出させてくれたのだ。
ここから、ルーフは勝利へのヒントを掴み始める。
◇◆◇◆
「はぁぁぁあ!」
『……』
何度攻撃してもかわされる。だが、ルーフは最初との違和感の正体に気づき始めた。
(最初との違い…こいつ動きを読んでるんじゃない…もしかして“学習”してるのか?)
学習しているとなると、最初と今の動きの違いに合点がいく。
『……!』
「くっ!」
反撃を受けながらも、ルーフは思考を止めない。
(学習してるならもう攻撃は効かない…だったら新しい攻撃をするしかない!)
ルーフは考える。今の自分で出来る新しい攻撃を…そして、
(!!…アレなら俺でも…)
1つのアイデアが浮かぶ。
「…やってみるしかねぇ!!」
ルーフは覚悟を決める。
『…グラン・スパリオン…』
(来た!)
先程の大技の魔力が溜まる。
そして、両手が開かれた。大きな渦がルーフの方へ強襲する。
しかし、ルーフはそれに真っ向から走っていった。
「うおぉぉぉぉ!!!」
「無茶だ!!ルーフ!!」
海斗が叫ぶ。
無情にもルーフの身体を風の刃が抉る。
だが、それでもルーフは止まらなかった。腕の鎧でガードしながら無理矢理進む。
『……!!』
ルーフはボロボロになりながら渦を抜けた。しかし、それでもオーワンに棍棒の攻撃は効かない。そこで、
「一緒に…吹き飛ぼうぜ!」
『ナッ…!』
予想外の行動にオーワンは声を出してしまう。
ルーフは手の平にハドウガンを作り、そこで爆破した。
ドォォォン!!
正に捨て身の一撃。ルーフは己の身もろとも自爆したのだ。
『グウゥゥ!!』
ガードが間に合わず、オーワンはダメージを受けてしまう。
再び土煙が上がる中、オーワンはルーフを探す。
「はぁぁぁあ!!」
ルーフは背後でハドウを溜めていた。しかし、
『ガルド・スパリオン!』
すぐに渦の壁を固めオーワンは防御体勢に入ってしまう。
それなのに、ルーフは笑みを浮かべた。
この展開はルーフの想像通りだったのだ。
(この渦を出したらこいつは視界が切れる!)
ルーフは腕ではなく、“棍棒に”ハドウを溜めていたのだ。
武器に魔力を溜める、ブランと同じように。
「いくぞ!!『チャーグル・スピア』!!」
ルーフは棍棒からハドウの槍を打ち出した。
それは渦が一番薄くなる目の部分に正確に飛んでいく。
そして、渦の壁を貫いた。
『!!』
切られた視界からの一撃。オーワンは回避しきれなかった。
青き光が、オーワンの肩を貫いた。
『ガァァァ!ア…ァ…』
それを食らった途端、大きな声をあげ、糸の切れた操り人形の様にガクリと崩れ落ちた。
「…やったか…?」
「1、2、3…!」
ダウンと判断した審判のカウントが始まる。
「6、7、…」
オーワンは動かない。そしてついに、
「9、10!勝者!ルーフ選手!!」
10カウントされ、ルーフの勝利が決まった。
「やった…のか…?」
ルーフは現実を理解するまで時間がかかった。
そして、
「いぃぃやったぁぁ!!!!」
理解した途端、今までで一番の咆哮が出た。ルーフの努力の成果が出た瞬間だった。
ルーフの周りを歓声が包み込む。彼はこの戦いがついに終わったと達成感に浸っていた。
しかし、それは大きな間違いだった。
『ジンダイナハソンヲカンチ…デストロイプログラム…オン…』
そんな声と共に、倒れていたオーワンは立ち上がった。
貫かれた肩から、血の代わりに煙を上げて。
「なっ…なんだ…?」
それは異様な光景だった。肩からショートした電気の音と煙の音が出ている。
『ギィィ!!』
オーワンが醜い声をあげルーフに肉薄する。
「なにっ!?」
しかし、満身創痍のルーフには避けられない。
強烈な掌底がルーフを捉えた。
「ぐあぁぁ!!!」
余りにも急な出来事。誰も反応出来なかった。
ルーフは壁に叩きつけられてしまう。
「がはっ!」
激しい衝撃にルーフは血を吐き倒れてしまう。
(ヤバイ…動けねぇ…)
そして、
『グラディオス…スパルダクス…』
とてつもない魔力の渦がルーフに放たれた。
「しまっ…」
気付いたときには、渦は眼前まで飛んできていた。
(死…)
そう考える暇も無かった。
ドォォォォォォォン!!!!!
その渦はルーフを包み、辺り1面に爆音が鳴り響いた。
渦が当たった地面は抉れ、ギルド本部の壁も削られていた。
「ルーーーフ!!!」
海斗が必死の表情で駆け寄る。最悪な状況を頭に浮かべて。
しかし、煙の中に人影があることに気が付いた。
「あれは……?」
ルーフの前に、シアンが結界を張って立っていた。
ルーフが倒れ込んでいる地面には傷1つ付いていなかった。
「…シアン…さん…?」
ルーフがかすれた声を掛ける。
「喋るな。傷が広がるぞ。」
しかし、シアンはすぐに声を遮りオーワンに強烈な殺気を向ける。
「…貴様…勝負はもうついているぞ。今すぐ手を下ろせ。」
『クグ…ギャア!』
それに返ってきたのは怪物の様な声だった。
それが最早獣人では無いことは誰の目から見ても明白だった。
「…それがお前の答えか…」
『クギャ!!』
すると突然オーワンが『スパイラル・ショット』を放ってきた。
幾つもの渦の凶弾がシアンに飛んでいく。
だが、そんなものはシアンに通用しなかった。
「シィィイ!」
両脇から透明なクリスタルナイフを抜き、全て弾いてしまったのだ。
『ギイッ!?』
オーワンが狼狽える。
その瞬間、シアンの姿が消える。そしてオーワンの背後にいつの間にか立っていた。
「…終わりだ…」
オーワンは声すら出なかった。
何故なら、既にその身体に大きな切り傷が幾つもの付いていたからだ。
「ギィ…ァ…」
オーワンは膝から崩れ落ちた。そして、
ボォォォン!!
そのまま爆発を起こし、粉々になってしまった。
周りが静寂に包まれる。
「…そうだ!ルーフは?」
それを破り海斗がルーフに駆け寄る。
そこには血みどろで意識を失っているルーフの姿があった。
「ルーフ…ルーフ!!」
必死の呼び掛けにも返事は無い。
「すぐに救急部隊を呼べ!早く!」
シアンも周りの団員に指示を出す。
トーナメント決勝は、波乱の中での閉幕となった。
◇◆◇◆
某所にて、
「実験番号01の停止を確認。シグナルも切れました。」
「そうか…」
そこには黒塗りの制服を来た集団がいた。薄暗い指令室の中で、1人の人が呟く。周りは様々な機材が付けられ、沢山のモニターが置かれている。
「偵察データ表示します。」
1人の犬獣人が中心の大きなモニターに幾つものデータを送信する。
そこにはルーフの写真もあった。
「…ここで処理できればと思ったが…そういう訳にはいかんものだな…」
ため息混じりにそう言う。そして、ルーフの写真を睨む。
「まぁいい。いずれは跡形もなく消すことが出来るだろう…」
その人はニヤリと笑う。
「私の計画の障害になるものは全て消す。待っていろ…ルーフ…いや、
…“牙崎、太狼”…」
そう言って指令室を後にした。
ルーフの…太狼の物語が、また1つ動き出した。
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絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
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勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
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そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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