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1章 ギルドでの日々
第二十一話 交差する思い
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今から10年前、
「アトゥル!!どうしてそんなことも出来ないんだ!!」
風の大陸の劇場。そこの練習場では毎日の様に罵声が響き渡っていた。
「すみません…お父様…。」
床に傷だらけの身体で座り込んでいたのは十代半ばのアトゥルであった。
風の大陸。そこは世界各地から芸術家が集まる“芸術の聖地”であった。
音楽家や美術家、吟遊詩人など各地からあらゆる種類の芸術家が訪れる。
アトゥルはそこでアクションの有名演者と名高く、数々の賞を総嘗めした父親の元に一人娘として生まれたのだ。
「…もういい。今日はやめだ。さっさと帰れ!!」
「ツッ!……はい……。」
父の厳しい言葉がアトゥルに突き刺さる。
そこままトボトボと劇場の廊下に出る。
父は自分の劇団をアトゥルに継がせようと日々厳しい訓練を課していた。
しかし、
(私は…こんな事はしたくない…)
そう思いながら劇団の楽屋に目をやる。
そこでは、大勢のスタイリストが1人の演者に様々なメイクを施していた。
只でさえ優美な演者に、どんどんと色が足されていく。
しかし、それは無造作に足されているのではなく、その人の表情、美しさを極限まで引き出す為に絶妙な加減で構成されていた。
(…綺麗…。)
アトゥルはそれにウットリと見惚れてしまう。
そう、アトゥルが本当にやりたいことは演劇ではなく、演者のメイクアップであった。
だが、父親はそれを許していない。
『いいか?お前は私の劇団を更に発展させる為に生まれたんだ。演劇以外の事は考えるな。』
これが父親の口癖であった。
自分も夢は何かと聞かれたら、『アクション女優』という“定められた夢”を語っていた。
「はぁ…」
アトゥルはその足で劇場の外に出る。
そして少しおぼつかない足でゆっくりと劇場の裏手に回った。
そこは、アトゥルが唯一人目を避けて落ち着く事が出来る場所であった。
草木が生い茂る中に放置された椅子と机がある廃れた庭園。ヒビが入り蔦が絡まったそれらは、忘れ去られた時の長さを表している。
その日、いつもの様にそこを訪れた。
しかし、
「…えっ?」
自分しか知らない。そう信じていた場所に目に写るはずのない物が写った。
「フフ~ン…イイバショネ!」
その中心で静かに舞う、金髪のウサギの少女がいた。
それが、アトゥルとロゼッタ。2人の出会いであった。
◇◆◇◆
(誰なのよあれ…)
春風に揺れる木々の中にアトゥルは身を隠して少女を観察する。
「~~♪」
何の曲かはわからない。しかし、聞き惚れてしまう不思議なリズムの鼻歌に合わせて彼女は待っていた。
(綺麗…)
アトゥルは彼女の舞いに引き込まれてしまう。
“もっと近くで見たい”。脳内がそんな感情に支配される。
(もっと…見たい…)
アトゥルは目線はそのままでゆっくりと近付く。
一歩一歩着実に距離を詰める。
しかし、
ビィン!
「キャッ!?」
伸びきった蔓が彼女の足を絡め取った。そのまま前に倒れ込んでしまった。
「イタタ…」
ぶつけた頭を擦りながら頭を上げる。
すると、
「…ダイジョブ?」
「あっ…」
目の前には、心配そうな瞳で手を伸ばす少女…ロゼッタの姿があった。
◇◆◇◆
「アナタハコノタイリクノヒトナノ?」
「えぇ…。」
手を引いて立たせてくれたと思ったが、その後すぐに彼女のカタコトの質問攻めを喰らってしまった。
「デー…ドッカラミテタノ?」
「えっ…は…鼻歌歌って舞ってたところからです…。」
「フーン…。」
アトゥルの心臓の鼓動は早まるばかりであった。もし自分がこの少女の立場であったら間違いなくアトゥルの事を不審に思うであろう。
しかし、
「ネェ…ワタシノマイドウダッタ?」
「へっ?」
彼女はキラキラとした眼でこちらに感想を聞いてきたのだ。
「え…えぇと…スッゴい綺麗だった…。」
アトゥルは先程感じたことをそのまま言葉にする。
すると、
「デショ?アナタミルメアルネ!」
輝いていた目は更に光を帯びた。
「ネェ!アナタイツモココニクルノ?」
「えぇ…」
「ジャアマタアイマショ!!アナタトハキガアイソウ!!」
勢いそのまま少女はアトゥルに詰め寄る。
「ワタシハロゼッタ!アナタハ?」
「ア…アトゥル…」
「アトゥルネ!ヨロシク!!」
こうして2人は定期的にこの秘密の庭園で会うこととなった。
ロゼッタは毎回種類の違う演舞を披露し、アトゥルはそれの改善点を指摘する。
そして時にはアトゥルはメイク道具をコッソリ持ち出しロゼッタにメイクを施していた。
そうしているうちに、ロゼッタは夢について語ることがあった。
「ワタシネ、ジブンノゲキダンヲモツノガユメナノ!」
夢を語るロゼッタと目は星のように輝いていた。
堂々と夢を語るロゼッタは、アトゥルには自分と違うどこか遠くのヒトのように見え、同時に憧れのような物を感じていた。
押さえ付けられ、上達とは程遠い練習を重ねる自分と自由に美しい舞を躍り夢を語るロゼッタ。
2人の溝は最初から空いていたのかもしれなかった。
◇◆◇◆
それから1年が経ったある日。その日は出会った日と同じ春風が心地よく抜けていっていた。
「アトゥル…ハナシガアルノ…。」
ロゼッタはいつもと正反対の神妙な面持ちで話しかけてきた。
「ロゼッタ…どうしたの?」
「ジツハ…ワタシネ…」
あまりの態度の違いにアトゥルの首筋を汗が伝う。
そして次の瞬間、
「ジブンノゲキダンヲモテルヨウニナッタノ!!」
彼女の口からそんな言葉が出てきた。
「それって…。」
そう。彼女は夢を叶えたのだ。
「すごい…すごいよロゼッタ!!」
アトゥルは思わず彼女の胸に飛び込んでしまう。
彼女たちの間に歓喜の渦が巻き起こる。
さらに、知らせはそれだけではなかった。
「ソレデネ、アトゥルニオネガイガアルノ…。」
「お願い?何?」
「ワタシタチノメイクヲヤッテホシイノ。」
「えっ?」
「アナタノテデワタシタチヲカザッテホシイノ!」
それは彼女に対するメイク師としてのスカウトであった。
演者にメイクを施すというアトゥルの夢。
唐突にそれを叶えるチャンスが目の前には降ってきたのだ。
しかし、
「でも…私には…」
彼女の脳に父親の顔がよぎる。
自分の逃れられない “定め”を、それから目を背けられない“現実”を。
アトゥルは震える嘴を開く。
「でも…そんなことしたら…お父様が…。」
動悸が早まる。目の前のチャンスを棒に降ろうとしているのだから。
「私は…演者にならないと…」
絶え絶えの呼吸で言葉を紡ぐ。
すると、
「ソンナンドーデモイイワ!!」
ロゼッタはそう吐き捨てた。
「へ……?」
「ワアシハアナタニヤッテホシイカライッテルノ。ソレニ…」
ロゼッタは一呼吸おいて呟く。
「…ホントニソレガヤリタイコトナノ?」
「ツッ……」
アトゥルは見透かされたのだ。彼女の内に眠る本心を。
「ワタシハネ…ソンナニナッテマデエンジャニナロウトスルアトゥルハミタクナイ。」
ロゼッタはアトゥルの目を真っ直ぐと見つめる。
「ワタシガシッテルノハ、メイクアップシタリソノハナシヲスルタノシソウナアトゥルナノ。」
ロゼッタが一歩、また一歩と歩を進める。
そして、
ギュッ…
「モットジブンヲ…ミテアゲテ?“アナタ”ニキヅクノハ“アナタ”ダケヨ…。」
「あ…あぁ…」
ロゼッタの抱擁に、アトゥルは自分の内なる“ナニカ”が音をたてて崩れた気がした。
「わたじっ…メイグ…じだいぃ…。」
アトゥルは、その時涙ぐみながら、初めて本当の夢を語ることができた。
これから数時間後、夜の港にはフードを深く被った2人の小さな影があった。
「コレ、オネガイシマス。」
その内の一方がカタコトの言葉を添えて1枚のチケットを乗船員に手渡した。
「はい…。」
(こんな時間に子供か?)
チケットにはその日最後の便の時間が記されていた。
数分後、空に響くような汽笛と共に船がゆっくりと動き出した。
その夜、街の劇場から怒号が響き続けていたのは、また別のお話…。
◇◆◇◆
そこから彼女らは各地を回りながら、アクションを中心とした演劇をしていた。
メインの踊り子ロゼッタは、少しずつ人気を獲得していき、そのロゼッタの美しさはアトゥルが裏で支え続けていた。
ロゼッタはアトゥルがなし得なかった有名アクション俳優ととしての階段を着実に登っていき、次第に劇団員も増えていく。
そんな彼女をアトゥルは“自分の理想”として彼女を羨望の眼差しで見ていた。
アトゥルはロゼッタは必ずアクションスターになると信じていた。自分の理想を形にしてくれると確信していた。
そんな中であった。
それは活動を始めてから5年後がたった日の朝。
「ロゼッタが急に集会するなんて珍しいな。」
「えぇ。何かあったのかしら?」
サングリーとアトゥルは他の団員を連れて集会場所に向かう。
朝練の前、ロゼッタは団員全員を集会だと言って呼び出していた。
少しあるいて集会場所に着くと、既にロゼッタが1人立っていた。
「ミンナキタノネ。」
振り返りながらロゼッタはこちらを見詰める。
「ロゼッタ…急にどうしたのよ?」
アトゥルが皆が思っていることを代表で口にする。
「…モッタイブッテモショウガナイワネ…。」
ロゼッタは一呼吸おいて言葉を紡ぐ。
「ワタシ…シバラクアクションカラキョリヲオキタイノ。」
「えっ…」
アトゥルは脳内氷の塊を投げ込まれた感覚を覚える。
全身の血の気が引いていく。
「ミンナ…シロノタイリクデノセンソウヲシッテル?」
ロゼッタが口にしたのは、その日から少し前に始まった戦争の事であった。
「…戦争…?そんなの起きてるか?」
「さぁ…わからない…。」
ざわめきの中にそんな言葉が聞こえる。
「…シロノタイリクハワタシノソコクナノ。」
その一言に皆が静まる。
「ワタシハソノコトヲツタエタイ。シッテモライタイ。」
静かな空間に言葉が続く。
「ダカラ、メロドラマケイノモノヲヤリタイノ。ソレデシロノタイリクノワタシガユウメイニナレバ、ミンナシロノタイリクをシッテクレル。」
ロゼッタは真剣か顔で皆に語りかけた。
その時、
「…何だよそれ!?」
集団の後ろからそんな声が飛んだ。
そこには震える拳を握る猫獣人の姿があった。
「そうだ…納得いかない!」
その隣にいた犬獣人も声を張る。
「俺たちはアクションを磨きたくて入ったんだ!そんなことやれるかよ!?」
「ツッ…」
ロゼッタはその言葉に狼狽える。
しかし、
「…てめぇら何ぬかしてんだ?」
その間にサングリーの低い声が唸る。
「…ロゼッタは自分の大陸の助けになりてぇって言ってんだろ?俺ががそれを助けないでどーすんだ?」
「なっ…何を…。」
詰め寄るサングリーに言葉を詰まらせる。
「サングリー…」
「俺たちはロゼッタに拾われたんだろ!?それなら今度はこっちが助けるのが筋ってもんだろうが!!」
サングリーがここまで強く主張したのには意味があった。
この劇団の構成員は孤児やホームレス、そして元犯罪者など、社会に弾かれてきた者が殆どであった。
故に殆どの構成員がロゼッタに命を救われていることになる。
そして、サングリーの言葉を聞いたロゼッタは次の瞬間、
「ミンナ!!」
その声と共にロゼッタは頭を下げた。
「カッテナノハワカッテル!!デモ…ミンナノチカラガヒツヨウナノ!!」
それは魂からの絶叫であった。
そして、バッと顔を上げるとロゼッタはアトゥルの方を向く。
「…オネガイ…アナタノチカラモヒツヨウナノ…。」
その瞬間、アトゥルの頭がガンガンと揺れ出す。
「わ…私は…」
(アクションをやらない…そんなの…)
「でも、…ロゼッタがそう言うなら…」
(違う…アクションが無いロゼッタなんて…)
「…いい…と…思……う…」
(そんなの…私の“理想”じゃない…)
次の刹那、
ガバッ!
「アトゥル…アリガトウ…」
ロゼッタが勢いよくアトゥルを抱擁した。
「…お前ら…これでもまだやりたくねえってゴねるか?」
「く…」
そしてサングリーが皆の方を向く。
「団長が俺らに助けを求めている!団長に助けられた俺らはそれに応える義務がある!!」
サングリーが拳を突き上げる。
「俺らで…白の大陸の事を…俺らのやり方で広げるんだ!!」
そう高らかに宣言した瞬間、
ワァァァア!!!
歓声が、その場に響き渡った。
その裏にある闇をかき消す様に。
(ロゼッタ……)
ロゼッタの腕のかで、吐き気と動悸を必死に押さえるアトゥルの呻き声も、誰の耳にも届いていなかった。
◇◆◇◆
「…ロゼッタは…私を裏切ったのよ…。」
舞台の上、血に濡れたレイピアを向けながらそう呟く。
「私の…理想を…簡単に壊したのよ!?」
そして、裂ける様ながなり声をあげた。
「チガウ!ウラギッテナンカ…」
ロゼッタが青い顔で反論する。
しかし、
「違う?アクションほっぽり出してメロドラマの練習してた貴方が?それを評価されてて人気になって笑顔になった貴方が!?」
「ツッ…」
「ふざけないで…ふざけないでよ!!」
叫ぶような声で言葉が続く。
「…ねぇ…何であのタイミングで襲ったかわかる…?」
そして、今度は囁くような声になる。
「あのシーン…この演目唯一のアクションシーンなのよ…。そこで貴女を殺せばね…」
次の瞬間、
「貴方が一番輝いていた瞬間で貴方の時を止めたかったからよぉ!そしてそれをお客に見てもらうためにねぇ!!」
醜悪な顔でそう叫んだ。
黒く染まりきった彼女は、もう戻ってこない。
「ソン…ナ…」
ドサッ…
ロゼッタは放心して膝から崩れ落ちる。
「だからもう…死んでちょうだい。」
そして、冷徹な声で呟くと、黒い刃がロゼッタの首に飛ぶ。
しかし、
「あぁぁあ!!」
ガァァァン!
血塗れのウルルが割って入る。
「…まだ生きてたの?」
冷たい視線がウルルを刺す。
「いい加減しつこいわ…よ!」
「ガハッ!」
そして、細い足から鞭のような蹴りがウルルを捉える。
その勢いでウルルは飛ばされ、衝撃でナイフも手を離れ舞台の下に落ちていった。
「グッ…アァ…」
しかし、ウルルは立ち上がる。レイピアに体力と肉を削られ、出血量から見ても立っているのが不思議なほどであった。
「…いつまで邪魔をするつもり?」
レイピアの切っ先をウルルに向ける。
「退きなさい!用があるのは裏切り者だけよ!!」
そしてヒステリックな叫び声をあげる。
だが、ウルルは引こうとしなかった。
その目に不退転の火を灯して。
「何が…裏切り者だよ…」
「ん?」
「何が裏切り者だよ!!」
「ツッ!?」
ウルルは血を吐くような声で叫んだ。
「お前は…自分の理想を他人に押し付けて逃げてるだけだ!!」
その叫びは舞台を揺らす。
「何ですって……私は…“親友”に裏切られた…お前にはこの痛みがわからないだけよ!!」
アトゥルはそう反論したが、それはさらにウルルをヒートアップさせていく。
「親友…そうなら何で応援してやんなかったんだよ!!」
「なっ?…」
「親友が新しいことにチャレンジするって言ったら、それを全力で支えるのがあんたのやるべきことじゃなかったのか!?」
「くっ…」
アトゥルは狼狽える。
「本当に親友なら、困ってたり助けを求めてきたらどんな状況でも手を伸ばすもんだ!それなのに…」
ウルルは大きく息を吸い込む。
そして、
「あんたは自分の理想をロゼッタさんに押し付けて、それが出来ないと逆上する…父親と全く同じことをやってんだよ!!」
心の底からの叫びをアトゥルにぶつけた。
(シンユウナラ…タスケル…)
そして、その一部はロゼッタにも影響した。
(アトゥルハ…クルシンデル…)
彼女の目に写るのは、黒く濁った親友で“あった”もの。それは自分の行動によって狂ってしまったもの…。
ロゼッタの胸に、小さな決意が宿った。
「うるさい……うるさい!!私は…間違ってない!」
そして、アトゥルが先程よりも早い踏み込みでウルルに襲いかかる。
「全部ロゼッタが悪いんだよ!!」
アトゥルは狂ったように叫びをレイピアをウルルの喉元めがけ突く。
(しまっ…)
それは出血により視界が霞むウルルに捉えられる物ではなかった。
黒い刃が空気を切り裂き向かってくる。その風圧に思わず目を閉じてしまう。
しかし、
ガァン!!
響いたのは肉を削る音ではなく、何かにぶつかった衝突音であった。
(何…だ…?)
襲ってくるはずの衝撃が来ず、ウルルは恐る恐る目を開ける。
すると、目の前にはレイピアの切っ先を防ぐ薄い光の壁ができていた。
「なによこれ!?」
アトゥルは焦ったように声をあげ、バックステップで距離を取る。
その瞬間、ウルルは背後に強い魔力を感じた。
振り向くと、そこに両手を伸ばし突き出すロゼッタの姿があった。
「ロゼッタさん!?」
「ワタシハ…アトゥルヲ…シンユウヲタスケル…」
彼女の回りに魔力が渦巻く、
そして、
「『我が声に応えよ、近衛の兵よ、月の精霊よ…』」
いつものカタコトの言葉ではない、美しい声で詠唱を始めた。
「『月の慈愛を、迷える兵に導きを…』」
透き通る声に乗った魔力はウルルを包み込む。
すると、
「傷が…」
ウルルの傷が、塞がり消えていったのだ。
無論、それだけではない。
「『兵の剣に月光の力を、盾に月光の祝福を…』」
そう言葉が繋がると、白い魔力がウルルの魔力と混ざり、
「…力が…みなぎる…」
その力を増幅させた。
「『導きの元、我が兵士よ、いざ!ゆかん!!』」
最後の言葉が紡がれるときには、ウルルの全身は輝かしい魔力で包まれていた。
「ウルル…オネガイ…」
いつもの声になりロゼッタは呟く。その声は涙で震えていた。
その目を大粒の涙で濡らし、
「ワタシノシンユウヲ…タスケテ…」
彼女の心からの願いをウルルにぶつけた。
「…わかってますよ…」
それは新たな決意をウルルに宿した。
ウルルはアトゥルに向き直る。
「何もかも…ぜーんぶうまくいかないのね…」
そこには黒く濁った目の奥に絶望を灯したアトゥルがこちらを睨んでいた。
「もう…全部…」
アトゥルが纏う黒い刃がオーラが増幅する。
「ぶっ壊してあげる!!」
そして、目にも見えない速度の突きを放つ。
それはウルルの心臓目掛けてはしる。
しかし、
ヒュォン!!
「なっ!?」
それはウルルを捉えず、風切り音をならし虚空を貫くだけであった。
ウルルは寸前で飛び上がり、その一撃をかわしていた。
「ハアッ!!」
「グッ!?」
そのまま勢いでアトゥルに蹴りを入れる。
(なんて威力…)
かろうじて片手を滑り込ませたが、それはジンジンと痺れてしまい使い物にならなくなる。
「くらえっ!」
そのまま立場は逆転。威力の増したラッシュがアトゥルを打ち続ける。
「こ…のぉ…」
最初は間に合っていたガードも、今はワンテンポ遅れてしまい隙間から拳が飛ぶ。
「チイッ!」
たまらずアトゥルは後ろに飛び距離を取る。
(リーチはこっちが勝ってる…離れさえすれば!)
だが、
「そんなんで…逃げれるわけねぇだろ!!」
そう叫ぶウルルの手にハドウが集まる。
「『ハドウガン!!』」
そして、青い砲丸がアトゥルに襲いかかる。
「このっ!」
しかしアトゥルも超反応。鋭い突きでハドウガンを打ち落とす。
だが、この瞬間、アトゥルはウルルから視線を切ってしまった。
(ツッ!?いない!?)
目の前にいたはずのウルルの姿がない。
すると、
「上だよ…」
「な…」
ウルルは驚異的な跳躍でアトゥルの頭上をとっていた。
「これで…終わりだ…」
ウルルは片足を大きく振り上げる。
次の瞬間、
「『パワー…アックス!!』」
閃光のような速度でウルルが足を振り下ろした。
「なぁぁぁぁあ!?」
もう、ガードは間に合わない。
ズガァァァァン!!!
「ギャァァァァア!!」
その一撃は、アトゥルの肩を打ち抜いた。
その衝撃でレイピアは吹き飛んでしまう。
(私は…何を…)
薄れゆく意識の中、
(何を…間違えたのかしら…)
そんな事を思い、意識を手放した。
◇◆◇◆
(……ル…ア……ル)
「アト……ル…」
「アトゥル!!!」
ロゼッタの声が響く。
「ロ…ゼッタ…?」
泣き叫ぶようなロゼッタに対して、アトゥルの声は蚊が鳴くような細い声であった。
「ワタシ…アナタニ…ホントニヒドイコトシタ…ゴメンナサイ…」
そして、涙声でロゼッタは謝罪した。
「アナタノコト…ゼンゼンワカッテナカッタ…ダカラ…ホントニゴメンナサイ……」
ボロボロと涙がアトゥルを打つ。
それは、アトゥルに1つのことを、気付かせた。
「…フフッ…」
「アトゥル?」
「こんなことした後に謝るなんて…やっぱり…あんたは優しいわ…」
息も絶え絶えにアトゥルは呟く。
「ウルルの言う通りよ…私は自分から逃げてたんだわ…それがこの様よ…。」
アトゥルは乾いた笑いを浮かべる。
「こんなんだったら…私は最初から、ロゼッタの隣に立つ資格なんてなかったわね…。」
そして、そんなことを言った。
次の刹那、
パァン!!
「えっ?」
ロゼッタが、アトゥルの頬を平手打ちした。
「ナニイッテンノヨ…ソンナワケナイジャナイ…アナタハ!!ワタシヲサイコウニカザッテクレルサイキョウノパートナーヨ!!!」
「ロゼッタ…」
「ダカラ…イツマデモ…マッテルカラ!モドッテ…キテ…。」
その訴えは、アトゥルの胸に、彼女の獣生初めての、“慈愛”を与えた。
「ツッ……あり…がどう…ごべん…なざぁいっっ!!!」
そして、アトゥルは人目を憚らず、大きな声で泣いた。
ロゼッタは黙って抱擁でそれに応えた。
「…一件落着…やな!」
それを見た2階席の海斗は静かに呟いた。
会場の照明は、2人の本当の絆を照し輝いていた。
◇◆◇◆
翌日の朝、
「ふぅ…」
ウルル…ルーフはイサベルの店の席で溜め息をついていた。
あの後、アトゥルは違法魔術具使用等の罪で暫くの間投獄されることになってしまった。もちろん、それに協力した犬、猫獣人も同じであった。
しかし、ロゼッタは彼女のことをいつまでも待ち続けると言い、彼女がいつでも戻ってこれるようにと以前に増して活動に力が入っているようだった。
それは、その日の夜受ける筈であったギルドの取り調べを待たずして他のメンバーと共に他大陸に向かい演技するという行動にも現れていた
そして、ルーフは1つの月を象ったブローチを眺めていた。
『ワタシノオマモリ。アナタニハホントニカンシャシテイル。アリガトウ。』
そんな手紙と共に道場の郵便受けに入っていた。
(ロゼッタさん…また会えると良いな…)
ブローチを眺めながらそう考えていると
「なーにボーッとしとるんや?」
「うわっ!?海斗!」
不意に海斗に声をかけられ、思わず声を出してしまう。
「昨日こと考えてたんか?」
「うん…」
「フォッフォッ…オヌシには刺激が強い人任務だったみたいだしのぉ…」
目の前に座る師匠も静かに笑っていた。
「さぁさぁ飯だよ!暖かいうちに食べちゃいな!!」
そして、店からイサベルが料理を持って飛び出してきた。
「ルーフもお疲れさん!良いもん見せてもらったしお礼もかねて今日は豪華だよ!!」
机に並べていかれる料理はいつは見ないようかもので溢れかえっていた。
しかし、
「…良いもの?僕何か見せましたっけ?」
ルーフはイサベルの言葉に首を傾げる。
すると、
「とぼけんじゃないよ!これルーフだろ?」
そう言って1枚の新聞を見せてきた。
そこには、
「これって…」
仮面か割れて半分顔が少し見えてしまっているウルルの写真があった。
見出しには、『一件落着の仲違い!その裏の謎の少女の正体は?』と大きく書かれていた。
「もしかして…」
ルーフはあの時の舞台を思い返す。そして、最前列には取材や生地作成の写真を撮るために多くの記者が集まっていたのを思い出した。
「それで撮られたか…」
「嘘でしょ…」
衝撃の事態にルーフはうなだれる。女装した姿が新聞に載ったのだ。無理もない。
「まぁ…ええんちゃうか?キレイに撮れてるし…な?」
海斗はフォローを入れる。
しかし、
「もう女装も演劇も勘弁だぁーーっ!!!!」
ルーフの感情は爆発してしまった。
机に置かれたブローチが、それを笑うように静かに揺れた。
「アトゥル!!どうしてそんなことも出来ないんだ!!」
風の大陸の劇場。そこの練習場では毎日の様に罵声が響き渡っていた。
「すみません…お父様…。」
床に傷だらけの身体で座り込んでいたのは十代半ばのアトゥルであった。
風の大陸。そこは世界各地から芸術家が集まる“芸術の聖地”であった。
音楽家や美術家、吟遊詩人など各地からあらゆる種類の芸術家が訪れる。
アトゥルはそこでアクションの有名演者と名高く、数々の賞を総嘗めした父親の元に一人娘として生まれたのだ。
「…もういい。今日はやめだ。さっさと帰れ!!」
「ツッ!……はい……。」
父の厳しい言葉がアトゥルに突き刺さる。
そこままトボトボと劇場の廊下に出る。
父は自分の劇団をアトゥルに継がせようと日々厳しい訓練を課していた。
しかし、
(私は…こんな事はしたくない…)
そう思いながら劇団の楽屋に目をやる。
そこでは、大勢のスタイリストが1人の演者に様々なメイクを施していた。
只でさえ優美な演者に、どんどんと色が足されていく。
しかし、それは無造作に足されているのではなく、その人の表情、美しさを極限まで引き出す為に絶妙な加減で構成されていた。
(…綺麗…。)
アトゥルはそれにウットリと見惚れてしまう。
そう、アトゥルが本当にやりたいことは演劇ではなく、演者のメイクアップであった。
だが、父親はそれを許していない。
『いいか?お前は私の劇団を更に発展させる為に生まれたんだ。演劇以外の事は考えるな。』
これが父親の口癖であった。
自分も夢は何かと聞かれたら、『アクション女優』という“定められた夢”を語っていた。
「はぁ…」
アトゥルはその足で劇場の外に出る。
そして少しおぼつかない足でゆっくりと劇場の裏手に回った。
そこは、アトゥルが唯一人目を避けて落ち着く事が出来る場所であった。
草木が生い茂る中に放置された椅子と机がある廃れた庭園。ヒビが入り蔦が絡まったそれらは、忘れ去られた時の長さを表している。
その日、いつもの様にそこを訪れた。
しかし、
「…えっ?」
自分しか知らない。そう信じていた場所に目に写るはずのない物が写った。
「フフ~ン…イイバショネ!」
その中心で静かに舞う、金髪のウサギの少女がいた。
それが、アトゥルとロゼッタ。2人の出会いであった。
◇◆◇◆
(誰なのよあれ…)
春風に揺れる木々の中にアトゥルは身を隠して少女を観察する。
「~~♪」
何の曲かはわからない。しかし、聞き惚れてしまう不思議なリズムの鼻歌に合わせて彼女は待っていた。
(綺麗…)
アトゥルは彼女の舞いに引き込まれてしまう。
“もっと近くで見たい”。脳内がそんな感情に支配される。
(もっと…見たい…)
アトゥルは目線はそのままでゆっくりと近付く。
一歩一歩着実に距離を詰める。
しかし、
ビィン!
「キャッ!?」
伸びきった蔓が彼女の足を絡め取った。そのまま前に倒れ込んでしまった。
「イタタ…」
ぶつけた頭を擦りながら頭を上げる。
すると、
「…ダイジョブ?」
「あっ…」
目の前には、心配そうな瞳で手を伸ばす少女…ロゼッタの姿があった。
◇◆◇◆
「アナタハコノタイリクノヒトナノ?」
「えぇ…。」
手を引いて立たせてくれたと思ったが、その後すぐに彼女のカタコトの質問攻めを喰らってしまった。
「デー…ドッカラミテタノ?」
「えっ…は…鼻歌歌って舞ってたところからです…。」
「フーン…。」
アトゥルの心臓の鼓動は早まるばかりであった。もし自分がこの少女の立場であったら間違いなくアトゥルの事を不審に思うであろう。
しかし、
「ネェ…ワタシノマイドウダッタ?」
「へっ?」
彼女はキラキラとした眼でこちらに感想を聞いてきたのだ。
「え…えぇと…スッゴい綺麗だった…。」
アトゥルは先程感じたことをそのまま言葉にする。
すると、
「デショ?アナタミルメアルネ!」
輝いていた目は更に光を帯びた。
「ネェ!アナタイツモココニクルノ?」
「えぇ…」
「ジャアマタアイマショ!!アナタトハキガアイソウ!!」
勢いそのまま少女はアトゥルに詰め寄る。
「ワタシハロゼッタ!アナタハ?」
「ア…アトゥル…」
「アトゥルネ!ヨロシク!!」
こうして2人は定期的にこの秘密の庭園で会うこととなった。
ロゼッタは毎回種類の違う演舞を披露し、アトゥルはそれの改善点を指摘する。
そして時にはアトゥルはメイク道具をコッソリ持ち出しロゼッタにメイクを施していた。
そうしているうちに、ロゼッタは夢について語ることがあった。
「ワタシネ、ジブンノゲキダンヲモツノガユメナノ!」
夢を語るロゼッタと目は星のように輝いていた。
堂々と夢を語るロゼッタは、アトゥルには自分と違うどこか遠くのヒトのように見え、同時に憧れのような物を感じていた。
押さえ付けられ、上達とは程遠い練習を重ねる自分と自由に美しい舞を躍り夢を語るロゼッタ。
2人の溝は最初から空いていたのかもしれなかった。
◇◆◇◆
それから1年が経ったある日。その日は出会った日と同じ春風が心地よく抜けていっていた。
「アトゥル…ハナシガアルノ…。」
ロゼッタはいつもと正反対の神妙な面持ちで話しかけてきた。
「ロゼッタ…どうしたの?」
「ジツハ…ワタシネ…」
あまりの態度の違いにアトゥルの首筋を汗が伝う。
そして次の瞬間、
「ジブンノゲキダンヲモテルヨウニナッタノ!!」
彼女の口からそんな言葉が出てきた。
「それって…。」
そう。彼女は夢を叶えたのだ。
「すごい…すごいよロゼッタ!!」
アトゥルは思わず彼女の胸に飛び込んでしまう。
彼女たちの間に歓喜の渦が巻き起こる。
さらに、知らせはそれだけではなかった。
「ソレデネ、アトゥルニオネガイガアルノ…。」
「お願い?何?」
「ワタシタチノメイクヲヤッテホシイノ。」
「えっ?」
「アナタノテデワタシタチヲカザッテホシイノ!」
それは彼女に対するメイク師としてのスカウトであった。
演者にメイクを施すというアトゥルの夢。
唐突にそれを叶えるチャンスが目の前には降ってきたのだ。
しかし、
「でも…私には…」
彼女の脳に父親の顔がよぎる。
自分の逃れられない “定め”を、それから目を背けられない“現実”を。
アトゥルは震える嘴を開く。
「でも…そんなことしたら…お父様が…。」
動悸が早まる。目の前のチャンスを棒に降ろうとしているのだから。
「私は…演者にならないと…」
絶え絶えの呼吸で言葉を紡ぐ。
すると、
「ソンナンドーデモイイワ!!」
ロゼッタはそう吐き捨てた。
「へ……?」
「ワアシハアナタニヤッテホシイカライッテルノ。ソレニ…」
ロゼッタは一呼吸おいて呟く。
「…ホントニソレガヤリタイコトナノ?」
「ツッ……」
アトゥルは見透かされたのだ。彼女の内に眠る本心を。
「ワタシハネ…ソンナニナッテマデエンジャニナロウトスルアトゥルハミタクナイ。」
ロゼッタはアトゥルの目を真っ直ぐと見つめる。
「ワタシガシッテルノハ、メイクアップシタリソノハナシヲスルタノシソウナアトゥルナノ。」
ロゼッタが一歩、また一歩と歩を進める。
そして、
ギュッ…
「モットジブンヲ…ミテアゲテ?“アナタ”ニキヅクノハ“アナタ”ダケヨ…。」
「あ…あぁ…」
ロゼッタの抱擁に、アトゥルは自分の内なる“ナニカ”が音をたてて崩れた気がした。
「わたじっ…メイグ…じだいぃ…。」
アトゥルは、その時涙ぐみながら、初めて本当の夢を語ることができた。
これから数時間後、夜の港にはフードを深く被った2人の小さな影があった。
「コレ、オネガイシマス。」
その内の一方がカタコトの言葉を添えて1枚のチケットを乗船員に手渡した。
「はい…。」
(こんな時間に子供か?)
チケットにはその日最後の便の時間が記されていた。
数分後、空に響くような汽笛と共に船がゆっくりと動き出した。
その夜、街の劇場から怒号が響き続けていたのは、また別のお話…。
◇◆◇◆
そこから彼女らは各地を回りながら、アクションを中心とした演劇をしていた。
メインの踊り子ロゼッタは、少しずつ人気を獲得していき、そのロゼッタの美しさはアトゥルが裏で支え続けていた。
ロゼッタはアトゥルがなし得なかった有名アクション俳優ととしての階段を着実に登っていき、次第に劇団員も増えていく。
そんな彼女をアトゥルは“自分の理想”として彼女を羨望の眼差しで見ていた。
アトゥルはロゼッタは必ずアクションスターになると信じていた。自分の理想を形にしてくれると確信していた。
そんな中であった。
それは活動を始めてから5年後がたった日の朝。
「ロゼッタが急に集会するなんて珍しいな。」
「えぇ。何かあったのかしら?」
サングリーとアトゥルは他の団員を連れて集会場所に向かう。
朝練の前、ロゼッタは団員全員を集会だと言って呼び出していた。
少しあるいて集会場所に着くと、既にロゼッタが1人立っていた。
「ミンナキタノネ。」
振り返りながらロゼッタはこちらを見詰める。
「ロゼッタ…急にどうしたのよ?」
アトゥルが皆が思っていることを代表で口にする。
「…モッタイブッテモショウガナイワネ…。」
ロゼッタは一呼吸おいて言葉を紡ぐ。
「ワタシ…シバラクアクションカラキョリヲオキタイノ。」
「えっ…」
アトゥルは脳内氷の塊を投げ込まれた感覚を覚える。
全身の血の気が引いていく。
「ミンナ…シロノタイリクデノセンソウヲシッテル?」
ロゼッタが口にしたのは、その日から少し前に始まった戦争の事であった。
「…戦争…?そんなの起きてるか?」
「さぁ…わからない…。」
ざわめきの中にそんな言葉が聞こえる。
「…シロノタイリクハワタシノソコクナノ。」
その一言に皆が静まる。
「ワタシハソノコトヲツタエタイ。シッテモライタイ。」
静かな空間に言葉が続く。
「ダカラ、メロドラマケイノモノヲヤリタイノ。ソレデシロノタイリクノワタシガユウメイニナレバ、ミンナシロノタイリクをシッテクレル。」
ロゼッタは真剣か顔で皆に語りかけた。
その時、
「…何だよそれ!?」
集団の後ろからそんな声が飛んだ。
そこには震える拳を握る猫獣人の姿があった。
「そうだ…納得いかない!」
その隣にいた犬獣人も声を張る。
「俺たちはアクションを磨きたくて入ったんだ!そんなことやれるかよ!?」
「ツッ…」
ロゼッタはその言葉に狼狽える。
しかし、
「…てめぇら何ぬかしてんだ?」
その間にサングリーの低い声が唸る。
「…ロゼッタは自分の大陸の助けになりてぇって言ってんだろ?俺ががそれを助けないでどーすんだ?」
「なっ…何を…。」
詰め寄るサングリーに言葉を詰まらせる。
「サングリー…」
「俺たちはロゼッタに拾われたんだろ!?それなら今度はこっちが助けるのが筋ってもんだろうが!!」
サングリーがここまで強く主張したのには意味があった。
この劇団の構成員は孤児やホームレス、そして元犯罪者など、社会に弾かれてきた者が殆どであった。
故に殆どの構成員がロゼッタに命を救われていることになる。
そして、サングリーの言葉を聞いたロゼッタは次の瞬間、
「ミンナ!!」
その声と共にロゼッタは頭を下げた。
「カッテナノハワカッテル!!デモ…ミンナノチカラガヒツヨウナノ!!」
それは魂からの絶叫であった。
そして、バッと顔を上げるとロゼッタはアトゥルの方を向く。
「…オネガイ…アナタノチカラモヒツヨウナノ…。」
その瞬間、アトゥルの頭がガンガンと揺れ出す。
「わ…私は…」
(アクションをやらない…そんなの…)
「でも、…ロゼッタがそう言うなら…」
(違う…アクションが無いロゼッタなんて…)
「…いい…と…思……う…」
(そんなの…私の“理想”じゃない…)
次の刹那、
ガバッ!
「アトゥル…アリガトウ…」
ロゼッタが勢いよくアトゥルを抱擁した。
「…お前ら…これでもまだやりたくねえってゴねるか?」
「く…」
そしてサングリーが皆の方を向く。
「団長が俺らに助けを求めている!団長に助けられた俺らはそれに応える義務がある!!」
サングリーが拳を突き上げる。
「俺らで…白の大陸の事を…俺らのやり方で広げるんだ!!」
そう高らかに宣言した瞬間、
ワァァァア!!!
歓声が、その場に響き渡った。
その裏にある闇をかき消す様に。
(ロゼッタ……)
ロゼッタの腕のかで、吐き気と動悸を必死に押さえるアトゥルの呻き声も、誰の耳にも届いていなかった。
◇◆◇◆
「…ロゼッタは…私を裏切ったのよ…。」
舞台の上、血に濡れたレイピアを向けながらそう呟く。
「私の…理想を…簡単に壊したのよ!?」
そして、裂ける様ながなり声をあげた。
「チガウ!ウラギッテナンカ…」
ロゼッタが青い顔で反論する。
しかし、
「違う?アクションほっぽり出してメロドラマの練習してた貴方が?それを評価されてて人気になって笑顔になった貴方が!?」
「ツッ…」
「ふざけないで…ふざけないでよ!!」
叫ぶような声で言葉が続く。
「…ねぇ…何であのタイミングで襲ったかわかる…?」
そして、今度は囁くような声になる。
「あのシーン…この演目唯一のアクションシーンなのよ…。そこで貴女を殺せばね…」
次の瞬間、
「貴方が一番輝いていた瞬間で貴方の時を止めたかったからよぉ!そしてそれをお客に見てもらうためにねぇ!!」
醜悪な顔でそう叫んだ。
黒く染まりきった彼女は、もう戻ってこない。
「ソン…ナ…」
ドサッ…
ロゼッタは放心して膝から崩れ落ちる。
「だからもう…死んでちょうだい。」
そして、冷徹な声で呟くと、黒い刃がロゼッタの首に飛ぶ。
しかし、
「あぁぁあ!!」
ガァァァン!
血塗れのウルルが割って入る。
「…まだ生きてたの?」
冷たい視線がウルルを刺す。
「いい加減しつこいわ…よ!」
「ガハッ!」
そして、細い足から鞭のような蹴りがウルルを捉える。
その勢いでウルルは飛ばされ、衝撃でナイフも手を離れ舞台の下に落ちていった。
「グッ…アァ…」
しかし、ウルルは立ち上がる。レイピアに体力と肉を削られ、出血量から見ても立っているのが不思議なほどであった。
「…いつまで邪魔をするつもり?」
レイピアの切っ先をウルルに向ける。
「退きなさい!用があるのは裏切り者だけよ!!」
そしてヒステリックな叫び声をあげる。
だが、ウルルは引こうとしなかった。
その目に不退転の火を灯して。
「何が…裏切り者だよ…」
「ん?」
「何が裏切り者だよ!!」
「ツッ!?」
ウルルは血を吐くような声で叫んだ。
「お前は…自分の理想を他人に押し付けて逃げてるだけだ!!」
その叫びは舞台を揺らす。
「何ですって……私は…“親友”に裏切られた…お前にはこの痛みがわからないだけよ!!」
アトゥルはそう反論したが、それはさらにウルルをヒートアップさせていく。
「親友…そうなら何で応援してやんなかったんだよ!!」
「なっ?…」
「親友が新しいことにチャレンジするって言ったら、それを全力で支えるのがあんたのやるべきことじゃなかったのか!?」
「くっ…」
アトゥルは狼狽える。
「本当に親友なら、困ってたり助けを求めてきたらどんな状況でも手を伸ばすもんだ!それなのに…」
ウルルは大きく息を吸い込む。
そして、
「あんたは自分の理想をロゼッタさんに押し付けて、それが出来ないと逆上する…父親と全く同じことをやってんだよ!!」
心の底からの叫びをアトゥルにぶつけた。
(シンユウナラ…タスケル…)
そして、その一部はロゼッタにも影響した。
(アトゥルハ…クルシンデル…)
彼女の目に写るのは、黒く濁った親友で“あった”もの。それは自分の行動によって狂ってしまったもの…。
ロゼッタの胸に、小さな決意が宿った。
「うるさい……うるさい!!私は…間違ってない!」
そして、アトゥルが先程よりも早い踏み込みでウルルに襲いかかる。
「全部ロゼッタが悪いんだよ!!」
アトゥルは狂ったように叫びをレイピアをウルルの喉元めがけ突く。
(しまっ…)
それは出血により視界が霞むウルルに捉えられる物ではなかった。
黒い刃が空気を切り裂き向かってくる。その風圧に思わず目を閉じてしまう。
しかし、
ガァン!!
響いたのは肉を削る音ではなく、何かにぶつかった衝突音であった。
(何…だ…?)
襲ってくるはずの衝撃が来ず、ウルルは恐る恐る目を開ける。
すると、目の前にはレイピアの切っ先を防ぐ薄い光の壁ができていた。
「なによこれ!?」
アトゥルは焦ったように声をあげ、バックステップで距離を取る。
その瞬間、ウルルは背後に強い魔力を感じた。
振り向くと、そこに両手を伸ばし突き出すロゼッタの姿があった。
「ロゼッタさん!?」
「ワタシハ…アトゥルヲ…シンユウヲタスケル…」
彼女の回りに魔力が渦巻く、
そして、
「『我が声に応えよ、近衛の兵よ、月の精霊よ…』」
いつものカタコトの言葉ではない、美しい声で詠唱を始めた。
「『月の慈愛を、迷える兵に導きを…』」
透き通る声に乗った魔力はウルルを包み込む。
すると、
「傷が…」
ウルルの傷が、塞がり消えていったのだ。
無論、それだけではない。
「『兵の剣に月光の力を、盾に月光の祝福を…』」
そう言葉が繋がると、白い魔力がウルルの魔力と混ざり、
「…力が…みなぎる…」
その力を増幅させた。
「『導きの元、我が兵士よ、いざ!ゆかん!!』」
最後の言葉が紡がれるときには、ウルルの全身は輝かしい魔力で包まれていた。
「ウルル…オネガイ…」
いつもの声になりロゼッタは呟く。その声は涙で震えていた。
その目を大粒の涙で濡らし、
「ワタシノシンユウヲ…タスケテ…」
彼女の心からの願いをウルルにぶつけた。
「…わかってますよ…」
それは新たな決意をウルルに宿した。
ウルルはアトゥルに向き直る。
「何もかも…ぜーんぶうまくいかないのね…」
そこには黒く濁った目の奥に絶望を灯したアトゥルがこちらを睨んでいた。
「もう…全部…」
アトゥルが纏う黒い刃がオーラが増幅する。
「ぶっ壊してあげる!!」
そして、目にも見えない速度の突きを放つ。
それはウルルの心臓目掛けてはしる。
しかし、
ヒュォン!!
「なっ!?」
それはウルルを捉えず、風切り音をならし虚空を貫くだけであった。
ウルルは寸前で飛び上がり、その一撃をかわしていた。
「ハアッ!!」
「グッ!?」
そのまま勢いでアトゥルに蹴りを入れる。
(なんて威力…)
かろうじて片手を滑り込ませたが、それはジンジンと痺れてしまい使い物にならなくなる。
「くらえっ!」
そのまま立場は逆転。威力の増したラッシュがアトゥルを打ち続ける。
「こ…のぉ…」
最初は間に合っていたガードも、今はワンテンポ遅れてしまい隙間から拳が飛ぶ。
「チイッ!」
たまらずアトゥルは後ろに飛び距離を取る。
(リーチはこっちが勝ってる…離れさえすれば!)
だが、
「そんなんで…逃げれるわけねぇだろ!!」
そう叫ぶウルルの手にハドウが集まる。
「『ハドウガン!!』」
そして、青い砲丸がアトゥルに襲いかかる。
「このっ!」
しかしアトゥルも超反応。鋭い突きでハドウガンを打ち落とす。
だが、この瞬間、アトゥルはウルルから視線を切ってしまった。
(ツッ!?いない!?)
目の前にいたはずのウルルの姿がない。
すると、
「上だよ…」
「な…」
ウルルは驚異的な跳躍でアトゥルの頭上をとっていた。
「これで…終わりだ…」
ウルルは片足を大きく振り上げる。
次の瞬間、
「『パワー…アックス!!』」
閃光のような速度でウルルが足を振り下ろした。
「なぁぁぁぁあ!?」
もう、ガードは間に合わない。
ズガァァァァン!!!
「ギャァァァァア!!」
その一撃は、アトゥルの肩を打ち抜いた。
その衝撃でレイピアは吹き飛んでしまう。
(私は…何を…)
薄れゆく意識の中、
(何を…間違えたのかしら…)
そんな事を思い、意識を手放した。
◇◆◇◆
(……ル…ア……ル)
「アト……ル…」
「アトゥル!!!」
ロゼッタの声が響く。
「ロ…ゼッタ…?」
泣き叫ぶようなロゼッタに対して、アトゥルの声は蚊が鳴くような細い声であった。
「ワタシ…アナタニ…ホントニヒドイコトシタ…ゴメンナサイ…」
そして、涙声でロゼッタは謝罪した。
「アナタノコト…ゼンゼンワカッテナカッタ…ダカラ…ホントニゴメンナサイ……」
ボロボロと涙がアトゥルを打つ。
それは、アトゥルに1つのことを、気付かせた。
「…フフッ…」
「アトゥル?」
「こんなことした後に謝るなんて…やっぱり…あんたは優しいわ…」
息も絶え絶えにアトゥルは呟く。
「ウルルの言う通りよ…私は自分から逃げてたんだわ…それがこの様よ…。」
アトゥルは乾いた笑いを浮かべる。
「こんなんだったら…私は最初から、ロゼッタの隣に立つ資格なんてなかったわね…。」
そして、そんなことを言った。
次の刹那、
パァン!!
「えっ?」
ロゼッタが、アトゥルの頬を平手打ちした。
「ナニイッテンノヨ…ソンナワケナイジャナイ…アナタハ!!ワタシヲサイコウニカザッテクレルサイキョウノパートナーヨ!!!」
「ロゼッタ…」
「ダカラ…イツマデモ…マッテルカラ!モドッテ…キテ…。」
その訴えは、アトゥルの胸に、彼女の獣生初めての、“慈愛”を与えた。
「ツッ……あり…がどう…ごべん…なざぁいっっ!!!」
そして、アトゥルは人目を憚らず、大きな声で泣いた。
ロゼッタは黙って抱擁でそれに応えた。
「…一件落着…やな!」
それを見た2階席の海斗は静かに呟いた。
会場の照明は、2人の本当の絆を照し輝いていた。
◇◆◇◆
翌日の朝、
「ふぅ…」
ウルル…ルーフはイサベルの店の席で溜め息をついていた。
あの後、アトゥルは違法魔術具使用等の罪で暫くの間投獄されることになってしまった。もちろん、それに協力した犬、猫獣人も同じであった。
しかし、ロゼッタは彼女のことをいつまでも待ち続けると言い、彼女がいつでも戻ってこれるようにと以前に増して活動に力が入っているようだった。
それは、その日の夜受ける筈であったギルドの取り調べを待たずして他のメンバーと共に他大陸に向かい演技するという行動にも現れていた
そして、ルーフは1つの月を象ったブローチを眺めていた。
『ワタシノオマモリ。アナタニハホントニカンシャシテイル。アリガトウ。』
そんな手紙と共に道場の郵便受けに入っていた。
(ロゼッタさん…また会えると良いな…)
ブローチを眺めながらそう考えていると
「なーにボーッとしとるんや?」
「うわっ!?海斗!」
不意に海斗に声をかけられ、思わず声を出してしまう。
「昨日こと考えてたんか?」
「うん…」
「フォッフォッ…オヌシには刺激が強い人任務だったみたいだしのぉ…」
目の前に座る師匠も静かに笑っていた。
「さぁさぁ飯だよ!暖かいうちに食べちゃいな!!」
そして、店からイサベルが料理を持って飛び出してきた。
「ルーフもお疲れさん!良いもん見せてもらったしお礼もかねて今日は豪華だよ!!」
机に並べていかれる料理はいつは見ないようかもので溢れかえっていた。
しかし、
「…良いもの?僕何か見せましたっけ?」
ルーフはイサベルの言葉に首を傾げる。
すると、
「とぼけんじゃないよ!これルーフだろ?」
そう言って1枚の新聞を見せてきた。
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