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第二話 スキルを使ってみる

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 数日が経った。
 相変わらず俺はダンジョンのままだ。
 残念なことに、これは夢ではないらしい。
 そのうち目が醒めていつものベッドに寝ていて、ああこれから会議かまた今日も残業か今日もまた上司に怒られるんだろうな、などと憂鬱になりながら起きることになるのを期待していたのだが、そんなことにはならなかった。
 ……うん、全然まったく残念じゃないね。
 俺が抱えていた膨大な業務、誰が肩代わりするんだろう。ご愁傷様。

 入り口から最奥まで僅か十五メートル。
 生まれたばかりだからか、ダンジョンというよりただの穴だ。
 穴の奥にはダンジョンの心臓とも言える「核」が存在している。
 壁に埋め込まれた、水晶玉のようなそれ。
 水晶玉には強いエネルギーが宿っているのを感じることができる。
 これを壊されたり、奪われたりするとヤバい。
 ダンジョンとしての本能なのか、なぜかそういう自覚があった。

 スキルを試してみた。
 まずは〈迷宮拡張〉。
 これはその名前の通り、ダンジョンを拡大させていくことができる能力らしい。
 が、使ってみても変化は微々たるものだった。
 一時間くらい頑張って、ようやく一メートルほど穴を掘り進めることができたという程度。
 しかも結構、体力を使う。
 ダンジョンだというのに、疲れるのだ。
 もっとも、人間のときとは感覚が違う。体力というより、もっと身体の内側が疲弊していくような感覚である。
 ステータスに「魔力」という数値があったが、もしかすると魔力を消費しているのかもしれない。
 というか、きっとそうだ。なのでこれからは魔力と呼ぶことにする。

 続いて〈魔物生成〉を試した。
 使うとダンジョンの壁から魔物が生えてきた。
 何とも不気味な光景だった。
 と言っても、実際には何となくそれと知覚しているだけで、見えないんだけどな。
 ちなみに生み出すことができた魔物は一種類だけ。
 二足歩行の小柄で醜悪な生き物。身体は緑色。
 ゴブリンだ。
 まぁ醜悪で緑色って部分は俺の勝手なイメージだけどな。
 目が見えないから頭の中で勝手に補完しているのだ。
 俺が知覚できているのは、二足歩行で小柄で、顔の各パーツのバランスがちょっと歪だということくらいだ。
 目がないのにどうしてそこまで知覚できているのかというのは、大いなる疑問だが。
 考えても分からないので考えないことにする。

 少し話が逸れたが、こちらも一体を生み出すだけで結構な体力を使う。
 一日に二匹が限界、といったところだ。
 しかも維持するためにもそれなりの魔力が必要なようで、最大五匹で打ち止めとなった。
 彼らは今も俺の身体の中というか空洞の中で無邪気に遊んでいる。
 食べ物は必要ないのか、最初に生成したゴブリンはすでに飲まず食わずで三日が経っているが、空腹を感じている様子はない。
 それはいいのだが、これが今のダンジョンの最大戦力だと考えると、何とも心許なかった。

 俺が今いる場所はどこなのか、まったく分からない。
 もし冒険者や勇者みたいなのがいてダンジョン内に入って来られたら、このゴブリンたちだけで核を護り切ることはまず不可能だろう。

 そもそも、ここはどんな世界なのだろうか。
 ゴブリンがいるってことは、いわゆる剣と魔法のファンタジー世界的なところかもしれない。
 そう言えば、自称女神が何か言っていたような気がするが……思い出せない。
 あのときの俺はまだ自分が死んだことに納得していなくて、明日の会議の心配ばかりしていたからなぁ。
 もっとちゃんと聞いておけばよかった。

 と、そのときだった。
 頭の中で警戒音が鳴り響く。
 俺は第三者の侵入を感知する。
 言ってる傍から、早速何かが入ってきやがった。

 現れたのは、ゴブリンの三、四倍はあろうかという熊だった。
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