一人息子が勇者として旅立ちました。でもお母さん、心配なのでこっそり付いていっちゃいます [壁]ω・*)

九頭七尾

文字の大きさ
7 / 30

第7話 失礼ですが、どのような御関係で?

しおりを挟む
 ど、ど、ど、ど、どうしよう!?

 僕は焦りまくっていた。
 どんなに探してもやっぱりお金がない。

 しかもさっきから店員さんがちらちらと僕の方へと視線を向けてきてる。
 もうとっくに食べ終わっちゃってるし、とっとと金を払って席を開けてくれと思っているのかもしれない。

 このままだと完全に無銭飲食だ。

 謝って許してもらえるようなことだろうか?
 でもここは正直に言わないとダメだと思う。
 最悪、この店で働いて食べた分を返さないと。

 王都へ行くための旅費は…………後で考えよう。

「あ、あのっ……」

 僕が意を決し、店員さんに真実を話そうとした、まさにそのとき。

「おい、餓鬼っ……じゃねぇ、少年!」

 店内に飛び込んできたのは、先ほど自宅まで肩を貸してあげた男性だった。

 どういうわけか、両足でちゃんと立っている。
 足はもう大丈夫なのだろうか?

 でもその一方で、随分と顔色が悪い。
 まるでドラゴンにでも遭遇して、命からがら逃げてきたといった感じ……というか、今も追われ続けている真っ最中と言った方がいいかも……?

「どうしてここに……?」
「これっ! これを返しにきたんだっ!」

 そう言って、彼が掲げたのは金袋だった。
 その瞬間、僕は大声を上げていた。

「ああっ!」

 思わず彼の下へと駆け寄る。

「もしかして拾ってくれたんですか!?」
「あ、いや、えっと……ま、まぁ、そんなところだ……」

 男性はなぜかバツが悪そうに目を逸らしながら曖昧に頷く。

「ありがとうございますっ!」

 僕は思わず涙目になりながら彼の手を握っていた。

 やっぱり僕は金袋をどこかで落としてしまっていたらしい。
 こんなに大事なものを無くしてしまうなんて、我ながら情けないにもほどがある。

 だけどこれを見つけて、わざわざ僕に届けてくれるなんて!
 なんて良い人なんだろう。

 やっぱり人には親切にするべきだと、僕は改めて思った。

「だけど足の方はいいんですか?」
「えっ? あ、ああっ、家に置いていたポーションを使ったからな!」
「そうなんですか! よくなって本当によかったです!」
「お、おう……ありがと、よ……」

 弾性は絞り出すような声で礼を言ってくる。
 お礼を言いたいのは僕の方なのに。

 と、そこで僕はあることを思いつき、彼に提案した。

「よかったら何か食べていきませんかっ? せっかくなので驕らせてください!」
「いやいやいや、そんなことしてもらう必要はねぇから!」
「そんなこと言わずに! お金を拾って届けてくださったお礼ですから! 僕、これがなかったら本当に困っていたところですし!」
「うぐっ」

 なぜか男性は胸を押えて、そんな声を漏らした。

「お、お前さんは先に俺を助けてくれたっ! だから貸し借りゼロだ! ……そ、それに俺はこれから用事があるんだった! じゃあな! 今度は気を付けろよ!」

 慌てて踵を返し、店を出ていこうとする。
 そうかぁ……残念だけれど用事があるのなら仕方がない。
 
 去り際、男性は一瞬だけ振り返って、

「あと人助けはほどほどにして、ちゃんと相手を選ぶようにしろよ! 世の中には悪い奴もいるからなっ!」

 なぜかそんなことを言い残したのだった。



    ◇ ◇ ◇



「まぁ今日のところはこれで許して差し上げましょう」

 逃げるように走っていく男の後ろ姿を眺めながら呟くのは、もちろん勇者(リオン)の母セルアだ。

「それにしても心配ですね……。あの子の優しいところは美徳だけれど、このままだときっとこれからも悪意のある人間に騙されてしまいそうです」

 眉根を寄せ、母は息子のことを憂う。
 一応あの男を使って注意はしてみたが、恐らくあまり効果はないだろう。
 人を疑うことを知らない優しい子なのである。

「まぁでも、今回のようにわたしが始末を付ければいいだけですね。……ふふふ、やっぱり付いてきて良かったです。あの子にはまだまだお母さんが必要なようですね」

 どうやら心配よりも、自分が可愛い息子の力になれる喜びが勝ったらしい。
 思わず笑みを零すセルア。

 ……果たして見守るだけではなかったのか?

 その後、無事に戻ってきたお金で宿を取ったリオンを追って、彼女もまた同じ宿で部屋を借りることにした。

「いらっしゃいませ。一名様のご利用ですか?」
「ええ。先ほどの男の子のすぐ隣の部屋をお願いします」
「……はい?」

 セルアの謎の指定に困惑するフロント係。
 当然であろう。

「あ、あの……失礼ですが、どのような御関係で?」
「母です」
「あ、お母様でございますか……」
「ただし訳あってこっそり後を付けていますので、あの子には秘密にしていてください」
「は、はい……」

 何か人には言えない理由があると思ったのか、あるいは単に関わり合いたくないと思ったのか、フロント係はそれ以上の追究はしなかった。

 部屋は決して広くはないが、ちゃんと掃除がされているようで清潔感があった。
 安宿であることを思えば十分だろう。
 コストパフォーマンスは悪くない。

 一人で宿を取ることができるようになって……と、母は息子の成長を喜ぶ。
 つい先ほど「一人じゃダメだ」と再認識したばかりのはずだが、まさに親バカらしく、その辺りは都合よく頭から除外したらしい。

「ああ、このすぐ隣にあの子が……なのに会うこともできないなんて……。たった一枚の壁がこれほど遠いとは知りませんでした……」

 そして部屋の向こう側にいる息子を思い、今度は嘆きの息を吐く。
 と、そこで何かを思いついたのか、じっと壁を睨み、

「……この壁、ちょっとくらいなら穴を開けてもいいですかね?」

 ダメに決まっている。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...