一人息子が勇者として旅立ちました。でもお母さん、心配なのでこっそり付いていっちゃいます [壁]ω・*)

九頭七尾

文字の大きさ
9 / 30

第9話 心配は要りませんよ

しおりを挟む
「お母さんの目の前で、命よりも大切な子供を人質に取るなんて……絶対に許しがたい所業ですね……」

 息子が乗った馬車から離れること、およそ
 盗賊の非人道的な行為に、セルアは大いに憤慨していた。

 ここからナイフを投擲して盗賊の首筋に当てるのは
 が、あんな至近距離で人が死ねば、あの子の一生のトラウマになるかもしれない。

 そこでセルアは地面を調べ、手ごろな大きさの石を見つけた。

「もちろん頭部が粉砕しないように加減しないといけませんね」

 などと凄惨なことを呟きながら、大きく振りかぶる。

 ――シュンッ!

 猛烈な速度で彼女の手から放たれた石は、一直線に盗賊の後頭部へと吸い込まれていった。


   ◇ ◇ ◇


「おにーちゃん、ありがとう!」
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「すっごくつおいんだね!」
「私もびっくりしました。まさかたった一人で盗賊たちをやっつけてしまわれるなんて」
「い、いえ……単に運が良かっただけっていうか……」

 慣れない手放しの賛辞を受けて、僕は頭を掻く。

 実際、本当に運が良かったと思う。

 盗賊たちが全員あまり強くなかったし、シエナちゃんを人質に取った盗賊が、なぜか勝手に失神しちゃったし。

 でも後者はともかく、前者は師匠のお陰かも?
 まだ師匠には及ばないけれど、それでも僕は自分が思っていた以上に強くなっていたのかもしれない。

「あんたならきっと立派な騎士になれるさ!」
「違いねぇ!」
「むしろ勇者様だったりしてな!」
「はははは!」

 他の乗客たちもそんなことを言ってくれる。
 本当に勇者なんだけどね……。

 でもみんな無事でよかった。
 怪我人もいないみたいだし。

 盗賊たちはまだ気絶していたけれど、とりあえず縄で縛っておいて、街道の脇に放置しておくことにした。
 もしかしたら抜け出してしまうかもしれない。

 でも僕たちにはどうしようもない。
 引っ張っていくわけにはいかないし。
 できることと言えば、次の街で領主様に報告することくらいだろう。





 半日ほど走って、馬車は終着の街へと辿り着いた。

「じゃあね、おにーちゃん! がんばってね!」
「うん、頑張るよ」

 シエナちゃん母娘と別れて、僕は街を歩く。
 この街にいるお爺ちゃんお婆ちゃんに会いにきた彼女たちと違って、王都が目的地である僕の旅はまだ先がある。
 できることなら今日中に次の街まで進んでおきたいところだ。

 それにしても……お母さん、今頃どうしてるかな?
 シエナちゃん母娘を見ていて、僕は村に残してきたお母さんのことを思い出してしまった。

 僕がいないとあの家に一人っきりだ。
 寂しい思いをしていないだろうか?

 遥か古代には、遠く離れた人と会話ができるすごい魔導具があったらしい。
 もしそんなものがあれば、いつでもお母さんと話ができるのに……。

 あ、ダメだ。
 まだ村を出て何日も経ってないのに、もうホームシックになってる……。

「僕は勇者。お母さんのためにも早く魔王を倒して、世界に平和を取り戻すんだ」

 そう自分に言い聞かせ、僕は弱い気持ちを振り払った。


   ◇ ◇ ◇


 リオンが早くも母親のことを恋しく思い始めた頃。
 その母セルアはというと、息子から僅か数メートルしか離れていない場所にいた。
 気配を消し、家屋の屋根の上から息子を見守っていたのだ。

「リオン、心配は要りませんよ。お母さんが傍についていますからね」

 可愛い息子の一挙手一投足を見詰めながら、彼女はそう独りごちる。
 まったく子離れができていない、というより、するつもりすらない母だった。


   ◇ ◇ ◇


「ここが王都……」

 村を経っておよそ一週間。
 ついに僕は王都へと辿り着くことができた。

 ……のだけれど、あまりの大都会っぷりに圧倒されて、思わず呆然と立ち尽くしてしまう。
 まさかこんなにも人が沢山いて、こんなにも家が沢山ある場所がこの世に存在しているなんて、思ってもみなかった。

 村から一番近いあの街でさえ、ここと比べれば田舎だったんだなと痛感する。
 師匠はこんなとこに住んでたんだ……。
 改めて師匠への尊敬の念を強める僕だった。

「と、とにかく、王宮に行かないと……」

 王様が〝勇者紋〟を持つ勇者を探しているので、魔王退治の旅に出るためにも、まずは王様に会わなくちゃいけない。

「だけど王宮って、たぶんアレだよね?」

 探すまでもなかった。
 だって、たぶんこの王都のどこにいたとしても見えるだろう大きなお城が、街のど真ん中に聳え立ってるんだもの……。

 太陽を浴びて煌めく白く美しい壁面。
 王冠めいた黄金の屋根を戴く尖塔はまるで天を突くかのよう。
 見ているだけで自然と畏怖の念を抱いてしまう人工物なんて、僕は生まれて初めて見た。

 あ、あんなところに僕なんかが行っていいの……?
 みすぼらしいこの格好を見られただけで、門前払いされちゃいそうなんだけど……。

 猛烈な不安を抱きながらも、僕は勇気を出して王宮へとやってきた。
 間近で見るとさらにすごい。
 思わず見惚れてしまう。

 今日は外観を見れただけで満足。
 中に入るのは明日にしてしまおうかな……。

 そんな思いも過ったけれど、僕は意を決して城門へと近づいていった。
 すると門番が立ちはだかり、

「何の用だ? ここから先は一般市民の立ち入りは禁止だ」

 うっ、かなり厳しい口調。
 威圧感たっぷりな態度に怯みつつも、僕はおずおずと告げた。

「あの……僕、勇者なんですけど……」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...