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第9話 心配は要りませんよ
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「お母さんの目の前で、命よりも大切な子供を人質に取るなんて……絶対に許しがたい所業ですね……」
息子が乗った馬車から離れること、およそ五百メートル。
盗賊の非人道的な行為に、セルアは大いに憤慨していた。
ここからナイフを投擲して盗賊の首筋に当てるのは容易い。
が、あんな至近距離で人が死ねば、あの子の一生のトラウマになるかもしれない。
そこでセルアは地面を調べ、手ごろな大きさの石を見つけた。
「もちろん頭部が粉砕しないように加減しないといけませんね」
などと凄惨なことを呟きながら、大きく振りかぶる。
――シュンッ!
猛烈な速度で彼女の手から放たれた石は、一直線に盗賊の後頭部へと吸い込まれていった。
◇ ◇ ◇
「おにーちゃん、ありがとう!」
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「すっごくつおいんだね!」
「私もびっくりしました。まさかたった一人で盗賊たちをやっつけてしまわれるなんて」
「い、いえ……単に運が良かっただけっていうか……」
慣れない手放しの賛辞を受けて、僕は頭を掻く。
実際、本当に運が良かったと思う。
盗賊たちが全員あまり強くなかったし、シエナちゃんを人質に取った盗賊が、なぜか勝手に失神しちゃったし。
でも後者はともかく、前者は師匠のお陰かも?
まだ師匠には及ばないけれど、それでも僕は自分が思っていた以上に強くなっていたのかもしれない。
「あんたならきっと立派な騎士になれるさ!」
「違いねぇ!」
「むしろ勇者様だったりしてな!」
「はははは!」
他の乗客たちもそんなことを言ってくれる。
本当に勇者なんだけどね……。
でもみんな無事でよかった。
怪我人もいないみたいだし。
盗賊たちはまだ気絶していたけれど、とりあえず縄で縛っておいて、街道の脇に放置しておくことにした。
もしかしたら抜け出してしまうかもしれない。
でも僕たちにはどうしようもない。
引っ張っていくわけにはいかないし。
できることと言えば、次の街で領主様に報告することくらいだろう。
半日ほど走って、馬車は終着の街へと辿り着いた。
「じゃあね、おにーちゃん! がんばってね!」
「うん、頑張るよ」
シエナちゃん母娘と別れて、僕は街を歩く。
この街にいるお爺ちゃんお婆ちゃんに会いにきた彼女たちと違って、王都が目的地である僕の旅はまだ先がある。
できることなら今日中に次の街まで進んでおきたいところだ。
それにしても……お母さん、今頃どうしてるかな?
シエナちゃん母娘を見ていて、僕は村に残してきたお母さんのことを思い出してしまった。
僕がいないとあの家に一人っきりだ。
寂しい思いをしていないだろうか?
遥か古代には、遠く離れた人と会話ができるすごい魔導具があったらしい。
もしそんなものがあれば、いつでもお母さんと話ができるのに……。
あ、ダメだ。
まだ村を出て何日も経ってないのに、もうホームシックになってる……。
「僕は勇者。お母さんのためにも早く魔王を倒して、世界に平和を取り戻すんだ」
そう自分に言い聞かせ、僕は弱い気持ちを振り払った。
◇ ◇ ◇
リオンが早くも母親のことを恋しく思い始めた頃。
その母セルアはというと、息子から僅か数メートルしか離れていない場所にいた。
気配を消し、家屋の屋根の上から息子を見守っていたのだ。
「リオン、心配は要りませんよ。お母さんが傍についていますからね」
可愛い息子の一挙手一投足を見詰めながら、彼女はそう独りごちる。
まったく子離れができていない、というより、するつもりすらない母だった。
◇ ◇ ◇
「ここが王都……」
村を経っておよそ一週間。
ついに僕は王都へと辿り着くことができた。
……のだけれど、あまりの大都会っぷりに圧倒されて、思わず呆然と立ち尽くしてしまう。
まさかこんなにも人が沢山いて、こんなにも家が沢山ある場所がこの世に存在しているなんて、思ってもみなかった。
村から一番近いあの街でさえ、ここと比べれば田舎だったんだなと痛感する。
師匠はこんなとこに住んでたんだ……。
改めて師匠への尊敬の念を強める僕だった。
「と、とにかく、王宮に行かないと……」
王様が〝勇者紋〟を持つ勇者を探しているので、魔王退治の旅に出るためにも、まずは王様に会わなくちゃいけない。
「だけど王宮って、たぶんアレだよね?」
探すまでもなかった。
だって、たぶんこの王都のどこにいたとしても見えるだろう大きなお城が、街のど真ん中に聳え立ってるんだもの……。
太陽を浴びて煌めく白く美しい壁面。
王冠めいた黄金の屋根を戴く尖塔はまるで天を突くかのよう。
見ているだけで自然と畏怖の念を抱いてしまう人工物なんて、僕は生まれて初めて見た。
あ、あんなところに僕なんかが行っていいの……?
みすぼらしいこの格好を見られただけで、門前払いされちゃいそうなんだけど……。
猛烈な不安を抱きながらも、僕は勇気を出して王宮へとやってきた。
間近で見るとさらにすごい。
思わず見惚れてしまう。
今日は外観を見れただけで満足。
中に入るのは明日にしてしまおうかな……。
そんな思いも過ったけれど、僕は意を決して城門へと近づいていった。
すると門番が立ちはだかり、
「何の用だ? ここから先は一般市民の立ち入りは禁止だ」
うっ、かなり厳しい口調。
威圧感たっぷりな態度に怯みつつも、僕はおずおずと告げた。
「あの……僕、勇者なんですけど……」
息子が乗った馬車から離れること、およそ五百メートル。
盗賊の非人道的な行為に、セルアは大いに憤慨していた。
ここからナイフを投擲して盗賊の首筋に当てるのは容易い。
が、あんな至近距離で人が死ねば、あの子の一生のトラウマになるかもしれない。
そこでセルアは地面を調べ、手ごろな大きさの石を見つけた。
「もちろん頭部が粉砕しないように加減しないといけませんね」
などと凄惨なことを呟きながら、大きく振りかぶる。
――シュンッ!
猛烈な速度で彼女の手から放たれた石は、一直線に盗賊の後頭部へと吸い込まれていった。
◇ ◇ ◇
「おにーちゃん、ありがとう!」
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「すっごくつおいんだね!」
「私もびっくりしました。まさかたった一人で盗賊たちをやっつけてしまわれるなんて」
「い、いえ……単に運が良かっただけっていうか……」
慣れない手放しの賛辞を受けて、僕は頭を掻く。
実際、本当に運が良かったと思う。
盗賊たちが全員あまり強くなかったし、シエナちゃんを人質に取った盗賊が、なぜか勝手に失神しちゃったし。
でも後者はともかく、前者は師匠のお陰かも?
まだ師匠には及ばないけれど、それでも僕は自分が思っていた以上に強くなっていたのかもしれない。
「あんたならきっと立派な騎士になれるさ!」
「違いねぇ!」
「むしろ勇者様だったりしてな!」
「はははは!」
他の乗客たちもそんなことを言ってくれる。
本当に勇者なんだけどね……。
でもみんな無事でよかった。
怪我人もいないみたいだし。
盗賊たちはまだ気絶していたけれど、とりあえず縄で縛っておいて、街道の脇に放置しておくことにした。
もしかしたら抜け出してしまうかもしれない。
でも僕たちにはどうしようもない。
引っ張っていくわけにはいかないし。
できることと言えば、次の街で領主様に報告することくらいだろう。
半日ほど走って、馬車は終着の街へと辿り着いた。
「じゃあね、おにーちゃん! がんばってね!」
「うん、頑張るよ」
シエナちゃん母娘と別れて、僕は街を歩く。
この街にいるお爺ちゃんお婆ちゃんに会いにきた彼女たちと違って、王都が目的地である僕の旅はまだ先がある。
できることなら今日中に次の街まで進んでおきたいところだ。
それにしても……お母さん、今頃どうしてるかな?
シエナちゃん母娘を見ていて、僕は村に残してきたお母さんのことを思い出してしまった。
僕がいないとあの家に一人っきりだ。
寂しい思いをしていないだろうか?
遥か古代には、遠く離れた人と会話ができるすごい魔導具があったらしい。
もしそんなものがあれば、いつでもお母さんと話ができるのに……。
あ、ダメだ。
まだ村を出て何日も経ってないのに、もうホームシックになってる……。
「僕は勇者。お母さんのためにも早く魔王を倒して、世界に平和を取り戻すんだ」
そう自分に言い聞かせ、僕は弱い気持ちを振り払った。
◇ ◇ ◇
リオンが早くも母親のことを恋しく思い始めた頃。
その母セルアはというと、息子から僅か数メートルしか離れていない場所にいた。
気配を消し、家屋の屋根の上から息子を見守っていたのだ。
「リオン、心配は要りませんよ。お母さんが傍についていますからね」
可愛い息子の一挙手一投足を見詰めながら、彼女はそう独りごちる。
まったく子離れができていない、というより、するつもりすらない母だった。
◇ ◇ ◇
「ここが王都……」
村を経っておよそ一週間。
ついに僕は王都へと辿り着くことができた。
……のだけれど、あまりの大都会っぷりに圧倒されて、思わず呆然と立ち尽くしてしまう。
まさかこんなにも人が沢山いて、こんなにも家が沢山ある場所がこの世に存在しているなんて、思ってもみなかった。
村から一番近いあの街でさえ、ここと比べれば田舎だったんだなと痛感する。
師匠はこんなとこに住んでたんだ……。
改めて師匠への尊敬の念を強める僕だった。
「と、とにかく、王宮に行かないと……」
王様が〝勇者紋〟を持つ勇者を探しているので、魔王退治の旅に出るためにも、まずは王様に会わなくちゃいけない。
「だけど王宮って、たぶんアレだよね?」
探すまでもなかった。
だって、たぶんこの王都のどこにいたとしても見えるだろう大きなお城が、街のど真ん中に聳え立ってるんだもの……。
太陽を浴びて煌めく白く美しい壁面。
王冠めいた黄金の屋根を戴く尖塔はまるで天を突くかのよう。
見ているだけで自然と畏怖の念を抱いてしまう人工物なんて、僕は生まれて初めて見た。
あ、あんなところに僕なんかが行っていいの……?
みすぼらしいこの格好を見られただけで、門前払いされちゃいそうなんだけど……。
猛烈な不安を抱きながらも、僕は勇気を出して王宮へとやってきた。
間近で見るとさらにすごい。
思わず見惚れてしまう。
今日は外観を見れただけで満足。
中に入るのは明日にしてしまおうかな……。
そんな思いも過ったけれど、僕は意を決して城門へと近づいていった。
すると門番が立ちはだかり、
「何の用だ? ここから先は一般市民の立ち入りは禁止だ」
うっ、かなり厳しい口調。
威圧感たっぷりな態度に怯みつつも、僕はおずおずと告げた。
「あの……僕、勇者なんですけど……」
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