一人息子が勇者として旅立ちました。でもお母さん、心配なのでこっそり付いていっちゃいます [壁]ω・*)

九頭七尾

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第10話 困ったことになっているのだ

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「……お前が勇者だと?」

 目の前に立ち塞がった門番は、二十代前半くらいと思われる青年だった。
 僕よりも頭一つ分くらいは高く、胡乱げな目で見下ろしてくる。

 も、もしかして師匠と同じ王宮騎士かな?
 たぶんそうに違いない。
 だって、すごく強そうだし。

「今は任務中だ。子供に冗談に付き合っている暇はない」

 そう言って、犬でも追い払うかのように青年は手を振った。
 えっ? あっ、ちょっと待って!?

「ほ、本当です! えっと……これがその証拠です!」

 僕は慌てて右手の甲にある痣のような紋様を見せた。

「っ……これは……」

 青年の顔色が劇的に変わる。

「た、確かに十字の痣……」
「おい、どうしたグレン?」

 そこへやってきたのは中年男性だ。
 いかにも熟練の戦士といった風貌で、顔のあちこちに古傷があった。

「ガルドさんっ。この少年の手に〝勇者紋〟らしきものが……」
「なんだと?」

 ガルドと呼ばれた男性が慌てて駆け寄ってきて、僕の手の甲を食い入るように見てくる。
 それから「本当だ」と頷き、

「グレン、すぐに陛下にご報告差し上げろ!」
「は、はい!」

 グレンさんが慌てて城の中へと駆け込んでいく。
 それから僕もガルドさんに案内されて、城内へ入れてもらえることができた。

「うわぁ……」

 外観でも圧倒されたけれど、内観にはもっと圧倒された。

 色鮮やかな花が咲き乱れる美しい庭園。
 細やかな装飾が施された柱が並ぶ荘厳な廊下。
 天井を彩る見事な絵画。

 まるで異世界にでも迷い込んだかのよう。

 ちょっとした小部屋(それでも僕の家のリビングくらいより広い)でしばらく待っていると、随分と恰幅のいい男性がやってきた。
 年齢はたぶん四十くらいだけど、髪の毛はかなり薄くなっている。

 見たことがないくらい豪奢な服を着ていたので、僕はてっきり王様かと思って慌てて立ち上がった。

「り、り、リオンと申しますっ!」
「陛下が謁見なさるそうだ。付いてきなさい」

 あれ? 王様じゃない?

「モダロ宰相殿だ」

 ガルドさんが小声で教えてくれた。
 残念ながら宰相というのが何か僕には分からなかったけれど、雰囲気的にきっと偉い人なのだろうと推測する。

 モダロさんは後ろを振り返ることもなく、さっさと歩いていく。
 騎士や使用人っぽい人たちが、モダロさんを見かける度に廊下の端に寄って頭を下げている。
 やっぱりすごく偉い人みたい。

 そうして僕は王様のいらっしゃるところへと連れてこられた。
 重厚な扉が開く。

「っ……」

 扉の向こう側の光景に、僕は驚愕のあまり後ずさってしまう。

 端から端まで五十メートルはあろうかという広大な部屋。
 遥か高い天井と、そこから無数に吊り下がるシャンデリア。
 足元に敷かれているのは長く伸びる黄金の絨毯。
 そしてその先には階段状の台座が設けられ、最上段には金銀宝石を散りばめた玉座があって。

 立派な顎鬚を蓄えた男性が威厳たっぷりにその玉座に腰掛けていた。
 髪の毛には白いものが混じっているのでそれなりの年齢なんだろうけど、随分と若々しく見える。
 体格がいいし、座っているだけでも全身の筋肉が発達していることが分かった。

 そう言えばこの国の王様は若い頃、武勇で名を馳せたって聞いたことがあるっけ……。

 いずれにしても間違いない。
 あの人が王様だ。
 服装もモダロさんより豪華だし。

 部屋には護衛の騎士やいかにも偉そうな人たちが沢山いたので、僕はおっかなびっくり進んでいく。
 階段の近くまできたところで足を止めると、その場に跪いて首を垂れた。

 ……こ、こんな感じでいいのかな?

「陛下。少年を連れてまいりました」

 モダロさんが伝えると、王様は「うむ、ご苦労だった」と頷いて、

「面を上げよ」

 僕は恐々と頭を上げた。

「名はなんという?」
「り、リオンと申します!」
「リオンか。勇者紋があるというのは本当か?」
「は、はい! ここに……!」

 僕は右手の甲を王様に向けた。
 けれど距離があってよく見えなかったのか、王様は玉座から立ち上がって降りてくる。

「陛下、危け――」
「よい」

 モダロさんの注意を一蹴して、王様は近づいてきた。
 かなり身長も高い。

 僕の手の甲をじっくりと見てから、王様は唸った。

「ううむ、確かに……しかし、まだこんな少年だとは……。歳は幾つだ?」
「えっと、つい先月、十五になりました」
「十五歳か。どこから来たのだ?」
「れ、レーベ村からです」
「……レーベ村?」

 王様は眉根を寄せる。
 あ、あれ? 僕の村のことを王様が知らない……?

「陛下、確か北方の小都市リザットの、さらに奥地にある村だったかと」
「なるほど、リザットの……」

 モダロさんの言葉に頷く王様。

 リザットは村から一番近いあの街のこと。
 そこよりもっと奥地にある僕の村は、どうやら王様すら知らないほどらしい。

「……道理で今までなかなか現れなかったわけだ」

 王様はなぜか悩ましげに呟くと、玉座へと戻っていく。
 そして再び腰を落ち着けてから、

「リオンよ。実は我が国には、いにしえの勇者が遺したとされている伝説の武具がある。世界が魔王に苦しめられたとき、代々の王たちがにそれを新たな勇者に授けてきた」
「伝説の武具……」

 僕は思わず唾液を嚥下する。
 そんなものがあったなんて……。

 凄い武器に違いない。
 装備できればきっと百人力だ。

「もちろんそれはお主に渡すべきなのだろうが……少々、困ったことになっているのだ」
「困ったこと……?」

 王様はちょっとバツが悪そうに視線を逸らしながら、教えてくれた。

「このまま待っていても勇者紋を持つ者は現れぬだろうと判断し、ための武術大会を開いてしまったのだ。その優勝者に伝説の武具を渡し、魔王討伐の旅に出てもらうとの約束でな……」

 え?
 ……えええええっ?
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