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1章 村編

第7話 山神様に選ばれたみたい

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 私は人食いモンスターと思っていたが、どうも違ったらしい。というよりも人食いモンスターはやはり嘘だったみたいだ。
 あれは正式には山神様と呼ばれ、この村が奉っている神であるらしい。
 そして聖地にある祠はその山神様へのお供え物を置く場所である。
 何故それを子供たちに内緒にするのか、何とも謎が多いが、私と山神様が出会っていたことがお母さんにばれた私は、大人の会議に参加させられる。
 村で最も広い建物に、私とお母さんと村長と、他の多くの老人たちが集まる。

「そうか。セレネが。うーむ」

 お母さんから詳しく話を聞いた村長が私の方を見る。
 どういうことなのだろうか。
 何が問題なのだろうか。

「私と、その山神様と出会ったのが大きな問題なのですか?」
「問題かそうでないかを言えば、山神様が現れてくれたことはむしろ好ましいことであるが、その現れた相手が村の子でないセレネなのが問題じゃ」
「…………?」

 確かに私は、村の子ではない。村で生まれた子ではない。
 疑問しかない私にお母さんが説明をしてくれる。

「私たちは山神様に好物を捧げ、ずっと守ってきてもらっていたの。この村はそう言う風に成り立っているの。そしていつか、この村に山神様の変わりが出るはずなの」
「変わり?」
「山神様は長命ではないわ。私たち人間からすると長命ではあるけども、そう遠くない未来に死ぬ。だから変わりが必要なの。そして、その変わりが現れた時、山神様はその変わりとなるべく村の子の前に現れる。そしてその子は新しい山神様へとなる」
「それはつまり、その選ばれた子は人でなくなるということ?」
「そうとも言えるわね」

 何それ。
 つまり私は山神様と同じ姿になるの?
 それはものすごく嫌なんだけども。
 とかそんなことを思っていると、一人の老人が声を荒げる。

「これは由々しき事態だ! 村の子でないそいつが山神様になったとして、この村を守ってくれるとは限らないし、何より俺は認めれない! よそ者が山神様になるなど、山神様への冒涜ではないか」
「しかし山神様が認めた存在。その発言そのものが山神様への冒涜ではないか?」
「断じて違う!」

 熱くなる二人に対して、村長が止めるように。

「まあ、まて。二人とも。まだセレネが変わりとなるべく者と断定されたわけではないし、何より変わりとなるべく子がそれを受け入れるかどうかが関わってくるじゃろ」

 村長がそう言って私に聞いてくる。

「さて、セレネ。お前は山神様になりたいか、否か」
「なりたくないです!」

 私は即答した。
 そんな面倒そうなものになりたいはずがないし。
 私は美しい転生の女神以外にはなりたくない。
 何なの。山神様って。まあ、響きは良いよね。見た目が金髪美少女なら良かったのだけれども、あの見た目は流石に私には耐えられない。

「ふざけるな! そんな簡単な問題じゃないんだぞ!」

 すると最初に声を荒げた老人が私に向かって怒鳴ってくる。
 ええ。
 私が山神様になるのは認めれないとか言っていたくせして、私がなりたくないと言えばそれはそれで怒るのか。
 私にどうしろと言うのだろう。

「まあ、セレネは他の子どもと比べて賢いとはいえ、まだ子供だ。自体がはっきりとわかっていないのだろう」

 村長がそう言って、その男性をなだめる。

「この問題はすぐに解決するべきものじゃない。少しずつ時間をかけて解決をしていこうではないか」

 そんな感じで、山神様問題は一時中断されることとなる。ぞろぞろと老人たちが出ていく中、私はお母さんと最後まで残る。

「セレネ。まだ答えを出さなくていい。だが、もう一度考え直してみてほしい。その答えで本当に良いのかどうか」
「村長。まだ無理です。セレネはまだ七歳なのよ。そんなセレネにその決断を強いるのは」
「確かにそうだ。だが、セレネは賢い。きっとわかってくれるはずだ」

 なんだろう、村長が私に山神様になることを遠回しに強要してくる。
 本当になりたくないのに。なりたくないは本当はダメなのだろう。きっと無理やりにでも、説得して山神様にするつもりなのだろうか。
 じゃあ、敵だ。
 村長は敵だ。
 私はお母さんが立つと同時に立ち上がり、そしてそんな敵である村長に視線を一度送ってその建物を出た。
 そんな中私はふと思う。
 この世界には天使がいて、天使がいるならその上に神様がいるはずだ。
 山神様は天使の上に立つのだろうか?
 神様ならそうなるはずだ。
 あれ?
 なんで天使の上に立つ神様がこんな小さな村を守っているの?
 そもそも本当に神様なの?
 でも、天使とかに詳しい村長たちが、山神様と崇めるのは何か訳があるはずだし。
 ぐるぐる私の中で思考が回る回る。
 そして私の頭はショートした。



 私は夜遅く、家を出た。
 何となく、もう一度山神様に会いたく思ったからだ。
 いろいろなことを知れば、変わった考えが浮かぶものだ。山神様が本当に神様なら言葉を話せないのも可笑しいし、私の命令を聞くことも可笑しい。
 その答えは山神様と会って、考えないと分からないはずだ。
 だから森へ向かう。
 見つかったらお母さんに怒られそうだけども、気にしない。気にしない。怒るお母さんもちょっと見てみたいし。
 夜道をカルルのを見て真似た炎の魔法で照らしながら、私は奥へ奥へと進む。

「山神様~、出ておいで~」

 なんて声を出してみるが、出て来るわけがない。
 耳を澄ますも、小さな虫の泣き声しか聞こえない。
 聖地近くまで来るも、結局山神様は出てこなかった。
 もしかして寝ているのだろうか。夜遅くだし。山神様でも夜は眠るのだろうか? 眠るならどこかに住処でもあるのだろうか。

「どうしたものかな」

 なんて思っていると、ふとガサガサと音が聞こえてきた。
 野生の動物だろうか、なんて思って振り返ると人の顔のようなものが浮かんでいた。

「キャー!」

 私は悲鳴と共に走り出す。
 幽霊だ!
 幽霊は見たことないけども、幽霊に違いない。どうしてこんなところに幽霊が?
 幽霊様。幽霊様。どうか成仏してください。
 私は転生の女神なのに、どうして幽霊なんかに怖がっているのだろう。でも怖いからしょうがない。転生の女神と言えど、怖いものぐらいある。
 走るもすぐに息切れして、ペースが遅くなる。一度立ち止まって振り返ると、その幽霊は私のことを追いかけていた。
 再び幽霊との追いかけっこが始まる。

「待ってくれ!」
「幽霊が私のことを食べようとしているー!」
「幽霊ってなんだ。それに食べるわけがないじゃないか」

 あれ?
 今明らかに幽霊と会話できていたよね?
 私は立ち止まり、もう一度振り返る。するとそこには火の魔法で辺りを照らしながら私のことを追いかけて来る見知った顔の男性だった。
 そうカルルだった。

「カルル?」
「はあ、はあ。ちょっと待ってくれ。事情を説明する前に少し休憩させてくれ」

 そう言ってカルルは深く深く深呼吸を何度もする。
 これが数か月ぶりのカルルとの再会である。
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