クラス転移した俺のスキルが【マスター◯―ション】だった件 (新版)

スイーツ阿修羅

文字の大きさ
84 / 203
第3.5膜 フィリアはお医者ちゃん編

八十四射目「再会とすれ違い」

しおりを挟む
 そして、悲劇は訪れた。
 オレの父さんが、拒魔ひま病をわずらったのだ。

 拒魔ひま病とは、読んで字の如く、

「体内に魔力をまったく吸収できなくなる難病」である。

 それは、水が飲めなくなるとか、ご飯が食べれなくなるとか、それほど深刻な問題なのだ。

 水や食料ほどの緊急性はないけれど、魔力は人間の生命活動に必須なエネルギー源である。
 拒魔ひま病にかかり、魔力が吸収できなくなった人間は、徐々に魔力を消耗して衰弱し、半年も経たずに死に至る。

 そして恐ろしいことに、魔力が取り込めないせいで、回復魔法や解毒魔法が全く効かないのだ。
 つまり、他の病気にもかかりやすくて、非常に治りにくいのだ。

 でも、治す方法はある。
 薬の大ダンジョン跡地、つまりマグダーラ山脈へと向かい、「ギルギリスの骨」を入手するのだ。
 それを元に、魔力の受容体を人口的に作って移植すれば、父さんの命を助けられる。

 オレは父さんを救うために、この村を飛び出した、はずだったのに……

 何も出来ず、誠也せいやの事を巻き込んで、両親とジルクに心配をかけて、
 ただ心と身体に、深く傷を負って、ここまで帰ってきてしまったのだ……
 
 

 久しぶりに帰ってきた故郷。

 庭の土手に腰掛けて、感傷にふけっていると、
 下の小道から足音が聞こえた。
 
 それは、数か月ぶりに見た、オレの両親の姿だった。


 ドクン、と、心臓が跳ね上がる。
 胸の奥が熱くなって、全身に鳥肌がたつ。
 勝手に涙がこみ上げてきて、視界がぐにゃりぐにゃりと滲んでいく。

「フィリア!? フィリアっ!!」

 父さんに名前を呼ばれた。
 もう駄目だった。
 全て決壊した。

「お父さんっ!! お母さんっ!!」

 オレは土手を滑りおちて、父さんと母さんの胸の中に飛び込んだ。

「うわぁぁぁぁぁんっ!!!」

 村じゅうに響き渡るほどの大声で、わんわんと泣いた。
 父さんと母さんの胸の中は、温かくて大きかった。

「フィリアっ!! よく帰ってきてくれたっ!! うぅぅぅっ!!」

 泣いている父さんをみて、複雑な気持ちになった。
 オレが帰ってきたということは、薬の入手に失敗したという事。
 父さんの死ぬ運命は変わらない。
 父さんはまだ元気そうだけど、あと一か月ぐらいで寝たきりになって、死んでしまうのだ。

「……父さんっ!! ……死んじゃ嫌だよぉぉ……!! なんでこうんなるだよぉぉっ!!」

 オレが泣き叫ぶと、父さんは困ったような泣き顔をした。

「……フィリア。すまない……。オレは言い忘れていた。お前に大事な頼みがあるんだ……」

 父さんは、そんな事を言った。

「オレの最後の頼みだ……」

 ………いやだ。
 何を、言っているんだ? 父さん。

「フィリア、お前もう一人前の医者だ。オレがお前に教えられることは、もう残っていない」

 ………うそだ。
 オレはまだ、父さんの足元にも及んでいない……

「どうか頼む、オレが居なくなった後は、お前が獣族達の医者になるんだ。……身勝手でワガママな願いだが、オレの後を継いでほしい」

 ……いやだ。
 いやだいやだいやだ……
 やっぱりオレは、受け入れられないよ。
 諦めるなんて無理だ。
 オレは父さんが大好きだ。
 この世で一番大切な人なんだ……。

「ふっ……ふざけんな父さん。遺言なんかいらねぇ。オレは……父さんの事が大好きなんだよっ!!
 父さんには命を救われた! オレに医者の生き方を教えてくれた!! 今のオレがあるのは、全部ぜんぶ全部っ!! 父さんのお陰なんだっ!!
 だからっ!! 今度はオレがお前を助けるって言ってんだろっ!! 恩返しぐらいさせろよっ!! 勝手に逃げてんじゃねぇ!!
 オレは医者だっ!! この世で一番大切なものは、死んでも助けてやるっ!!」

 オレは父さんと母さんを突き放して、小道を全速力で駆け下りていった。
 追いかけてくる気配はなかった。

 走る、走る、走る……
 とにかく走る。
 早く、もっと早く、風よりも早く。
 ずっと遠くへ、青空の上まで……



「あぁああああっ!!!」

 泣き叫びながら、呼吸を乱して走る。
 すぐに、身体に疲れが押し寄せてくる。
 当然だ。
 つい昨日までオレは、王国軍の駐屯地の地下に監禁されて、
 毎日毎日、朝から晩まで、男どものオモチャにされていたのだから。
 
「はぁ……はぁ……あぁ、あぁ……!!」

 オレは、限界がきて、近くの草むらへと寝転がった。
 全身から汗が噴きでてくる。
 喉も乾いてきた。
 お腹も空いたな……。

水素アクア

 ごくっ、ごくっ……
 オレは水魔法で、喉の渇きを潤した。

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

 家から飛び出したままの勢いで、オレはアルム村の端っこまで、走り抜けてきた。
 日の出から時間は立っていないから、起きている人は少なかったのが幸いだ。
 泣き顔なんて、見られたくないからな……

「ふぅ………」

 朝の大空を見上げる。
 鳥の音や草の音、虫の声が入り乱れて、心地のよい風がオレの身体を優しくなでて、目じりの涙を乾かしていく。
 帰ってきたんだな……オレの故郷……

 家に帰る気は起きなかった。
 しばらく、この草むらで寝ようかな……気持ちいい……
 なんて事も思ったけれど。
 オレは立ち上がった。

誠也せいやに会いに行こう……)

 オレはアルム村を出て、山道を歩きだした。
 二つの山を越えた先に、誠也せいやが休んでいるという採掘場の旅館がある。
 まぁ、歩いていくには骨が折れる距離だ。
 今から歩いても、着くのは正午を過ぎてからだろう。
 
 一歩一歩、オレは歩みを進めていく。
 オレの心の中は、ぐちゃぐちゃだった。

 誠也せいやに会いたい。
 誠也せいやなら、また笑顔で「私にまかせろ」なんて言って、オレの手を強く握って。
 オレの悩みを全部、解決してくれるかもしれない。

 誠也せいやは、オレの本当の意味での、はじめての友達だったのかもしれない。
 オレは今までずっと、貧富の差のせいで、他の子達からは距離を置かれていた。
 オレの一番の友達は、いつも医学の勉強と小説だった。 

 誠也せいやは、オレをマグダーラ山脈に連れていってくれると約束した。 
 父さんを絶対に助けるって、オレの手を握ってくれた。

 オレは……誠也せいやを愛してる。 
 年の差なんて関係ない。

 オレは父さんを助けたい。
 そして誠也せいやと結ばれたい。
 それで全部ハッピーエンドだ。

 はやく誠也せいやに抱きしめられたい。
 あの時みたいな、甘くて濃いキスをしたい。

 そんな妄想にふけりながら、オレは山道を登っていった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...