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第六膜 見抜きと血煙の仮面舞踏会編
百九十五射目「仲直りとコンドーム」
しおりを挟む「和奈。……ごめんね」
後ろから声がして、か弱く肩を叩かれる。
振り返ると、私の親友だった二人がいた。
ー浅尾和奈視点ー
「玲香、くるみ……」
久那木玲香と、成瀬くるみ。
二人は、マナ騎士団の姿で獣族を殺戮し、私が呆然とする目の前で、アイリスちゃんの両親を殺したのだ。
「……分かってる。誰も悪くないって。頭では理解してる。大丈夫」
私は、目を逸らして、感情を押し殺すように言った。
正直、二人の顔を見たくない。
思い出してしまう。
ショックのあまり動けないなか、目の前で親友が人を殺す瞬間を。
謝ろうが、何をしようが、人を殺した事実は変わらない。
死んだ命は、二度と戻ってこないのだ。神様の力でも使わない限り。
「……あと、もう一つ謝らないと……
直穂ちゃんと行宗くんのこと悪く言ってごめんなさい」
成瀬くるみのその言葉に、私はびっくりして顔を上げた。
「和奈ちゃんの気持ちを知らずに、私の勝手な偏見で、『獣族に捕まってて可哀想』とか、『直穂ちゃんや行宗くんと一緒で辛かったでしょ』とか……言ってごめん。
和奈ちゃんのこと、すごく心配してたんだけど……私、最低な人間だ……」
それを聞いて、私は、ふっと身体が軽くなった。
申し訳なさそうに、濡れた子犬みたいに小さくなった二人を、ちゃんと両目で見ることができた。
「たしかに、最低だった。
でも、ちゃんと謝って、分かってくれたから……許すよ」
「ほんとに?」
「うん、許した。玲香も許した。……だからふたりとも、顔を上げて、ね?」
二人は、私と同じように、不安そうに足元を見つめながら震えていたのだ。
唇を噛みながら、恐る恐る、二人が私を見上げた瞬間。
私は一歩を踏み出して、二人の身体を抱きしめた。
「会いたかった。寂しかったよ。……玲香、くるみ。無事で良かった!」
ぽんぽんと二人の背中を叩きながら、私は吹っ切れた声で叫んだ。
声に出せば、それが本当になる。
許した。と口に出してから。玲香やくるみに対する猜疑心やモヤモヤは弾け飛んで、
ただのクラスメイト、私の可愛い親友の二人として、見ることができた。
「うっ……ぁあっ、和奈っ、ごめぇぇんっ……!」
久那木玲香が、見たことないくらい泣いていた。
運動神経抜群のソフトボール部、黒髪ショートでクール系な玲香は、笑うときも泣くときも控えめな印象があったけれど。
可愛い。
咳き込みながら号泣する玲香は、そのギャップも相まって、すごく可愛かった。
「……うぇぇぇぇっ、ごめんねぇ、ごめんねぇぇ……」
一方、成瀬くるみが泣くのは、何度も見慣れてる。
くるみはは何かある度に、冗談で泣いたりガチで泣いたり、とにかくよく泣いていた。
私は二人の頭をさすりながら、おかしくて、たまらずクスリと笑ってしまう。
「せっかくの再会なのに、あんまり泣かないでよ……
玲香とくるみの笑ってる顔、見たいなぁ」
私が言うと。
「無茶言うなよぉっ……くふっ」
玲香は下手くそな泣き笑いを作って。
「あははははっ、玲香ちゃん。変な顔っ」
それを見たくるみが噴き出した。
「っ……くるみおいっ……!」
「あははっ」
「ふふっ」
あぁ、楽しい、懐かしい。
私も笑いながら、いつのまにか目から涙を流していた。
泣いて笑って、泣き止んだあとで。
玲香はある情報を、私に伝えてくれた。
「これは慎吾に、誰にも言うなって口止めされてる事だけど。
和奈には伝えておくよ。
ガロン王国の地下には、私達が元の世界に帰るための、【願いを叶える石】が眠ってる。
慎吾が、【透視】スキルで見つけたんだって」
「え? 【願いを叶える石】って……!」
「うん。最初のボス戦のとき、和奈や新崎さんを生き返らせたり、猛毒の解毒に使ったやつね。
本来は、大ダンジョンのラスボス討伐でしか手に入らないらしいんだけど。
どういう訳か、ガロン王国の地下で同じものを見たんだって……あのときと違って一個だけだけど」
「なるほど……」
「……私達の目標は、ガロン王国の命令に従いながら、隙を見て【願いを叶える石】を奪取すること。
……同時に、天空の大ダンジョンの攻略も進めてる。まぁこっちは念の為、ガロン王国からの命令だしね。攻略には相当時間がかかるだろうし」
たしか行宗が、大ダンジョンの攻略には、大抵いつも数百年かかると言っていた。
しかしヴァルファルキア大洞窟だけは例外で。
たった30年で攻略に導いた人物が、「六人目の英雄バーンブラッド」の功績であるという。
攻略には相当の時間がかかるのだ。
「だけどね。もし和奈が、私達クラスが元の世界に帰ることよりも重要なことがあると判断したら……迷わず【願いを叶える石】を使って」
「え?」
「慎吾は怒るだろうけど。私たちは許すからさ」
「何を言ってるの? 元の世界に帰る以上に大切なことなんて、あるわけないでしょ?」
私も、行宗も、
クラスの皆で元の世界に帰るためだけに、
一生懸命やっているのに。
「仮定の話だよ」
玲香が言った。
「私の話はこれで終わり。ほら、行宗くんが待ってるよ。行ってあげなよ」
玲香が指を指すほうへ振り向くと、行宗とフィリアが私を見ていた。
私たちの話が終わるのを待っているようだった。
「そっか、またしばらく、お別れだね」
「気をつけてね。またね……和奈ちゃん」
私は二人と握手した。
そして名残惜しいながら、再び別れを告げるのだった。
「そうだ和奈。これ、もっていって」
成瀬くるみが、ポケットから小さな袋を取り出した。
「なに、これ?」
手のひらに乗せられた袋を見て、私は首を傾げた。
「避妊具、コンドームだよ。あと媚薬と精力剤」
「ファッ!?」
「行宗くんとよろしくするとき、あったほうがいいでしょ。
この世界ではね、こういうものは貴重なんだよ」
「しないよ! 使わないよっ!!」
私は真っ赤な顔で、必死に猛抗議した。
「だって、だって行宗には、他に好きな人がいるんだよっ!!?」
「まぁまぁ、四の五の言わず、もらっておきなよ。和奈」
玲香の手が、私の手に添えられて、私はその袋を握らされた。
「念の為に、ね。お守りだと思って」
耳元で、生ぬるい吐息を吹きかけられて、私は頷くしかなかった。
「……分かった。持っていけばいいんでしょう」
汗の滲んだ手で、私はそれをポケットにしまった。
「じゃあ。またね」
私は、なんでもないふうに、行宗のほうへと歩いていく。
「和奈。話はもう良いのか?」
行宗も涼しげな顔で訊いてくる。
今の会話は、聞かれていただろうか?
いや、大声を上げた部分は、聞かれていたはずだ。
「大丈夫。待っててくれて、ありがと」
私も、何気ない顔で返事した。
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