銀蒼界聞録~Deep Lovers~

深楽朱夜

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「王、冥界から戻ったようです」
「そのようだ、ではロットを行かせる」
「ロット・・・ですか」
 地界の王の居城でケルベロスの表情が固まる、王が次に洸紀の元に向かわせる魔物が危険過ぎるからだ。
「ですが・・・彼はあの方を・・・」
「ケルベロス、私の命に背くつもりか?」
「いえ・・・」
 深く頭を垂れそれ以上何も言わず、王の下を退出した。
 あの場に居ながらも王は全てを見通す、かつて常にその傍らにいた存在に思い馳せながら城の回廊を歩く。
「よう」
「ロット」
 柱の影に居た人物に声を掛けられ足を止める、右目を眉から頬に掛けて縦に刃物で絶たれた男が現われた。
「次は俺が行く」
「そのようですね」
「おれは、ヤツを殺す。そしてあいつの周りにいる天使共もな」
「・・・」
 ロットがケルベロスの目の前まで近付き、憎しみを込めて言い放つ。
「それは、王が下した命では無いでしょう」
「はっ!王が俺に行かせるなら俺はヤツを殺す!」
 ロットの背に生えたドラゴンの翼を模した羽根が背中から生え、柱や床や装飾品を破壊していく。
 それを冷静な眼差しでケルベロスが眺め、ロットの気の済むままに物が破壊されていく。
 それをケルベロスが冷えた眼差しで見つめ、止める事もせず好きにさせていた。
「気が済みましたか?」
「ふざけるな!気が済むわけは無いだろう!この・・・アイツに付けられた傷が今でも疼く!」
 わなわな震える手で右目の傷に触れる、忌わしい出来事を思い出したのか震えが収まる気配が無かった。
「王がお待ちですよ」
「ククク・・・殺してやる、2度と転生など出来ない様にズタズタにして葬ってやる」
 もうケルベロスの事も目に入らないのか、肩を震わせながら王の間に姿を消す。
「何時までも過去に捕らわれているのは私も同じか・・・」
 足元に転がる残骸を眺め、ケルベロスもまた1つの決意を導き出す。

「セフィ!ラフィエルさん!花が手に・・・」 
 扉を開けると其処は自分達が住処にしている廃墟が、冥界に発つ前と変わらず洸紀を受け入れるが、ラフィエル達の纏う空気が張り詰めていて、嫌な予感が背筋を奔る。
「洸紀・・・」
「洸紀君、おかえり」
『少し遅かったわね』
 2人が疲れに満ちたそれでも、笑顔で洸紀を笑顔で出迎えるが、ラピスだけが真実を告げていた。
「どうして、僕間に合った筈」
 握り締めた『真睡花』が所在無く揺れ、秦の元へ駆け寄る。
『まだ生きているわよ、まだ・・・ね』
「そんな」
「呼吸は止まってしまっているんだよ」
 ラフィエルが洸紀の肩に手を置く、力が抜け秦の元に座り手を握る。
「冷たい・・・秦冷たいね」
 体温の無い手、整い過ぎた顔に色は無い。
「花・・・採って来たのにな」
「違う・・・無駄にはしない・・・まだ生きているなら!」
 セラフィスの言葉に洸紀の起死回生の案が浮かぶ、透明な花弁を口に加え、迷う事無く秦の唇に触れる。
「な・・・」
「洸紀君!」
『やるわね』
 開かない口を舌で無理矢理こじ開け、花弁を口の奥に舌で押し込む。
「そうか、飲み込ませて・・・」
 秦の喉がゆっくりと花弁を嚥下するのを確認し、唇を離すと役目を終えた残りの花が灰になり消えていく。
「ありがとう・・・」
「洸紀お前すごい!」
 それを見届けラフィエルが感謝を口にし、セラフィスが洸紀の身体を抱き締める。
「う・・・」
『目が覚めたのね』
「シン!」
「どう?目覚めは?」
「・・・あまり良くは無い」
 軽く手を額に当てソファから起き上がる、顔色は良くないが毒は完全に抜け、やや倦怠感だけが残っていた。
「秦・・・良かった」
「洸紀・・・」
 秦が無事に意識を取り戻した事に涙ぐみながら笑顔を浮かべ、安心したせいか意識が揺らぐ。
「洸紀!?」
 セラフィスが倒れる洸紀を受け止めようとしたが、それよりも早く秦が洸紀の身体を抱き抱えた。
「どうやら、疲れとほっとしたので緊張の糸が切れたんだね」
「洸紀、お疲れ」
「・・・これは」
 受け止めた洸紀の髪から灰色の羽根を見つけ、秦が手に取るとその羽が灰になって空気に溶けて消えてしまう。
「向こうも心配していたみたいだね、これで安心して貰えたかな」
「貸しが1つ出来たな・・・」
「そうかもしれないね」
 冥界に借りた借りは大き過ぎる、いつかは必ず返すと秦が胸の奥に留めた。
「とりあえず洸紀を運ぼうぜ」
「俺が運ぶ」
 洸紀の意識の無い身体を抱え、2階の部屋へと運ぶのを2人が見届ける。
「じゃあ、洸紀君が起きて来たら食事が出来るように準備しようかな」
「俺も手伝う!あ、でもさ」
「ん?どうかした?」
 少しセラフィスが考え込み、ラフィエルが立ち止まる。
「さっきのあれ、秦にいうべきか」
「・・・黙っておこう」
 あれとは洸紀が秦に花を口移しで飲ませた事だろう、言って秦と洸紀の関係に今変化が訪れるの得策ではない。 
「そうだな、言わないでおくか」
 気を取り直し食事の支度をする為にキッチンへ向かう、それを尻目に独り不安げにラピスがこの状況が良くない方へと向かう気がした。
『ミイラ捕りがミイラになってしまう・・・秦、想う心が止まらないのね』

「洸紀・・・助かった」
 洸紀をベッドに運びそっと寝かせると、小さく身動ぎをする。
「俺は・・・俺達は命を奪い合う。そうだろう、洸紀?」
 洸紀の細く冷えた手を取り、其処から通る血液の流れ、人で在る証を辿る。
「人か・・・まだ・・・」
 あの時の洸紀の涙の味は人の味だった、魔物は涙を流さないと聞く、そが、それよりも早く秦が洸紀の身体を抱き抱えた。
「どうやら、疲れとほっとしたので緊張の糸が切れたんだね」
「洸紀、お疲れ」
「・・・これは」
 受け止めた洸紀の髪から灰色の羽根を見つけ、秦が手に取るとその羽が灰になって空気に溶けて消えてしまう。
「向こうも心配していたみたいだね、これで安心して貰えたかな」
「貸しが1つ出来たな・・・」
「そうかもしれないね」
 冥界に借りた借りは大き過ぎる、いつかは必ず返すと秦が胸の奥に留めた。

 「てめえはいつもそう、涼しげな顔で俺達魔物を馬鹿にしているよなあ。自分が少し王に近いというだけで!」
 魔物同士の抗争の隙に天使達が逃げ、辺りには2人だけが残る、王の側に近い存在である事への、嫉妬と憤怒に彩られた表情で『白銀の魔物』を見つめる。
「力だけでは王に認められない。貴様の様に力を破壊に使うだけの愚か者を王は望まない」
 その言葉がロットの自尊心を傷つける、全てを持った者だけが言える言葉、その怒りがロットの思考を破壊する。
「前からお前の存在が気に喰わなかったんだよっ!」
 例え敵わない相手でも向かって行く、魔物とは本能と闘争に生きる生き物。
 『白銀の魔物』に襲い掛かるロット、一瞬だけ哀しげに銀灰色の瞳でロットを眺め、右手にクロードを呼び瞳を閉じた。

「ロットは幽閉しました。もう暫くは使い物にならないでしょう」
「そうか・・・」
 地界の居城の回廊ケルベロスと『白銀の魔物』が対峙し、先の暴走したロットの処遇をケルベロスの口から齎された。
「貴方らしくもない、ロットを挑発し彼に消えない傷を与えた」
「らしくもない・・・か。ケルベロス私も魔物だ、本質はロット達と何も変わらない」
 いつもの『白銀の魔物』とは違う態度に眉を顰める、決して本能に取り込まれない彼をケルベロスは崇高していた。
「王が待っています・・・」
「そうだな」
 ケルベロスが深々と頭を下げ『白銀の魔物』を通す、この世界でケルベロスが頭を垂れる2人の内の1人を見送った。
「王が望むのは本能で動くだけの配下ではありません・・・。貴方の様な、いえ・・・貴方を望んでいる・・・」

「っ・・・」
 目を見開くと馴染みになった天井とぶつかる、呼吸が詰まり掻いた汗が冷えて服と身体を張り付かせていた。
「ゆめ・・・?だよね・・・」
 ゆっくり起き上がり上着のポケットに入れた、ハデスから貰った瓶を取り出す。
 綺麗な洸紀の手に収まる程の瓶を見つめ、ベッドから起き上がり一先ず汗を掻いた服を着替える、ラフィエルが結んでくれたリボンを丁寧に畳み、ジーンズのポケットに入れて1階に降りた。
「洸紀起きたのか?」
「洸紀君、お腹空いてるでしょう?スープとパンがあるからね」
 セラフィスが降りて来た洸紀の側に行き、ラフィエルがキッチンから顔を出す。
「気分は?」
 ソファに座っていた秦が洸紀に目を向け、セラフィスに勧められ洸紀も3人掛けソファに座った。
「うん、良いよ。沢山寝ちゃった、お腹も空いてるし」
「そうか」
「洸紀、よく頑張ったなすごいよ!」
 相変わらず淡々とした秦をフォローする為に、セラフィスが洸紀の頭を撫で労を労った。
「う、うん。でも助けてくれた人がいるかね。1人じゃ出来なかったよ」
「はい、お待たせ。助けてくれたって、『時の扉』の番人かな」
 ラフィエルがトレイに温かいスープとパン、そしてミルクを載せ洸紀の前に出す。
「いただきます。勿論番人のシャラも助けてくれたけど、ハデスも助けてくれて・・・僕冥界で友人が出来ました」
「ハデスって」
「もしかして」
「1人しかいないだろう、冥界に」
 3人がハデスの名前に顔を見合わせ、洸紀が首を傾げながら冥界で会った出来事を掻い摘んで話す。
「洸紀、大物に助けて貰ったんだな」
「中々会えない方だよ」
「冥界の支配者だからな」
 洸紀の話しの後3人からそんな感想を貰い、顔色が青くなってしまう。
「ええー!ハデスって冥界の王!?僕と同じ位だったけど」
「外見はあまり関係ないからね」
 あの何処か寂しげな笑みと深い藍色の瞳を思い出す、彼もまた王という枷に縛られているのだろうか。
「気さくで優しい人です!シャラも優しかったし、出来ればまた・・・」
 会いたい、その言葉を呑み込み食事に手を付ける、多分きっともう会えないだろうから。
「冥界はどんな世界だった?」
「灰色の世界だったよ。地上には荒れた大地しかないから空に浮かぶ巨大な岩が沢山あって、その岩に家を造って住んでるって」
「へえ、天空かあ」
 灰色の空とハデスの寂しげな顔、シャラのハデスを見る眼差し、シャラのあの瞳はハデスを特別な存在として映していた。
「僕達は一度天界に戻ろう、この件を報告してくる」
「俺も戻るのかよ?」
「もちろん、セフィも一度天界の身体に戻らないと。此方の身体は此処に置いて行こう」
 ラフィエルの言葉にセラフィスが口を尖らせるが、結局はラフィエルの意志には逆らえないので渋々頷く。
「2人共少し休むといいよ。次は洸紀君の記憶と力を取り戻さないと、それに地界の動きも気になるからね、なるべく早く戻って来るようにするから」
「分った」
 セラフィスの手を引き、洸紀と秦に別れを告げる。
「洸紀すぐ戻って来るからな」
「うん、待ってるよ」
 2人が2階に上がり急に辺りが静かになる、暫く振りに秦とラピス3人だけの生活に戻る。
「・・・」
「・・・」
 互いに無言の時間が流れる、気まずげに洸紀が租借する食事の音だけが聞こえる、その沈黙を破ったのは秦だった。
「助かった」
「ううん、助けてくれたのは秦だから」
「夢を見たよ。お前の」
「え、夢?」
 毒に侵されながら見た、洸紀と『白銀の魔物』の夢を秦が語り始める、洸紀もまた同じ様な夢を冥界で見ていた事を秦に告げ、マジマジと互いの顔を見合わせた。
「血が混ざり合っているから、夢を共有したのかもしれないな」
「かもしれないね。そういえばこれ・・・ラフィエルさんに返し忘れた」
 ジーンズのポケットに入れたくすんだ色のりぼんを取り出し、テーブルの上にそっとそれを置く。
「それは・・・」
「おまじないって、ラフィエルさんが・・・」
 秦が暫くそれを眺める、遠い過去戻れはしない時間に思いを馳せる。
「それなら、持っていろ」
「え?いいのかな」
「返すのは次でいいだろう」
「そうだね」
 テーブルに置いたリボンを掴み洸紀の腕を引き寄せ、りぼんを巻き付けた。
「あ、ありがとう」
「いや」
「・・・」
「・・・」
 暫くの沈黙が続くが居心地の悪い空気は無く、穏やかな時が流れる。
「そういえばラピスは?」
「眠っている、俺の受けた毒にラピスも中てられたからな、疲れているようだ」
「それって・・・」
「感覚を共有している、僅かだがな。お前の剣は?」
 洸紀と洸紀の剣も互いに感覚を共有しているのだろうか、秦に聞かれハデスに教えて貰った事を説明する。
「とても良くしてくれたんだよ・・・秦みたいに自由に剣を出せるようになったし、怖かったけど2人が付いて来てくれて、1人じゃ何も出来なかったよ。冥界で友達が2人も出来た」
「そうか」
「僕も自分の剣と、秦とラピスみたいに通じ合いたいな」
 会話を自分の剣と望むとまではいかないが、自分を待ち続けてくれた剣には出来る限り応えたい。
「・・・ラピスは俺が天界に誕生した時に与えられた唯一のもの。天界での俺の存在意義は、ラピスがいてからこそ成り立つものだった」
「それって」
 まるでラピスがいなければ秦は存在しないと、そう言っているように洸紀には聞こえてしまう。
「・・・少し昔の話しをするか」
 そう言って始まった秦が天界で生きていた時代の話しは、洸紀の想像を超えたものだった・・・。
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