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6話
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ドン!
薄暗い部屋で見るからに重量のある布がボロボロの机に無造作に置かれた。
「流石調達屋ですね。しっかりと依頼を熟してくださる」
「当然だ」
「ふむ…確かにこの三人で間違いありません」
今回の依頼主である中年男は、布を広げて中の頭部を一つずつ手に取って確認を行う。
未だ目を見開いたままの三つの頭部を見ても、眉一つ動かさずに顔を確認する仕草はかなり手馴れているように思えてならない。
普通は死という現象に慣れている者でさえ頭部を持つのは勿論見る事すら嫌悪するものだ。この男には嫌悪感が一切なく頭部をまるで地面に転がる石ころの様に扱っている。調達屋であるロイスならともかくこの男は明らかにおかしい。
「ではこちらを。残りの300万ゼルです」
「確かに。じゃあ俺は行く」
「有難うございました。またお願いしますよ」
ロイスは返事をする事無く部屋を後にした。
勿論気になる事は幾つかあるものの、依頼が終われば元依頼主など会話をする必要の無い赤の他人であり関わろうとすら思わない。
もう一度ロイスに調達屋として依頼を頼みたいのなら、あの薄暗い部屋に日時を指定した紙を置けばいいだけなので依頼以外で会う事は絶対にない。
「おかえりロイス。どうだった?」
「ただいま。暗殺の依頼だったけど、どんな裏があるかはまだ調べていない。一応言質は取った」
「準備の良い事だ。まぁ元々調達屋を頼る奴に常識人なんていないからな。全ての依頼に何かしらの意図はあっても不思議じゃない」
「そうだな。ただ…今回の依頼は面倒な事になる気がする」
「ほぉ…ロイスがそんな事言うのは初めてだな」
「ただの勘だけど…今は気にしても鬱陶しいだけだ。今ある仕事が落ち着いた時に調べ直すつもりだ」
「そうか。所で…またこの二日間何も食べていないんだろう。どうする?」
「もちろん食べる」
「だろうな。今日も新作だ」
レオンがカウンターに置いたのは白米に茶色の液体が掛けられた料理だった。
「名付けて…かれいだ」
「な…なんだこれ!?おいレオン…これうん「バカやろう!」」
うんこと言い掛けたロイスだったが言わせまいと遮られた。
「確かに俺も作りながらあれ?っと思ったけど決してうんこでじゃ無い!失礼な事言うんじゃねぇ!」
「あ…そう…」
あまりの必死さに言葉を飲み込んだが、自分でうんこと言っているじゃないかと思ったのは内緒である。ただ、稀に見るレオンの慌てように笑わずにはいられなかった。
「で…食べるだろう?」
「え?……まぁ…」
レオンはかれいと名付けたこの液体を食べなければ二度と料理は作らない、と言うような視線を浴びせられたロイスは頷くしかなかった。
ゴクリ…
かれいを前にしてロイスは思わず唾を飲み込んだ。それは決して美味しそうだから涎が出たという訳ではない。
匂いは決して悪くない。むしろ適度に鼻の奥を刺激するので目を瞑れば食欲がそそられる良い匂いだ。
ロイスはかれいをスプーンで掬い、ふぅっと深く息を吐き出すと意を決して口に運んだ。
そして一噛み、また一噛みと顎を動かしていく。目の前のレオンがその様子をニヤニヤと笑みを浮かべながら見ているのに腹が立つ。しかしかれいを飲み込んだ瞬間そんな感情は吹き飛んでしまった。
「う…美味い!何だこれ!めちゃくちゃ美味いぞ!」
様々な食材の味が凝縮されているのか胃にガツンと強い衝撃が襲い掛かる。そして香辛料の辛みが舌でダンスを踊る。だがどちらも嫌な気はせず、むしろこれが旨味の素なのだと思えてならない。
ロイスはあまりの美味しさに興奮して次々とかれいを口に運ぶ。これほどの美味しさなら見た目が絶望的に悪いなど些細な事だ。
「どうだ、気に入ったろ?自分で作っておきながら可笑しな話だが俺も食った時は衝撃が走った」
「奇跡だ…この見た目で美味いとは奇跡だ!いや待てよ…見た目とのズレが逆に良い味を醸し出しているのでは…」
「ちょっとロイス…それは考え過ぎってやつだ」
「いやいや、見た目が悪いものほど美味だとよく言うだろ」
「それは食材の話だ」
レオンは冷静に対処するがロイスは一人で勝手に盛り上がっていく。
「おかわり!」
「お…おう」
レオンは想像以上の喰い付きに圧倒され、苦笑いを浮かべながら二杯目のかれいを注いでロイスに出すとものの数秒で皿が空になった。
「噛めよ!飲み物じゃないぞ!」
「早くおかわり」
「全く…」
ロイスは呆れながら三杯目のかれいを皿に注ぐが、その表情はどこか嬉しそうにも見えた。
その日からロイスは毎日かれいを要求して来た。
普段のロイスは二日に一度の割合でしか食事を摂らない。その分一度の量がかなり多いのだがかれいは特に気に入った様で一日に数十杯は食べていた。
作る側のレオンは毎日大量に作るのがしんどいのではと思いきや、気に入られたのが余程嬉しかったのか苦も無く作っていた。
薄暗い部屋で見るからに重量のある布がボロボロの机に無造作に置かれた。
「流石調達屋ですね。しっかりと依頼を熟してくださる」
「当然だ」
「ふむ…確かにこの三人で間違いありません」
今回の依頼主である中年男は、布を広げて中の頭部を一つずつ手に取って確認を行う。
未だ目を見開いたままの三つの頭部を見ても、眉一つ動かさずに顔を確認する仕草はかなり手馴れているように思えてならない。
普通は死という現象に慣れている者でさえ頭部を持つのは勿論見る事すら嫌悪するものだ。この男には嫌悪感が一切なく頭部をまるで地面に転がる石ころの様に扱っている。調達屋であるロイスならともかくこの男は明らかにおかしい。
「ではこちらを。残りの300万ゼルです」
「確かに。じゃあ俺は行く」
「有難うございました。またお願いしますよ」
ロイスは返事をする事無く部屋を後にした。
勿論気になる事は幾つかあるものの、依頼が終われば元依頼主など会話をする必要の無い赤の他人であり関わろうとすら思わない。
もう一度ロイスに調達屋として依頼を頼みたいのなら、あの薄暗い部屋に日時を指定した紙を置けばいいだけなので依頼以外で会う事は絶対にない。
「おかえりロイス。どうだった?」
「ただいま。暗殺の依頼だったけど、どんな裏があるかはまだ調べていない。一応言質は取った」
「準備の良い事だ。まぁ元々調達屋を頼る奴に常識人なんていないからな。全ての依頼に何かしらの意図はあっても不思議じゃない」
「そうだな。ただ…今回の依頼は面倒な事になる気がする」
「ほぉ…ロイスがそんな事言うのは初めてだな」
「ただの勘だけど…今は気にしても鬱陶しいだけだ。今ある仕事が落ち着いた時に調べ直すつもりだ」
「そうか。所で…またこの二日間何も食べていないんだろう。どうする?」
「もちろん食べる」
「だろうな。今日も新作だ」
レオンがカウンターに置いたのは白米に茶色の液体が掛けられた料理だった。
「名付けて…かれいだ」
「な…なんだこれ!?おいレオン…これうん「バカやろう!」」
うんこと言い掛けたロイスだったが言わせまいと遮られた。
「確かに俺も作りながらあれ?っと思ったけど決してうんこでじゃ無い!失礼な事言うんじゃねぇ!」
「あ…そう…」
あまりの必死さに言葉を飲み込んだが、自分でうんこと言っているじゃないかと思ったのは内緒である。ただ、稀に見るレオンの慌てように笑わずにはいられなかった。
「で…食べるだろう?」
「え?……まぁ…」
レオンはかれいと名付けたこの液体を食べなければ二度と料理は作らない、と言うような視線を浴びせられたロイスは頷くしかなかった。
ゴクリ…
かれいを前にしてロイスは思わず唾を飲み込んだ。それは決して美味しそうだから涎が出たという訳ではない。
匂いは決して悪くない。むしろ適度に鼻の奥を刺激するので目を瞑れば食欲がそそられる良い匂いだ。
ロイスはかれいをスプーンで掬い、ふぅっと深く息を吐き出すと意を決して口に運んだ。
そして一噛み、また一噛みと顎を動かしていく。目の前のレオンがその様子をニヤニヤと笑みを浮かべながら見ているのに腹が立つ。しかしかれいを飲み込んだ瞬間そんな感情は吹き飛んでしまった。
「う…美味い!何だこれ!めちゃくちゃ美味いぞ!」
様々な食材の味が凝縮されているのか胃にガツンと強い衝撃が襲い掛かる。そして香辛料の辛みが舌でダンスを踊る。だがどちらも嫌な気はせず、むしろこれが旨味の素なのだと思えてならない。
ロイスはあまりの美味しさに興奮して次々とかれいを口に運ぶ。これほどの美味しさなら見た目が絶望的に悪いなど些細な事だ。
「どうだ、気に入ったろ?自分で作っておきながら可笑しな話だが俺も食った時は衝撃が走った」
「奇跡だ…この見た目で美味いとは奇跡だ!いや待てよ…見た目とのズレが逆に良い味を醸し出しているのでは…」
「ちょっとロイス…それは考え過ぎってやつだ」
「いやいや、見た目が悪いものほど美味だとよく言うだろ」
「それは食材の話だ」
レオンは冷静に対処するがロイスは一人で勝手に盛り上がっていく。
「おかわり!」
「お…おう」
レオンは想像以上の喰い付きに圧倒され、苦笑いを浮かべながら二杯目のかれいを注いでロイスに出すとものの数秒で皿が空になった。
「噛めよ!飲み物じゃないぞ!」
「早くおかわり」
「全く…」
ロイスは呆れながら三杯目のかれいを皿に注ぐが、その表情はどこか嬉しそうにも見えた。
その日からロイスは毎日かれいを要求して来た。
普段のロイスは二日に一度の割合でしか食事を摂らない。その分一度の量がかなり多いのだがかれいは特に気に入った様で一日に数十杯は食べていた。
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