調達屋~どんな物でも必ず手に入れましょう~

バン

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7話

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 暗殺の依頼を達成してから数週間後ロイスがカウンターに座っていると、帰宅したレオンがとんでもない情報をもたらした。

「おいロイス。さっき市場に行ってたんだが…とんでもない情報が出回っていたぞ」
「とんでもない情報?クーデターでも起こったのか?」
「そうとは言えないが違うとも言い切れないな」
「全く意味が分からない」
「コナンの王が殺されたらしい」

 コナンはトナードレイ王国の西に位置する隣国だ。そこの王は王らしくない人情味溢れる人物だと聞いた事がある。

「コナンの王が?ならクーデターだろ」

 一国の王が殺されたとなればどの国、どの町でも大騒ぎになるだろうし、ならなければおかしい。だがロイスの反応は騒ぐ所か、まるで他人の飼っていた動物が死んだかの様な素っ気ないものだった。

「話はまだ終わりじゃない。王だけでなく王妃と第一王子も一緒に殺されたそうだ」
「そりゃ大騒ぎだろうな。それでレオンがクーデターだと言い切れない理由は何なんだ?」
「コナンには王位継承権を持つ者は3人いたが長男が殺された事によって継承権の順位は繰り上がる。つまり次男が一位、三男が二位になった訳だ」
「ならその次男か三男がクーデターの黒幕って事だな」

 ロイスはそうに違いないとさっさと話を切り上げようとする。正直他国の事なんてどうでもいいのだが、レオンは話を終わらす気が無いらしい。

「俺もそう思ったんだがどうやら違うらしい」
「さっきから勿体ぶった言い方だな。それに何でそんな詳しいんだよ。市場でここまでの情報は手に入らないだろ」

 市場で手に入る情報の信憑性はかなり低い。仮に事実だとしても詳細まで得られる事は極稀だ。

「少し気になる事があってな。あいつから仕入れてきた」
「あぁ…アリスから聞いたんだな。なら納得だ」

 アリスとは誰か…
 彼女はロイスが調達屋として仕事をする際に世話になっている情報屋だ。彼女に掛かればどんな情報でも確実に仕入れてくれる為、分からない事があれば聞けばいい。もちろん相応の金は支払っている。
 レオンとは旧友の様で偶にふらっと酒場に来る事もあれば、突然ロイスと一緒に未開拓地に行きたいと駄々を捏ねる事もあるじゃじゃ馬だがどこか憎めない人だ。



「彼女によると黒幕は王家の人間じゃなく没落貴族だそうだ」
「今更コナンの没落貴族が動いたのかよ。バカだな」

 コナン王国の元王、つまり殺された王は貴族制度の撤廃を目指し、貴族の暴挙を消して許さないと王座に就いた時に宣言したそうだ。

 その宣言は今から20年以上前の出来事で、当時やりたい放題に各地を統治していた貴族は現在では既に一掃されている。

「まぁ一世一代の復讐劇って所だな。だが王族を殺してからの事は考えていない様だからクーデターかと言われると微妙なんだよ……因みにこの情報は騒動の中心であるコナンもまだ得ていないぞ」
「まぁアリスだからそれは不思議じゃないか。どこから情報を仕入れているんだろうな」
「それは俺も詳しくは知らん。で、俺の本題はここからだ」
「おいおい…もう十分話聞いたぞ」

 今まで知識の再確認の様な会話に付き合わされた挙句、まだ本編にすら差し掛かっていなかったとは…そう思うと溜息を吐かずにはいられなかった。

「ここから先の話はロイスに関係する事だ」
「俺が?なんで?コナンの没落貴族にも王族にも知り合いなんていないぞ」
「まぁ聞けや。殺された王の息子の名前…イアンだとよ」
「………………は?」

 レオンの発した言葉を理解するのに僅かな時間が必要だった。

「つまり何だ…コナンの王族を殺したのは俺って事か」
「そうなるな。これで晴れて大罪人だ」
「俺が殺したってバレてるのか?」
「調達屋として手配される可能性はあるだろうがお前の事だ。名前も顔も依頼主には明かしていないんだろ?」
「当たり前だ。それよりちょっと出かけてくる」
「そうか。まぁあれだ…程々にな」

 レオンの言葉を背に受けながら、ロイスはバサッとローブを着ると酒場を後にした。
 






 ロイスが向かったのは情報屋アリスの住居だ。
 ゆったりと歩いているロイスだが、その表情は一歩進む毎に感情が削がれていく様に影を落としていく。

 たった今すれ違った男がローブで顔が見えないにも拘らず、ヒィッ!と叫び声を上げて走り去って行った。
 人間の本能が決して近づいてはならないと警笛を鳴らしてしまう何かがロイスは発しているようで、視界に入っただけで逃げる者が続出する事態となった。

                                                                                                                                                        






「あら、ロイスじゃない。珍しく不機嫌ね」

 アリスの家の前に着いた時、丁度彼女も何処かに出かけていた様で鉢合わせになった。
 彼女の容姿はかなり整っており、腰まで伸びた茶色の髪は風になびく度に良い香りが漂ってくる。スタイルも抜群で誰もが目を奪われる事だろう。

「情報が欲しい」
「でしょうね。つい先日あなたに依頼した者の居場所が知りたいんでしょ?依頼対象の情報を後回しにするからこうなるのよ…」
「耳が痛いな…気をつける。それで、情報料は?」
「今回はタダで良いわよ。その代わり…今度お酒に付き合って頂戴」
「いや…金なら幾らでも…」
「お・さ・け!…分かったかしら?」
「はぁ…分かった。これが終われば付き合う」
「契約成立ね。すぐに行くんでしょ?ここに全部書いておいたわ」

 アリスは数枚の洋紙をロイスに手渡す。そこに元依頼主の情報が全て書かれている事は中身を確認しなくても分かる。何故ならロイスがここに来る事も、何の情報を欲しているのかも分かっているアリスを疑う事などあり得ない。

 そもそも初めからアリスに情報を聞いていればこんな事にはならなかったのだが…


「分かった。じゃあまた後で」
「行ってらっしゃい。待ってるわ」

 ロイスはアリスと別れ、洋紙を確認する。どうやら元依頼主、セージ・ヒルデストはまだトナードレイ王国を出ておらず、カイレンの隣町モノリアに潜伏している様だ。

「へぇ…結構な大物じゃないか」

 洋紙によるとセージは王の元側近で、国家資産を不正に運用した為に地位を剥奪されたそうだ。
 
 その後も目的地に移動しながら洋紙に目を通すと知りたい事は全て書かれていた。

「なるほどね。王族があんな森にいたのは、命を狙われていると気付いてコナンに一時亡命する途中だったのか」

 そこをセージに雇われたロイスが襲撃した。
 影武者を国に残してまで亡命しようとしていた王の選択は苦渋の決断だっただろう…しかしロイスにとってそんな事はどうでも良い。今の目的はあくまでセージ・ヒルデストただ1人。


                                                                                             




「ここか…立派な屋敷だな。まぁセージ本人の所有物ではないけど」

 ロイスはモノリアの外れにある大きな屋敷の前にいた。
 
 ここはコナン王国で成功を収めたマルセイ商会代表の別荘だ。
 他国に別荘を持てる事はそう珍しい事ではなく、権威ある商会なら楽に建てる事が出来る。それはコナン王国とトナードレイ王国の友好の証なのだが、今回はそれが裏目に出てしまった。

「直ぐに行くぞクソ野郎」

 態々門が開くのを待つ必要などない。没落貴族に手を貸す商人に遠慮する必要も無い。
 そうと決まれはやる事はただ一つ…


 ドガァーン!!

 門は拉げて屋敷の壁に突き刺さった。


 門を吹き飛ばした犯人は黒ローブを靡かせながらゆったりと中庭を歩いている。まるで絶望と言う名の悪魔が顕現したかのように…
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