調達屋~どんな物でも必ず手に入れましょう~

バン

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8話

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「何事だ!」
「侵入者です!」
「恐らくセージ殿が言っていた例の調達屋だと思われます!」
「何だと!どこから情報が漏れたんだ!」

 門が激突し、大騒ぎの屋敷内では持ち主のマルセイが声を荒げている。

「確かに早すぎる襲撃です。恐らく調達屋独自の情報網があるのかもしれませんね」

 するとどこからかセージ・ヒルデストが現れ、冷静に状況を分析する。

「何故言わなかった!このままでは私まで狙われるではないか!」
「それは失礼。しかし今はこの状況をどう切り抜けるか考えましょう」
「ぐ……だがどうしろと言うのだ!奴は未開拓地に入れる化物だと言っていただろ!」
「えぇ。ですが知っていますか?未開拓地に入るのに化物染みた力はあまり必要ないそうですよ」
「そんなこと聞いた事も無いぞ!」
「知人の開拓者から聞いたのですが、未開拓地で最も恐ろしいのは魔獣ではなく環境であり、その環境に適応する体を持っていれば誰でも入れる、との事です」
「ならあの調達屋はその体を持っているだけで実力は無いという事なのか!」
「可能性はありますよ」
「そうか!それなら何とかなるかもしれん!おい!ここにいる全員で奴を殺せ!」

 マルセイはニヤリと笑いながら部下に指示を出した。
                                                 
「おい!聞いているのか!」

 部下からの返事が帰って来なかったので声を荒げて振り返る。
 
 振り返ったマルセイの視界に入ったのは一人の部下の姿。そして胸から血がべっとりと付着した腕が生えている。

「お…おい!」
「マ…マル…セイ……さま……おに……げ…下さ…」
                                          
 ズボッ

 腕が引き抜かれると、部下は絶命し倒れた。

「ちょ…調達屋!何故ここにいる!部下はどうした!」

 部下が倒れた事によって後ろにいた腕の持ち主を漸く視認出来た。その人物は黒いローブに包まれた異様な気配を放つロイスだ。

「もう部下はいない。後はお前と…逃げて行った奴だけだ」
「逃げた?…なっ…セージ貴様!どこに行った!私を置いていくつもりか!」

 マルセイは辺りを見回すがセージの姿は何処にもない。マルセイが部下の無残な姿を見ている隙に逃げた様だ。

「隠し通路から逃げたぞ。まぁあいつは最後で良い…今は、お前だマルセイ」
「何故だ!私の部下は精鋭揃いだぞ!未開拓地に適した体を持つだけのお前に負けるはずがない!」
「適した体?あぁ、なるほど…嘘の情報を教え込まれたのか」
「嘘だと!」
「大方お前をここに留まらせる為の嘘だろう。良かったな、これで晴れて囮になった訳だ」

 ロイスはローブの下で嘲笑う。
 顔は見えないが笑われた事が分かった様で、マルセイは顔を真っ赤に染める。

「くそぅ…セージめ…絶対に許さんぞ!」
「許さなくていい。どうせお前はここで死ぬ」
                                           
 ロイスの言葉にマルセイはハッとする。
                                            
 セージへの怒りによって我を忘れていたが、冷静に考えればすぐに状況は理解出来た。周りには誰もおらず、頼りの部下は既に死体となっている。もう逃げ場などあるはずがない。

「ひ…ひぃ!」

 急に恐怖で全身を満たされたマルセイは尻餅をついて後ずさる。

「ま…待て!待ってくれ!私は何もしていない!セージに脅されただけだ!」
「そうなのか…それは可哀想だな」
「そ、そうだろう!だから私は見逃しっ!」
                                        
 見逃して欲しい…そう言い掛けたが最後まで口が動く事は無かった。

「はぁ…商売の才能はあるのに人を見抜く才能がないとは…残念な奴だ」

 ロイスは足元に転がってきたマルセイの頭部を道端の小石の様に蹴り飛ばす。

 情報によるとマルセイはコナン王の命をずっと狙っていた。そしてその機会がやっと巡ってきたわけだが、最後は呆気なかった。
 そもそもなぜマルセイが協力したのかだが……そんな事は最初からどうでも良い。もう死んだ人間の事など気にするだけ時間の無駄だ。
                                                                               

「さて…隠し通路はここか」

 ロイスは初めて来る屋敷だが、どこに何があるかはアリスの洋紙を見れば直ぐに分かる。

 キイィィィ

 壁に掛けられた鏡を開くと地下へと続く階段が現れた。アリスの情報通りだ。
 この階段の先には外に繋がる出口と部屋が一つある。セージはその部屋の中にいる。


 コンッコン

 ロイスがその部屋の扉をノックすると通路中に音が反響した。

「情報通り黒バラで出来た扉か。確かにこれなら外に出るより安全そうだ」

 黒バラは未開拓地産の鉱物で、その名の通り黒色のバラの様な形をしている。脆い鉱物だが一度加工すれば恐ろしい程の強度を誇るため、高値で売買されているが大きな商会を営むマルセルなら手に入れる事は容易いだろう。

「黒バラは堅いが…火には弱いんだよな」

 ロイスは黒バラで出来た扉に手を添える。

「さぁ精霊共…力を貸せ」

 すると手の甲に赤い模様が浮かび上がった。
 更に掌全体が燃えるような赤色になり、ドロドロと扉を溶かしていく。

 ジュゥー

 扉はどんどん溶けていく。もうすでに原型は留めていない。


「こんなもんか」

 人一人通れる穴が出来た所で手を放すと、甲にあるはずの赤い模様は消えていた。

「お邪魔します」

 ロイスは何事も無かったかのように部屋の中へと足を踏み入れた。

「あり得ません…黒バラの扉をあっさり破るなど…」

 中には机と椅子がポツリと配置され、そこに座るセージは驚愕の表情でロイスを見つめる。額から流れる汗は焦りから来るものなのか、ロイスの出した高温によって部屋が暖められたからなのかは分からない。

「読みが甘かったな没落貴族」
「やはり私の事は調べましたか。復讐に来たのですか?今やあなたは王族殺しの大罪人ですからね」
「その事なら心配ない。友人が情報を改竄し、実行犯を別の者にすり替えてもらった」

 友人とはアリスの事だ。優秀な情報屋は情報を集めるだけでなく改竄する事も容易い。彼女が独断で動いてくれたようで、洋紙の最後に改竄完了と記されていたのでもう何も心配事は無い。

 この件が終わればアリスにはお礼をしなければならない。上等な酒を持っていくのが良いだろう。

「なんと…私の計画は完全に失敗したという事ですか」
「あぁ…それと、俺は復讐しに来たわけじゃない」
「ではなんです?」
「セージ・ヒルデスト、お前は調達対象の情報を偽り、報酬を値切るという契約違反を犯した。王族対象の報酬が600万ゼルなどあり得ない」
「しっかりと聞かなかったのはあなたですよ?契約違反ではありません。それに…この様な仕事はしっかりと裏取りをするものですよ」
「俺は面倒臭がりでね。だが契約時に言質は取った。お前は情報に嘘偽りはないと悪魔に誓っている」
「悪魔などいませんよ」
「もう一度言う。セージ・ヒルデスト、お前は契約違反を犯した。よってこれより断罪する」

 ロイスはローブの下で獰猛な笑みを浮かべた。
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