神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

文字の大きさ
107 / 163
第8章 黒竜の雛と特級冒険者

護衛契約

しおりを挟む
「それで薬はどこにある?」
「ククレという商人が持っているはずです」

2人はドレシアに着くと早速ククレという商人を探した。

「何処にもいないぞ」
「おかしいですね。すぐに見つかるはずなんですが」

2人はドレシアの商人にククレの所在を聞きまわったが、所在どころか名前すら知っている者はいなかった。

「そもそもユイルはククレという商人と面識はあるのか?」
「いえ、ありません。奥様だけです」
「だと思った……闇商人にも当たってみるか」

咲良は念の為に商人から聞き出しておいた闇商人の場所までユイルを案内する。その場所は人影のない裏路地にある喫茶店のような店だ。

「あんたはククレか?」
「えぇよくご存じで。ご用は何ですか?」

店に入って中に居た男に声を掛ける。まさか一人目で目当ての人物と出会えるとは思っていなかったがどうやら運が良かったらしい。

「僕はハワード家の使用人です。第二夫人より薬を取りに来るよう言われました」
「ハワード家?薬?一体何の話です?」
「え?何を言っているんです?」
「予想通りか…」

ユイルはククレの反応に困惑しているが咲良に驚きはなかった。

「咲良さん、どういうことですか?」
「後で話す。それよりククレ、お前は本当に第二夫人を知らないのか?」
「えぇ、ハワード家の方と繋がりなどありませんよ」
「なら外の奴らはお前とは無関係とでも?」
「な、何のことです?」
「思いの外分かりやすかったな。しばらく寝てろ、後で聞きたいことがある」

咲良はククレの意識を一瞬で刈り取るとユイルに向き直る。

「今この建物は囲まれている。ユイルを狙った暗殺者で間違いないだろう」
「そ、そんな!」
「少し待ってろ。すぐに終わらせる」

咲良はそういうと気配を消して外に出た。ユイルは目の前でいきなり消えた咲良に動揺していると外から戦闘音が聞こえてきた。

「外で何が…」

しばらくユイルが身を潜めていると外から戦闘音が聞こえなくなった。それと同時に咲良が悠々と店の中に入ってきた。

「咲良さん…」
「終わったぞ。気配を察知されちゃ暗殺者も形無しの様だ」
「そう…ですか…それで一体何が…」
「ここからは俺の予想だが…ユイルにとって辛い話になるだろう。聞きたいか?」
「僕にとって……話してください。何が起こっているのか知りたいです」

咲良はユイルの意思を確認すると話し出した。



「そんな…そんなことが…」
「証拠はない。だが今まで起きたことを考えれば容易に想像できる」
「………」
「使用人としては辛いだろうが切り替えろ。これからもお前は狙われるだろうし、長女のルーナの命も危うい可能性がある」
「お嬢様が…」
「守りたいか?」

咲良は真剣な表情でユイルに問う。

「僕に守る力はありません」
「一つだけあるだろう。ハワード家において今のお前の立場は何だ」
「僕の立場……」

ユイルは少し考えるとバッと咲良を強い眼差しで見つめる。どうやら覚悟が出来た様だ。

「咲良さん!あなたの力を見込んでお願いがあります!
「なんだ?」
「ハワード家次期当主として僕は家族を守る義務がある!なので護衛をあなたにお願いしたいのです!」
「一時的で良ければお受けしよう。ハワード家次期当主様」

咲良はユイルに敬意を払い小さく頭を下げる。

「ではすぐにアルカナに戻ります!このつまらない争いを収める為に!」
「仰せの通りに」
「畏まらないでください。なんだかムズムズします」

ユイルの言葉に咲良はフッと笑うと2人は急いでアルカナに向かった。


「ユイル、ハワード家に着くとまずルーナというお嬢さんに会わせてくれ」
「それは構いませんがどうしてですか?」
「俺は魔法医師だ。治せるかもしれない」
「本当ですか!?」
「もし無理でも原因は掴めるだろう」
「是非お願いします!」


2人がハワード家に着くと早速現当主のクレイダル・ハワードに面会する事になった。

「初めまして。冒険者の咲良です」
「ふむ。こちらの使用人が世話になった様だな。ここ暫く仕事で家を空けていてな。ユイルが行方不明になっていたとは知らなかった」

クレイダル・ハワードは立派な白鬚を生やした50代位の男だ。

「既にユイル様が継承権をお持ちである事を知っています」
「そうだったか。それで要件は何だ?」
「この度ユイル様の護衛を務めさせて頂く事になりました」
「ほう。ユイル専属という訳か」
「はい。つきましてはお耳に入れたい事がございます」
「話してみろ」
「ユイル様は何者かに命を狙われております。道中何度も刺客に襲われたので間違いありません。首謀者については捜索中です」
「そうか…ユイルが息子であるという情報が漏れていたか」

クレイダルは少し俯くと思案に暮れる。

「こちらでも調べておこう。報告ご苦労だったな」
「いえ。最後にルーナお嬢様の容体を診させて頂きます。私は魔法医師ですので。ユイル様の許可は得ていますが一応報告を」
「あぁ構わない」
「ありがとうございます。では失礼致します」

咲良はクレイダルと別れるとユイルに連れられてルーナが寝ている部屋へと案内された。

しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

処理中です...