神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

文字の大きさ
106 / 163
第8章 黒竜の雛と特級冒険者

継承争イ

しおりを挟む
(さて、どうやって探すか)

ユイルが居なくなったのは間違いなくアルカナとドレシアの道中だ。咲良が半日で突破したとはいえ捜索するとなるとかなりの広さだ。

(感知を最大に広げていればいずれ見つかるか?…いや、俺の性に合わないな。ここはやはり勘だな)

咲良は感知しつつも探す方角は一切決めず、自身の勘に従って進む。


(おかしい…勘で適当に歩いていたとはいえ町から離れすぎている)

咲良が居るのはアルカナとドレシアの中間地点よりかなり逸れた森の中だ。勘に従ったらこんな所まで来てしまった。

(いったい何が……ん?これは……やっと見つけた!)

咲良は森の奥に人の気配を感知した。ただかなり弱っているようだ。
その気配の元へ駆けよると、大木の根に出来た空洞部分に人が横たわっていた。顔を確認すると間違いなくユイルであった。

「おい!ユイル!」

咲良はユイルに呼びかけながら体を確認するが目立った外傷は見当たらない。何日も食べていない事から衰弱してしまっているようだ。

「う……あ…あなた……は…」
「俺は冒険者だ。依頼でお前を探していた」
「ぼう…けん……しゃ…?」
「そうだ。ユイルで間違いないな」
「は…はい…」
「腹減ったろ?すぐ食べさせてやる」

咲良はユイルを拡張袋から取り出した毛布で包むと、食材を取り出し簡単なスープを作りユイルに手渡す。スープにしたのは何日も食べていない状態でいきなり固形を口にするのは胃に悪いからだ。

それからしばらくしてユイルは何とか喋れるほどに回復した。

「咲良さんと言いましたね。あなたは命の恩人です。本当にありがとうございました!」
「気にするな、依頼だからな。それにしても何故こんな所にいる?」
「病弱なお嬢様の為に薬を取りにドレシアに向かったのですが…道中盗賊に襲われまして」
「なるほど。それで逃げ回ったという訳か」
「はい。足には自信があったので何とか振り切れましたが、現在地が分からなくなってしまいまして」
「そもそも何故1人で来た。護衛か代わりの者に行かせればいいだろう」
「それは…命の恩人であるあなただから言いましたがお嬢様が病弱なのは内密なのです。やっと見つけた特効薬なので他の者に頼むわけにはいかないと奥様直々に言われたので…」
「そうか。なら体調が戻り次第ドレシアに行くか」
「よろしいのですか!?
「旅は道ずれって言うからな。構わないさ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせて頂きます」

そして次の日、何とか動けるようになったユイルは咲良と共にドレシアに向けて出発した。

「あの、咲良さんは僕を探す依頼を受けたのですよね?」
「それがどうかしたか?」
「誰が依頼主なのですか?」
「さぁな。とある貴族令嬢としか聞いていない」
「貴族令嬢ですか…」
「ユイルはハワード家の使用人なんだろう?なら大方ユイルが言う病弱なお嬢様じゃないのか?」
「それは…お嬢様なら…あり得ます」
「まぁそれはいずれ分かることだ。今は先を急ぐことが先決だ」
「はい!分かりました!」

ユイルの身体はまだ万全ではないので移動速度は遅いが何とかアルカナとドレシア間の道に戻ることが出来た。

「ここまで来れば後少しだ」
「そうですね。やっと戻って来られました。一安心ですね」
「それはどうかな。問題というのはいつも突然やってくる」
「それはどういう…」

ユイルは咲良の意図が理解できず困惑していると…

「やっと見つけたぜ」
「逃げ足の速い奴だな」
「魔物にでも食われかと思っていたんだけどな」
「護衛が居るとはな…まとめて殺るか」

数人の盗賊が咲良とユイルを待っていたかの様に現れ2人を取り囲む。

「ユイル。お前を襲ったのはこいつらだな?」
「そうです!間違いありません!」
「お前らは何だ」

咲良は盗賊共に尋ねる。

「どっからどう見ても盗賊だろ」
「俺たち盗賊は決して得物を逃がさない」
「下らない茶番は止めろ。お前たちが盗賊じゃない事は分かっている。誰に雇われた?」

咲良は目の前の集団が雰囲気や体捌きからして盗賊では無い事を瞬時に見抜いていた。恐らく暗殺者の類だろう。

「ほぅ…良い眼をしてるな。だがそんなことお前には関係ない」
「その通り。そいつは生きてちゃならないんだ」

咲良に盗賊ではないと見抜かれた瞬間から暗殺者共の雰囲気が変わった。

(ユイルは生きてちゃならない…か。これは本当に厄介な事になりそうだ。こいつらから情報を引き出したい所だが…恐らく何も知らないだろうな)

奴らはプロだ。依頼主から言われた事のみを遂行し余計な詮索はしない。仮に情報を知っていても吐かないだろうし、そもそも咲良は拷問をした事がない。必要があればするかもしれないがしなくていいのなら遠慮したい所だ。

「話は終わりだ。死んでもらう」

暗殺者共は各自武器を構えて2人に襲い掛かってきた。

「咲良さん!逃げましょう!」
「その必要はない。確かに動きは良いが…相手が悪かったな」

咲良は暗殺者共に魔力を放って吹き飛ばす。そのまま村正を抜くと瞬時に全員を切り裂いた。

「…え?」
「もう終わった」
「そんな…彼らは暗殺者なのに…」
「ほぅ…確かに暗殺者は殺しのプロだが気配を消すのに長けているだけで戦闘力が高いという訳ではない。肉弾戦になれば雑魚だ」
「そうなんですか…咲良さんは頼りになりますね」
「それよりも俺に隠していることがあるだろう…話せ」
「そ…それは…」

咲良の読み通りユイルは何か隠しているらしい。ユイルは彼らが盗賊ではなく暗殺者であると分かっていた。つまり何故自分が狙われているのかも知っているはずだ。

「悪いようにはしない。俺は既に巻き込まれているんだ。何が起こっているのか知る権利があるだろう」
「し、しかし……いえ、話しましょう。咲良さんを巻き込んでしまった」
「で?何故ユイルは狙われている」
「僕はずっとハワード家の使用人として働いてきました。しかし先日旦那様、つまりハワード家の現当主に呼び出されまして、そこで……」

ユイルは何か言いにくそうに俯く。

「何を言われた?」
「僕が…旦那様と女中の間に産まれた息子であると…」
「隠し子という訳か。それで、狙われる理由は?後継者争いだとは思うが」
「その通りです。僕が継承権を持った為に狙われたのでしょう。誰の差し金なのかは分かりませんが」

これは咲良が想像していた以上に厄介事らしい。

「息子だとしても女中との子なら継承権は高くないだろう。狙われる理由にはならない」
「それがそうでもないのです。長男のエノル様は病気で亡くなられ、次男のライオネル様は冒険者をしているのですが所在が掴めません。そして長女のルーナ様は申し上げた通り病弱なので当主には向きません。後第二夫人の奥様にも息子がいらっしゃいますがまだ幼いのです」

どうやら継承権の高い者は既に亡くなっているらしい。あまりに出来過ぎている現状に咲良は違和感を覚えた。

「なるほど。近々当主が変わるとすればユイルはかなり有利な位置にいる事になるな」
「その通りです。僕もいきなり息子であると告げられて困惑しています。僕はあくまでハワード家に仕える使用人です。当主になる気など一切ないのですが…」
「ただの人探しのはずが継承者争いとは…所でユイルに薬を取りに行かせた奥様とやらは第二夫人か?」
「そうです。第二夫人の奥様はルーナ様の為にずっと薬を探しておられました。今までも幾つもの薬を投与したのですが効果はありませんでした。しかし今回…」
「ドレシアで特効薬を見つけたという訳か」
「はい。それでこのような事態に…」
「大方理解した。なら少し急ごう」
「何故ですか?」
「少し引っかかる事があってな」

咲良はユイルを背負うと速度を上げてドレシアに向かった。

しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

処理中です...