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第8章 黒竜の雛と特級冒険者
継承争イ
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(さて、どうやって探すか)
ユイルが居なくなったのは間違いなくアルカナとドレシアの道中だ。咲良が半日で突破したとはいえ捜索するとなるとかなりの広さだ。
(感知を最大に広げていればいずれ見つかるか?…いや、俺の性に合わないな。ここはやはり勘だな)
咲良は感知しつつも探す方角は一切決めず、自身の勘に従って進む。
(おかしい…勘で適当に歩いていたとはいえ町から離れすぎている)
咲良が居るのはアルカナとドレシアの中間地点よりかなり逸れた森の中だ。勘に従ったらこんな所まで来てしまった。
(いったい何が……ん?これは……やっと見つけた!)
咲良は森の奥に人の気配を感知した。ただかなり弱っているようだ。
その気配の元へ駆けよると、大木の根に出来た空洞部分に人が横たわっていた。顔を確認すると間違いなくユイルであった。
「おい!ユイル!」
咲良はユイルに呼びかけながら体を確認するが目立った外傷は見当たらない。何日も食べていない事から衰弱してしまっているようだ。
「う……あ…あなた……は…」
「俺は冒険者だ。依頼でお前を探していた」
「ぼう…けん……しゃ…?」
「そうだ。ユイルで間違いないな」
「は…はい…」
「腹減ったろ?すぐ食べさせてやる」
咲良はユイルを拡張袋から取り出した毛布で包むと、食材を取り出し簡単なスープを作りユイルに手渡す。スープにしたのは何日も食べていない状態でいきなり固形を口にするのは胃に悪いからだ。
それからしばらくしてユイルは何とか喋れるほどに回復した。
「咲良さんと言いましたね。あなたは命の恩人です。本当にありがとうございました!」
「気にするな、依頼だからな。それにしても何故こんな所にいる?」
「病弱なお嬢様の為に薬を取りにドレシアに向かったのですが…道中盗賊に襲われまして」
「なるほど。それで逃げ回ったという訳か」
「はい。足には自信があったので何とか振り切れましたが、現在地が分からなくなってしまいまして」
「そもそも何故1人で来た。護衛か代わりの者に行かせればいいだろう」
「それは…命の恩人であるあなただから言いましたがお嬢様が病弱なのは内密なのです。やっと見つけた特効薬なので他の者に頼むわけにはいかないと奥様直々に言われたので…」
「そうか。なら体調が戻り次第ドレシアに行くか」
「よろしいのですか!?
「旅は道ずれって言うからな。構わないさ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
そして次の日、何とか動けるようになったユイルは咲良と共にドレシアに向けて出発した。
「あの、咲良さんは僕を探す依頼を受けたのですよね?」
「それがどうかしたか?」
「誰が依頼主なのですか?」
「さぁな。とある貴族令嬢としか聞いていない」
「貴族令嬢ですか…」
「ユイルはハワード家の使用人なんだろう?なら大方ユイルが言う病弱なお嬢様じゃないのか?」
「それは…お嬢様なら…あり得ます」
「まぁそれはいずれ分かることだ。今は先を急ぐことが先決だ」
「はい!分かりました!」
ユイルの身体はまだ万全ではないので移動速度は遅いが何とかアルカナとドレシア間の道に戻ることが出来た。
「ここまで来れば後少しだ」
「そうですね。やっと戻って来られました。一安心ですね」
「それはどうかな。問題というのはいつも突然やってくる」
「それはどういう…」
ユイルは咲良の意図が理解できず困惑していると…
「やっと見つけたぜ」
「逃げ足の速い奴だな」
「魔物にでも食われかと思っていたんだけどな」
「護衛が居るとはな…まとめて殺るか」
数人の盗賊が咲良とユイルを待っていたかの様に現れ2人を取り囲む。
「ユイル。お前を襲ったのはこいつらだな?」
「そうです!間違いありません!」
「お前らは何だ」
咲良は盗賊共に尋ねる。
「どっからどう見ても盗賊だろ」
「俺たち盗賊は決して得物を逃がさない」
「下らない茶番は止めろ。お前たちが盗賊じゃない事は分かっている。誰に雇われた?」
咲良は目の前の集団が雰囲気や体捌きからして盗賊では無い事を瞬時に見抜いていた。恐らく暗殺者の類だろう。
「ほぅ…良い眼をしてるな。だがそんなことお前には関係ない」
「その通り。そいつは生きてちゃならないんだ」
咲良に盗賊ではないと見抜かれた瞬間から暗殺者共の雰囲気が変わった。
(ユイルは生きてちゃならない…か。これは本当に厄介な事になりそうだ。こいつらから情報を引き出したい所だが…恐らく何も知らないだろうな)
奴らはプロだ。依頼主から言われた事のみを遂行し余計な詮索はしない。仮に情報を知っていても吐かないだろうし、そもそも咲良は拷問をした事がない。必要があればするかもしれないがしなくていいのなら遠慮したい所だ。
「話は終わりだ。死んでもらう」
暗殺者共は各自武器を構えて2人に襲い掛かってきた。
「咲良さん!逃げましょう!」
「その必要はない。確かに動きは良いが…相手が悪かったな」
咲良は暗殺者共に魔力を放って吹き飛ばす。そのまま村正を抜くと瞬時に全員を切り裂いた。
「…え?」
「もう終わった」
「そんな…彼らは暗殺者なのに…」
「ほぅ…確かに暗殺者は殺しのプロだが気配を消すのに長けているだけで戦闘力が高いという訳ではない。肉弾戦になれば雑魚だ」
「そうなんですか…咲良さんは頼りになりますね」
「それよりも俺に隠していることがあるだろう…話せ」
「そ…それは…」
咲良の読み通りユイルは何か隠しているらしい。ユイルは彼らが盗賊ではなく暗殺者であると分かっていた。つまり何故自分が狙われているのかも知っているはずだ。
「悪いようにはしない。俺は既に巻き込まれているんだ。何が起こっているのか知る権利があるだろう」
「し、しかし……いえ、話しましょう。咲良さんを巻き込んでしまった」
「で?何故ユイルは狙われている」
「僕はずっとハワード家の使用人として働いてきました。しかし先日旦那様、つまりハワード家の現当主に呼び出されまして、そこで……」
ユイルは何か言いにくそうに俯く。
「何を言われた?」
「僕が…旦那様と女中の間に産まれた息子であると…」
「隠し子という訳か。それで、狙われる理由は?後継者争いだとは思うが」
「その通りです。僕が継承権を持った為に狙われたのでしょう。誰の差し金なのかは分かりませんが」
これは咲良が想像していた以上に厄介事らしい。
「息子だとしても女中との子なら継承権は高くないだろう。狙われる理由にはならない」
「それがそうでもないのです。長男のエノル様は病気で亡くなられ、次男のライオネル様は冒険者をしているのですが所在が掴めません。そして長女のルーナ様は申し上げた通り病弱なので当主には向きません。後第二夫人の奥様にも息子がいらっしゃいますがまだ幼いのです」
どうやら継承権の高い者は既に亡くなっているらしい。あまりに出来過ぎている現状に咲良は違和感を覚えた。
「なるほど。近々当主が変わるとすればユイルはかなり有利な位置にいる事になるな」
「その通りです。僕もいきなり息子であると告げられて困惑しています。僕はあくまでハワード家に仕える使用人です。当主になる気など一切ないのですが…」
「ただの人探しのはずが継承者争いとは…所でユイルに薬を取りに行かせた奥様とやらは第二夫人か?」
「そうです。第二夫人の奥様はルーナ様の為にずっと薬を探しておられました。今までも幾つもの薬を投与したのですが効果はありませんでした。しかし今回…」
「ドレシアで特効薬を見つけたという訳か」
「はい。それでこのような事態に…」
「大方理解した。なら少し急ごう」
「何故ですか?」
「少し引っかかる事があってな」
咲良はユイルを背負うと速度を上げてドレシアに向かった。
ユイルが居なくなったのは間違いなくアルカナとドレシアの道中だ。咲良が半日で突破したとはいえ捜索するとなるとかなりの広さだ。
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「おい!ユイル!」
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「う……あ…あなた……は…」
「俺は冒険者だ。依頼でお前を探していた」
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「そうだ。ユイルで間違いないな」
「は…はい…」
「腹減ったろ?すぐ食べさせてやる」
咲良はユイルを拡張袋から取り出した毛布で包むと、食材を取り出し簡単なスープを作りユイルに手渡す。スープにしたのは何日も食べていない状態でいきなり固形を口にするのは胃に悪いからだ。
それからしばらくしてユイルは何とか喋れるほどに回復した。
「咲良さんと言いましたね。あなたは命の恩人です。本当にありがとうございました!」
「気にするな、依頼だからな。それにしても何故こんな所にいる?」
「病弱なお嬢様の為に薬を取りにドレシアに向かったのですが…道中盗賊に襲われまして」
「なるほど。それで逃げ回ったという訳か」
「はい。足には自信があったので何とか振り切れましたが、現在地が分からなくなってしまいまして」
「そもそも何故1人で来た。護衛か代わりの者に行かせればいいだろう」
「それは…命の恩人であるあなただから言いましたがお嬢様が病弱なのは内密なのです。やっと見つけた特効薬なので他の者に頼むわけにはいかないと奥様直々に言われたので…」
「そうか。なら体調が戻り次第ドレシアに行くか」
「よろしいのですか!?
「旅は道ずれって言うからな。構わないさ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
そして次の日、何とか動けるようになったユイルは咲良と共にドレシアに向けて出発した。
「あの、咲良さんは僕を探す依頼を受けたのですよね?」
「それがどうかしたか?」
「誰が依頼主なのですか?」
「さぁな。とある貴族令嬢としか聞いていない」
「貴族令嬢ですか…」
「ユイルはハワード家の使用人なんだろう?なら大方ユイルが言う病弱なお嬢様じゃないのか?」
「それは…お嬢様なら…あり得ます」
「まぁそれはいずれ分かることだ。今は先を急ぐことが先決だ」
「はい!分かりました!」
ユイルの身体はまだ万全ではないので移動速度は遅いが何とかアルカナとドレシア間の道に戻ることが出来た。
「ここまで来れば後少しだ」
「そうですね。やっと戻って来られました。一安心ですね」
「それはどうかな。問題というのはいつも突然やってくる」
「それはどういう…」
ユイルは咲良の意図が理解できず困惑していると…
「やっと見つけたぜ」
「逃げ足の速い奴だな」
「魔物にでも食われかと思っていたんだけどな」
「護衛が居るとはな…まとめて殺るか」
数人の盗賊が咲良とユイルを待っていたかの様に現れ2人を取り囲む。
「ユイル。お前を襲ったのはこいつらだな?」
「そうです!間違いありません!」
「お前らは何だ」
咲良は盗賊共に尋ねる。
「どっからどう見ても盗賊だろ」
「俺たち盗賊は決して得物を逃がさない」
「下らない茶番は止めろ。お前たちが盗賊じゃない事は分かっている。誰に雇われた?」
咲良は目の前の集団が雰囲気や体捌きからして盗賊では無い事を瞬時に見抜いていた。恐らく暗殺者の類だろう。
「ほぅ…良い眼をしてるな。だがそんなことお前には関係ない」
「その通り。そいつは生きてちゃならないんだ」
咲良に盗賊ではないと見抜かれた瞬間から暗殺者共の雰囲気が変わった。
(ユイルは生きてちゃならない…か。これは本当に厄介な事になりそうだ。こいつらから情報を引き出したい所だが…恐らく何も知らないだろうな)
奴らはプロだ。依頼主から言われた事のみを遂行し余計な詮索はしない。仮に情報を知っていても吐かないだろうし、そもそも咲良は拷問をした事がない。必要があればするかもしれないがしなくていいのなら遠慮したい所だ。
「話は終わりだ。死んでもらう」
暗殺者共は各自武器を構えて2人に襲い掛かってきた。
「咲良さん!逃げましょう!」
「その必要はない。確かに動きは良いが…相手が悪かったな」
咲良は暗殺者共に魔力を放って吹き飛ばす。そのまま村正を抜くと瞬時に全員を切り裂いた。
「…え?」
「もう終わった」
「そんな…彼らは暗殺者なのに…」
「ほぅ…確かに暗殺者は殺しのプロだが気配を消すのに長けているだけで戦闘力が高いという訳ではない。肉弾戦になれば雑魚だ」
「そうなんですか…咲良さんは頼りになりますね」
「それよりも俺に隠していることがあるだろう…話せ」
「そ…それは…」
咲良の読み通りユイルは何か隠しているらしい。ユイルは彼らが盗賊ではなく暗殺者であると分かっていた。つまり何故自分が狙われているのかも知っているはずだ。
「悪いようにはしない。俺は既に巻き込まれているんだ。何が起こっているのか知る権利があるだろう」
「し、しかし……いえ、話しましょう。咲良さんを巻き込んでしまった」
「で?何故ユイルは狙われている」
「僕はずっとハワード家の使用人として働いてきました。しかし先日旦那様、つまりハワード家の現当主に呼び出されまして、そこで……」
ユイルは何か言いにくそうに俯く。
「何を言われた?」
「僕が…旦那様と女中の間に産まれた息子であると…」
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「その通りです。僕が継承権を持った為に狙われたのでしょう。誰の差し金なのかは分かりませんが」
これは咲良が想像していた以上に厄介事らしい。
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「それがそうでもないのです。長男のエノル様は病気で亡くなられ、次男のライオネル様は冒険者をしているのですが所在が掴めません。そして長女のルーナ様は申し上げた通り病弱なので当主には向きません。後第二夫人の奥様にも息子がいらっしゃいますがまだ幼いのです」
どうやら継承権の高い者は既に亡くなっているらしい。あまりに出来過ぎている現状に咲良は違和感を覚えた。
「なるほど。近々当主が変わるとすればユイルはかなり有利な位置にいる事になるな」
「その通りです。僕もいきなり息子であると告げられて困惑しています。僕はあくまでハワード家に仕える使用人です。当主になる気など一切ないのですが…」
「ただの人探しのはずが継承者争いとは…所でユイルに薬を取りに行かせた奥様とやらは第二夫人か?」
「そうです。第二夫人の奥様はルーナ様の為にずっと薬を探しておられました。今までも幾つもの薬を投与したのですが効果はありませんでした。しかし今回…」
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