神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第9章 派生流派と天乱四柱

再会決意

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「世話になったな」
「ありがとうございました!」
「キュキュ!」

門の下で咲良達は感謝の意を述べる。その相手はもちろん椿と琴音だ。

「此方こそお世話になりました。咲良さんには返しきれない恩が出来ましたね」
「気にするな。俺が勝手にやった事だ」
「近いうち必ず合流します」
「あぁ…ならこれを」

咲良は椿に赤い宝石が嵌め込まれたブレスレットを手渡す。

「起動させてみろ。その魔道具マジックアイテムが俺の場所を教えてくれる。示すのは方角だけだがな」

椿がブレスレットに魔力を流すと宝石から赤いレーザーの様な光が咲良に向かって伸びている。

「なるほど。これなら行き違いになる事は無さそうですね」
「さっさと追いついてこい」
「もちろんです」

咲良と椿が固く握手を交わすと琴音が声を掛ける。

「おい咲良、次会った時は覚悟しとけよ」
「しつこい野郎だ。何時でも返り討ちだ」

2人は好戦的な笑みを浮かべながら同じ様に握手を交わした。

この数日、琴音は毎日の様に咲良に勝負を挑んだが結果は全敗。それでも挑んでくる琴音の心情はもはや意地である。
たが咲良も余裕があったわけではない。暗黙の了解で魔法や刀の能力は使わずに戦っていたが、経験値は圧倒的に琴音が上なので危ない場面はいくつもあった。
50歳を超えている琴音だが、伸び代は椿以上にあるのかもしれない。

「また会おう」

咲良はソフィとクロを連れて屋敷を後にする。

これから一行が向かうのはトーレリアス。別名美食の宝庫と呼ばれる料理が盛んな町だ。

「足止めさせて悪かったな」
「大丈夫ですよ。私も色々良い経験が出来ましたから」
「そうか、それなら良かった。トーレリアスまではそう遠くないが先を急ごう」
「はい!」
「キュイ!」

一行は意気揚々と歩き出す。ソフィの足取りがいつもより軽いように感じるのは勘違いでは無いだろう。トーレリアスには探し続けた人が居るのだから。




「ここがトーレリアス…素敵な街ですね」
「そうだな。アルカナとは違う活気で溢れてる」

咲良達は数日でトーレリアスに辿り着いた。道中トラブルが起きる事は無く、純粋に旅を楽しむことが出来た。

目の前のトーレリアスは宿屋や食堂が立ち並び、あちこちから良い匂いが漂って来て鼻を刺激する。

「良い匂いですね。何か食べませんか?」
「その意見には賛成だが先にする事があるだろう?食事はそれからにしよう」
「分かりました。お店を探しましょう」

探す店の名は〈六華亭〉。ソフィの友人、木下海斗が料理大会の優勝賞品として開店した寿司専門の店だ。

〈六華亭〉は探し始めて数分で見つかった。何故なら〈六華亭〉の前は人で溢れていたからだ。料理大会の反響によってかなり繁盛しているようだ。

「かなり混んでいますね」
「面倒だが並ぼう。割り込むのはマナー違反だからな」
「お寿司も食べれますしそうしましょう」

一同は行列の最後尾に並んで順番を待つ。
店内には入れたのはそれから2時間後だった。

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

店内に入ると店員が席に案内してくれる。

「お薦めを何品か頼む」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」

店員が去ってから暫くすると料理が運ばれてきた。

「こ…これは…」

運ばれてきたのは寿司だけでは無かった。香辛料の香りが鼻の奥に程よい刺激を与える茶色の食べ物、地球でいうカレーが一緒に運ばれてきたのだ。

「こちら当店自慢のお寿司と開発したばかりのカレイと呼ばれる料理になります」
「カレーを食べれるとは…」
「懐かしいですね」

咲良とソフィはまじまじとカレーを見つめる。そのカレーは日本独自の具材がゴロゴロと入ったカレーで、咲良もソフィも日本ではよく食べていたので懐かしく感じた。しかしクロは寿司もカレーも食べた事が無いので首を捻っていた。

「ではごゆっくり」
「あぁすまん。後でこの料理を作った人と話がしたいんだが…」
「料理長に?閉店後なら構わないと思いますが…」
「それで構わない。それまでここで待っていても?」
「大丈夫ですよ。お客様も少なくなって来てますから」

店員はそう言うと一礼して去って行った。

「そういう訳だ。食事しながら待とう」
「そうですね」

咲良とソフィは寿司とカレーを食べると、その美味しさと懐かしさに手が止まらなくなった。しかしクロは咲良が食べている皿の匂いを嗅ぐだけで中々食べようとしない。

「クロ、これは俺の故郷の料理だ。騙されたと思って食べてみな」

クロはまだ幼いので見た事の無い食べ物を躊躇いもなく口にするのは気が引けるのだろう。咲良に促されたクロは恐る恐る寿司を突く様にして口にする。

「……キュイキュイ!」

どうやらお口に召した様でクロは寿司とカレーを交互にバクバクと食べだした。

「おいおい、俺と半分ずつだぞ。全部食う気か?」

咲良もクロに食べられる前に手と口を忙しく動かす。その光景を微笑ましく見つめながらソフィも食事を再開する。


故郷の味を堪能した後、暫く待っていると直ぐに閉店の時間となった。六華亭の料理は珍しい食材が多い。そのため一日中開店すると食材がすぐに尽きてしまうので営業時間を短くしているらしい。


「僕を待っているのは君たちだね?一体何の用……ソフィア?」

席に近づいて来たコック姿の木下海斗がソフィを見て固まった。

「海斗君…ようやく会えた。久しぶりだね」

ソフィは海斗に会えたというのに思ったほど喜んでいない様に見える。

「どうしてソフィアがここに…」
「探してたの。皆もこの世界に来てると思って」
「そうか。やっぱりあの時一緒にいた皆も来ているんだ…」
「そこまではまだ…」
「所でそちらの方は?」
「紹介してなかったね。こちら咲良さん。私をここまで連れて来てくれた恩人だよ」

ソフィはクロも紹介しようとして踏みとどまった。クロは今銀匠の腕輪によって海斗には見えていないので紹介しても分からないだろうし、何より咲良がクロを紹介する必要はないと目で訴えかけてる様に感じた。

「咲良だ。因みにあんたと同じ地球人だ」
「え?そ…そうか。僕達以外にも地球の人がいるとは知らなかったよ」
「知らなかったのか?」
「あぁ…毎日生きるのに必死だったからね」
「なるほどな」

咲良はそう言うと徐に席を立った。

「俺は席を外そう。旧友との仲を邪魔するつもりは無いからな」
「咲良さん。私は別に…」
「そう気を使うな。俺は近くで宿を取るから何かあれば探してくれ。今のソフィなら出来るだろ?」

咲良はそのまま六華亭を後にした。
今のソフィなら出来ると言ったのは、魔法を使えば俺を探せるだろうと言う意味だ。ソフィは琴音の元で修行した結果、魔法の見えざる者を昇華させる事に成功していた。全ての性能が上がった事は言うまでもないが、気配を消せるという事は気配に敏感という事だ。つまり気配を探る事も出来るのではないかと考えた琴音の指導によってマーキングの様な能力を手に入れていた。
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