神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第10章 異世界人と隠された秘密

血ノ痕跡

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「また来るぞ!」
「私が出ます!」
「俺もだ!行くぞ!」

通路の奥から現れた魔物にサイモンとハロルドが自身の得物を握りしめて立ち向かう。

現在咲良達は次々と襲い掛かる魔物によってあまり前進出来ずにいた。
交代で魔物に対応しているが進めば進むほど湯水のように溢れてくるのだ。それも全てS級相当の魔物ばかりだ。

「俺がやる!」

咲良がサイモンたちの前に躍り出ると氣斬で次々と魔物を屠っていく。

「はぁ…はぁ…すみません…助かりました」
「すまん坊主…くそ…ウジャウジャ出てきやがる」
「ふぅ…流石の私も少し疲れてきました」

サイモンとハロルドはもうすでに限界だ。2人とも肉体派なだけあって魔物に後れを取ってはいないが体力という枷は外せない。天乱四柱のマリアですら肩で息をしているほどだ。ソフィとクロは咲良がカバーしながら戦っているのでまだ安全圏だ。

「さっきの分かれ道を左に行った方が良かったんじゃないか?」
「分かりません。ただこのままでは埒が明かないのも事実ですね」

ハロルドの意見にサイモンが同調する。

実は先程通路が2本に分かれていたのだ。足跡などの痕跡は魔物が通ったからなのか見つからなかったので咲良の勘に従って右の通路を進んだ。しかし現状は魔物に囲まれている。

「ここは一度戻りましょう」

マリアの一言で一同は体制を整える為に通路を逆走し、分かれ道まで戻る事にした。
その間咲良は何故自分の勘が間違ったのかを考えていた。

(俺の勘が外れるか……確かに絶対に当たるとは言い難いが…)

通路を逆走しながら考えていると一つの結論に至った。

(そうか…俺の勘が外れたわけじゃない。俺はこの地下の最深部に続く道がどっちなのかを勘で判断した。つまり救出部隊がどっちに行ったかは考えていなかった……俺のミスか。皆には悪い事をしたな)

「みんな聞いてくれ」

咲良は走りながら全員に呼びかける。

「この道はまず間違いなく奥へと続いている。だが調査部隊や救出部隊があの魔物共を突破したとは考えられない。つまり左の通路にいる可能性が極めて高い…生きていればの話だがな」
「確かに…戦闘に必死で考え付きませんでした」
「俺もだ。よく考えりゃ単純な事だな」

皆納得したようだが咲良は後ろをチラリと見ながら眉間に皺を寄せる。

「どうかしましたか?」

走りながら隣に移動してきたマリアが問いかける。

「あの魔物共は何故背を向けた俺達を追ってこない…普通あり得ないだろ」
「それは私も感じていました。それに統率が取れている様にも見えますね」
「あぁ…向かって来る者だけを狙って逃げる者は追撃しない。まるで何かを守っている様な動きだ」
「何かを守る…ですか…いったいこの奥に何があると言うのです?」
「さぁな…だが魔物が守る物など碌な物じゃないだろう」
「そうですね…今は一先ず目的を果たしましょう。具体的な話はそれからです」

未だこの空間が何なのか何も分かっていないが、今は考えても仕方のない事だ。

「ここだ」

分かれ道に一番早く辿り着いたハロルドが足を止めてボソリと呟く。先程までの厳しい戦いから逃れられた事に少し安堵しているようだ。

「次は左の通路ですか」
「またさっきみたいにうじゃうじゃ出てこられたら身体が持たん」
「ここで少し休もう。見張りは俺とクロで受け持つ」

咲良とクロは氣を使えるのでこの面子の中では最も戦力が高い。それに咲良は生存本能の勘、クロは竜としての勘で魔物が来ても察知する事が出来るので見張りをするのは最適だ。

「良いのですか?」

サイモンが疲れた顔で聞いて来る。咲良に任せるのは癪だが見張りをする体力はもう無いと言った所だろう。

「あぁ。俺達はそこまで疲れていないし数日程度なら寝なくても問題ないからな」
「キュイキュイ!」
「私も手伝うよ」
「ソフィも休め。さっきも言ったろ、適材適所だと。ミイラ取りがミイラになったら意味ないだろう」
「そっか…じゃあお願いするね」

各々座り込んで休息を取るのを確認すると咲良はクロにある仕事を託した。

「出来るか?」
「キュイ!」
「そうか、なら頼む。それによって今後行動がしやすくなる」
「キュイキュイ!」

クロは大きく鳴いて咲良に頭を撫でてもらうと左側の通路に羽ばたいていった。



しばらくするとクロが戻って来た。その口には鈍く輝くペンダントが咥えられている。

「よくやったクロ。見つけたか…それでどうだった?」
「キューキュイ!」
「そうか…遅かったか…ありがとうクロ、休んでおけ」
「キュイキュイ!」

クロは褒められたのが嬉しかったのか、咲良の頭の上で気持ち良さそうに眠り始めた。
それを見届けた咲良も座禅を組んで精神を集中させる。これは氣を使って消耗した精神を鍛え上げるのに最も適した方法だ。



「咲良くん…凄い集中力ですね」

休息を取ってから約4時間後、目を覚ましたサイモンが座禅を組む咲良に声を掛ける。

「起きたか…疲れは取れたようだな」
「はい。有難うございました」
「なら皆を起こしてくれ、伝える事がある」
「?…分かりました」

サイモンは不思議に思いながらも皆を起こしに回る。

「話とは何です?」

休息を取ったおかげか少し顔色が良くなったマリアが咲良に問いかける。

「皆が休息を取っている間、クロに通路の先を見て来てもらった」
「クロちゃんが!?流石に危ないよ!」

ソフィがクロを偵察に行かせた咲良を非難する。

「クロには気配を消す魔道具がある。それに…魔力が使えない状況を踏まえても、この中でクロは俺の次に強いぞ」
「え?この小さな竜が?」
「流石にそれはねぇだろ」

サイモンとハロルドは笑いながら否定するが、咲良の表情を見ると冗談を言っている様には見えなかった。

「さっき魔物と戦った時にクロを見ていなかった様だな。まぁクロの力はいずれ分かる。それよりクロが通路の先で目標を見つけた。これが証拠だ」

咲良はクロが持ってきたペンダントを見せる。

「それは…」
「まぁそういう事だな」

サイモンがペンダントを見つめながら悲痛そうな表情を浮かべる。何故なら元々銀色であっただろうペンダントは血が付着し、変色した為に黒く濁っていたからだ。
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