神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第10章 異世界人と隠された秘密

鉱石火葬

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「一応確認しに行くぞ。もう手遅れだろうが…」
「直ぐにでも行きましょう!もしかすると生きている人が居るかもしれません!」
「そうだね!早く助けてあげなきゃ!」

サイモンが少ない可能性に望みを掛けるとソフィが便乗する。

「それはな……いや、行くか」

咲良は「それはない」と言いかけて止めた。咲良は既に生きている者はいないだろうと考えているが、答えはすぐに分かるとはいえ、今それを言うのはいささか無粋であると思い留まったのだ。



「血の跡が其処ら中にありますね…異常な量です」

マリアが眉間に皺を寄せながら呟く。
今咲良達は左側の通路を進んでいるが、奥に進めば進むほど壁や地面に夥しい程の血が付着していた。

「戦闘の形跡はあるが…妙だな」
「そうですね。これではまるで…」

咲良とマリアは残った形跡に違和感を覚えたが、経験の差なのか他の面子は気付いていない。力ある者は強さだけでなく物事を見極める目が必要となるが、まだ彼らはその目を持っていないという事だ。

「妙とは?」

何の事かさっぱり分からない一同を代表するかの様にサイモンが問いかける。

「それは後だ。一先ず先に進むぞ…この奥にいるはずだ」
「そうでしたね!急ぎましょう」

サイモンは我先にと通路を駆け抜けていくと、ハロルドとソフィもその後を追いかけた。

「良いのですか?事実を告げなくて」

走っていく一同の背中を見つめながらマリアが咲良に問う。

「確かに結果は見えている…だが淡い希望に縋るってのも悪くは無いだろう」
「淡い希望…ですか。以外に甘い所があるのですね」
「俺はそんなに冷たい人間に見えるのか?」
「さぁどうでしょう。ただ…本当に冷たい人間には付いて来る者などいないと思いますよ」

マリアはニコリと笑いながら通路の奥に歩いて行った。

「なぁクロ…あいつ、俺をフォローしたつもりなのか?」
「キュイ?」
「まぁ良い…俺達も行こう」

咲良はマリアの言葉に違和感を覚えながらもクロと一緒に跡を追った。


しばらく歩くと部屋の様に広がった空間があり、その手前で一同が足を止めているのが目に入った。

「どうやら見つけた様だな」

咲良が近づきながら声を掛けるが誰からも返事は帰って来なかった。そして広がった空間に近づく程に思わず息を止めたくなる異臭が漂って来る。

「これは……惨いな」

返事が帰って来なかった原因は目の前の光景にある。壁には血だけでなく肉片なのか臓器なのか分からない程グチャグチャになった物体が付着し、地面には体を力任せに千切った様な腕や脚、頭がバラバラに転がっているのだ。もはや原型を留めている個体は無く、何十人もの人間が巨大なミキサーにかけられたかの様で惨いと言う他なかった。そして彼らが着けていたであろう防具や武器も拉げた状態で転がっていた。

「こんな事があっていいのか…」

ハロルドが怒りに震えながら小さく呟く。

「う…」

ソフィは耐性が無いようで吐き気を催す。

「無理するな。見なくて良いんだぞ」
「ううん…大丈夫…ここで背を向けるのは…亡くなった方に失礼だと思うから…」
「そうか」

咲良はソフィの背中をさすりながら強くなったな、と感心していた。

「しかし、これでは身元確認が出来ませんね」

直ぐに気持ちを切り替えたマリアが冷静に状況を分析する。目の前の光景は直視出来るものではないがギルドマスターとしての責務を果たそうとするマリアは流石と言える。

「だがこれだけの死体だ。先にこの地下に入った者全員がここで亡くなったと考えるのが妥当だろう」

咲良もマリアに倣って状況を分析する。咲良の言う通り目の前の部屋にあるバラバラの死体は相当数にのぼる。調査部隊と救助部隊の人員は合わせて18名、その全員がこの場で殺されたと言っても過言ではないだろう。

「遺品になりそうな物を回収したら火葬してやろう」

咲良の一言で一同はぎこちない動きで部屋へと足を踏み入れた。

「どれも潰れていて遺品になりそうもないな」
「そうですね。それと…気付いていますか?先程と同じ戦闘痕…」

遺品を回収しているとマリアが険しい表情で咲良に尋ねてくる。

「あぁ…俺達も警戒した方が良さそうだ」
「作業を終えると皆さんに報告しましょう」
「そうだな。警戒は怠るなよ」
「誰に言っているのですか?当然ですよ」

マリアはそのまま作業に戻って行った。

そして数十分後、遺品を回収し終わったので火葬の準備に取り掛かる。

「どうやって燃やすんだ?」

ハロルドが咲良に問いかける。

「死体を集めるのが手っ取り早いが…荒れすぎているからな。燃料を撒いてこの部屋ごと燃やす」
「燃料なんて何処にあるんだ?」
「これを使う」

咲良は拡張袋から大量の火炎石と発燃石を取り出した。

「なるほどな…坊主は鍛冶師だから持っていても不思議じゃないか。でもそんな鉱石で燃えるのか?」
「もちろんだ。まぁ見とけ」

咲良はそう言うと部屋中に火炎石を投げ入れる。そして発燃石を握りつぶして粉々にすると撒き散らした。粉々になった発燃石が火炎石に付着すると彼方此方でボゥッと勢いよく燃え広がり、瞬く間に部屋は炎で包まれた。

発燃石は細かく砕く事で火薬替わりになる。その火薬が熱を帯びた火炎石に付着する事で燃えたのだ。

「部屋全体が火葬場みたいになったな」
「そうですね…しかし、この熱波と煙は少しキツイものがあります」

サイモンが的を射た意見を発するが部屋から押し寄せる熱波によって一同は顔を顰め、煙を吸い込み苦しそうにする。しかし目を背けまいと必死に抵抗する。
咲良は苦しそうにしている一同をチラリと見ると、氣を放出して気流を生み出し熱波と煙を後方へと逃がした。氣の本来の使い方ではないので少し辛いものがあるが、そうしなければ自分達も危ないので仕方が無かった。

暫くして炎が収まると部屋中が真っ黒に焦げ、血や肉片は燃え尽きていた。

「これで良かったんだよね」

悲しい表情を浮かべたソフィが咲良の腕を掴みながら呟く。

「荒っぽいやり方だが…野晒しにしておくより余程マシだ」
「そうだね…」
「これで彼らも成仏出来るでしょう。それと咲良さん、私達の為に有難う御座いました」

マリアが一同を代表して頭を下げる。恐らく氣で熱波と煙を防いだ事を言っているのだろう。

「臨時とはいえ俺達はパーティだからな。気にする必要はない」
「そうですか…所で、そろそろ話しておいた方が良いのではありませんか?」
「戦闘痕についてか…そうだな」

咲良とマリアは目を合わせて頷くと他の面子を呼び集めた。
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