神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

文字の大きさ
149 / 163
第10章 異世界人と隠された秘密

危険個体

しおりを挟む
「話とは何です?」
「深刻そうな表情だな」

サイモンとハロルドが緊張した様子で尋ねてくる。普段冷静な咲良とマリアが深刻な表情を浮かべているのが2人には酷く恐ろしく感じた。

「そんな深刻な問題なの?」

ソフィも咲良があまり見せない表情である事に気付き、不安な気持ちが押し寄せる。

「話というのは他でもない。彼らを殺した奴についてだ」
「犯人が分かったのか!?」
「魔物であるのは間違いないだろうが…どんな魔物かは俺も分からん」
「なら何が分かったと言うのです?」
「彼らを襲った魔物は……1体だ」
「……え?」
「お、おいおい!そんなバカな!」
「咲良…本当なの?」

当然ながらマリアは気付いているので驚かないが、それ以外は衝撃的な事実に目を見開いて驚く。

「戦闘痕から見ても間違いない。恐らくその1体の魔物にここまで追われたんだろう」
「何故そう言い切れるのです?」

サイモンは何故其処まで言い切れるのか分からず咲良に問いかける。

「そもそもこんな狭い通路で魔物の群れと混戦したっていうのは無理がある」
「それは…確かに」

咲良の言い分にサイモンは納得した。確かに目の前の部屋は広いが、それはあくまでこの通路に比べての話だ。この部屋に調査部隊と救出部隊、そして魔物の群れが入るほどのスペースは無い。

「それと…こっちの通路で俺達は一度も魔物に遭遇していない。もし彼らを襲ったのが複数の魔物ならそいつらはどこに行ったんだ?」
「なるほどな…」
「理由はまだあるぞハロルド。右側の通路では魔物は追いかけて来なかったのに左側の魔物だけ追いかけてくるってのも変な話だろ」
「坊主…すげぇな。完全に盲点だった」
「マリアも気付いていたぞ」

咲良の観察眼にハロルドは心底感心するが、それと同時に特級との差を痛感した。冒険者階級でS級というのは一流に相当する筈なのだが、特級冒険者と戦闘面だけでなく観察眼でもここまで差があるとは思ってもいなかったのだ。

「これらの事から考えられるのは…その1体の魔物はこの通路を徘徊している可能性がある。つまり…」
「俺達も鉢合わせる可能性がある…という事か」
「その通りです」

咲良に代わってマリアが説明を続ける。咲良にだけ話をさせるのは気が引けたのかもしれない。

「更に言えば…その魔物はSS級の可能性が極めて高いと思われます」
「…SS級ですか…」

マリアの言葉にサイモンはゴクリと固唾を呑む。S級とSS級の魔物では強さの格が違うので魔力が使えない状況では出会いたくない相手だ。

「なので警戒を怠らないようにしなければならないのですが…それよりもこれからどうするかを考えるべきです」
「今回の依頼内容は救出及び内部調査。救出は手遅れだと分かった今、調査に移行すべきだがここは思った以上に危険だ。帰還するというのも選択肢の一つだ」

マリアの言葉を補助するように咲良が言うと、一同はどうすればよいのか考えだす。依頼遂行を目指すなら奥に進むべきだが、冒険者は引き際を見極めなければ生きてはいけない職業だ。

「俺は調査すべきだと思う。俺達が帰還してもどうせ他の奴が行く羽目になるんだからな」
「私も賛成です。それに…今は咲良くんという強力な味方がいますからね。咲良くんが王都に滞在している今がチャンスだと思います」
「私も調査したい!あの人達が何で亡くなったのかは知るべきだと思う!」
「だそうですよ咲良さん。どうしますか?」
「ま、良いんじゃないか?元々そのつもりで準備して来たんだ」

咲良はやれやれと首を振りながらも一同の意見を了承する。
この時気付いたが咲良はいつの間にかこの臨時パーティの決定権を持つリーダー的存在になっていた。無論特級冒険者である咲良がリーダーとなるのは何ら不思議な事ではないが、ギルドマスターのマリアを差し置いてリーダーになるのは少しばかり違和感だ。

「で、調査するにしてもどこから当たる?この通路の先に何があるかは知らないが、奥に続いているのは間違いなく右側の通路だ」
「その根拠は何だ?」
「さっきも言ったが右側の通路にいる魔物は近づく者だけに襲い掛かる。まるで何かを守るようにな。後は俺の勘だ」
「一理あるな。それに特級冒険者である坊主の勘というのも無視は出来ん」

ハロルドの言う通り、一定以上の実力を持ちつつ多くの経験を積んだ者の勘は案外当たる。咲良の場合は経験による勘はもとより、生存本能による第六感があるので勘の鋭さは他者の比ではない。

「咲良はどっちに行くべきだと思う?」

ソフィは自分も勘で分かるのではと思い実行してみたが、現実はそう甘くはないようで咲良に助言を求めた。

「俺なら右に行く。調査するには奥に進むのが一番効率的だからな。まぁこの通路でも何かしら見つかるかもしれんが…無ければ時間と体力を消費するだけだ」
「私も咲良さんの意見に賛成ですね。右の通路の方が危険ではありますが臭うのは確かです」
「2人が言うならそうなんだろうな」
「そうですね。しかし…あのS級の魔物の群れをどう突破するかが問題です」

サイモンは先程命の危機が何度かあった戦闘を思い出す。咲良とマリア、そしてクロの援護が無ければ死んでいた可能性もあったのだ。

「俺が先頭、クロを殿に配置して一点突破する。皆はその援護に回ってくれ」
「このパーティではその陣形がベストですね」

マリアは咲良の案に賛同する。最も攻撃力のある咲良が先陣を切り、次に強いクロが殿を務める事でソフィ達の負担を減らす事が出来、尚且つ中心のソフィ達に経験を積ませる事も可能となる。

「クロ…頼むぞ。これからの戦いは厳しいものになるだろう。何かあった時は氣を使える俺とクロで対応しなきゃならん」
「キュイ!」
「ふっ…頼もしいな」

咲良はクロの頭を撫でると、一同を連れて右側の通路へと続く分岐点まで歩き出した。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...