神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

文字の大きさ
158 / 163
第10章 異世界人と隠された秘密

稀ノ恐怖

しおりを挟む
「何も見えないな」
「キュイ」
「そうだね。もう前も後ろも分からなくなった」

霧の外で無言の時間が流れているとは露程も知らない咲良は警戒しながら真っ白な世界をひたすら歩いていた。

「ねぇ咲良。ずっと思ってたんだけど…クロちゃんは先に進めるの?」
「あぁ………どうかな…」
「忘れてたんだ…」
「キュイキュイ!」

クロが咲良の頭を突いて忘れるな!と非難する。

「……すまん……でも大丈夫だ。クロは世界の調停者だからこの世界の住人とは少し違う」
「それって今考えてない?」
「…そんな事は無い。それに異世界人と一緒なら先に進める可能性だってある」
「それなら最初から全員で行ってたでしょ?」
「キュイキュイ!」

クロの様子からしてソフィが正解だ。
咲良はその場しのぎで適当に考えたがあっさりと見破られてしまった。

「一応俺の肩に止まっとけ。触れていた方が良いかも知れん」

何事も無かったかのように話した咲良をソフィはじっと見つめてきたが、その視線に咲良が合わせる事はしばらくなかった。



霧の中で咲良の意外な一面が見えたりしたが、直ぐに終わりがやって来た。

「霧が薄くなってきた。警戒しとけ」

一歩進む度に視界が晴れてくる。先に進めたのかどうかはまだ分からないが警戒しておいて損は無い。今までは咲良の知識で何とかなったが、ここはその知識が活かせない場である可能性が高いのだから。


「出るぞ」
「…うん」
「キュイ!」

3人は遂に霧の外に出た。
霧の中にいたのは体感で20分程だ。マリア達は数分だと言っていたのでかなり長い。しかしマリア達の方は既に数時間経過している事だろう。
                                                                                                                                              


「あれ?戻って来ちゃった?」
「よく見てみろ。マリア達もいないし、真ん中のピラミッドにあるはずの祭壇が無い」
「あ…本当だ」

ソフィが間違えるのも無理はない。
3人の前に現れたのは霧に入る前にいた地下空間だ。しかしマリア達はどこにも見当たらず、中心にあるピラミッドには頂上にあるはずの祭壇がどこにも見当たらない。
つまり、ここはそっくりの別空間であると考えるべきだ。

ここが霧の先なのだろうか…
まだ何も分からないが一先ず移動しなければ始まらない。

「移動しよう」
「何処に行くの?」
「あのピラミッドだ」
「それは分かったけど…何で?」

咲良が自信あり気に言い切るので、疑いはしないが理由は知りたい。

「祭壇がない事以外はさっきの空間と建物の形状も壁に掘られた文字も全て同じだ。あのピラミッドだけ変化しているのは違和感でしかない」
「全部覚えてたの!?」
「もちろん。見たもの基本的に忘れない記憶力があるからな」

そう言えばまだソフィに超記憶を持っている事を教えていなかった。
普段から称号や技能については特に隠してきた咲良はその癖が抜けず、ソフィにすらあまり多くの事を語っていなかった。
鍛冶師、冒険者としてはそれで良いのだろうが、仲間としてはそうとも言えない。

「それって滅茶苦茶凄いじゃん!それも魔法か何かなの?」
「違う。記憶力が良いのは地球にいた頃からだ」
「そうなんだ。ならあそこだけ違うのは間違いないね」
「あぁ。行くぞ」


3人は警戒しながらピラミッドまで進む。
霧が無くなったので気配を読み取る事は出来る。この空間に魔物はいない様だが気配を感知出来ない邪神魔蛇の様な個体が潜んでいる可能性はある。生存本能の勘だけを頼りにするわけにも行かない。


「入口があるね。こんなの絶対なかった」
「あぁ…中に入るしかなさそうだ」

ピラミッドの元まで行くと中に入る扉があった。その扉は一般的な大きさだが、その存在感は何倍にも大きく見せる。

「開けるよ?」
「…待てソフィ!」

咲良の制止は一足遅かった。ソフィが扉を押すと簡単に開いてしまった。
                                                                                                                                                                                             

そして…
咲良は思わずソフィを抱きかかえて、その場から後方まで跳躍した。

「ちょっと…どう…した…の?」

いきなりの行動に舌を噛みそうになったソフィは抗議しようとしたが、咲良の顔を見た瞬間上手く言葉を発せなかった。
                                      

何故なら…

ポタ、ポタ、ポタ

咲良の額からは大量の汗が流れ、とても険しい表情をしていたからだ。それもただの汗ではなく冷や汗だと瞬時に把握した。

普通の人間が汗を流し、険しい表情を浮かべるのはよくある光景だ。
だがソフィは咲良が大量の冷や汗を流すのも、ここまで険しい表情をしているのも初めて見た。

「だい…じょうぶ?」
「……あぁ…」

咲良はゆっくりとソフィを下ろすが、その手は少し震えている様にも感じた。
咲良の隣に飛んできたクロも何処か怯えた様子を見せる。

「どうしたの?」
「クロの前の黒竜であるクロノスと初めて会った時…俺は死の恐怖を感じた。扉が開いた瞬間……同じ様な恐怖を…感じた」
「咲良が…恐怖?」
                                        
その事実にソフィは驚かずにはいられなかった。
ソフィは咲良の強さを良く理解しているつもりだ。今までの経験から見ても咲良が負けるとは想像も出来ない。その咲良が恐怖で震え、冷や汗を流している。
咲良は何かに恐怖した様だが、ソフィにとってはその事実の方が恐怖だった。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

処理中です...