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第10章 異世界人と隠された秘密
竜ノ人種
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「入るの止める?」
「いや……進もう」
「良いの?私には分からないけど咲良が怖がるなんて絶対変だよ。どういう風に感じたの?」
「悪いが上手く説明出来ない」
咲良は良く言葉を濁す事がある。
だが今回は本当に説明出来ない。クロノスの様な特殊な存在がいるのか、単純に強力な魔物がいるのか、扉の奥の空間自体が異様なのか、よく分からないのが正直な感想だ。どれでもあってどれでも無い様な気もする。
「だがここまで来て引き返す選択はあり得ない」
ここで咲良はミスを犯した。チラリとソフィを見てしまったのだ。
「私は絶対に付いて行くよ!ここに残るなんて嫌!」
そしてソフィは咲良が何を思っているのか理解出来てしまった。
この先に何があるか全く分からない以上ソフィを置いて行った方が良いのではと思った咲良だったが、見透かされてしまった。
「ふぅ…分かった。但し、中に入ったら常に見えざる者を発動しておけ」
「分かった!」
「クロ。ソフィを全力で守れ。もう力を隠す必要はない」
『うん!分かった!』
「え?…何今の声?……もしかしてクロちゃん?…え?え?」
頭の中に突然声が響き、ソフィは動揺を隠せない。
一瞬他の誰かが話しかけたのではと思ったが、ここには3人以外いないので必然的にクロという事になる。
「クロで間違いないぞ。驚かせて悪かったな」
やはり声、念話の正体はクロだった。
「少し前に話せる様になっていたんだが、いきなり念話すると説明が面倒だから隠していた」
実は知識を受け継いだ時からクロは話せる様になっていた。
「なら何で念話してくれたの?」
今まで何となくでしか感情を読み取れなかったクロと会話出来るのはソフィにとって嬉しい事だ。
「意思疎通が出来れば動きやすくなる。それに、クロ自身もソフィと話したい様でな」
「そっか!クロちゃん!いっぱい話そうね!」
『うん!』
クロのお陰で少し空気が和んだ。
空気と言うのは結構大事な事だ。どんよりしていては上手く行く事も行かなくなる。
「よし、行くぞ」
咲良の一言をきっかけに、一同は扉の奥へと足を進めた。
この先に何があろうと、3人なら絶対に乗り越えられる。そう思いながら……
扉の奥に続く通路を進んで数分後、咲良の声が通路中に響いた。
「止まれ」
この先に何かある。
そう確信した咲良は手を上げて、歩みを止めた。
『父ちゃん、この奥に何かいるよ』
クロも咲良同様何かを感じ取った様だが、やっぱりその呼び方は引っかかる。
通路に入ってから何度か念話した後、クロは咲良を父ちゃんと呼んだ。流石に違和感を覚え、何度止めろと言っても聞き入れてもらえなかった。
確かにクロの父親的存在ではあるのだが……まぁソフィを母親と思っていないだけマシだろう。ソフィを母ちゃんと呼ぼうものなら強引に止めさせていた所だ。
「魔物か?」
呼び名についての一悶着はさておき、今は目の前に集中しなければならない。
咲良の前には広い空間が広がっている。そしてその中心に何かがいる。
「あれって魔物だよね?咲良が恐怖したのってあれ?」
最初はソフィ同様にそう思ったが、近づくと違うとはっきり分かった。
恐怖の正体はあれではない。しかし、ただならぬ存在感を放っているのは事実。これは用心しなければならない。
チャキ…
気付けば右手は村正を握っていた。
「…行くぞ」
用心しながら足を一歩前にした瞬間、
ゾクッ!
背筋が凍る様な感覚に陥り、生存本能がピーピーと警笛を鳴らす。
「下がれ!ぐっ…」
ガガガギィ!
咄嗟に村正を前に構えて正解だった。そうでなければ、今頃死んでいたかもしれない。
「なん…だ…こいつ…」
咲良の前には二足歩行の蜥蜴の様な魔物が村正の刀身に噛みついており、ガチガチと音を鳴らす。
その音は金属が触れ合う音だと分かってはいるものの、死神の足音にさえ聞こえてくる。
「く…くそ…」
押し返そうとしてもビクともしない。
このままでは不味い。二足歩行の蜥蜴にはまだ腕という攻撃手段が残されているが、咲良の両腕は塞がっている。
『父ちゃんから離れろ!』
ドン!
鋭い爪が振り下ろされる直前、クロが猛スピードで突進して蜥蜴を吹き飛ばした。
「はぁ…はぁ…クロ、良くやった」
クロを褒めたものの、咲良の表情は優れない。
(くそ…もう少しで魔装を使わされる所だった)
今クロが助けてくれなければ、咲良は無理やり魔装を使っていた。そうしなければやられていたからだ。しかし、この地下空間で魔装を使えば、魔力欠乏症となって倒れてしまう。それだけは絶対に避けたい。
(だがどうする…奴の筋力は異常だ。魔装をしていても勝てるか分からないほど強い)
噛みつきながら押してくる筋力は異常なほど強かった。魔装をしても勝てないのではと思えるほどに。
『父ちゃん!あれは竜人だよ!』
「竜人?」
思わぬ所から知りたい情報を得る事が出来た。失念していたが、戦闘面の知識を受け継いだので魔物に詳しくとも不思議ではない。
にしても竜人とは何なのだろうか。黒竜化の派生技能として竜人化はある。その状態と似た魔物という事だろうか。
改めて吹き飛ばされた魔物を確認する。
褐色の鱗に竜種特有の長円瞳孔、強靭な尻尾と爪牙はまさしく竜人というべき風貌だ。翼があれば竜人化と瓜二つかもしれない。
「これは…まずい…」
竜の力を人間サイズにまで凝縮した存在だとすれば、力を制限され、氣しか使えない咲良では恐らく勝てない。
ジワリと村正を握る手に汗が滲み出た。
「いや……進もう」
「良いの?私には分からないけど咲良が怖がるなんて絶対変だよ。どういう風に感じたの?」
「悪いが上手く説明出来ない」
咲良は良く言葉を濁す事がある。
だが今回は本当に説明出来ない。クロノスの様な特殊な存在がいるのか、単純に強力な魔物がいるのか、扉の奥の空間自体が異様なのか、よく分からないのが正直な感想だ。どれでもあってどれでも無い様な気もする。
「だがここまで来て引き返す選択はあり得ない」
ここで咲良はミスを犯した。チラリとソフィを見てしまったのだ。
「私は絶対に付いて行くよ!ここに残るなんて嫌!」
そしてソフィは咲良が何を思っているのか理解出来てしまった。
この先に何があるか全く分からない以上ソフィを置いて行った方が良いのではと思った咲良だったが、見透かされてしまった。
「ふぅ…分かった。但し、中に入ったら常に見えざる者を発動しておけ」
「分かった!」
「クロ。ソフィを全力で守れ。もう力を隠す必要はない」
『うん!分かった!』
「え?…何今の声?……もしかしてクロちゃん?…え?え?」
頭の中に突然声が響き、ソフィは動揺を隠せない。
一瞬他の誰かが話しかけたのではと思ったが、ここには3人以外いないので必然的にクロという事になる。
「クロで間違いないぞ。驚かせて悪かったな」
やはり声、念話の正体はクロだった。
「少し前に話せる様になっていたんだが、いきなり念話すると説明が面倒だから隠していた」
実は知識を受け継いだ時からクロは話せる様になっていた。
「なら何で念話してくれたの?」
今まで何となくでしか感情を読み取れなかったクロと会話出来るのはソフィにとって嬉しい事だ。
「意思疎通が出来れば動きやすくなる。それに、クロ自身もソフィと話したい様でな」
「そっか!クロちゃん!いっぱい話そうね!」
『うん!』
クロのお陰で少し空気が和んだ。
空気と言うのは結構大事な事だ。どんよりしていては上手く行く事も行かなくなる。
「よし、行くぞ」
咲良の一言をきっかけに、一同は扉の奥へと足を進めた。
この先に何があろうと、3人なら絶対に乗り越えられる。そう思いながら……
扉の奥に続く通路を進んで数分後、咲良の声が通路中に響いた。
「止まれ」
この先に何かある。
そう確信した咲良は手を上げて、歩みを止めた。
『父ちゃん、この奥に何かいるよ』
クロも咲良同様何かを感じ取った様だが、やっぱりその呼び方は引っかかる。
通路に入ってから何度か念話した後、クロは咲良を父ちゃんと呼んだ。流石に違和感を覚え、何度止めろと言っても聞き入れてもらえなかった。
確かにクロの父親的存在ではあるのだが……まぁソフィを母親と思っていないだけマシだろう。ソフィを母ちゃんと呼ぼうものなら強引に止めさせていた所だ。
「魔物か?」
呼び名についての一悶着はさておき、今は目の前に集中しなければならない。
咲良の前には広い空間が広がっている。そしてその中心に何かがいる。
「あれって魔物だよね?咲良が恐怖したのってあれ?」
最初はソフィ同様にそう思ったが、近づくと違うとはっきり分かった。
恐怖の正体はあれではない。しかし、ただならぬ存在感を放っているのは事実。これは用心しなければならない。
チャキ…
気付けば右手は村正を握っていた。
「…行くぞ」
用心しながら足を一歩前にした瞬間、
ゾクッ!
背筋が凍る様な感覚に陥り、生存本能がピーピーと警笛を鳴らす。
「下がれ!ぐっ…」
ガガガギィ!
咄嗟に村正を前に構えて正解だった。そうでなければ、今頃死んでいたかもしれない。
「なん…だ…こいつ…」
咲良の前には二足歩行の蜥蜴の様な魔物が村正の刀身に噛みついており、ガチガチと音を鳴らす。
その音は金属が触れ合う音だと分かってはいるものの、死神の足音にさえ聞こえてくる。
「く…くそ…」
押し返そうとしてもビクともしない。
このままでは不味い。二足歩行の蜥蜴にはまだ腕という攻撃手段が残されているが、咲良の両腕は塞がっている。
『父ちゃんから離れろ!』
ドン!
鋭い爪が振り下ろされる直前、クロが猛スピードで突進して蜥蜴を吹き飛ばした。
「はぁ…はぁ…クロ、良くやった」
クロを褒めたものの、咲良の表情は優れない。
(くそ…もう少しで魔装を使わされる所だった)
今クロが助けてくれなければ、咲良は無理やり魔装を使っていた。そうしなければやられていたからだ。しかし、この地下空間で魔装を使えば、魔力欠乏症となって倒れてしまう。それだけは絶対に避けたい。
(だがどうする…奴の筋力は異常だ。魔装をしていても勝てるか分からないほど強い)
噛みつきながら押してくる筋力は異常なほど強かった。魔装をしても勝てないのではと思えるほどに。
『父ちゃん!あれは竜人だよ!』
「竜人?」
思わぬ所から知りたい情報を得る事が出来た。失念していたが、戦闘面の知識を受け継いだので魔物に詳しくとも不思議ではない。
にしても竜人とは何なのだろうか。黒竜化の派生技能として竜人化はある。その状態と似た魔物という事だろうか。
改めて吹き飛ばされた魔物を確認する。
褐色の鱗に竜種特有の長円瞳孔、強靭な尻尾と爪牙はまさしく竜人というべき風貌だ。翼があれば竜人化と瓜二つかもしれない。
「これは…まずい…」
竜の力を人間サイズにまで凝縮した存在だとすれば、力を制限され、氣しか使えない咲良では恐らく勝てない。
ジワリと村正を握る手に汗が滲み出た。
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