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第6章 新天地と冒険者
流ルゝ桜
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「咲良!もうギルドに指名依頼出しといたからよ。全部まとめて受注してくれ!」
次の日、目を覚ましてリビングに降りると、カゼルが何やらバタバタと慌てていた。
「分かった。それよりどうしたんだ?そんなに慌てて」
「急にお得意先から仕事を頼まれてな!行ってくる!」
カゼルはそのまま飛び出して行った。
「あらあら、朝から慌ただしいわね」
「そうですね。お陰で目が覚めました」
「ふふっ、それは良かった。咲良さんも主人の依頼を受けるんでしょ?頑張ってね」
「はい、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
リーシャはカゼルには勿体無いのではないか。ふと思った咲良だった。
咲良はギルドへ行く前に、その隣にある素材屋へと足を運ぶ。
「いらっしゃい。御用は何かな?」
店員の老人が尋ねる。
「素材の買取もお願いしたい」
あらかじめ拡張袋から取り出しておいた不要な素材が入った袋を手渡す。
「どれどれ……ほぉ!なんと!どれも中々手に入らん素材ばかりじゃ。お若いの、これをどこで?」
「すみませんが、それは言えません。言わなければ買取はできませんか?」
不要とは言えどれも高ランクの魔物の素材だ。不審に思われるのは仕方がない。
「いやいや、少し気になっただけじゃ。買い取らせてもらうよ」
「それは良かった」
「じゃが少し査定に時間が掛かるが構わんか?」
「えぇもちろん。ではその間にこの店にある鉱石を見ても?」
鉱石は一般的な物から希少な物までクロノスの工房で大量に手に入れているが、量が多くて困る事はないし、まだ知らない鉱石があるかもしれない。
「鉱石ならあの扉を開けたところに全部置いておる。査定が終わるまで好きなだけ見ているといい」
「ありがとうございます」
老人が示した扉の中は6畳半ほどの部屋で、山のように様々な鉱石が踏み場もないほど無造作に置かれている。
(おいおい、いいのかこれ)
これで商売になるのかと思ったが、そこは気にしないようにして手当たり次第に鉱石を見ていく。
しばらくすると査定が終わったようで老人が呼びに来た。
「めぼしいものはあったかな?」
「えぇ、この鉄鉱石と粘着石を買います」
「そうかそうか。では査定結果じゃが、全部で金貨9枚、銀板7枚、銅貨4枚じゃ。その鉱石はサービスしよう。どうかね?」
「それでお願いします」
「まいどあり」
素材屋を後にしてギルドへ向かうと受付嬢が声をかけてくる。
「咲良さんですね?カゼル商会のカゼルさんから指名依頼が二件来ていますよ」
「全部受けよう」
「わかりました。ではこちらが依頼書となります」
受付嬢から依頼書を受け取り確認する。
指名依頼:G級冒険者 咲良
依頼内容:疑似餌作成、素材採集
(ん?なんで武具を作る依頼がないんだ?作らなくて良いならそれに越した事はないが…)
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもありません」
「ではプレートをお預かりします。……はい、これで完了です。頑張ってください」
依頼を受注して素材採集に向かうが、やはり武具精製依頼がないことが気にかかる。
(忘れてるだけなのか?帰ってきたら聞いてみるか)
ひとまず置いておくことにして、必要な素材を全て集めてギルドに持って行き依頼を全て達成した。
その後はカゼル商会の工房に戻り、今は溶鉱炉を作っている。
溶鉱炉は日が暮れた頃に完成し、同時にカゼルが帰ってきた。
「お疲れカゼル。一つ聞いていいか?」
「どうしたんだ?」
「なんで武具精製依頼がないんだ?」
「そのことか、別に忘れてたわけじゃないぞ。ちょっと俺に考えがあってな」
カゼルは少し微笑むと、真剣な表情に戻る。
「咲良は自身が作った武具を大切にしているよな?」
「当たり前だ」
「だよな。そこで思ったんだ。俺の商会に咲良が作った武具を納品してくれるのはとてもありがたい事だが、それで良いのかってな」
いまいちカゼルの思惑が読めないが、思い当たる節はひとつだけある。
「納品された武具はどんな奴が買うか分からん。それこそ武具を大切に扱わない奴が買うかもしれん。もっと言えば俺が咲良に依頼しようとしていた物は衛兵用の剣だ。つまり炎界のように高性能な必要はあまりないから手を抜いてもらうことになるわけだ。今言った事を咲良は許容出来るのか?」
「……出来るわけない」
(あぁ、やっぱりカゼルは分かってたのか)
咲良は密かに後悔していた。武具を納品してくれというカゼルの頼みに後先考えずに簡単に頷いてしまった事に。普通に考えればこうなることがわかったはずだ。しかしカゼルには恩がある。それを易々と裏切る事はできない。だが手は抜きたくないし、武具を心無い者には渡したくない。
わかっているのだ。それがただのわがままだと。
「やっぱりな。だと思ったよ」
「…悪い。カゼルのためなら割り切ろうとも思ったんだけど」
「バカ言え。鍛治師としての誇りを最後まで貫け!」
「わかった」
「俺も咲良にそんなことさせたくないしな。そこでだ!ひとつ提案があるんだ!」
「提案?」
カゼルが空気を変えるためか揚々と喋る。
「俺が咲良に打って欲しいっていう客を連れてくるから、咲良はその客を見て作るかどうか判断してくれ」
「俺への直接依頼ということか」
「そうだ。気に入らない奴には作る必要はない。その代わり気に入った奴には手を抜かない。これならどうだ?」
この提案は咲良からすると願ったり叶ったりなものだ。鍛治師は武具を作ってなんぼだ。しかもその相手を自分で選べるのだから。
「それは俺としてもありがたい」
「よし!そうと決まればまずは鍛治師としての名前を決めないとな!」
「鍛治師としての名前?」
「そうだ。咲良の技術は本当にすげぇ。これからどんどん有名になると俺は思う。だから本名で活動すると色々とめんどくさいことになりかねんだろ」
確かにカゼルの言う通りだ。いずれ名前が売れると行動しにくくなる。
「そうか……鍛治師としての名前か」
「なんか良いのねえのか?」
「………流桜…」
「る、ざくら?なんだそれは?」
「俺はいずれ世界を旅する。だから世界を流れる咲良という意味で流桜」
「東の国の言葉だな。いいんじゃねぇのか」
ここに、後にクロノスと同じく伝説の鍛治師と呼ばれるようになる流桜の名が誕生した。
次の日、目を覚ましてリビングに降りると、カゼルが何やらバタバタと慌てていた。
「分かった。それよりどうしたんだ?そんなに慌てて」
「急にお得意先から仕事を頼まれてな!行ってくる!」
カゼルはそのまま飛び出して行った。
「あらあら、朝から慌ただしいわね」
「そうですね。お陰で目が覚めました」
「ふふっ、それは良かった。咲良さんも主人の依頼を受けるんでしょ?頑張ってね」
「はい、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
リーシャはカゼルには勿体無いのではないか。ふと思った咲良だった。
咲良はギルドへ行く前に、その隣にある素材屋へと足を運ぶ。
「いらっしゃい。御用は何かな?」
店員の老人が尋ねる。
「素材の買取もお願いしたい」
あらかじめ拡張袋から取り出しておいた不要な素材が入った袋を手渡す。
「どれどれ……ほぉ!なんと!どれも中々手に入らん素材ばかりじゃ。お若いの、これをどこで?」
「すみませんが、それは言えません。言わなければ買取はできませんか?」
不要とは言えどれも高ランクの魔物の素材だ。不審に思われるのは仕方がない。
「いやいや、少し気になっただけじゃ。買い取らせてもらうよ」
「それは良かった」
「じゃが少し査定に時間が掛かるが構わんか?」
「えぇもちろん。ではその間にこの店にある鉱石を見ても?」
鉱石は一般的な物から希少な物までクロノスの工房で大量に手に入れているが、量が多くて困る事はないし、まだ知らない鉱石があるかもしれない。
「鉱石ならあの扉を開けたところに全部置いておる。査定が終わるまで好きなだけ見ているといい」
「ありがとうございます」
老人が示した扉の中は6畳半ほどの部屋で、山のように様々な鉱石が踏み場もないほど無造作に置かれている。
(おいおい、いいのかこれ)
これで商売になるのかと思ったが、そこは気にしないようにして手当たり次第に鉱石を見ていく。
しばらくすると査定が終わったようで老人が呼びに来た。
「めぼしいものはあったかな?」
「えぇ、この鉄鉱石と粘着石を買います」
「そうかそうか。では査定結果じゃが、全部で金貨9枚、銀板7枚、銅貨4枚じゃ。その鉱石はサービスしよう。どうかね?」
「それでお願いします」
「まいどあり」
素材屋を後にしてギルドへ向かうと受付嬢が声をかけてくる。
「咲良さんですね?カゼル商会のカゼルさんから指名依頼が二件来ていますよ」
「全部受けよう」
「わかりました。ではこちらが依頼書となります」
受付嬢から依頼書を受け取り確認する。
指名依頼:G級冒険者 咲良
依頼内容:疑似餌作成、素材採集
(ん?なんで武具を作る依頼がないんだ?作らなくて良いならそれに越した事はないが…)
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもありません」
「ではプレートをお預かりします。……はい、これで完了です。頑張ってください」
依頼を受注して素材採集に向かうが、やはり武具精製依頼がないことが気にかかる。
(忘れてるだけなのか?帰ってきたら聞いてみるか)
ひとまず置いておくことにして、必要な素材を全て集めてギルドに持って行き依頼を全て達成した。
その後はカゼル商会の工房に戻り、今は溶鉱炉を作っている。
溶鉱炉は日が暮れた頃に完成し、同時にカゼルが帰ってきた。
「お疲れカゼル。一つ聞いていいか?」
「どうしたんだ?」
「なんで武具精製依頼がないんだ?」
「そのことか、別に忘れてたわけじゃないぞ。ちょっと俺に考えがあってな」
カゼルは少し微笑むと、真剣な表情に戻る。
「咲良は自身が作った武具を大切にしているよな?」
「当たり前だ」
「だよな。そこで思ったんだ。俺の商会に咲良が作った武具を納品してくれるのはとてもありがたい事だが、それで良いのかってな」
いまいちカゼルの思惑が読めないが、思い当たる節はひとつだけある。
「納品された武具はどんな奴が買うか分からん。それこそ武具を大切に扱わない奴が買うかもしれん。もっと言えば俺が咲良に依頼しようとしていた物は衛兵用の剣だ。つまり炎界のように高性能な必要はあまりないから手を抜いてもらうことになるわけだ。今言った事を咲良は許容出来るのか?」
「……出来るわけない」
(あぁ、やっぱりカゼルは分かってたのか)
咲良は密かに後悔していた。武具を納品してくれというカゼルの頼みに後先考えずに簡単に頷いてしまった事に。普通に考えればこうなることがわかったはずだ。しかしカゼルには恩がある。それを易々と裏切る事はできない。だが手は抜きたくないし、武具を心無い者には渡したくない。
わかっているのだ。それがただのわがままだと。
「やっぱりな。だと思ったよ」
「…悪い。カゼルのためなら割り切ろうとも思ったんだけど」
「バカ言え。鍛治師としての誇りを最後まで貫け!」
「わかった」
「俺も咲良にそんなことさせたくないしな。そこでだ!ひとつ提案があるんだ!」
「提案?」
カゼルが空気を変えるためか揚々と喋る。
「俺が咲良に打って欲しいっていう客を連れてくるから、咲良はその客を見て作るかどうか判断してくれ」
「俺への直接依頼ということか」
「そうだ。気に入らない奴には作る必要はない。その代わり気に入った奴には手を抜かない。これならどうだ?」
この提案は咲良からすると願ったり叶ったりなものだ。鍛治師は武具を作ってなんぼだ。しかもその相手を自分で選べるのだから。
「それは俺としてもありがたい」
「よし!そうと決まればまずは鍛治師としての名前を決めないとな!」
「鍛治師としての名前?」
「そうだ。咲良の技術は本当にすげぇ。これからどんどん有名になると俺は思う。だから本名で活動すると色々とめんどくさいことになりかねんだろ」
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