神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第6章 新天地と冒険者

初ノ依頼

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角部屋にて…

「…ふぅ…騒がしい夫婦だな」

そう思いながらも見ていて微笑ましくなった。

「さて…寝る時間だが全く眠くねぇな。そういやギルドは何時でも空いてたな。適当に依頼でもしてみるか」

部屋の窓から物音を一切立てずに飛び降りてギルドへ向かう。

「こんな夜更けに依頼ですか?」

受付に行くと登録した時とは違う受付嬢がいた。

「寝付けなくて」
「そうですか。ではステータスプレートをお渡しください……咲良さんは今回が初めての依頼のようですね」
「えぇ…どんな依頼がありますか?」
「この時間でのG級依頼は薬草採取しかないのですが、夜は魔物に会う確率が高くなるので少し危険でして」
「ではそれで」
「本当に宜しいのですか?」

受付嬢は咲良の実力を知らない。
駆け出しの冒険者が運悪く魔物と遭遇して命を落とす事は珍しくないため、受付嬢はしつこく忠告する。

「構いません」
「……承知いたしました…では受注金として銅貨1枚頂きます」

咲良はサラに炎界を譲って得た金貨で支払う。

「確かに…ではくれぐれも魔物にはお気を付け下さい」

ギルドを出るまで受付嬢の心配そうな視線をひしひしと感じた。


「おう兄ちゃん、依頼かい?」

門に着くと咲良の身元審査をした門番が声をかけてきた。

「えぇ、薬草採取です」
「そうかい…気をつけてな」
「ありがとうございます」

やっぱり良い奴だと思ったが口には出さない。


しばらく歩いて薬草を探すために森に入る。
実際の所、強者の墓場、つまり世界樹周辺の森で薬草はたんまりと採取しているため探す必要はない。しかし、世界樹周辺の森にある薬草はかなり効果が高いため、ただの薬草採取の依頼で消費するのはもったいない。


「少し奥まで行ってみるか」

魔物の気配は全くない。
依頼を受けている感が全くなく、面白味に欠ける。

途中薬草を見つけたので依頼分を採取する。

さらに奥まで行くとようやく魔物と遭遇した。
ゴブリンが5体だ。

ゴブリンは咲良を見つけると奇声をあげながら一斉に襲いかかってきた。
難なく避けると一番前のゴブリンに向かって魔力の塊を放つ。


ドゴッ


それだけでゴブリンは吹き飛び絶命する。

「弱いな。いや、あの森にいたゴブリンが強過ぎるだけか…」

世界樹の森のゴブリンはヘルゴブリンという名称でC級だ。そもそもアスガルドに来たばかりの咲良が倒せた方が異常である。

その後同じ方法で残りのゴブリンも討伐した。

「さて…討伐証明部位は耳だったな」

ゴブリンの死体の耳をナイフで切り取る。

討伐証明部位とは魔物を倒した証であり、ギルドが買い取ってくれたり、報酬の上乗せがあったりする。
もちろんそれ以外の部位も素材屋と呼ばれる専門店で買い取ってもらえるが咲良は鍛治師なので基本的に売ることはない。

ゴブリンの耳が討伐証明部位だと知っているのは、王都に向かう馬車でカゼルが持っていた魔物図鑑を読み、そこに記載されていた魔物の討伐証明部位を全て覚えていたからだ。

結局魔物と遭遇したのはあの一度きりで、咲良にはかなり物足りなかった。
魔物との遭遇率が低いからこそG級の依頼なのだろうが。

「帰るか…」

薬草もあるし、あとは帰れば依頼達成だ。


「早かったな」

王都に戻るとあの門番が話しかけてきた。

「簡単な依頼でしたから」
「そうか。ま、無事で何よりだ」
「所で…あなたの名前を聞いてもいいですか?何となくですが仲良くなれそうな気がして」
「奇遇だな、俺もだ」

地球にいた頃の咲良は、自分から名前を聞く事はほとんどなかった。アスガルドに来て、良くも悪くも変わってきているという事だろうか…

「トマスだ。よろしくな…後、敬語はいらんぞ」
「分かったトマス。俺は咲良だ」
「もう知ってるよ。覚えていたからな。今度酒でも飲もうや。いつも夜はギルド近くの店で飲んでるからよ…あいにく今日は夜勤だがな」
「わかった。また顔出すよ」
「あぁ、待ってるぜ」


トマスと別れギルドへと戻る。

「あら咲良さん、どうかなさいましたか?」
「依頼達成です」
「もうですか!?」

驚く受付嬢を受け流し、薬草を渡すついでにゴブリン5体分の耳も渡す。

「!!!……遭遇するかもしれないとは思いましたがまさか倒すとは…しかも5体も…」
「ん?何かおかしいですか?」
「え…あ…いや、基本的にG級ではゴブリンを倒すことは難しいんですが…」
「魔物を倒すのは初めてじゃないので」
「初めてじゃない?…それにしてもこの速さ、本当に倒したんですか?」

受付嬢は信じられないのか疑いの目を向ける。

「疑いたきゃ勝手にしろ」

少し不快に思った咲良は敬語をやめて、めんどくさそうにする。

「あ…いえ…失礼しました……ではこちらが今回の報酬とゴブリン5体分の追加報酬になります」


受付嬢から銅貨8枚を受け取ると帰路に着いた。
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