神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第6章 新天地と冒険者

想起家族

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「なぁ…良かったのか?」
「サラのことか?いいんだよあれで」
「弟子を取ればお前にとっても刺激になるんじゃないのか?」
「かもな…けど、今は弟子を取ってる場合じゃない」
「そうか…と、ここだ」

咲良たちの前には周りより少し大きめの店があり〈カゼル商会〉と看板に書いてある。

「そのまんまだな」
「うるせぇ。さぁはいれ」

中に入ると薬草から武具まで様々な商品が置いてあり、ちらほらと客がいる。

「俺の店は雑貨屋みたいなもんだからな。売れる物はなんでも売る。精到鑑定のおかげで質も保証できるしな」
「…なかなか繁盛してるんだな」
「それなりにな。おーい!帰ったぞ!」

カゼルが大きな声を出すと奥から女性が出て来た。

「あらあなた…おかえりなさい。遅かったわね」
「道中色々あってな」
「心配してたのよ無事で良かったわ」

その女性の視界に咲良が入る。

「そちらの方は?」
「あぁ…旅の途中から護衛してもらってな。命の恩人だ」

咲良はカゼルの命を直接助けたわけではないが、護衛をしていなかったら盗賊に命を奪われていただろう。

「咲良です」
「主人がお世話になりました。妻のリーシャです」

リーシャは深々と頭を下げる。

「咲良は鍛治師でな。すごい腕前なんだ!だからたまに納品を頼むことにしたんだよ」
「あらそうなの!?その若さですごいわねぇ……そうだ!お店休憩にするからご飯でもどう?」
「いいね!色々これからについて話もしたいからな。咲良食ってけ!」
「じゃあ遠慮なく」
「そうと決まれば食事の準備しなくっちゃ」

リーシャは店の奥に戻っていった。

「さて…俺も馬車の荷物を片付けねぇといけねーから少し店の中でも見ててくれや」

カゼルは荷物を片付けるために馬車へと向かっていった。おそらくカゼルが今回の旅で仕入れた商品だろう。


「あなたー!咲良さーん!準備できたわよー!」

しばらくするとリーシャに呼ばれたので奥に入る。

「じゃあ食べようぜ!リーシャの料理は上手いんだ!」

今は食卓を囲んでいる。

「遠慮しないでたくさん食べてね」
「はい。頂きます……美味い!」
「あら!喜んでくれて良かったわ!」
「…久々だな…」

小さな声で咲良は呟く。

「なんかいったか?」
「…いや…なんでもない」

小さい頃に家族で食卓を囲んでいたことを思い出し、疎遠となっていた家族でも少し会いたいと思った。

「さっそくだが咲良はこれからどうするつもりだ?出来ればしばらく王都に残って欲しいんだが…納品のこともあるしな」
「あぁ、一月はいるつもりだ。ここに知り合いが来る可能性もあるしな」
「知り合い?…あぁなるほど」

カゼルは知り合いが異世界人だと察してくれたようだ。

「納品についてだが…疑似餌はどこでも作れるが武具は作るにしても場所がない。サラの工房を借りるわけにもいかないし」
「それなら大丈夫だ!この店にも作業場があってな。使ってないからそこで作ってもらって構わないぞ」

鍛冶屋でもないカゼル商会に工房となる場所があったとは驚きだ。

「溶鉱炉はあるのか?」
「溶かすやつか?失念してた…それがないと作れないよな…」
「一度作業場を見せてくれ。十分な広さがあれば溶鉱炉は自分で作れる」
「ホントか!そりゃ良かった!これで場所は確保したわけだが…後は報酬についてなんだが、ひとつ提案があるんだ」
「なんだ?」
「主に武具と疑似餌を作って貰うわけだが、ギルドの依頼扱いにしようと思ってる」
「…なるほど…俺は金も貰えて階級も上がるって寸法か」

ギルドの依頼は魔物討伐だけではない。冒険者はいわば何でも屋なので鍛治も依頼できるというわけだ。

「話が早くて助かるよ。俺の依頼をこなすだけでF級にはすぐなれる。まぁE級以降は魔物討伐の依頼も受けないと実力不相応として階級は上がらないけどな」
「それでいいぜ…一石二鳥ってわけだ」
「いっせきにちょう?なんだそりゃ?」

やはり異世界人の言語理解があるとはいえ、共通していない部分もあるようだ。

「1つの工程で2つの利益を得るって意味だよ」
「へぇー…いい言葉だな、一石二鳥…か」
「俺もそう思うよ」
「ははっ!そうだ!…咲良は魔道具マジックアイテムも作れたりするのか?さっきの炎界は魔武器マジックウェポンだったが…」

一般的には魔武器マジックウェポンを作れるからといって、魔道具マジックアイテムを作れるという訳ではなく、その逆もまた然り。しかし咲良はどちらも作ることが可能だ。

魔道具マジックアイテムも作れるぞ」
「やっぱり、万能だな。それの納品は可能か?」
「構わないぞ…」
「あんがとよ」

納品は許可したものの高い性能の魔道具マジックアイテムを作る気は無い。武具だろうと道具だろうと高性能の物をほいほいと作るわけにはいかない。

「その代わりと言っちゃなんだが素材集めも依頼にしてくれねぇか?」
「おう!いいぞ!なら明日ギルドに行って申請してくるわ!」
「よろしく頼む」
「任せとけ!明日から楽しみだ!」
「あと…疑似餌ならここに来るまでに約50個は出来てるから依頼する必要ねぇかもな」

カゼルと出会ってから王都までの数日の間に少しずつ作っていた。

「作業はえーな。だが納品するだけでも依頼完了になるから依頼はだしておく」
「それっていいのか?」
「もちろん大丈夫だ!」
「ならいいんだが…」
「お仕事の話中みたいですけど…咲良さんは今日どこに泊まるつもりなんですか?」

リーシャが仕事の話に熱中している2人に声をかける。

「「………あ…」」

観光やら武具を作るやらで完全に忘れていた。
まるで氷水の入ったバケツを掛けられたぐらいの衝撃だ。

「そんなことだろうと思ったわ…ここに泊まってもらったらどうかしら?」
「そうだな!そうしよう!」
「いや…そこまでは…さすがに…」

もうすでにかなりお世話になっている為、これ以上迷惑はかけられない。

「遠慮するな!それに作業場だってあるんだしよ。いっそ住んじまえ」
「あら…それは良い提案ね」
「そうだろリーシャ!」
「いやいや、カゼルですらまだ会って数日だ。得体の知れない奴を泊めるもんじゃない」

いきなりの提案に咲良はしどろもどろになる。

「咲良なら大丈夫だ!俺の勘が言ってる」
「私の勘も言ってますよ」

とてつもなく親切なのか、ただのノリなのか、それともバカなのか、考えても咲良には分からない。

「はぁ…この夫婦は全く………なら世話になるよ」
「ふふっ…これで毎日がもっと楽しくなりそうね」
「そうだな!今日からここは咲良の家だと思ってくれよ」
「大げさな……ありがとう」
「じゃあ2階の角部屋を使え。来客用の部屋だがほとんど使うことがないからな」



成り行きで泊まる所、否、家が出来たと言う方が正しいか。どちらにしても異世界で初めて帰る場所が出来た。
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