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第7章 弟子と神器回収
心友ト酒
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咲良が来たことによる騒動は日が落ちる頃にようやく収拾した。
そして今はギルド内で食事を取りながら今後の方針を話している。
「ではルーグさんたちのことは秀樹くんと穂花さんに任せるとして……咲良くんでしたね。あなたには私たちのギルド〈イマジナリー〉に入ってもらい、これからのことを指示させてもらいます」
「活動内容は?」
「〈イマジナリー〉は地球に帰る方法を探すことを第一に考えています。そして次に地位の確保です。この世界で一定の地位を得られれば情報も入って来やすいですから。それと…このギルドに入るからにはあなたには今後一切の殺人を禁止します。地球に帰った時馴染めませんからね」
(予想通りの展開だな…地球に帰ることだけを考えて帰れなかった場合を考えていない…こいつらはいつまで経ってもこの世界には馴染めないだろうな)
「考えとくよ」
結論は既に出ているが、それを今言うのは早計だと判断した。
「いえ、これはギルドマスターである私の命令ですので従っていただきます」
「まだギルドメンバーにはなっていない、つまりまだその命令とやらに従う必要はない」
「ならあなたはこの恐ろしい世界で1人で生きていくつもりですか?」
「1人?…何を言ってるんだ?この世界にも人はいるぞ…ルーグの様な信頼できるものがな」
今は秀樹達に用意された宿へと場所を移し、この場にいないルーグの名を出す。
「彼はこの世界の住人ですよ」
「だからなんだ?お前らは地球人同士固まりすぎだ。地球に帰った時に馴染めないと言うがな…帰れなかったらこの世界に馴染まないといけねぇんだそ?」
「来ることが出来るなら帰ることも必ず出来ます」
よくもまぁこんな詭弁を堂々と語れるものだと思ったが、同時に咲良にはそれが帰れないという恐怖から逃れる為の強がりにも感じた。
「お気楽なもんだな。仮に方法がなかったらお前らはこの世界で一生馴染めないまま惨めに死んでいくことになるぞ…俺はごめんだね」
「あなたとは一生意見が合いそうにありませんね」
「奇遇だな。今初めてあんたと意見があった。ならしばらく見極めさせてもらう…その上で決める」
「そうですか…分かりました」
香織は咲良を一瞬憎しげに睨むがすぐに視線を逸らす。おそらく気付かれてないと思っているのだろうが咲良にはバレバレだ。
「では早速ですが〈イマジナリー〉の選抜メンバーで明日依頼を受けようと思います。咲良さんの実力も確認したいですし」
「明日?どんな依頼ですか?」
急な依頼に穂花が少し驚きながら尋ねた。
「ルーグさんの村を襲った危険度B級の盗賊の捕縛です。私もA級になったのでそれほど難しくないでしょう」
「賛成!」
「あぁ…俺もだ!」
秀樹と穂花は逃してしまった負い目からか、気合い十分の様だ。
「他のみなさんはどうですか?」
香織が聞くとちらほらと賛成の声が挙がる。
恐らく今声を挙げたのが選抜メンバー、つまり冒険者階級上位陣だろう。
「では賛成の声が多いので明日明朝に出発します。もちろん咲良くんも参加してください」
「…あぁ」
(初めから分かっていたがこれで確信が持てた。こいつらと一緒にいても得るものはない…ルーグの店が軌道に乗れば予定通り南の国に向かうか。一度世界樹の森に帰るのもありだな)
素っ気なく返事をしながら今後どう動くかを考えていたがすぐに方針は決まりそうだ。
その日の夜、ギルド近くの宿を借りた。その宿はルーグも泊まっており、今後について話し合った。近いうちに秀樹に店となる建物を案内してもらえるらしく、これから忙しくなりそうだが楽しくもなりそうだと酒を交わし、お互いの自室へと戻って行った。
コンコン
深夜あたり、咲良の部屋をノックする者がいる。
気配ですぐに誰か分かった。
「陸か、入れ」
「夜遅くに悪いな。寝てたか?」
「いや…大丈夫だ」
咲良はベッドに腰掛け、陸が椅子に座る。
「酒持って来たんだ。飲まないか?」
「いいね…貰おう」
コップも持って来ていたらしく、お互い注ぎ合う。
チンッ
乾杯すると2人とも一気に飲み干す。
陸が持って来たのはコーチンの地酒だ。ワインの様なフルーティな香りが鼻から抜けるが度数が高く胸が少し熱くなる。
空になったコップに酒を継ぎ足すのをきっかけに陸が切り出す。
「なぁ…りょ…咲良」
「なんだ?」
「お前…本当に変わったのか?」
秀樹の話でほとんどのメンバーが咲良の見る目を変えた。そもそもあまり良く見られてはいないが…
「お前にはどう見える?」
「そりゃ言葉とか行動とか変わった部分はあるのかもしれないけどよ、芯の部分はなんも変わってねぇんじゃねえかって思ってよ」
「…なんでそう思う」
「いや俺もさ、香織さんの考えには本当は納得してないんだよ。帰れる方法があるかどうかもわからないのに探し続けるし…俺はそれより咲良…みたいにまずはこの世界でしっかり生きることが重要なんじゃないかってな」
「……そうか……」
この陸の言葉に咲良は安堵と嬉しさが混ざった表現しづらい感情を覚えた。
「それに…確かに人殺しは良くない。俺もしたくはない…でも…やらなきゃやられる。それがこの世界なんだと思う。地球のルールとは違うんだから…あいつらが咲良を責めても…俺は責めることは出来ない」
陸は周りと意見がすれ違っている事に少なからず疎外感を覚えていた。もしかするとこの世界に来てから〈イマジナリー〉に入るまでの間に何かあったのかもしれない。
「あぁ…ここにはここのルールがあるからな。いくら足掻いたところで死んだらそれまで」
「……だな……香織さんは確かに頼りになる…けど、あの人は理想を追いすぎて前が見えていないって感じなんだよな」
「あいつが頼りになる意味が俺には分からん」
「皆を引っ張ってくれるし、なにより俺たちの中で一番強いからな」
「あんな偽物…強さとは言わねぇよ」
「にせもの?」
陸には咲良が何を言っているのか理解できていない。
「白峯?とか言ってたな…あの刀のおかげだよ」
「あぁ…確かに。あの武器はヤバイ」
「だが、あれがなかったら…あいつは陸とそう変わらないだろうな」
陸は現在はC級冒険者だが、気配からしてB級はありそうだ。
「…そうなのか?」
「どっちにしろ、武器に頼ってばかりいるやつは武器がなけりゃなんも出来ない弱者だよ」
「そこまで言うか」
はっきりいう咲良に陸は少し苦笑いを浮かべる。
「ま、近いうちあいつの刀は回収させてもらう」
「……どゆこと?」
「………陸になら…全てを話しても良いかもな」
「すべて?」
「俺のこれまでのことだ…聞いてくれるか?」
「あぁ…もちろんだ」
咲良は全てを話し出した。
世界樹の森におり黒竜に出会い鍛治から戦闘まで様々なことを学んだ事。神器を集める使命を受け、身体の中に新たな黒竜がいること等、全てを包み隠さず話した。
「………そう…か…」
陸は黙って涙を流しながら聞いてくれた。
自分のために涙を流してくれる友人がどれほどいる事だろうか。改めて陸と再会できてよかったと心底思った。
「ならずっと一緒に行動は出来なさそうだな」
「…かもしれないな」
「仕方ねぇか。だがいつか一緒に旅をしないか?」
「それはいいな。楽しそうだ」
アスガルドは刺激で満ち溢れている。そんな世界を最高の心友と旅出来るなら、断る理由など見当たらない。
「よし、咲良が話してくれたんだ!俺も話すのが筋だな」
そういうと陸もアスガルドに来てからの出来事を話してくれた。話を聞くとやはり陸も相当な経験をしていた。
「お互い苦労したな」
「全くだ。これからも苦労するだろうけどな」
陸の話を聞き終えると、これからの生活が平凡では終わらなさそうだと2人して笑った。
「そうだ!急なんだが、俺の武器を見てくれねぇか?」
「ほんとに急だな…まぁいいぞ」
陸は一度部屋を出ると得物の槍を持ってきて咲良に手渡した。
「〈妖精の羽〉専属の鍛治師に作ってもらったんだけど中々しっくりこなくてよ。だからと言って少なからず命を守ってくれたコイツを交換するってのも嫌でさ」
「これはしっくりくるわけねぇな。重心がズレてる。それに左右で重さも違う」
咲良は槍をじっくり見定めながら改善点を述べる。
「なるほど…そりゃどうしようもねぇな」
「だが…よく使い込まれてる。こいつはいい主人に恵まれて幸せな武器だな」
「ははっ…なんか嬉しいな」
陸は自分が褒められたかのように頭をガシガシと掻いて照れる。
「ルーグの店が出来次第、そこに工房を作るから来るといい。作り直してやる」
「まじか!」
「陸にピッタリの槍をな」
「そりゃ楽しみだ!…おっと…さすがに長居しすぎたな…そろそろ帰るわ。また明日な」
「おう!」
久々親友の陸と話せた咲良はその日晴れた気分で眠ることができた。
そして今はギルド内で食事を取りながら今後の方針を話している。
「ではルーグさんたちのことは秀樹くんと穂花さんに任せるとして……咲良くんでしたね。あなたには私たちのギルド〈イマジナリー〉に入ってもらい、これからのことを指示させてもらいます」
「活動内容は?」
「〈イマジナリー〉は地球に帰る方法を探すことを第一に考えています。そして次に地位の確保です。この世界で一定の地位を得られれば情報も入って来やすいですから。それと…このギルドに入るからにはあなたには今後一切の殺人を禁止します。地球に帰った時馴染めませんからね」
(予想通りの展開だな…地球に帰ることだけを考えて帰れなかった場合を考えていない…こいつらはいつまで経ってもこの世界には馴染めないだろうな)
「考えとくよ」
結論は既に出ているが、それを今言うのは早計だと判断した。
「いえ、これはギルドマスターである私の命令ですので従っていただきます」
「まだギルドメンバーにはなっていない、つまりまだその命令とやらに従う必要はない」
「ならあなたはこの恐ろしい世界で1人で生きていくつもりですか?」
「1人?…何を言ってるんだ?この世界にも人はいるぞ…ルーグの様な信頼できるものがな」
今は秀樹達に用意された宿へと場所を移し、この場にいないルーグの名を出す。
「彼はこの世界の住人ですよ」
「だからなんだ?お前らは地球人同士固まりすぎだ。地球に帰った時に馴染めないと言うがな…帰れなかったらこの世界に馴染まないといけねぇんだそ?」
「来ることが出来るなら帰ることも必ず出来ます」
よくもまぁこんな詭弁を堂々と語れるものだと思ったが、同時に咲良にはそれが帰れないという恐怖から逃れる為の強がりにも感じた。
「お気楽なもんだな。仮に方法がなかったらお前らはこの世界で一生馴染めないまま惨めに死んでいくことになるぞ…俺はごめんだね」
「あなたとは一生意見が合いそうにありませんね」
「奇遇だな。今初めてあんたと意見があった。ならしばらく見極めさせてもらう…その上で決める」
「そうですか…分かりました」
香織は咲良を一瞬憎しげに睨むがすぐに視線を逸らす。おそらく気付かれてないと思っているのだろうが咲良にはバレバレだ。
「では早速ですが〈イマジナリー〉の選抜メンバーで明日依頼を受けようと思います。咲良さんの実力も確認したいですし」
「明日?どんな依頼ですか?」
急な依頼に穂花が少し驚きながら尋ねた。
「ルーグさんの村を襲った危険度B級の盗賊の捕縛です。私もA級になったのでそれほど難しくないでしょう」
「賛成!」
「あぁ…俺もだ!」
秀樹と穂花は逃してしまった負い目からか、気合い十分の様だ。
「他のみなさんはどうですか?」
香織が聞くとちらほらと賛成の声が挙がる。
恐らく今声を挙げたのが選抜メンバー、つまり冒険者階級上位陣だろう。
「では賛成の声が多いので明日明朝に出発します。もちろん咲良くんも参加してください」
「…あぁ」
(初めから分かっていたがこれで確信が持てた。こいつらと一緒にいても得るものはない…ルーグの店が軌道に乗れば予定通り南の国に向かうか。一度世界樹の森に帰るのもありだな)
素っ気なく返事をしながら今後どう動くかを考えていたがすぐに方針は決まりそうだ。
その日の夜、ギルド近くの宿を借りた。その宿はルーグも泊まっており、今後について話し合った。近いうちに秀樹に店となる建物を案内してもらえるらしく、これから忙しくなりそうだが楽しくもなりそうだと酒を交わし、お互いの自室へと戻って行った。
コンコン
深夜あたり、咲良の部屋をノックする者がいる。
気配ですぐに誰か分かった。
「陸か、入れ」
「夜遅くに悪いな。寝てたか?」
「いや…大丈夫だ」
咲良はベッドに腰掛け、陸が椅子に座る。
「酒持って来たんだ。飲まないか?」
「いいね…貰おう」
コップも持って来ていたらしく、お互い注ぎ合う。
チンッ
乾杯すると2人とも一気に飲み干す。
陸が持って来たのはコーチンの地酒だ。ワインの様なフルーティな香りが鼻から抜けるが度数が高く胸が少し熱くなる。
空になったコップに酒を継ぎ足すのをきっかけに陸が切り出す。
「なぁ…りょ…咲良」
「なんだ?」
「お前…本当に変わったのか?」
秀樹の話でほとんどのメンバーが咲良の見る目を変えた。そもそもあまり良く見られてはいないが…
「お前にはどう見える?」
「そりゃ言葉とか行動とか変わった部分はあるのかもしれないけどよ、芯の部分はなんも変わってねぇんじゃねえかって思ってよ」
「…なんでそう思う」
「いや俺もさ、香織さんの考えには本当は納得してないんだよ。帰れる方法があるかどうかもわからないのに探し続けるし…俺はそれより咲良…みたいにまずはこの世界でしっかり生きることが重要なんじゃないかってな」
「……そうか……」
この陸の言葉に咲良は安堵と嬉しさが混ざった表現しづらい感情を覚えた。
「それに…確かに人殺しは良くない。俺もしたくはない…でも…やらなきゃやられる。それがこの世界なんだと思う。地球のルールとは違うんだから…あいつらが咲良を責めても…俺は責めることは出来ない」
陸は周りと意見がすれ違っている事に少なからず疎外感を覚えていた。もしかするとこの世界に来てから〈イマジナリー〉に入るまでの間に何かあったのかもしれない。
「あぁ…ここにはここのルールがあるからな。いくら足掻いたところで死んだらそれまで」
「……だな……香織さんは確かに頼りになる…けど、あの人は理想を追いすぎて前が見えていないって感じなんだよな」
「あいつが頼りになる意味が俺には分からん」
「皆を引っ張ってくれるし、なにより俺たちの中で一番強いからな」
「あんな偽物…強さとは言わねぇよ」
「にせもの?」
陸には咲良が何を言っているのか理解できていない。
「白峯?とか言ってたな…あの刀のおかげだよ」
「あぁ…確かに。あの武器はヤバイ」
「だが、あれがなかったら…あいつは陸とそう変わらないだろうな」
陸は現在はC級冒険者だが、気配からしてB級はありそうだ。
「…そうなのか?」
「どっちにしろ、武器に頼ってばかりいるやつは武器がなけりゃなんも出来ない弱者だよ」
「そこまで言うか」
はっきりいう咲良に陸は少し苦笑いを浮かべる。
「ま、近いうちあいつの刀は回収させてもらう」
「……どゆこと?」
「………陸になら…全てを話しても良いかもな」
「すべて?」
「俺のこれまでのことだ…聞いてくれるか?」
「あぁ…もちろんだ」
咲良は全てを話し出した。
世界樹の森におり黒竜に出会い鍛治から戦闘まで様々なことを学んだ事。神器を集める使命を受け、身体の中に新たな黒竜がいること等、全てを包み隠さず話した。
「………そう…か…」
陸は黙って涙を流しながら聞いてくれた。
自分のために涙を流してくれる友人がどれほどいる事だろうか。改めて陸と再会できてよかったと心底思った。
「ならずっと一緒に行動は出来なさそうだな」
「…かもしれないな」
「仕方ねぇか。だがいつか一緒に旅をしないか?」
「それはいいな。楽しそうだ」
アスガルドは刺激で満ち溢れている。そんな世界を最高の心友と旅出来るなら、断る理由など見当たらない。
「よし、咲良が話してくれたんだ!俺も話すのが筋だな」
そういうと陸もアスガルドに来てからの出来事を話してくれた。話を聞くとやはり陸も相当な経験をしていた。
「お互い苦労したな」
「全くだ。これからも苦労するだろうけどな」
陸の話を聞き終えると、これからの生活が平凡では終わらなさそうだと2人して笑った。
「そうだ!急なんだが、俺の武器を見てくれねぇか?」
「ほんとに急だな…まぁいいぞ」
陸は一度部屋を出ると得物の槍を持ってきて咲良に手渡した。
「〈妖精の羽〉専属の鍛治師に作ってもらったんだけど中々しっくりこなくてよ。だからと言って少なからず命を守ってくれたコイツを交換するってのも嫌でさ」
「これはしっくりくるわけねぇな。重心がズレてる。それに左右で重さも違う」
咲良は槍をじっくり見定めながら改善点を述べる。
「なるほど…そりゃどうしようもねぇな」
「だが…よく使い込まれてる。こいつはいい主人に恵まれて幸せな武器だな」
「ははっ…なんか嬉しいな」
陸は自分が褒められたかのように頭をガシガシと掻いて照れる。
「ルーグの店が出来次第、そこに工房を作るから来るといい。作り直してやる」
「まじか!」
「陸にピッタリの槍をな」
「そりゃ楽しみだ!…おっと…さすがに長居しすぎたな…そろそろ帰るわ。また明日な」
「おう!」
久々親友の陸と話せた咲良はその日晴れた気分で眠ることができた。
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