【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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22. 零時を知らせる鐘が鳴る

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 フィンだ!!
 会いたくて会いたくて仕方なかったフィンがいるんだ!!

 ——って、なんでこんなところにいるんだよ!!

 少しだけ近づくと、フィンの姿がはっきり見えた。
 いつもと違って、よそ行きの笑顔をしている。
 もちろん、いつもの騎士の訓練服じゃなくて、今日は白い立ち襟の正装。
 胸には第一王子の紋章が金糸で縫いつけられていた。
 背中には青いマント。
 これが、俺の着ているドレスと同じ生地だった。
 けれど俺のドレスは、その青に金糸や銀糸がちりばめられ、白いレースもふんだんに使われている。
 遠目からは、シンプルな水色のドレスにも見えるかもしれない。
 並んで立つと、まるで神話の「チェネレントの靴」に出てくる王子と姫みたいだ。

 ってなんだ、このお揃い感!!
 
 いやいや、そんなの今はどうでもいい!!
 重要なのは、第一王子の紋章だよ!
 これを付けた衣装って!!
 つまり!?

 え、まさか!?
 
 俺、フィンのこと呼び捨てにして、一緒に訓練したんだぞ!?
 そんな相手が第一王子なわけ――いや、あるのか?

 確かに、肖像画の第一王子とフィンは似ているなとは思ったけどさ。
 でも、第一王子は魔法で顔を変えてるって聞いたし。
 普通、少しでもカッコよく見えるように変えるもんだろ?
 まさか本物の方がもっとかっこいいなんて、思いもしないじゃん!!
 
 でもそれは、俺がモブ顔だからそう思うのかな。
 生まれたときからイケメンだったら、見た目なんて気にしないのかも。

 そんなことを考えていたら、見覚えのある真っ赤な塊、んんっ失礼。
 マティルダお嬢様が叫んでるのが見えた。
 
「きぃーー!!
 あのフィン様が、フィルベルト殿下だなんて聞いてないわっ!!
 フィルベルト殿下と結婚するのは、わたくしよーー!」

 叫びながら、ハンカチをギリギリ噛みしめている。
 相変わらずドラマティックなお嬢様だ。
 そのあともブツブツと呟いているのが聞こえた。

「いえ、あのちんちくりんならまだ許すわ。
 でも、あんなどこの馬の骨ともわからない女なんて、絶対に許さないんだからっ!!」
 
 ん?
 つい、お嬢様が面白くて聞き逃していたけど。
 今、フィルベルト殿下って言わなかったか?

 やっぱりそうなのか。

 俺、今さらながら気がついた。
 「フィン」って「フィルベルト」の愛称にもなるじゃんか。
 普通は「フィル」って呼ぶけどさ。
 それでも、そんなことにも気が付かないとか、俺って、ポンコツ過ぎないか?

 フィンが第一王子だったと確信した瞬間、俺は全身が震え出した。
 レッドカーペットの周りには招待客が集まり、みんなが俺を見てざわめいている。
 気づいたら、騒がしいマティルダお嬢様は退場させられていた。

 フィン、いやフィルベルト殿下がこちらへと歩いてくる。
 殿下は、戸惑う俺の手をそっと取って、囁いた。

「なんて素敵なんだ。私と踊ってくれないか」

 久しぶりに聞く、フィンの声。
 けれど、その顔はまるで仮面を付けたみたいに、よそ行きの微笑みだった。
 訓練の時に見せた、あの心から楽しそうに笑う顔とは全然違う。

 もしかしてフィンは、俺だって気づいてないのかな。

 胸がちくりと痛む。

 そういえば、係の人が招待状を見たから、俺は別室に連れていかれたんだ。
 もちろん、招待状には「サーラ」って書いてある。
 ってことは、係の人にはサーラをここに連れてこいって命令していたんだよな。
 だからフィンは、俺が現れるまではサーラがくると思っていたんじゃないか?
 きっと本当は、フィンはサーラと踊りたかったんだよ。
 それなのに、今目の前にいるのは、フィンからすれば知らない女装男だ。

 ……ごめん、フィン。
 きっと内心では「こいつ誰?」って思ってるよな。
 こんな格好してるけどさ、今目の前にいるのはサーラの義兄、エリゼオなんだよ。

 けど、フィルベルト殿下から「踊ろう」なんて言われたら、俺に断れるわけがない。
 だって、第一王子だぞ?

 ううん、違う。
 本当は、そんなの関係ない。
 フィンと踊れるなんて、そんな幸せ、俺が断るはずないじゃないか。

 曲が流れ、王子が俺をエスコートする。
 やばい、俺、女性パートなんて全然わかんない。
 どうしようって思った瞬間、ガラスの靴が勝手に動き出した。

「大丈夫。私がエスコートする。力抜いて。私を見て」

 あ、やっぱりフィンだ。
 耳元でささやく声が、俺の好きなフィンの声だった。
 顔を見上げると、やっぱりよそ行きの表情。
 でも、深い青の瞳はあの騎士服に身を包んだときと同じだった。
 それに気づいた瞬間、俺はもう目が離せなくなった。

「そう。上手だね」

 くそ。そんな優しく言うなよ。
 知らない女性にもこんなこと言うなんてさ。
 こいつ、どんだけ人たらしなんだ。
 こんなこと言って愛想振りまいてたら、まみんなフィンのこと好きになっちゃうだろ。
 サーラ、こんな奴が婚約者なんて苦労するな。
 ずっとやきもちを妬くことになりそうだ。

 フィルベルト殿下のエスコートは完璧だった。
 それに、ガラスの靴のおかげで、俺は失敗せずに踊れた。

「ふふ、エリゼオ、ずいぶん上手に変身したね」 

 曲が終わる頃、フィンが俺の耳元で囁いた。
 え!? フィン、俺がエリゼオだって気づいてたのか!?

 驚いている間に曲が止まる。
 周りはやけにざわめいていた。

「三曲続けて踊ったということは、未来の王太子妃はこの方だ!」

「殿下、おめでとうございます!」

「この幸運をつかんだ方は、どなたですか?」

 色んな人の声があちこちで聞こえた。
 俺、三曲も踊ってた!?
 男性が三曲続けてエスコートするのは、求婚の証。
 そして、それを受け入れた女性は、その求婚を承諾したってことになる。

 ちょ、フィン!
 フィンは、俺が男だって分かってるから、気にせず踊っちゃったんだろうけど。
 周りは俺のこと、女性だって思ってるんだぞ!?
 やばい、ほんと、やばいよ。

 俺はどうしたら良いか分からず、涙目になりながら外へ向かって走り出した。
 その時、零時を報せる鐘が鳴り響いたんだ。
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