【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
25 / 64

24.そういうことだったのか……

しおりを挟む
 昨日の舞踏会で一人通されたあの部屋に、俺はまた呼ばれて座っていた。
 テーブルの上には、昨日と同じようにおいしそうな紅茶とお菓子が並んでる。

 昨日と違うのは、フィルベルト殿下がにこやかに目の前に座っていること。
 そして、昨日は扉の前にいたガルディア団長が、今はフィンの斜め後ろに控えていた。
 相変わらず無表情だし、置物みたいに気配がないんだけどさ。

 俺、どうなるんだろ?
 ここでひっそり断罪される、なんてことないよね?
 
 とりあえず、サーラのお母さんの形見の靴を返してもらわないと。
 俺はそのために来たんだしな。

 それに、昨夜の舞踏会でサーラの代わりに俺が来てしまったことも謝らないとだ。

「あ、あの……!」

 俺が勇気を出して口を開いた瞬間、俺はフィルベルト殿下が見覚えのあるハンカチを手にしているのに気付いた。

 え、あれって、俺が刺繍したやつだ。
 しかも、デザイン失敗して、捨てたやつじゃん!

 なんでそんなの持ってるんだよ?

 俺の視線に気付いたフィルベルト殿下は、にっこりと笑って、そのハンカチを口元に持っていき、キスをしてみせてくる。
 何でだよ!
 何でそんな大切そうに扱うの!?

「君の刺繍したものは、全て私が持っているからね。
 捨てたりなんか、させないよ。たとえ君であってもね」

 こんなん、恋人をくどく台詞じゃんか。
 なんでサーラじゃなくて俺に言ってんの!?
 おれ、そんなこと言われ慣れてないから、どう反応して良いか分からないよ!

「な、なんでそんな捨てようとしたハンカチまで持ってるんですか!?」

「ふふ、君の義妹さんから聞いてないかな?
 君が作ったものは全て私が買い取るから、持ってきてと伝えてあったんだ」

 え?
 そんなの初耳だよ。

「だ、だって、これは騎士団のために作ってくれってサーラに言われて……」

「ふーん。エリゼオが私に叱られたって落ち込んでるってサーラ嬢は言っていたから。
 私の名前を出すと、君がまた落ち込むとでも思ったのかもしれないな。
 これは、私がサーラ嬢を通して依頼していたんだ。
 全て私が買い取ってあるよ。
 そばにいないのが寂しいのは、君だけじゃ無い。私もだからね。君の刺繍だけでもそばに置きたかった。
 君の温もりが残っているような気さえするこのハンカチには、ずいぶん助けられたよ」

 な、何言ってんだよ!
 俺なんかいなくたって、フィルベルト殿下にはサーラがいるじゃないか。

 もしかして。
 サーラから買い取ることを理由にして、サーラと会話していたのかな。
 サーラは名前を口に出せないほど、推しのこととなると奥手だもんな。
 理由があれば、サーラも話しやすいのかも。
 でもさ。
 二人は両想いなんだし、これから結婚するつもりなんだろう?
 それなら、こんなことしなくてもいくらでも話すことなんかあるじゃ無いか。

「なんでこんな、めんどくさいことするんだよ……」

 思わず口をついて出てしまった。
 その言葉にフィルベルト殿下は笑顔を消して、ちらっとガルディア団長を見る。
 団長は扉の方へ向かい、扉を開けて廊下を確認する。
 それから扉を静かに閉じ、扉の前を守るようにして立った。
 そのあとは、また置物に戻る。
 なんでこんな気配無いんだろ。
 忍びなのか?って思うくらいだよ。

 フィルベルト殿下は、それを見届けたあと、俺をまっすぐとらえた。
 緊張感のあるその雰囲気に、俺も慌てて背筋を伸ばした。

「何も知らせずに、今回エリゼオを巻き込んでしまって悪かった。
 けれど、君に伝えて、断られたらと思うと話せなかった」

 フィルベルト殿下の膝の上で、手が強く握りしめられるのが見えた。

 あ、フィルベルト殿下は俺が言った「めんどくさいこと」というのがハンカチのことじゃなくて、舞踏会のことだと思ったのか。
 フィルベルト殿下の勘違いに気付いたけど、舞踏会のことも説明してほしいと思っていたから、俺はそのまま殿下の話を聞くことにした。

「私の婚約者が、皆解消されているという話は聞いたことはあるか?」

 俺がうなずくと、フィルベルト殿下は目を伏せて、少しだけ声を落とした。

 「これだけは誤解してほしくないんだけどね。
 私の性格に問題があるとか、そういうことじゃないんだ。
 婚約が決まるたびに、婚約者が事故や病に見せかけた襲撃に遭うんだ。
 だから皆、怯えてしまってね。
 それで、私とは婚約を解消して他国との政略結婚という形で、この国を逃げ出しているんだよ」

 なにそれ。
 そんなことがこの国で起きてたなんて。
 ずっと平和な国だと思ってたのに。

 フィン、ずっとそんな中にいたのか。
 すごくつらかっただろうな。
 俺はフィンの境遇を考えると、胸のあたりがぎゅっと痛くなる。
 それでも、フィルベルト殿下は笑っていた。

「でも、そのおかげで今は、自由に婚約者を選ばせてもらえることになったんだ。この国は二十五歳までに結婚をしないと、王にはなれないからね。私はもう二十三歳だから、結構ギリギリなんだよ」

 あ、そういうことか。
 普通なら男爵家の娘が第一王子の婚約者になれるわけないもんな。
 けど、今なら結婚できるってことか。

 なるほどね。
 よかったなあ、サーラ。

 今度こそ、俺は「いもうと」の幸せを俺は見届けられるんだ。
 ……やったじゃん。
 もっと喜べよ俺。

 俺がもやもやとしていると、フィルベルト殿下は、さらに言葉を続けた。

「本当は婚約者になる前に、この黒幕を見つけたかった。
 もともと、私が騎士団に出入りしていたのも、この調査のためだったんだ。
 けれど、なかなか難しくてね。
 だから今回の計画を立てた。
 君に女装をしてもらって、“誰が婚約者か分からないように”した」
 
 ……つまり俺、囮ってことだな。
 俺が表に出て、サーラを安全に隠す。
 事件が片付いたら、フィルベルト殿下はサーラと結婚。
 なるほど、完璧な作戦だ。
 さすがだな。

「エリゼオには、今後は男性の姿で王宮にいてもらう。
 敵は女性の婚約者を探してるはずだからね。
 でも、そんな人物はどこにもいない。
 舞踏会で出会った女性と婚約した。
 神話の『チェネレントの靴』を再現することで、この国の発展を図る。そのために、神話と同じように結婚するまでは女性の身元は謎のままとしておく。
 そう皆に伝えるだけで、君や君の家族の安全は守られるはずだ」

 ……すごい。サーラを守るためにここまで考えてたなんて。
 俺もフィンの期待に応えたい!
 俺も頑張らないと。
 俺を頼ってくれるなんて、嬉しいじゃないか。

 ふいに殿下が少し身を乗り出して、俺の手を包み込む。
  温かい手だった。けれど、胸が痛いほどドキリとした。

「失うのは……もう、嫌なんだ」

 え……?
 あ、今までずっと婚約者を手放してきたんだもんな。
 そう思っても仕方ないよ。
 でもさ。
 やめてよ、そんな顔で言うの。
 勘違い、しそうになるじゃんか。
 俺を失いたくないって思ってるんじゃないかって。

 目の奥が熱くなる。
 でも、俺、決めたんだ。

「やるよ。俺、殿下のためなら、なんだって頑張るから!!」

 思い切りそう言ったら、フィルベルト殿下はふっと微笑んだ。

「ありがとう、エリゼオ。……君がいてくれたことで、私は本当に救われたんだ」

 その声がやけに優しくて。
 俺は胸を押さえながら、視線を落とした。

 勘違いだって、分かってるのにな。
 
しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。 死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。 君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

処理中です...