27 / 64
26.俺、やっと分かったよ
しおりを挟む
あれから、どれくらい時間が経ったのか分からない。
胸のあたりが微かに温かい気がする。
少しだけ重みも感じた。
そうだ。フィンにもらった短剣が懐に入っていたな。
なぜだかこの短剣から、フィンに抱きしめられているようなぬくもりを感じる。
俺はそれにひどく安心して、再び眠りについた。
少しずつ意識が覚めてくる。
まだぼんやりとした中で、誰かの手の温もりを感じた。
俺の手をぎゅっと握って、俺がどこかへ行ってしまわないようにという明確な意思が伝わってきた。
その手があまりにも力強くて、けれど優しくて、俺は涙が出そうになる。
「……どうして、あんな無茶を……」
低く、掠れた声。
目を開けなくても分かる。フィンだ。
俺の指先に、フィンの吐息がかかる。
俺の手にフィンがほおずりしている。
俺の手を握るフィンの手は、ずっとかすかに震えていた。
「君がいない未来なんて、私には意味がないんだよ。
君を守りたいのに……私は君の前ではいつも無力だ。
ねえ、エリゼオ。ずっと側にいてくれるって、あのバラ園で言ってくれたじゃないか。
もう、俺を置いていかないで。
エリゼオ。好きなんだ。君がいれば何もいらない。
だから。ずっと私のそばで笑っててほしい」
その声には、普段の余裕なんて微塵もなかった。
ただ、一人の青年が、失いたくない人を前にして泣いている——そんな声だった。
涙が、俺の頬に落ちた。
ああ、フィンが泣いてるんだ。
そんなの、ずるいよ。
俺まで泣きたくなるじゃないか。
不意に何かが胸にストンと落ちてくる音がした。
俺は、突然気づいた。
フィンは、ちゃんと俺のことが好きだったんだって。
あの甘い「好きだよ」「ずっと私を見てて」「大切なんだ」という言葉。
いつだって俺を見て、囁いてた。
それは、戸惑う俺をからかってるだけだと思ってた。
フィンはサーラを好きだと思ってた。
ううん。違う。
勝手に思い込もうとしてたんだ。
俺は、いつも自分に自信がなくて。
勝手に期待して、裏切られるのが怖くて、必死にフィンの思いから目を背けていたんだ。
ごめん。ごめんな。
俺が弱いせいで、ずっとフィンの気持ちから逃げて、向き合ってこなかった。
次に目を覚ました時。
俺は、ちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
「俺はフィンが大好きだ」って。
『お兄ちゃん、幸せになってね』
前世の妹が笑顔で俺に語ってた。
いつ言われたっけな?
妹はいつも「自分の幸せを一番に考えて」って言ってたっけ。
ほんと、俺にはもったいないくらい、よくできた妹だったよ。
『お義兄さま! わたくし、推しの騎士様と目があってしまいましたわ!』
ふいにサーラの声も聞こえてきた。
そうだ。サーラはフィンが好きなのに。
俺、サーラになんて伝えたらいいのかな?
もう、自分の気持ちをなかったことになんかできないよ。
俺、フィンが好きなんだ。
きっと、自分の命なんてどうなったっていいくらい。
フィンが幸せになれるなら、自分の気持ちなんて、いくらでも我慢できた。
でも、フィンが俺を好きって言ってくれるなら。
俺はもう、諦めることができないんだ。
どうしよう。
俺、サーラを幸せにするって誓ったのに。
サーラ、ごめんな。
俺、どうしたらいいんだろうな……。
その時。
『お兄ちゃん! またこの義妹のサーラって子、私の推し騎士との恋を邪魔するのよ!!』
再び妹の声が聞こえてきたんだ。
胸のあたりが微かに温かい気がする。
少しだけ重みも感じた。
そうだ。フィンにもらった短剣が懐に入っていたな。
なぜだかこの短剣から、フィンに抱きしめられているようなぬくもりを感じる。
俺はそれにひどく安心して、再び眠りについた。
少しずつ意識が覚めてくる。
まだぼんやりとした中で、誰かの手の温もりを感じた。
俺の手をぎゅっと握って、俺がどこかへ行ってしまわないようにという明確な意思が伝わってきた。
その手があまりにも力強くて、けれど優しくて、俺は涙が出そうになる。
「……どうして、あんな無茶を……」
低く、掠れた声。
目を開けなくても分かる。フィンだ。
俺の指先に、フィンの吐息がかかる。
俺の手にフィンがほおずりしている。
俺の手を握るフィンの手は、ずっとかすかに震えていた。
「君がいない未来なんて、私には意味がないんだよ。
君を守りたいのに……私は君の前ではいつも無力だ。
ねえ、エリゼオ。ずっと側にいてくれるって、あのバラ園で言ってくれたじゃないか。
もう、俺を置いていかないで。
エリゼオ。好きなんだ。君がいれば何もいらない。
だから。ずっと私のそばで笑っててほしい」
その声には、普段の余裕なんて微塵もなかった。
ただ、一人の青年が、失いたくない人を前にして泣いている——そんな声だった。
涙が、俺の頬に落ちた。
ああ、フィンが泣いてるんだ。
そんなの、ずるいよ。
俺まで泣きたくなるじゃないか。
不意に何かが胸にストンと落ちてくる音がした。
俺は、突然気づいた。
フィンは、ちゃんと俺のことが好きだったんだって。
あの甘い「好きだよ」「ずっと私を見てて」「大切なんだ」という言葉。
いつだって俺を見て、囁いてた。
それは、戸惑う俺をからかってるだけだと思ってた。
フィンはサーラを好きだと思ってた。
ううん。違う。
勝手に思い込もうとしてたんだ。
俺は、いつも自分に自信がなくて。
勝手に期待して、裏切られるのが怖くて、必死にフィンの思いから目を背けていたんだ。
ごめん。ごめんな。
俺が弱いせいで、ずっとフィンの気持ちから逃げて、向き合ってこなかった。
次に目を覚ました時。
俺は、ちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
「俺はフィンが大好きだ」って。
『お兄ちゃん、幸せになってね』
前世の妹が笑顔で俺に語ってた。
いつ言われたっけな?
妹はいつも「自分の幸せを一番に考えて」って言ってたっけ。
ほんと、俺にはもったいないくらい、よくできた妹だったよ。
『お義兄さま! わたくし、推しの騎士様と目があってしまいましたわ!』
ふいにサーラの声も聞こえてきた。
そうだ。サーラはフィンが好きなのに。
俺、サーラになんて伝えたらいいのかな?
もう、自分の気持ちをなかったことになんかできないよ。
俺、フィンが好きなんだ。
きっと、自分の命なんてどうなったっていいくらい。
フィンが幸せになれるなら、自分の気持ちなんて、いくらでも我慢できた。
でも、フィンが俺を好きって言ってくれるなら。
俺はもう、諦めることができないんだ。
どうしよう。
俺、サーラを幸せにするって誓ったのに。
サーラ、ごめんな。
俺、どうしたらいいんだろうな……。
その時。
『お兄ちゃん! またこの義妹のサーラって子、私の推し騎士との恋を邪魔するのよ!!』
再び妹の声が聞こえてきたんだ。
245
あなたにおすすめの小説
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間
華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
人間嫌いの公爵様との契約期間が終了したので離婚手続きをしたら夫の執着と溺愛がとんでもないことになりました
荷居人(にいと)
BL
第12回BL大賞奨励賞作品3/2完結。
人間嫌いと言われた公爵様に嫁いで3年。最初こそどうなるかと思ったものの自分としては公爵の妻として努力してきたつもりだ。
男同士でも結婚できる時代とはいえ、その同性愛結婚の先駆けの1人にされた僕。なんてことを言いつつも、嫌々嫁いだわけじゃなくて僕は運良く好きになった人に嫁いだので政略結婚万歳と今でも思っている。
だけど相手は人嫌いの公爵様。初夜なんて必要なことを一方的に話されただけで、翌日にどころかその日にお仕事に行ってしまうような人だ。だから使用人にも舐められるし、割と肩身は狭かった。
いくら惚れた相手と結婚できてもこれが毎日では参ってしまう。だから自分から少しでも過ごしやすい日々を送るためにそんな夫に提案したのだ。
三年間白い結婚を続けたら必ず離婚するから、三年間仕事でどうしても時間が取れない日を除いて毎日公爵様と関わる時間がほしいと。
どんなに人嫌いでも約束は守ってくれる人だと知っていたからできた提案だ。この契約のおかげで毎日辛くても頑張れた。
しかし、そんな毎日も今日で終わり。これからは好きな人から離れた生活になるのは残念なものの、同時に使用人たちからの冷遇や公爵様が好きな令嬢たちの妬みからの辛い日々から解放されるので悪い事ばかりではない。
最近は関わる時間が増えて少しは心の距離が近づけたかなとは思ったりもしたけど、元々噂されるほどの人嫌いな公爵様だから、契約のせいで無駄な時間をとらされる邪魔な僕がいなくなって内心喜んでいるかもしれない。それでもたまにはあんな奴がいたなと思い出してくれたら嬉しいなあ、なんて思っていたのに……。
「何故離婚の手続きをした?何か不満でもあるのなら直す。だから離れていかないでくれ」
「え?」
なんだか公爵様の様子がおかしい?
「誰よりも愛している。願うなら私だけの檻に閉じ込めたい」
「ふぇっ!?」
あまりの態度の変わりように僕はもうどうすればいいかわかりません!!
記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。
鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。
死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。
君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる