【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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46.俺、幸せになるから

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 次の夜。
 またフィンが魔法でサーラとカリオを連れて現れた。
 二人とも目をまん丸にして固まってる。
 まあそうだよな。瞬間移動なんて普通は一生体験できないもん。
 う、羨ましい。

「思ったんだけどさ。人を連れてこられるなら、俺が牢で寝てるように偽装して、フィンの部屋に連れてってくれても良くない?」

 軽く言ってみたら、フィンが俺の首のリングをそっとなぞった。

「逃走防止の魔道具だ。これを外そうとしたり、勝手に牢を出ようとすると、首を絞めつけて、兵に知らせる仕組みだ」

「ひえっ、怖っ。
 ほんと城の魔道具だて本当にいろいろあるんだな」

「普通はこんなものを使わない。昔作られた貴重な魔道具だ。
 それだけ伯爵は君を逃がしたくないってことだ。
 くそっ、ここまで君に執着するなんて。
 まさか、君を自分のものにしようとしてるのか!?
 罪をでっち上げて奴隷にして……性奴隷に……!」

 ちょっ!?
 フィン、王子さまの仮面、完全に外れてるよ!?
 俺だって嫌だよ、そんなバッドエンドルート!

 絶対、フィンルートでハッピーエンドにするんだから。

「お義兄様っ、お元気そうで何よりですわっ」

 サーラが俺の手をぎゅっと握る。
 サーラの目は潤んでいた。
 
「心配かけてごめんな。俺は元気だよ。……サーラや母さんは?」

「わたくしは侍女のお仕事をお休みする以外は自由です。でもお母様は昨日、お城の方に部屋から出るのを止められてしまって……。部屋の中では自由ですが、お義兄様をとても心配しておられます」

 サーラが悔しそうに下唇を噛んだ。

「迷惑かけてごめん。でも、本当に俺は何もしてないから。無事に帰るって伝えて」

 俺はサーラの手を握り返して、力強く頷いた。

「あのー、すみません。どうして俺たちを危険を冒してまでここに?
 見張りが来る前に話すことがあるんですよね?」

 カリオがおずおずと口を挟んだ。

 そうだ。
 見張りは一時間に一度見回りに来る。
 さっき来たばかりだから、あと五十分ほどしかない。
 フィンだって一日に何度も魔法は使えない。

 気持ちを切り替えて、俺はフィンに話した内容を二人にも話して聞かせた。
 
 二人は、驚きながらも、フィンの魔法を実際に見た後では、そんなお告げがあってもおかしくないと納得したみたいだ。

「つまり皆で集まれと言うことは、それぞれの持ち場でできることがある……ということかしら?」

 サーラが首をかしげる。

「でも俺は騎士団だから、王宮内部のことは分からない。
 ガルディア卿なら探れるだろうけど。
 卿はまだ囚われてて、かなりひどい尋問を受けてるらしい。
 守るべき相手を裏切ったなんて、騎士にとって死んでも許されない罪だからな」

 俺は胸がずんと重くなる。

「ねえ、君は今、誰のことで悲しんでるの?
 エリゼオは私のことだけ考えていればいい。
 ガルディアは大丈夫。
 だてに騎士団長をしていない。
 精神の強さは折り紙つきだ。
 それに、護衛対象の私が不利になることを、彼が話すはずがない」

 さすが。
 二人は、強い絆で結ばれてるんだ。
 小さい頃から共にいたと言ってたし、積み重ねた歴史があるんだろうな。

 俺、フィンにそんな人がいたことは嬉しかった。
 嬉しかったけど。
 ちょっとだけ妬ける。

 気づけば、俺はフィンに抱きついて甘えていた。
 俺、前世から家族とのスキンシップが好きだったんだよな。
 フィンとは好きにならないようずっと距離をとってたけど。
 前世の妹に抱きつこうとして、よく逃げられてたの思い出した。
 妹……そうだ。
 
「あっ、思い出した! 確かサーラととカリオが一緒に動いて、俺はフィンと協力するんだ!」

『推しと好感度マックスなのに、何でこのヤンデレ王子と行動なのよ!
 しかもサーラは推しの騎士と組むってて、何それ!
 んもう、解決のためとはいえ、仕様がひどすぎる!』
 
 病院のベッドで机叩いて怒ってた前世の妹を思い出したんだ。

 サーラがハッとした顔になり、カリオを見てから慌てて目を逸らして俺に向き直った。
 ひと月以上一緒に働いているのに、サーラはまだカリオを見ると緊張するらしい。

「そう言えば、カリオ様の行きつけのお店で、先日、隣国の服を着た人と伯爵がコソコソと同じ部屋に入るのを見ましたの。
 私、あのお店には入ったことはないんですけど、外からよく見える絶景スポットがありましてね。
 あのお店、天井がオープンですから、小高い丘から丸見えなんですのよ」

 おいサーラ、それ大丈夫か?
 時々星を見に行くって言ってたの、そういう理由だったのか。
 別に店の中を見おろすだけなら、許されるのか?
 だって、見られても仕方ない仕様だもんな。


 って言うか、叔父さんもそんなところで悪巧みって抜けてない?

「サーラでかした!
でもさ、それだと会話までは聞こえないよな」

 俺が色々な思いを飲み込んでからサーラを褒めると、サーラは誇らしげに笑った。
 隣のカリオは、顔が真っ赤だけどな。
 うん。
 サーラの愛はきっと重いぞ?
 フィンと同じくらいにな。

 そのカリオをじっと見ていたら、フィンがそっと俺の目を隠した。

「いや、魔道具で音声を録音できる。
 エリゼオを城に迎える前に、君の部屋に使えないかと思ってガルディアに相談したら、叱られて断念したが。
 それに、映像も撮れるかも知れない。
 今開発中だ」

 ん?
 俺の部屋、盗聴しようとしてたの!?
 手をのけて、ジッと見つめたら、フィンが珍しく目をそらした。
 うん、寂しい。
 やっぱりどんな理由があっても、俺の方だけ見てて欲しいな。

「いつ刺客に狙われるかと思ったら不安で……。
 だが実行していない!
 一緒の部屋で寝ればいいと、ガルディアに言われたんだ」

 何故か胸を張るフィン。
 サーラとカリオが引いているのが空気で分かる。

「うわ、ヤンデレ……」

 サーラの小声を俺は聞き逃さなかった。

 あれ、そんな言葉しってるの?
 サーラも転生者?
 いや、ここは元々ゲームの世界だ。
 現代日本語っぽい単語を使っててもおかしくない……のか?

 俺が考え込んでたら、気を取り直したらしいカリオが口を開いた。

「では、俺が店に許可を取って魔道具を設置します。
 店主は、俺の幼馴染なので、黒幕側じゃないことは確かです。
 騎士団の捜査目的なら、問題はないはず」

「そうだね。カリオの関係者は全員白だと判明してるから、安心していい」

 フィン……?
 そっか。
 カリオの身辺は全て調査したって前にガルディアが言ってたもんな。
 でも、そんな知り合いまで調べてたなんて。
 フィンはカリオのこと、どれだけ調べ上げたんだろ?

 いやいや、今は叔父さんを追い詰める方が大事だ。
 俺は両頬をパチンと叩いて、気持ちを入れ直す。

「では、私たちはあの書類をもう一度確認しよう。
 色んな金の流れを私と君でまとめたからね。
 もう一度古い資料から見直して金の流れをもう一度洗い流せたら、何か分かるかも知れない」

 フィンの言葉に、俺も大きく頷く。

 やることが決まった安心感から、俺は一気に眠気が押し寄せてきた。 
 いくらフィンが魔法で快適にしてくれても駄目だ。
 フィンが隣りにいない夜なんて、このひと月一度だって無かったから。

 俺、もうフィン無しじゃ安眠できない体になってる。

 とうとうフィンに寄りかかって目が開けられなくなる。

 サーラの静かな声が聞こえた。

「お義兄さまのそんな無防備なお姿、初めて見ます。
 殿下、お義兄さまは、父の不在で寂しかったわたくしに、家族の愛情をくれた大切な方です。
 たとえ殿下でも、お義兄さまを泣かせることは許しません。
 もし泣かせるようなことがあれば、わたくし、殿下と差し違える覚悟ですわ」

 サーラ、それは困る。
 そんなことしたら、お前が幸せになれないじゃないか。

 だから俺は絶対に幸せになる。
 フィンと一緒に。

 そう思ったところで、意識はすとんと落ちた。
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