【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
77 / 78

番外編13:近衛騎士団長は王族の青年に愛される【払拭】

しおりを挟む
 この夜、結局私とリナルド様が一つになることはなかった。
 私の涙に気付いたリナルド様が、もう抱こうとしなかったからだ。

 それも仕方ない。
 だって、私は男だ。そのうえ、ずいぶん年上にも関わらず、幼子のように泣き出した私など、面倒以外の何物でもない。
 いくら幼き頃からの情があるとは言っても、その気が失せてしまったのだろう。

 目を覚ましたのは夜明け前であり、遠くの空が少しずつ白くなってきている頃であった。
 私を抱きしめて眠るリナルド様を、じっと見つめる。
 王宮からここまで、ずいぶんな距離がある。
 それなのに、病み上がりのリナルド様は私のためにここまで来てくださったのだ。

 もう、十分思い出を頂けた。
 十年ほどの年月、リナルド様のおそばにいさせていただいた。
 最後には、このように引き留めて思い出をくださったのだ。
 たとえ最後までできなくても、何が不満なのだ。

 私には十分すぎるくらいだ。
 リナルド様のお優しさにこれ以上甘えられない。

 リナルド様がお目覚めになられたら、お別れを告げよう。
 この場所にいることが許されないのであれば、どこか遠くへ行こうと思う。
 これでリナルド様とは本当にお別れだ。

 少しずつ朝日が昇り、陽光に反射して輝くまつ毛を見つめながら、心の中でそっと決意した。

 服を着て、ベッドの床に正座する。
 そこからただひたすら、リナルド様の精悍で美しいお顔を見つめていた。

 それから、どれくらい時間がたっただろうか。
 すでに陽は空の上にのぼり、暖かな光をこの部屋にも届けていた。

 突然、リナルド様の呼吸が乱れ、眉を寄せる。
 リナルド様がお目覚めになられたようだ。

「……おはよう、ガルディア。なぜそんなところにいるの?
 こちらへ」

「おはようございますリナルド様」

 私はリナルド様の声を遮るようにして挨拶をし、頭を床につける。

「昨夜のお礼を申し上げます。
 私のような粗忽者に対し、これほどの恩情、ありがとうございました」

「——ガルディア」

 この一言で、先ほどまでの柔らかな雰囲気が一変する。

「本気で言ってるの? 恩情って何?
 ありがとうってまるでお別れの挨拶みたいじゃないか」

「……」

 何も答えられなかった。
 別れのあいさつのつもりだった。けれど、お別れだとは、私の口からは言いたくなかった。
 少しでもお別れだと言ってしまえば、涙が止まらなくなるのが分かっていたから。

「なぜ話さないんだ。無言は肯定ととるぞ」

 それでも私は一言も発せず、ただ頭を下げ続けた。

「やめてくれ。ガルディア、顔を見せて。
 昨夜は、好きだと言ってくれたじゃないか。
 それすら嘘だったというのかっ!」

「いいえ、それは私の本心です。けれど、リナルド様には忘れていただきたい」

 私の言葉に、リナルド様が立ち上がる。勢いよく私のもとに駆け寄って両腕を掴み、むりやり私を起こした。

「なぜそのようなことを申すのだ。
 昨夜、私に抱かれたいと言っていたではないか。
 うわごとのように何度も一つになりたいと。
 それは、昨夜の戯れだったとでもいうつもりじゃないだろうな」

「……リナルド様。もう良いのです。私のことはお気になさらないでください。
 私は十分、リナルド様の優しさに触れることができました。
 これ以上は分不相応です」

 リナルド様は、私の両腕から手を離し、そのまま立ち上がってふらふらとベッドに座り込んだ。

「……ガルディア、何を、言っているんだ。だって、私たちは昨日思いを交わしたではないか。
 あれほど、あなたを好きだと……」

 リナルド様の声が、徐々に弱々しくなる。
 片手で前髪を掴み、くしゃりと握りつぶすのが見える。

「——リナルド様には、シャルロット様がおられます。
 私のような年配者のことなどお気になさらず、ご自分の幸せだけを考えてください」

「なぜだ。なぜ、そうなる。
 シャルロット嬢は友人だ。私のガルディアへの思いを知り、応援してくれていたのだ。
 私は長年、あなたを、あなただけに愛を囁いてきた。
 それは一つも届いていなかったのか。
 ——なぜだ。なぜ私の気持ちがあなたにだけは伝わらないのだ」


 リナルド様のお言葉に、ほんの一瞬だけ心が震えた。

 もしかして、リナルド様は本当に……。

 けれど、すぐに否定する声が頭の中で響く。

 違う。
 そんなはずがない。
 リナルド様は、私を慕ってはくださっている。
 けれど、それは「恋」ではない。

 私はリナルド様にとって、幼い頃から側にいた存在というだけだ。
 それ以上の意味を、持たせてはいけない。

 それに——。

「リナルド様……」

 声が震える。

 たとえ、万が一、リナルド様のお言葉が本心だったとしても。

 それを受け入れることはできない。

 「私のような年配の、子を成すこともできぬ男では……
 リナルド様の未来を、奪ってしまいます」

 もし本当にリナルド様が私を想ってくださっているとしたら。

 そうならば、尚更、私は身を引かなければならない。
 全ての勇気を奮って言葉にする。

「リナルド様に子を成せない男との未来など、選ばせることはできません。
 どうか、私のことはお忘れになって……」

 そこまで言って、言葉に詰まる。

 フィルベルト殿下も、エリゼオ様と結婚されるまで苦悩なされていた。
 それを私は、殿下付きの近衛騎士として間近で見てきた。
 エリゼオ様はチェネレントの靴に選ばれし特別な存在。
 それであっても、王太子配となることは難しかったのだ。
 それだけ、王族の血を残すことはこの王政を平和に保つためにも重要だ。
 フィルベルト殿下は、甥のエリゼオ様を養子に迎えることで決着なされた。

 リナルド様の世代では、直系の流れをくむ者はリナルド様ただ一人。
 養子を迎えることはできない。

 それに、私はただの近衛騎士。
 エリゼオ様のように選ばれし者でもない。
 このような状況で、リナルド様の手を取ることは、不必要にリナルド様を苦しめることになるのだ。

 私を憎むことでリナルド様のお心が軽くなるのであれば、いくらでも憎まれ役を買う。
 リナルド様を私が苦しめる事だけは、決してできない。

 リナルド様はただ苦し気に息を吐くのが聞こえた。
 しばしの沈黙が落ちる。
 それはひどく重く、長いものにも、一瞬にも感じられた。

「……ガルディアにそのように言わせてしまうのは、私が王族だからか?」

 リナルド様の声は震えていた。

「王族でなければ、あなたは私を一人の男として、見てくれたのか?」

 息を呑んだ。

「こんなにも好きだと、私とともにいてくれと言い続けてきたのに。
 なぜ私の言葉を否定する」

 ぽろり、と。
 リナルド様の頬を、雫が伝った。

 長年仕えていたが、リナルド様の涙を初めて見たことに、私は気づいた。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

処理中です...