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3.5 変身 後編
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ーー同じ双子でも全然違うんだな。
高校まで、翼と比較されて良く言われた言葉が、リフレインする。
僕たち二人は、茶色く大きな瞳、やや薄めで赤みのさした唇、高くはないけどスッとした鼻筋がそっくりだ。背は平均より少し低く、華奢な所も同じ。
見た目で違うところと言えば、髪の毛くらいだ。
翼はサラサラの真っ直ぐな髪、僕は癖のある柔らかい髪だから。
でも、話してみると受ける印象はまるで違う。
翼は明るく社交的で、物怖じしない。
いつも笑顔を振りまき、周りを和ませ、思いやりがあって、ポジティブな言葉が多い。
「ありがとう、嬉しい、好きだなあ」が口癖だ。
だから、翼には人を惹きつける魅力があって、いつも周りに人が集まってた。
そして、笑顔が眩しくて、その笑顔はみんなに伝染していく不思議な魅力があった。
一方、僕は引っ込み思案で、なかなか自分の意見をはっきり言えない。
慣れた人や昔からの友達なら自然に話せるけど、初対面だと緊張して、自分から話しかけられなかった。
そんな自分に自信がなくて、大勢の場では静かに端っこにいることが多かった。
だから、大人しくて暗いという印象を持たれやすかった。
そんな弟を心配してか、高校まで翼はいつもそばにいてフォローしてくれた。碧依の思いを汲んでさり気なく周りに伝えてくれたり、何かする時には必ず僕を誘ってくれた。
僕を悪く言う人には、「そんなことない」と僕の良さを語って、相手が謝るまでやめなかった。
そのたびに申し訳なく感じていたけど、翼は嫌な顔一つせず「いつも僕と一緒にいてくれてありがとう」と僕を喜ばせてくれる、優しい兄だった。
翼なら、誰とでも笑って話せる。
美術の大学に入ってからも、翼はすぐに友達を作って、楽しそうに過ごしてる。
僕にはそんな自信、どこにもない。
ーーこのままの僕が、大和に好かれるなんてありえない。
心のなかでそっと自嘲した。
それに、僕のままで一緒にバイトをしても、大学の時の二の舞だ。
いつものように引っ込み思案な性格が出て、モジモジして終わってしまう。
大和に自分と認識されなくても、仲良く話してみたかった。
どうせ叶わない恋なんだ。
本当の僕を隠してでも、翼になれたなら、大和の笑顔に触れられる。
それなら、翼になりすまして仲良くなれればそれでいいと思った。
でも、そのことは、翼には内緒だ。
だって、なりすますなんて言ったら、翼は絶対反対するに決まってるから。
だから、翼にオシャレの仕方を教えて欲しいとだけ伝えた。
翼は少し考え込むように黙ったけど、すぐに笑顔に戻る。
「そっか。碧依がそれで頑張れるなら、僕、協力するよ!でもさ、いつかどんな碧依でも、碧依が自信持って如月くんと話せるといいな。だって、碧依の優しさなら、絶対に大和くんも分かってくれるから」
翼の言葉に、胸が熱くなった。
バレたら大和に嫌われるかもしれない。
翼に申し訳ない気持ちもある。
それでも、大和の笑顔を見たい。
この好きだという気持ちが、怖いくらい強いんだ。
それから翼は、ノリノリで服を貸してくれた。
カジュアルなデニムや、翼お気に入りの白いシャツ。普段の僕なら絶対選ばない、明るい色のスニーカーまで。
「やっぱ、僕のセンス最高だね! 絵を書いてる時は作業着ばっかりだし、合宿中は勝手に僕の服、使って良いからね」
翼が笑いながらいくつも服を組み合わせて、僕に次々と着せていった。そのたびに翼は大きく頷く。
翼に満足げに見つめられて、僕も自然と顔がほころんだ。
「碧依なら、僕はあんまりしないんだけど、こっちの組み合わせが似合うかも!」
なんて言われることもあったけど、そのときはさり気なく「翼は自分のときはどうしてるの?」って聞いたりして翼のスタイルを真似た。
だって、僕は翼になりすますんだから。
髪型も変えた。
いつも顔を隠す癖のある前髪を、翼のストレートなスタイルに合わせてヘアアイロンで整えた。
「ほら、こうやって留めると目元が映えるよ」
翼はそう言いながら、ヘアピンで前髪をまとめてくれた。
何度か練習して、僕一人でも同じ髪型にできるようになった。
姿勢も意識した。
猫背になりがちなのを、翼に「胸張って!」と指摘されて、背筋を伸ばした。
鏡を見ると、そこにはまるで翼みたいな僕がいた。
元々そっくりな双子だから、服と髪型、振る舞いを真似れば、知らない人なら絶対に騙せる――そう思えた。
大和は、僕が翼と双子だなんて全然知らないし、こんなに印象の違う僕が翼のふりをしてるなんて思いもしないだろう。
だから、同じ「水瀬」でも、翼と碧依を結びつけることはないはずだ。
窓の外、夜の街灯が星のように瞬く。
世界が少し明るく、広く見えて、胸がワクワクした。
これならば、大和ともちゃんと話せるかもしれない。
準備は整った。
あとは、僕が「翼」になりすまして、大和に近づくだけだ。
たとえ本当の僕を隠しても、翼としてなら、きっと大和の笑顔に触れられる。
そう信じて、バイトの日を心待ちにしたんだ。
高校まで、翼と比較されて良く言われた言葉が、リフレインする。
僕たち二人は、茶色く大きな瞳、やや薄めで赤みのさした唇、高くはないけどスッとした鼻筋がそっくりだ。背は平均より少し低く、華奢な所も同じ。
見た目で違うところと言えば、髪の毛くらいだ。
翼はサラサラの真っ直ぐな髪、僕は癖のある柔らかい髪だから。
でも、話してみると受ける印象はまるで違う。
翼は明るく社交的で、物怖じしない。
いつも笑顔を振りまき、周りを和ませ、思いやりがあって、ポジティブな言葉が多い。
「ありがとう、嬉しい、好きだなあ」が口癖だ。
だから、翼には人を惹きつける魅力があって、いつも周りに人が集まってた。
そして、笑顔が眩しくて、その笑顔はみんなに伝染していく不思議な魅力があった。
一方、僕は引っ込み思案で、なかなか自分の意見をはっきり言えない。
慣れた人や昔からの友達なら自然に話せるけど、初対面だと緊張して、自分から話しかけられなかった。
そんな自分に自信がなくて、大勢の場では静かに端っこにいることが多かった。
だから、大人しくて暗いという印象を持たれやすかった。
そんな弟を心配してか、高校まで翼はいつもそばにいてフォローしてくれた。碧依の思いを汲んでさり気なく周りに伝えてくれたり、何かする時には必ず僕を誘ってくれた。
僕を悪く言う人には、「そんなことない」と僕の良さを語って、相手が謝るまでやめなかった。
そのたびに申し訳なく感じていたけど、翼は嫌な顔一つせず「いつも僕と一緒にいてくれてありがとう」と僕を喜ばせてくれる、優しい兄だった。
翼なら、誰とでも笑って話せる。
美術の大学に入ってからも、翼はすぐに友達を作って、楽しそうに過ごしてる。
僕にはそんな自信、どこにもない。
ーーこのままの僕が、大和に好かれるなんてありえない。
心のなかでそっと自嘲した。
それに、僕のままで一緒にバイトをしても、大学の時の二の舞だ。
いつものように引っ込み思案な性格が出て、モジモジして終わってしまう。
大和に自分と認識されなくても、仲良く話してみたかった。
どうせ叶わない恋なんだ。
本当の僕を隠してでも、翼になれたなら、大和の笑顔に触れられる。
それなら、翼になりすまして仲良くなれればそれでいいと思った。
でも、そのことは、翼には内緒だ。
だって、なりすますなんて言ったら、翼は絶対反対するに決まってるから。
だから、翼にオシャレの仕方を教えて欲しいとだけ伝えた。
翼は少し考え込むように黙ったけど、すぐに笑顔に戻る。
「そっか。碧依がそれで頑張れるなら、僕、協力するよ!でもさ、いつかどんな碧依でも、碧依が自信持って如月くんと話せるといいな。だって、碧依の優しさなら、絶対に大和くんも分かってくれるから」
翼の言葉に、胸が熱くなった。
バレたら大和に嫌われるかもしれない。
翼に申し訳ない気持ちもある。
それでも、大和の笑顔を見たい。
この好きだという気持ちが、怖いくらい強いんだ。
それから翼は、ノリノリで服を貸してくれた。
カジュアルなデニムや、翼お気に入りの白いシャツ。普段の僕なら絶対選ばない、明るい色のスニーカーまで。
「やっぱ、僕のセンス最高だね! 絵を書いてる時は作業着ばっかりだし、合宿中は勝手に僕の服、使って良いからね」
翼が笑いながらいくつも服を組み合わせて、僕に次々と着せていった。そのたびに翼は大きく頷く。
翼に満足げに見つめられて、僕も自然と顔がほころんだ。
「碧依なら、僕はあんまりしないんだけど、こっちの組み合わせが似合うかも!」
なんて言われることもあったけど、そのときはさり気なく「翼は自分のときはどうしてるの?」って聞いたりして翼のスタイルを真似た。
だって、僕は翼になりすますんだから。
髪型も変えた。
いつも顔を隠す癖のある前髪を、翼のストレートなスタイルに合わせてヘアアイロンで整えた。
「ほら、こうやって留めると目元が映えるよ」
翼はそう言いながら、ヘアピンで前髪をまとめてくれた。
何度か練習して、僕一人でも同じ髪型にできるようになった。
姿勢も意識した。
猫背になりがちなのを、翼に「胸張って!」と指摘されて、背筋を伸ばした。
鏡を見ると、そこにはまるで翼みたいな僕がいた。
元々そっくりな双子だから、服と髪型、振る舞いを真似れば、知らない人なら絶対に騙せる――そう思えた。
大和は、僕が翼と双子だなんて全然知らないし、こんなに印象の違う僕が翼のふりをしてるなんて思いもしないだろう。
だから、同じ「水瀬」でも、翼と碧依を結びつけることはないはずだ。
窓の外、夜の街灯が星のように瞬く。
世界が少し明るく、広く見えて、胸がワクワクした。
これならば、大和ともちゃんと話せるかもしれない。
準備は整った。
あとは、僕が「翼」になりすまして、大和に近づくだけだ。
たとえ本当の僕を隠しても、翼としてなら、きっと大和の笑顔に触れられる。
そう信じて、バイトの日を心待ちにしたんだ。
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