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3.変身 前編
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その夜、翼はバイトを終えてから恋人とデートして、夜中に帰ってきた。
僕は、翼がリビングに顔を出すのを待てずに、遠慮がちに翼の部屋のドアをノックした。
心臓がバクバクして、深呼吸してからもう一度叩く。
すぐに翼がドアを開け、にこっと笑った。
「どうしたの、碧依? わざわざ部屋に来るなんて珍しいね。いつもリビングで話すのにさ」
翼の明るい声に、僕は少し縮こまりながら答えた。
「う、うん……あの、翼、相談があって……。あと、本屋さんで翼に声かけなくてごめんね。忙しそうだったから、邪魔しちゃ悪いと思って声かけなかったんだ」
「そんなの、気にしないで。部屋、入って」
少しだけ怪訝そうな顔をしながらも、翼は僕を部屋に招き入れてくれた。
カーテンが夜風に揺れ、絵の具の匂いが鼻をつき、僕の緊張をそっと煽る。
二人でベッドに寄りかかり、床に座る。
部屋の隅には、合宿用の画材が無造作に積まれていた。
蛍光灯の光が、翼のサラサラな髪を柔らかく照らす。
「学校で何かあった? わざわざ僕の部屋に来るなんて、よっぽどだよね」
心配そうに僕の顔を覗き込む翼に、僕は慌てて首を振った。
「大学は楽しいし、何もないよ。ただ……その、翼のバイト先に、如月くんが入ったよね? 実は、僕と同じゼミの同級生で……」
言葉を濁す僕を見て、翼は笑顔になった。
「え、碧依の友達? 今度三人で遊ぼっか?」
「ち、違うよ。如月くんは友達じゃなくて……あの、僕の……」
顔を赤くしてモジモジする僕を見て、翼は目を輝かせた。
「えっ、もしかして、碧依の恋人!? なぁんだ、付き合ってる人がいるなら、教えてくれたら良かったのに」
「違うよ! ただの片思い!」
思わず叫んでしまった告白に、翼は顔を緩ませた。
「碧依の恋バナ聞けるなんて、めっちゃ嬉しいな。あ、同性だからって諦めるとかはナシだよ。好きになったら、そんなの関係ないからね」
その反応に、僕は顔がどんどん熱くなった。
「う、うん。でも、学校じゃうまく話せなくて……それで、えっと……」
喉が詰まりそうだったけど、翼の方に体を向けて、勇気を振り絞った。
「翼、明日から九月末までの三ヶ月間はバイト休むでしょう?その間、僕が翼の代わりに働くよね? だから……その期間、翼みたいな格好をして、如月くんに振り向いてもらえるように頑張りたいんだ。」
翼は僕の言葉に眉をひそめた。
「碧依、今のままでも十分かわいいし、いい奴なのに。優しさや気遣い、母さんもいつも褒めてるじゃん」
「ううん。自分に自信がないから。翼みたいな外見や振る舞いをしたら、ちょっとでも自分を変えられる気がするんだ。だって、今日の本屋で見た翼と大和の笑顔……あんなの、僕には絶対に引き出せない」
本屋での大和の弾けた笑顔、絆創膏を貼ってくれた時の温もりが、胸を締め付ける。
僕を見てくれていた瞬間があったと思ったのに、翼に向ける笑顔はもっと眩しい。
そう思うと、胸が熱くて、苦しくて、止められない。
翼は少し困ったように頬をかいて、優しく笑った。
「いつも言ってるけど、碧依は僕の自慢の弟だよ。だって、碧依の静かな優しさに何度も助けられてきた。高校のとき、僕が美術のコンクールで落ち込んでたときも、黙ってそばにいてくれたよね? 僕はそれが嬉しかったんだ。碧依は今のままで十分素敵なんだよ。自信持ってほしいな」
僕は小さく笑って首を振った。
「でも…このままの僕じゃ、大和に好かれるなんて無理だよ。僕は自分に自信がないから、いつもみたいにモジモジして、うまく話せない。翼みたいな格好をしてみたら少しだけ勇気が持てて、きっと大和ともっと近くで笑える気がするんだ」
僕は、翼の説得に困ったように笑うしかできなかった。
僕は、翼がリビングに顔を出すのを待てずに、遠慮がちに翼の部屋のドアをノックした。
心臓がバクバクして、深呼吸してからもう一度叩く。
すぐに翼がドアを開け、にこっと笑った。
「どうしたの、碧依? わざわざ部屋に来るなんて珍しいね。いつもリビングで話すのにさ」
翼の明るい声に、僕は少し縮こまりながら答えた。
「う、うん……あの、翼、相談があって……。あと、本屋さんで翼に声かけなくてごめんね。忙しそうだったから、邪魔しちゃ悪いと思って声かけなかったんだ」
「そんなの、気にしないで。部屋、入って」
少しだけ怪訝そうな顔をしながらも、翼は僕を部屋に招き入れてくれた。
カーテンが夜風に揺れ、絵の具の匂いが鼻をつき、僕の緊張をそっと煽る。
二人でベッドに寄りかかり、床に座る。
部屋の隅には、合宿用の画材が無造作に積まれていた。
蛍光灯の光が、翼のサラサラな髪を柔らかく照らす。
「学校で何かあった? わざわざ僕の部屋に来るなんて、よっぽどだよね」
心配そうに僕の顔を覗き込む翼に、僕は慌てて首を振った。
「大学は楽しいし、何もないよ。ただ……その、翼のバイト先に、如月くんが入ったよね? 実は、僕と同じゼミの同級生で……」
言葉を濁す僕を見て、翼は笑顔になった。
「え、碧依の友達? 今度三人で遊ぼっか?」
「ち、違うよ。如月くんは友達じゃなくて……あの、僕の……」
顔を赤くしてモジモジする僕を見て、翼は目を輝かせた。
「えっ、もしかして、碧依の恋人!? なぁんだ、付き合ってる人がいるなら、教えてくれたら良かったのに」
「違うよ! ただの片思い!」
思わず叫んでしまった告白に、翼は顔を緩ませた。
「碧依の恋バナ聞けるなんて、めっちゃ嬉しいな。あ、同性だからって諦めるとかはナシだよ。好きになったら、そんなの関係ないからね」
その反応に、僕は顔がどんどん熱くなった。
「う、うん。でも、学校じゃうまく話せなくて……それで、えっと……」
喉が詰まりそうだったけど、翼の方に体を向けて、勇気を振り絞った。
「翼、明日から九月末までの三ヶ月間はバイト休むでしょう?その間、僕が翼の代わりに働くよね? だから……その期間、翼みたいな格好をして、如月くんに振り向いてもらえるように頑張りたいんだ。」
翼は僕の言葉に眉をひそめた。
「碧依、今のままでも十分かわいいし、いい奴なのに。優しさや気遣い、母さんもいつも褒めてるじゃん」
「ううん。自分に自信がないから。翼みたいな外見や振る舞いをしたら、ちょっとでも自分を変えられる気がするんだ。だって、今日の本屋で見た翼と大和の笑顔……あんなの、僕には絶対に引き出せない」
本屋での大和の弾けた笑顔、絆創膏を貼ってくれた時の温もりが、胸を締め付ける。
僕を見てくれていた瞬間があったと思ったのに、翼に向ける笑顔はもっと眩しい。
そう思うと、胸が熱くて、苦しくて、止められない。
翼は少し困ったように頬をかいて、優しく笑った。
「いつも言ってるけど、碧依は僕の自慢の弟だよ。だって、碧依の静かな優しさに何度も助けられてきた。高校のとき、僕が美術のコンクールで落ち込んでたときも、黙ってそばにいてくれたよね? 僕はそれが嬉しかったんだ。碧依は今のままで十分素敵なんだよ。自信持ってほしいな」
僕は小さく笑って首を振った。
「でも…このままの僕じゃ、大和に好かれるなんて無理だよ。僕は自分に自信がないから、いつもみたいにモジモジして、うまく話せない。翼みたいな格好をしてみたら少しだけ勇気が持てて、きっと大和ともっと近くで笑える気がするんだ」
僕は、翼の説得に困ったように笑うしかできなかった。
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