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2.5 翼なら 後編
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学校が終わり、僕は電車に乗って本屋に向かった。
夕暮れの街は茜色の空に染まり、駅前の雑踏が、まるで遠くの波の音のように響く。
本屋のガラス扉を押し開けると、紙とインクの匂いがふわりと香り、本が好きな僕の口元は思わず緩んだ。
カウンターで本を受け取り、翼はいるかな、とレジの奥に目をやる。
そこには、思いがけない人ーー大和がいた。
青いイヤーカフが蛍光灯の光に反射して、きらりと光る。
彼は本を整理しながら翼と楽しそうに話していた。
大和は今日がバイト初日なんだと、翼との話から聞こえてきた。
翼の明るい笑い声と、大和の気さくな声が重なり、店内に響く。
「如月くん初日なのに、お客様対応がめちゃくちゃ落ち着いてて凄いね! っていうか、僕が隣にいるのに、なんでみんな如月くんにばっかり声かけるんだよ」
翼が少し頬を膨らませて笑うと、大和が照れたように前髪をかき上げた。
「去年飲食店でバイトしてたから、慣れてるだけだよ。てか、背が高いと目立つんだろ」
その時の大和の表情は、僕に向ける優しく伺うような笑顔じゃなくて、弾けるように明るい、まるで太陽みたいな笑顔だった。
翼の冗談に肩を揺らして笑うその姿は、僕が知る大和とは少し違って、もっと自由で輝いている気がした。
胸がチクッと痛んだ。
あんな笑顔、僕には見せてくれない。
絆創膏を貼ってくれた時の優しい視線や、「水瀬の声、もっと聞きたかったんだ」と言った時の照れた笑顔とは、別のものだ。
それから、二人がたくさんの本を抱えて売り場に向かおうとする中、小さな子が大和に話しかけてきた。
「この本、お母さんに買ってもらったのか? 良かったな」
大和がしゃがんで、小さな子の目線に合わせて笑顔で返す。
その優しい声が、本屋の静かな空気をそっと震わせ、僕の指先に温もりが広がる気がした。
「そっち、重いだろ? 俺が持つから」
大和が翼の倍の本を抱える。
その自然な気遣いに、僕は心臓がドクンと跳ねた。
翼の白いシャツ、サラサラの髪が蛍光灯の下で眩しい。
翼がお客さんに「また来てくださいね」と笑顔で言う姿も、どこか羨ましく思えた。
僕には、あんな笑顔は出せない。
まして、大和のあの弾けた笑顔を引き出すなんて、僕には絶対に無理だ。
僕は二人に見つからないように、本を握りしめながら、そっと出口へ向かう。
ドアを出る前、入り口でぶつかりそうになった客にそっと道を譲り、そのまま店を出て扉を静かに閉めた。
外に出た途端、車のクラクション音が、雷鳴のように僕の頭に響く。
夕暮れの街のざわめきが、僕の心のざわめきと重なる。
大和の翼に向けた弾けた笑顔が、頭から離れない。
あんな笑顔、僕には見せてくれない。
その事実に、胸がチクチクと痛んだ。
でも、それ以上に、僕の心を占めるのは別の思いだった。
できるなら、僕にもあんな笑顔を向けてほしい。
絆創膏を貼ってくれた時の大和の優しい手つき、指先に残るあの温もりが、僕の心を締め付ける。
あの瞬間、僕だけを見ている気がしたのに、今、翼に向ける笑顔はもっと眩しい。
胸が熱くて、苦しくて、でもこの好きだという気持ちは止められない。
こんな気持は初めてだ。
ふと、頭に浮かんだのは、翼のあの自然な笑顔だった。
翼なら、きっと大和ともっと近づける。
誰とでも打ち解けられる翼なら、大和の心を掴めるかもしれない。
僕にはそんな笑顔も、軽やかな言葉も出せない。
でも、もし翼の力を借りたら……?
たとえば、翼の口調で、翼みたいな明るさで大和に話しかけたら、もっと近くでその笑顔を見られるかもしれない。
それは、僕には大胆すぎるアイデアだった。
自分でもバカバカしいと思うくらい、突飛な考えだ。
翼のふりをするなんて、良くないかもしれない。
もしバレたら、大和に笑われるか、嫌われるかもしれない。
それでも、大和の笑顔を思い出すたび、胸の奥が熱くなって、怖いくらいの勇気が湧いてくる。
大和が、好き。
この恋心が、僕をどこか新しい場所に連れて行こうとしている気がした。
翼の力を借りるなんて、僕は馬鹿なことをしてると思う。
でも、大和に少しでも近づきたい。
僕のことを好きになってもらいたいわけじゃない。
ただ、大和と笑って過ごしたい。
ただそれだけを叶えたいんだ。
握りしめた本の感触が、僕の決意を後押ししてくれるてる気がする。
歩き出した足取りは、いつもより少しだけ軽かった。
夕暮れの街は茜色の空に染まり、駅前の雑踏が、まるで遠くの波の音のように響く。
本屋のガラス扉を押し開けると、紙とインクの匂いがふわりと香り、本が好きな僕の口元は思わず緩んだ。
カウンターで本を受け取り、翼はいるかな、とレジの奥に目をやる。
そこには、思いがけない人ーー大和がいた。
青いイヤーカフが蛍光灯の光に反射して、きらりと光る。
彼は本を整理しながら翼と楽しそうに話していた。
大和は今日がバイト初日なんだと、翼との話から聞こえてきた。
翼の明るい笑い声と、大和の気さくな声が重なり、店内に響く。
「如月くん初日なのに、お客様対応がめちゃくちゃ落ち着いてて凄いね! っていうか、僕が隣にいるのに、なんでみんな如月くんにばっかり声かけるんだよ」
翼が少し頬を膨らませて笑うと、大和が照れたように前髪をかき上げた。
「去年飲食店でバイトしてたから、慣れてるだけだよ。てか、背が高いと目立つんだろ」
その時の大和の表情は、僕に向ける優しく伺うような笑顔じゃなくて、弾けるように明るい、まるで太陽みたいな笑顔だった。
翼の冗談に肩を揺らして笑うその姿は、僕が知る大和とは少し違って、もっと自由で輝いている気がした。
胸がチクッと痛んだ。
あんな笑顔、僕には見せてくれない。
絆創膏を貼ってくれた時の優しい視線や、「水瀬の声、もっと聞きたかったんだ」と言った時の照れた笑顔とは、別のものだ。
それから、二人がたくさんの本を抱えて売り場に向かおうとする中、小さな子が大和に話しかけてきた。
「この本、お母さんに買ってもらったのか? 良かったな」
大和がしゃがんで、小さな子の目線に合わせて笑顔で返す。
その優しい声が、本屋の静かな空気をそっと震わせ、僕の指先に温もりが広がる気がした。
「そっち、重いだろ? 俺が持つから」
大和が翼の倍の本を抱える。
その自然な気遣いに、僕は心臓がドクンと跳ねた。
翼の白いシャツ、サラサラの髪が蛍光灯の下で眩しい。
翼がお客さんに「また来てくださいね」と笑顔で言う姿も、どこか羨ましく思えた。
僕には、あんな笑顔は出せない。
まして、大和のあの弾けた笑顔を引き出すなんて、僕には絶対に無理だ。
僕は二人に見つからないように、本を握りしめながら、そっと出口へ向かう。
ドアを出る前、入り口でぶつかりそうになった客にそっと道を譲り、そのまま店を出て扉を静かに閉めた。
外に出た途端、車のクラクション音が、雷鳴のように僕の頭に響く。
夕暮れの街のざわめきが、僕の心のざわめきと重なる。
大和の翼に向けた弾けた笑顔が、頭から離れない。
あんな笑顔、僕には見せてくれない。
その事実に、胸がチクチクと痛んだ。
でも、それ以上に、僕の心を占めるのは別の思いだった。
できるなら、僕にもあんな笑顔を向けてほしい。
絆創膏を貼ってくれた時の大和の優しい手つき、指先に残るあの温もりが、僕の心を締め付ける。
あの瞬間、僕だけを見ている気がしたのに、今、翼に向ける笑顔はもっと眩しい。
胸が熱くて、苦しくて、でもこの好きだという気持ちは止められない。
こんな気持は初めてだ。
ふと、頭に浮かんだのは、翼のあの自然な笑顔だった。
翼なら、きっと大和ともっと近づける。
誰とでも打ち解けられる翼なら、大和の心を掴めるかもしれない。
僕にはそんな笑顔も、軽やかな言葉も出せない。
でも、もし翼の力を借りたら……?
たとえば、翼の口調で、翼みたいな明るさで大和に話しかけたら、もっと近くでその笑顔を見られるかもしれない。
それは、僕には大胆すぎるアイデアだった。
自分でもバカバカしいと思うくらい、突飛な考えだ。
翼のふりをするなんて、良くないかもしれない。
もしバレたら、大和に笑われるか、嫌われるかもしれない。
それでも、大和の笑顔を思い出すたび、胸の奥が熱くなって、怖いくらいの勇気が湧いてくる。
大和が、好き。
この恋心が、僕をどこか新しい場所に連れて行こうとしている気がした。
翼の力を借りるなんて、僕は馬鹿なことをしてると思う。
でも、大和に少しでも近づきたい。
僕のことを好きになってもらいたいわけじゃない。
ただ、大和と笑って過ごしたい。
ただそれだけを叶えたいんだ。
握りしめた本の感触が、僕の決意を後押ししてくれるてる気がする。
歩き出した足取りは、いつもより少しだけ軽かった。
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