オタク病

雨月黛狼

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第20話 人生わりとツイストサーブ

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「けっこう人いるねー」

 一ノ瀬が辺りを見渡して言う。順番待ちの白いベンチには環、俺、一ノ瀬、空馬の順で座っている。

「一ノ瀬はこういうところよく来るのか?」
「お、現実世界のわたしのこと気になる~?」
「いやべつに」

 そういやアニメ撮り貯めてんなー。補修の勉強もしてたから早く消化しねえと。

「興味なさ過ぎて怒りが湧いてくるんだけど殴っていい?」
「ごめんなさい。暴力はやめて? いやあ、めっちゃ興味あるなー。一ノ瀬は休日普段何しているんだ?」

 まったくといっていいほど興味ないが、殴られるよりは話していた方がマシだ。

「うーん、友だちとショッピングしたり、寝たり、あと、寝てるかなー」
「寝てばっかじゃねえか。そんな居眠りキャラだったっけ?」
「キャラって何? 普通に学校とかでは寝ないよー。休日は疲れが溜まってるから寝てるだけ」

「はあ、学校ってそんなに疲れるかね」

「本しか読んでいない猪尾くんには委員長の大変さがわかっていないんだよ。大変なんだよ? 誰とかはプライバシーの関係で言えないけど、社会不適合者の人のお世話したりしなきゃならないんだから」

「うん、それ俺のことだよね? 俺と話すのそんな疲れる?」

「疲れるよー。話しかけても反応薄いし、かと思えばどうでもいいことに限って急にいきなり話し出したりするからペース合わせるの大変なんだよ?」

「あれでペースを合わせていたのか……?」

 毎回、俺が一ノ瀬に貶されている記憶しかない。

「ふふん、こう見えてコミュニケーション能力が高いのですよ。あと今、とても失礼なことを考えたよね?」
「いや、全然。あれでカウンセリングのつもりなら、お前コミュ障なんだと思っただけだ」
「やっぱり1回殴らせて」
「あいたー」

 一ノ瀬は軽く俺の肩を叩く。

「ははっ、ほんと、一ノ瀬は宅也のこと好きな」
 空馬が笑う。

「そんなんじゃないよー。織田くん頭おかしいんじゃないの?」
「そうだ言ってやれ! ぶん殴れ!」
「暴力はよくないんだよ?」
「今さっき俺にしたよな? なんだ? またイケメン補正か? 空馬お前やっぱり帰れ」
「はぶりじゃなくてとうとう帰宅か? オレだけペナルティ大きくないか?」

「……楽しそうに話してる」
 環が俺の隣で呟く。

「お前がいち早く一番端に座ったんだろ。そんなんじゃ話せないだろ」
「はっ! 私がどこに座っていようが私は空気よ。むしろ私が端に行って邪魔しないことに感謝しなさい」

「素直に感謝できないから。お前本当にネガティブな。一ノ瀬も空馬も頭おかしいからちゃんと話してくれるぞ?」

「そうだぞー。オレや一ノ瀬はこの宅也に付いてけるんだからよ」
「織田くん? まずはわたしたちが馬鹿にされたことについてつっこんで?」

 そんな世間話をしているうちにバドミントンコートが空いた。

「そんじゃペアは宅也と環のペアでいいな?」
「おい、明らかに身体能力の差があんだろ」

「……い、いえ、それでいいわ」
「え、お前それでいいの」
「私の身体能力をなめないでもらえるかしら?」

 環は長い髪をなびかせる。

「おお! お前実はバドミントン上手いのか!?」

「私の身体能力じゃペアに迷惑をかけるのよ。迷惑をかけても罪悪感を覚えないのはあなたしかいないわ」

 ビシッと俺に指を指す。

「そんな理由で俺ドラフト1位なの? 釈然としないんだけど」
「よおし! そんじゃやるぞ!」

 俺の右隣に環がおり、コートを通して空馬と一ノ瀬がいる。
 空馬が軽くラケットを振り、羽を浮かせる。羽は俺の頭上に来る。

「よっと」

 俺はラケットを振るう。羽は地面に落ちる。俺はその羽を拾う。

「ふう、まあこんなもんか」
「あなたなにやってやった感だしてるの? ただ空振りしただけでしょ? やる気あるの? ちゃんとやりなさい」
「なんで責められなきゃなんないんだよ。普通に無理だから。こんな小っちぇ面に当たるわけねえから」

「貸しなさい。私がサーブを打つわ」
 環がそう言うので俺は羽を環に投げて渡す。

「はあ」

 環は大きな息をつき、それっぽい形でサーブを打つ形になる。
 おお、これは期待できるか……?

「はっ」

 環はラケットを振るう。そして、羽は地面に落ちる。環は羽を拾う。

「まあこんなものね」
「お前止まってる羽でさえ打てねえのか」
「こんな小さな面にあてられるほど私が器用に見える?」
「じゃあなんで自信満々で羽受け取ったんだよ! いいよ、俺が打つ」

 俺は環から羽を受け取る。
 そして軽く、ラケットを振るい羽に当てる。
 おお、当たった。
 羽はふわふわと相手コートにゆく。

「それっ」

 一ノ瀬がそれに反応し、返す。
 羽はまた俺の方に来た。

「はっ!」
 羽は俺の方に来たものの、環が勢いよく俺に近づき思い切りラケットを振るう。

「ええ⁉︎ 何⁉︎」
 羽は俺の地面のもとに落ちる。

「当たらなかったわ」

 環はラケットを不思議そうに見つめる。

「いや明らかに俺の方に飛んでてきただろ! お前が全力で振るからびっくりして何もできなかったよ⁉︎ ていうか危ねーから!」

「あら、自分の失態を他人になすりつけるなんて、これだから害悪キモオタ運動音痴は。あなたのせいでオタクが運動音痴だと思われたらどうするの?」

「安心しろ。すでに運動音痴だと思われている」

 頭ん中じゃよく強敵を仲間とともに倒してんだけどな。いや、妄想ってわかってるよ。俺の戦闘能力は0だよ。一緒に戦う仲間もいねえよ。だからこそ異世界転生しねえかなって妄想するんだよ。

「は? あなたと私を同じにしないでもらえない?」
「一度もまともに羽に当ててねえだろ。そんな言うなら打ってみろよ」

 そう言って俺は羽を環に渡す。環はあたふたして羽を上手く受け取れずにいる。

「ふぅ」

 なんとか羽を持った環は深く息をはき、集中している。そしてラケットを振るう。

「おお」
 今度は上手く辺り、相手コートにふわふわと飛んでゆく。
 空馬がそれを軽く返す。
 羽はこちらのコートに返ってきて中央辺りに来る。

 よし、軽く返すか。
 俺は羽を見ながら落ちそうな場所へと移動する。

「ぐへぇ!」
 何か大きな衝撃により尻餅をつく。

「あら、あなたいたのね」
 環がぶつかってきた。環は俺を見下し、何の悪びれもなく言う。

「何すんだよ! 痛かったから! 少しは悪びれろよ!」

 ていうかどうして男の俺が吹き飛ばされてんの? 俺、貧弱過ぎない?

「あなたが邪魔だったんでしょう?」
「お前が邪魔だったんだよ! 運動音痴!」

「は⁉︎」
「あ⁉︎」

 俺と環は睨み合う。

「「ペア交代!」」
 そうして俺と環の言葉が重なる。
「えぇ……」
「やれやれだな」

 一ノ瀬と空馬は苦笑いをし、ペアを変えた。
 それからペアを替えた俺たちは少しラリーが続いた。

「おお! ちゃんとバドミントンできてるぞ!」
「猪尾くん? 全部打ってるのわたしだからね? なんでそんなコートの端にいるの?」
「いや、邪魔だと思って」
「こっちは2対1になってるんだよ!?」

「安心しろ。向こうもひとりだ」

 コートの先を見るとコートの端にちんまりと環が佇んでいる。もはやラケットを構えていない。

「この状況おかしくない⁉︎ なんでわたしと織田くんしか打ってないの? これダブルスだよね⁉︎」

「俺のミスがなくなることによって向こうにポイントが入らなくなるんだ。これぞ協力プレイ。ダブルスっていいなあ! なあ、環!」
「ええ、そうね」

 環は笑みを浮かべ小さく頷く。

「これもはやシングルスだから! というか織田くんは普通にプレイしないで! わたしの負担が重すぎる!」

「そうだな! ほら宅也! こいよ!」

 そう言って空馬は俺の方へと羽を飛ばす。

 くっ、なめられてばっかじゃいられねえ!

 俺はラケットを構え、大きく振るう。
 羽は地面に落ちる。
 そして――
 ラケットが向こうのコートに飛んでいった。

「危ねっ!」

 空馬はなんとかラケットを避ける。

「惜しかったな」
「何も惜しくないよ! 猪尾くん! 自棄になってない!?」

「いやわざとじゃない。それにあれだろ? テニスはプレイヤーが戦闘不能になったらこっちの勝ちだろ? まだまだだねってやつだろ?」
「何を言ってるの!? というかそれ最悪な勝ち方だよ! さすがにバドミントンはもうやめよう!」

 一ノ瀬が言った直後、ちょうど時間切れのアラームが鳴る。
 俺たちはコートを出る。
 空馬が口を開く。

「宅也、久遠、バドミントンどうだった?」

 俺と環は顔を合わせ、空馬に顔を向ける。
「「つまらなかった」」
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