おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第四十七話:あばずれママの帰還

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 心地よい初夏は瞬く間に過ぎた。
 舌を出した野良イヌが白茶けた路地をうろうろ歩く過酷な真夏になった。
 今年は群を抜いて暑い。
 連日のギンギラ太陽のせいで干乾しの保存食になりそうだ。
 おれは目をひん剥き、床の上に大の字になって寝そべっていた。
 窓は全開。
 高台にある屋敷とはいえここは内陸の街。
 吹き込む夏風はオーブンの空気のように熱い。
 エレニアが去ったあと、おれに構ってくれるものはだれもいなかった。
 リュネットは忙しそうだし、美少年のジュリもアリスに首ったけだ。
 露骨に避けられている感がひしひしと伝わってくる。
 リサはいわずもがな。最近は夕食時であっても顔を見せることはめったにない。
 訓練をつけてくれるはずの小生意気な女騎士セリーズでさえ行方知れずだ。
 とにかく午後はダメだ。
 指一本動かす気がしない。
 日暮れを待たなければなにもできない。
 このところ、屋敷の隣の練兵場から爆竹を鳴らすような、ぱんぱんという景気のいい音が聞こえる。
 竹でもあぶって遊んでいるのだろうか。

 無性に空調服が恋しくなった。
 もちろん冷房も。
 プラス、ソーダ味の棒アイスも。
 もとの世界のおおよそのことは忘却の彼方にあったが、身に染みた贅沢ぜいたくだけはきっちり憶えている。
 不思議なものだ。
 しかし、この世界でそのぜいたくのたったひとつも、手にすることはできない。
 おれは芝生のような高級カーペットの上で寝返りを打ちながら、食堂からくすねてきた塩のかたまりをなめた。
 数少ない熱波対策だ。
 井戸端で水浴びするか?  
 いやだめだ。
 最近は渇水気味で、女官やら召使たちが水の無駄遣いに目を光らせている。
 セリーズと一緒に、屁の練習にいそしんだ裏庭の池も、今や干上がりひびの入った底をあらわにしている。
 ――生ぬるいビールでも飲みになじみの酒場にくり出すか?
 いや、この酷暑の外を歩くのは気が引ける。
 床に落ちる窓の桟は短い。
 暑さやわらぐ夕方はまだ先だ。

 ぽっかぽっかというひづめの音が聞こえた。
 このクソ暑い中、伝令か? ご苦労さまだこと。
 音は屋敷の玄関の前でとまった。
 おれは寝返りをうった。
「おーい、だれかいないかー!?」
 甲高い怒鳴り声が聞こえる。
 おれはがばりと身を起こした。
 セリーズの声だ。
 おれは窓辺まで這うように進み、両手を窓枠にひっかけ、外をみた。
 小麦色に日焼けしたセリーズが黒塗りの豪奢ごうしゃな馬車の御者席で仁王立ちしている。
 しかもやたら露出度が高い。
 ぺたんとした胸と腰に南国の伝統衣装を思わせる二枚の白い布を巻いているだけ。
 肩もおなかも、おへそも丸出しだった。
 それでも革帯をしめ、佩刀はいとうしているところに、まごうことなき戦闘員の矜持きょうじを感じる。
「あ、ルーじゃん。久しぶり。元気にしてた?」
 セリーズは目ざとく、二階のおれを発見した。
 右手を大きく振りまわす。
 すっきりとした腋があらわになった。
「お前のほうこそどこに行ってたんだよ」おれは二階から怒鳴った。
「海!」
 彼女は一言でこたえた。
「海?」おれは聞きかえす。
「う! み!」日焼けした騎士は一音一音わけて、はっきりといった。
「海はいいよ。浜辺は白くて海は青くてきれいで。それになにより涼しいよ。ここのクソ暑さはなんだよ。まったく、やんなっちゃう」
「そうそう、クッソ暑いわね。カルボニの街に戻ってくるの、一カ月遅らせればよかったかしら。ま、そうもいってられないんだけどね」
 馬車の扉が開き、金髪の女性が出てきた。
 おれは口をあんぐりとあけた。
 いや、別に馬車からフォルザが出てきたのを見て驚いたわけではない。
 フォルザの気まぐれはいつものことだ。
 おれが驚いたのは、まったく別の理由だ。
 ド派手な扇子を手にしたフォルザは、元人妻のくせにセリーズ同様、布二枚のふしだらとしかいいようのない格好をしていたからである。
 うれしくないといったらまあまあウソになるが、後ろめたさは正直ある。
 フォルザのあとには兄弟らしい金髪のかわいらしいふたりのちびっ子が続き、おしまいに肉づきの良い常識的な服装の若い女性が出てきた。
「ママー!」
 先におりた少し大きい子どもが指をくわえつつ、フォルザの腰布にまとわりついた。
「小公爵!」フォルザが乱暴に子どもの口から指を引き抜いた。
「指、しゃぶらないの。それから、あたしのことはママじゃなくて母君ははぎみとよぶ。そんで甘えるならそこの乳母に甘えなさい」
 フォルザは常識的な服装の若い乳母を指さした。
 しかし小公爵は母親のそばでぐずっている。
「母君、暑いよぉ」
「小公爵! あんたはもうシグリアの伯爵さまなのよ。暑いの、寒いのわがままいって周りを困らせない」
 フォルザが大声でしかる。
 小公爵はなにかいいたげに顔をゆがめた。まだまだ母親に甘えたい年頃なのだ。
「長男のあなたがめそめそしてどうすんの。あんたの弟を見なさい。このクソ暑い中、文句ひとついっていないじゃない」
 いらだった母親は、乳母のかたわらで遠巻きに母と長男を見つめている弟をさした。
 弟はさりげなく乳母の影に隠れた。
 流れ弾に当っちゃ敵わない。次男の生存本能だ。
 長男は見捨てられまいと、必死で母親にすがりつく。
 母親は邪険じゃけんに振り払う。  
 ちょうどそのとき屋敷の玄関から大勢の女官やら女中やらが湧き出てきた。
「いいところにきた。この贅沢ぜいたくな小貴族さんたちを涼しいお部屋に案内して。地下室でもいいわ。当主たるもの暗闇なんておそれていられないもんね」
 多勢に無勢。
 抵抗空しくふたりのチビちゃんは女中たちに抱きかかえられ、屋敷の中に連れ去られてしまった。
「うるさいのが片付いたわ」
 フォルザはあたりをきょろきょろと見渡した。
「リュネット! どこいった?」
「はーい、ただいま」
 メガネの女官が玄関に姿を現した。
「ささ、フォルザさま。お暑い所、お疲れ様です。中へどうぞ。リサ議長もお待ちですよ」
 数週間前の叱責しっせきはどこ吹く風、リュネットはフォルザとともに屋敷に入っていた。
 なにかが起こりそうな予感がした。
 おれは一階に向かった。
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