金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫

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短編

獅子身中の虫(1) (本編読了後読むことをおすすめします)

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「グランデル。マイクルは敵だ。カリバンと繋がっている」

 牢の中にいる父は涙ながらにそう言った。グランデルは信じられないと言いたげに目を見開く。
 王妃クラウディアを毒殺しようとした罪で捕まった父、ランディール騎士団長は地下牢に収容されていた。
 その事実を受け止めきれなかったグランデルは、本人から事情を聞こうと危険を承知で地下牢へ忍び込んだ。
 そして父の口から出たのは、自分の師であるマイクルが首謀者だという衝撃の真実だった。

「……マイクル殿は、父の友でしょう……?」

 グランデルの声は震えていた。マイクルは自分が騎士になる前からグルト王国の騎士だった。彼は厳しい人だが、思いやりのある優しい男だった。グランデルも尊敬をしていた。それなのに、何故友であるランディールに王妃毒殺未遂の罪を擦り付けようとしているのか。
 父がこんな愚かな事件を起こすとは思っていなかったが、マイクルが真犯人という事実も信じられなかった。

「私の部屋にある机の引き出しの中を見て欲しい。鍵が掛かっているから今から私の言う数字を覚えていてくれ。番号は――」
「待ってください。一体どういう事なんです!? はっきりと説明してください!!」

 話を理解する前に進めようとする父に、グランデルは声を荒げた。

「グランデル……ここへ忍び込めたのは、お前の信頼のおける部下達がいたからだろう? その人達を大切にしなさい。その人達と共に、私の探り切れなかった真実を見つけてくれ。グルト王国は……カリバン王国に狙われている」

 ぐ、と息が詰まる。カリバン王国はナツメ第一王子が消息を絶ったばかりできな臭さが滲み出ていたが、まさか今の事件にも関係しているとは。

「マイクル殿は……カリバン王国と繋がっているという事ですか……? クラウディア様を殺そうとしたのも、カリバン王国……」
「ああ、そうだ。もう少しでカリバン王国の重大な秘密を手に入れられるはずだったが――私はマイクル殿の罠にはまってしまった。まさか、クラウディア様のお命を奪おうとするなんて……マイクル殿は……何か弱味を握られているというより、自分から動いていると思う。……何か理由があると思うが……」
「ではこれはマイクルの陰謀だと伝えれば父上は助かるのでは……!!」
「いや、無理だ……私の部屋に毒物が出ただろう。マイクルの息がかかった兵に嘘の証言を言われ、もう言い逃れなど出来ないように根回しをされてしまった。私はこのまま処刑される」

 父は罪など犯していないというのに、処刑を受け入れている。グランデルは何度も首を振る。父、ランディール騎士団長は強く、誰よりも優しく、兵達に慕われていた。その父の後ろ姿を見て育ったから、グランデルは騎士になりたいと思った。
 その父は無実の罪で殺されようとしている。どうにかして救いたいと思うのは当たり前だ。しかし、あちらは現役の騎士隊長。処刑されようとしている騎士団長の息子の話など誰か聞くだろうか。

「グランデル。お前には迷惑をかける。……だが、お前だけが頼りだ。お前が……グルト王国を救ってくれ」
「な、にを……」
「本当に、すまない。グランデル……」

 父は自分の運命が変えられない事を知っている。だから自分の想いを息子に託す。

「……グランデルさん、そろそろ誤魔化しきれないので……」

 グランデルの背後で他の者が来ないよう見張っていたイムが小声で言う。
 まだ話したい事がたくさんある。だが、時間がそれを許してくれない。グランデルは拳を強く握ってから口を開いた。

「……父さん。私は……貴方をこんな目に遭わせたマイクルを決して許さない。あいつを地獄に突き落とす。何があっても――」

 その瞳は憎悪に染まっていた。

「グランデル。……お前は私の息子だ。だから――」
「……そうですね。このままだと私の立場も危ういです。良くて騎士剥奪、悪くて――処刑でしょうか」
「……ああ。そうだろう。……しかし、一つだけ、お前が騎士のままでいられる道がある。それは――」
「私が――処刑人になる」

 自分が無実である証明をする為に、大罪人の父を処刑する。リグルト王はランディールを信頼していた。息子であるグランデルがこれほどまでの覚悟を見せれば騎士剥奪をされない可能性が高いだろう。

「――グランデルさん!」

 イムが堪らず声を上げる。それをそろそろ時間だと急かすものだと思ったグランデルはイムに「分かった」と笑みを浮かべながら頷くと、父に向き直る。

「――苦しまないよう、一撃で殺します」
「……すまないグランデル……お前には辛いものを背負わせる」

 そう言葉を交わしたのを最後に、グランデルは何か言いたげなイムの横を抜けて歩き出した。


**


 信頼のおける兵達のお陰で、グランデルは誰にも見つからずにグルト城へと戻る事が出来た。
 ランディールが捕まってからグランデルは笑顔を失った。しかし、今は普段通りの笑顔を見せて給仕達に挨拶をしている。――数時間前に、父を殺す約束をしたというのに。
 クラウディア毒殺未遂は勿論給仕達の耳に入っている。グランデルを軽蔑する者、心配する者、様々な者がいたが、今の姿は奇妙に思えただろう。

「――グランデルさん!!」

 人の気配がなくなったところで、イムは耐えきれずに彼を呼び止めた。グランデルはゆっくりと振り返る。顔には笑みが貼り付いていたが、イムにはそれが作られたものだとすぐに分かった。

「ああ、イム。協力感謝する。お前は持ち場に戻れ。最近鍛錬場へも行っていないだろう。きちんと顔を出さないと――」
「ランディール騎士団長を殺すって……本気ですか……!?」

 イムの言葉に、グランデルは一瞬笑みを消した。だが、すぐに笑顔を取り繕い、首を左右に振った。

「そうしないと私の立場も危うい。何もせず騎士剝奪されるのならば、私は父を殺す。そうしなければグルト王国の未来は守られない」
「……っ、俺が代わりに……」
「お前が代わりに処刑人になっても、私の騎士剝奪は免れないだろう? これは私がやらなければならないんだ」

 イムはグランデルの笑顔が恐ろしかった。――牢の中にいるランディールもだ。どうしてこんなにもグルト王国に忠誠を誓うのか。国を護る為ならば自分の命を投げ、それが無駄にならないよう息子の地位を守る為に殺されようとする。イムはそれなりに忠誠心があるが、ランディール親子のそれは執着のようにも思えた。

「でも……」
「あー、グランデルとイムだ!!」

 イムが何かを言いかけた時、背後から天真爛漫な声が聞こえてきた。振り返れば、そこにはまだ11歳の可愛らしい少女――アメリーが立っていた。エメラルドグリーンの大きな瞳でこちらを見上げ、嬉しそうに笑っている。

「アメルシア王女……」
「何をやっているのー? 二人とも仲良しだね!」
「あ、あー、おひとりで何をしているんですー? 早く戻らないと……」
「えー!! 一緒に遊ぼうよー!!」

 こんな血生臭い話をアメリーの前で出来るはずがなく、どうにか別の場所へ行ってもらおうとするが、遊びたい盛りの王女は頬を膨らませて拒否をする。
 その様子を見ていたグランデルは、そっと笑う。

「アメルシア王女、申し訳ございません。私は急用が入っておりますので、イムと遊んでください。……イム、頼んだぞ」
「あ、グランデルさん……!!」

 グランデルは立ち止まらなかった。イムは追いかけたかったが、何も知らずに自分の膝に抱き着くアメリーを振り払う事が出来なかった。


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