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サイベリアン王国での生活開始(6)
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「何を言っているの、コラット。今日からあなたもチャトランと一緒に暮らすのよ?」
「はっ! そ、そうでした。わ、私に耐えられるでしょうか? こ、こんな至高のかわいいと共に過ごすなんて……!」
ソマリの忠告にコラットはある意味恐怖を覚えた。猫が近づいてきただけで、過呼吸を起こしそうなほど興奮しているのだ。
しかしソマリはなんと、チャトランの頭を撫でている。チャトランは喉から、ゴロゴロという低い音を出していた。
鳴き声とも違うとても奇妙な音だったが、目を細めて喉を鳴らすチャトランの姿は、なんとも愛らしい。見ているだけで身もだえしそうになるほどに。
(あのふわふわに触りでもしたら……! わ、私は正気で居られるかしら!? かわいいを感じすぎて意識を失うのでは!?)
などと、コラットが自分でもわけのわからない心配をしていると。
「本当はもっと猫ちゃんを増やしたいのよね。だけどなかなか出会えなくて……」
「増やすですって!? 一匹でもかわいいが過ぎるのに増やすのですか!? かわいいの過剰摂取に私の命が危うくなるのでは……!」
ソマリのとんでもない望みを聞いて、コラットは真剣に命の危機を覚え訴える。
「うふふ、それは困るわね~」
コラットの言葉を冗談だと捉えたらしいソマリがおかしそうに笑うと、チャトランがその場でごろんと寝そべった。背中よりも色の薄い被毛が生えた、真ん丸のお腹が露になる。
無防備なその姿は、「さあ撫でるがよい」という許可を出しているようにすら見えた。
「あ、あわわわわわわ……! ほ、本当にかわいいいいい! もうなんでもしてあげたくなっちゃうー! 何をされても許しちゃうー!」
「あらコラット! よくわかってるじゃないのー!」
我を忘れて情けないことを叫ぶコラットだったが、ソマリは満足げに微笑んでいた。
そこでコラットははっとした。
(『猫。それは悪魔の使い。その恐ろしい姿で見る者を惑わし、すべての者を服従させるという禍々しい能力を持つ』……か。)
文献に書かれていたその記述は真実だったのだ。だって現に、コラットは猫の姿に惑わされ、抵抗する間もなく服従させられてしまった。
(きっと、あまりにかわいすぎる猫のことを、昔の人たちは悪魔的だと考えたんだわ……)
それにしたってなんてかわいい悪魔なのだろう。服従上等だ。猫に出会って数分だというのに、今後の人生は猫のためになんでもするという覚悟を、コラットはしてしまう。
その後、ソマリから猫の世話の仕方を一通り聞いた。
排泄は自分で場所を覚えていて毎回その場でするから始末が楽だとか、毎日被毛を櫛で梳かして毛玉ができないようにしてあげるだとか、それまで知らなかった猫との暮らし方を学ぶのは、とても楽しい時間だった。
ひょっとしたら、コラットの人生で一番有意義なひと時だったかもしれない。
だって、生涯服従を誓った猫が快適に過ごす方法を知ることができたのだ。こんな幸福他に存在するだろうか。
それに、想像とまったく違ってソマリはとても慈悲深く、穏やかな女性だ。
(このお方の侍女になれて、本当によかったわ)
究極のかわいさを誇る生物である猫に出会わせてくれた上に、没落貴族の自分にも優しく接してくれるソマリ。
猫とソマリのために、今後の人生を捧げよう。
コラットは、固く心に誓ったのだった。
「はっ! そ、そうでした。わ、私に耐えられるでしょうか? こ、こんな至高のかわいいと共に過ごすなんて……!」
ソマリの忠告にコラットはある意味恐怖を覚えた。猫が近づいてきただけで、過呼吸を起こしそうなほど興奮しているのだ。
しかしソマリはなんと、チャトランの頭を撫でている。チャトランは喉から、ゴロゴロという低い音を出していた。
鳴き声とも違うとても奇妙な音だったが、目を細めて喉を鳴らすチャトランの姿は、なんとも愛らしい。見ているだけで身もだえしそうになるほどに。
(あのふわふわに触りでもしたら……! わ、私は正気で居られるかしら!? かわいいを感じすぎて意識を失うのでは!?)
などと、コラットが自分でもわけのわからない心配をしていると。
「本当はもっと猫ちゃんを増やしたいのよね。だけどなかなか出会えなくて……」
「増やすですって!? 一匹でもかわいいが過ぎるのに増やすのですか!? かわいいの過剰摂取に私の命が危うくなるのでは……!」
ソマリのとんでもない望みを聞いて、コラットは真剣に命の危機を覚え訴える。
「うふふ、それは困るわね~」
コラットの言葉を冗談だと捉えたらしいソマリがおかしそうに笑うと、チャトランがその場でごろんと寝そべった。背中よりも色の薄い被毛が生えた、真ん丸のお腹が露になる。
無防備なその姿は、「さあ撫でるがよい」という許可を出しているようにすら見えた。
「あ、あわわわわわわ……! ほ、本当にかわいいいいい! もうなんでもしてあげたくなっちゃうー! 何をされても許しちゃうー!」
「あらコラット! よくわかってるじゃないのー!」
我を忘れて情けないことを叫ぶコラットだったが、ソマリは満足げに微笑んでいた。
そこでコラットははっとした。
(『猫。それは悪魔の使い。その恐ろしい姿で見る者を惑わし、すべての者を服従させるという禍々しい能力を持つ』……か。)
文献に書かれていたその記述は真実だったのだ。だって現に、コラットは猫の姿に惑わされ、抵抗する間もなく服従させられてしまった。
(きっと、あまりにかわいすぎる猫のことを、昔の人たちは悪魔的だと考えたんだわ……)
それにしたってなんてかわいい悪魔なのだろう。服従上等だ。猫に出会って数分だというのに、今後の人生は猫のためになんでもするという覚悟を、コラットはしてしまう。
その後、ソマリから猫の世話の仕方を一通り聞いた。
排泄は自分で場所を覚えていて毎回その場でするから始末が楽だとか、毎日被毛を櫛で梳かして毛玉ができないようにしてあげるだとか、それまで知らなかった猫との暮らし方を学ぶのは、とても楽しい時間だった。
ひょっとしたら、コラットの人生で一番有意義なひと時だったかもしれない。
だって、生涯服従を誓った猫が快適に過ごす方法を知ることができたのだ。こんな幸福他に存在するだろうか。
それに、想像とまったく違ってソマリはとても慈悲深く、穏やかな女性だ。
(このお方の侍女になれて、本当によかったわ)
究極のかわいさを誇る生物である猫に出会わせてくれた上に、没落貴族の自分にも優しく接してくれるソマリ。
猫とソマリのために、今後の人生を捧げよう。
コラットは、固く心に誓ったのだった。
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