百合夫婦のドキドキ憲兵日記

ぬるかん1010

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第3話「『姉妹』突入」

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(前回のあらすじ)
僕「みお」と愛する「琴子」は憲兵隊員として怪異が出現した池袋のクラブへ出動した。
逮捕はしない。殲滅が僕と琴子の任務だ。


琴子はビルの屋上から、地下へと続く非常階段へと飛び降りた。
深呼吸をして、刀を構える。後はみおからの合図を待つだけだ。

一方その時僕は、EDENの手前のビルの屋上でカバンからノートパソコンを取り出した。
モニターを開き、指紋認証でロックを解除する。
起動画面に表示されたのは、見慣れた「陸軍技術本部」のロゴと、シンプルなコマンドラインだけだった。

僕はキーボードに指を置くと、迷いなくコマンドを打ち込んでいく。
それは、伊美島での経験から培われた、僕にしか扱えない独自のプログラムだ。

「システム起動、ドローン発進、監視モード、ルート最適化…」

コマンドを入力するたびに、画面に複雑なコードが流れていく。
そのコードは、トランクに積まれたドローン群へと送信されていた。
カチッ、と音がして、僕は最後のコマンドを入力した。

その瞬間、開いたトランクから、複数の小さな機械音が聞こえた。
続いて、ブーンという羽音とともに、いくつもの影が夜空へと舞い上がっていく。
まるで、黒い蛍の群れが飛び立つように。

それは、手のひらサイズの偵察ドローンだ。
W大のキャンパスで学生たちが使うドローンとは、比べ物にならないほど高性能な、軍事用の端末、全て僕の手製である。
ドローンたちは、それぞれが連携し、複雑なフォーメーションを組む。
その動きは、まるで僕の指の延長線上にあるかのようだった。

「これで…準備完了だ」
僕はドローンのカメラを、上空から眼下の池袋の街に向ける。
画面には、目標のクラブ「EDEN」が、まるで精巧なシミュレーションゲームのように映し出されていた。
そして換気口や窓の隙間から次々とドローンが侵入していく。
3分もしないうちに画面に「EDEN」の内部構造図が映し出された。

「琴子、聞こえるか?」
無線機に呼びかけると、一瞬のノイズの後、琴子の声が返ってきた。

「こちら琴子、無線の感度良し。いつでもいけるわ。」

「了解。琴子、非常階段を降りて、地下二階の通路に入れ。そこから換気ダクトを使って、メインフロアの真上に出ろ。怪異は全て、客を追いかけてメインフロアの奥にいる。君は奴らを背後から殲滅しろ」

「了解」
琴子の短い返事が聞こえた。

僕は、キーボードに指を置いて、彼女が動くのを待つ。

「琴子、一番近い怪異の情報だ。奴は、君が降りる通路のすぐ近くにいる。頭部が膨張し、内部から光を発している。通常の怪異ではない。おそらく、他の怪異を統制しているものと思われる。真っ先に叩け」

「分かった、これより突入する。」

琴子は瞳に真紅の光を宿らせながら非常階段の柵を乗り越え、地下二階の床まで一気に飛び降りる。
そこから換気ダクトの中に飛び込み、素早く片手で刀を持ったまま匍匐前進でメインフロアの真上まで移動する。
その瞬間、熱気と重低音の壁が琴子を襲った。

「ズン、ズン、ズン…」
心臓を直接叩くようなリズム。レーザー光線が乱れ飛び、ミラーボールが眩い光を放っている。
その混沌としたメインフロアの奥で、異形の集団が人間を貪っていた。
それは、理性を失った怪異たちによる、おぞましい饗宴だった。
その時、琴子は薄汚れた換気ダクトからメインフロアへ飛び降り、ミラーボールの真下に着地した。

「ギャアアアア!」
琴子を視界に捉えた怪異が、獣のような咆哮を上げる。
頭部が提灯のように膨らんだ怪異、みおの情報通りだ。
その怪異は琴子が危険な相手であることを瞬時に理解したのだろう。
他の怪異を盾にしようと、怪異の集団の中に入り込もうとする。

「…無駄よ」

琴子は、まるでダンスを踊るかのように、怪異の集団の中に突入していく。
閃光が走る。
「丙午千手院長吉」が、怪異の首を斬り裂いた。
一振りで、二体。
もう一振りで、三体。

刀が描く弧は、無駄な動きが一切ない、流麗で、そして完璧な軌跡だった。
中には爪を伸ばして琴子に抵抗しようとする怪異もいたが、その動きはあまりにも鈍重だった。
あっという間に琴子に首を刎ねられ、真っ黒な血しぶきが宙を舞う。

頭部が提灯のように膨らんだ怪異は、あまりの琴子の早業に仰天しているようだ。
哀れなくらい周囲をキョロキョロしながら逃げ道を探そうとしている。
しかし琴子がそんな怪異を見逃すはずがない。

次の瞬間、琴子はその刀を光を放つ頭部めがけて突き刺した。

「ピシャアアアア!」
けたたましいガラスの割れるような音と共に、怪異の頭部から飛び散る光と液体。

その光に照らされた琴子の顔は、返り血で黒く染まっているにもかかわらず、どこか愉悦に満ちた表情だった。

僕はモニター越しに怪異がすべて殲滅されたのを確認すると、銃だけ持ってビルの階段を駆け下りた。
パソコンやドローンの入ったコンテナは、タクシーの運転手に無線で回収を指示する。
一刻も早く現場に到着しないといけない。

琴子が怪異を全て殲滅した後の、EDENのメインホールの中では生き残った者の叫びや慟哭が飛び交っていた。
中にはぐったり座ったまま動かない者もいるが、クスリでキマってるのだろう。
琴子はそんなメインホールの中の動きを注意深く観察していた。

「琴子、そのメインホールの中から一人も外に出すな。怪異を生み出した「人間」が必ずそこにいる。」

そう、さっきの提灯頭はあくまで他の怪異を統率しているだけであり、奴が怪異を生み出したわけではない。
そしてドローンで上空から観察した限り、周辺に該当人物は検知できなかった。

つまり中にいる人間が最も怪しい。

琴子はそのときメインホールの隅にいた金髪のチャラ男が、こっそり出口から外に出ようとしていたのを見つけ、刀に手をかけた。

一人も外に出すなというみおの命令だ。生かしてここを出すわけにはいかない。

そのとき裏口が勢いよく開いてみおが中に入ってきた。
チャラ男は最初何を勘違いしたのか、みおの顔を見て期待の眼差しを向けた。
しかし次の瞬間、彼は眉間に銃を突き付けられ一瞬で泣き顔になる。

「後ろに戻るんだ。その場で正座してくれると助かる。」

普段のみおからは想像もできない慇懃無礼な冷たい口調に、琴子は戦慄する。

みおの冷徹な迫力に、周囲のこれまたチャラそうな人間が慌てて正座を始める。

「君達このクラブでクスリ買ってるだろう?今すぐ全部出して並べてくれないかな?」

みおより二回り体の大きいドレッドヘアの巨漢が、即座に正座してポケットから錠剤を並べる。
こういう場合、逆らったらどうなるか詳しいのだろう。
しかし中には詳しくない者もいるようだ。

色黒のデブ女が「お、お願い!ママに言わないで!ただのヤセ薬よ!」とヒステリックに叫ぶ。

次の瞬間「パアン!」と鋭い銃声と共にデブ女の頭上すれすれに弾痕が開いた。

「並べろと言っている。」

デブ女はそのまま失神する。
他の人間も真っ青になって正座して目の前にクスリを並べ始めた。

「そのまま全員動かないでほしい。琴子、動く人がいたら君が諭してやれ」

「わかったわ、みお」
琴子がニヤアっと笑って刀を手に持ちながら周囲を見渡す。

この状況で動くのは馬鹿だけだろう。

みおはポケットから小型の機械を出すと、床に並べられた錠剤を当てていく。
それはみおが作成した成分分析装置だった。
次から次へと化学物質の名前が表示される。
アヘンアルカロイド、合成オピオイド、メタンフェタミン・・・。

その時だった。みおの成分分析装置からピーピーと鋭い警告音が鳴り響いた。

「みお、その音はまさか・・。」

「そのまさかだ。怪異の血液成分だ。」

琴子の表情が歪む。
訳のわからぬお薬の成分だけでもお腹一杯なのにまさかの「怪異の血液」?
それは単純にテロリズムだった。
他の用途で混入させる必要が無い。


僕は怪異の血液成分が検出された錠剤と、皆が床に置いたクスリを見比べた。
よく見るとクスリは一粒一粒デザインや形が違う。
恐らく手製なのだろう。
逆に言うとだからこそ、怪異の血液を混ぜて、人工的な変異を起こさせるにはうってつけなのだろう。

僕はドレッド男に銃を突きつける。

「君の持っているクスリに怪異の血液成分が入っていたよ。もう少しで君も変異するところだったな。そっちの方が良かったかな?首を刎ねれた。」
ドレッド男は真っ青になりながらブルブルと震えている。

「し、知らねえ!そんなモン入ってるなんて・・!俺は今日いつも通りにここで仲間に捌くクスリを仕入れただけだ。」
「誰から?」
「こ、ここの店員だよ!あのニワトリみたいな頭した奴・・・!」
「どこに?このホールにはいないよ?」
「ア、アイツ、客がバケモンになったの見たら自分たちだけスタッフルームに鍵かけて俺たち締め出しやがった!あのカウンターの向こうだ!」
ドレッド男が震える指でカウンターを指さす。
そこには確かにスタッフルームと書かれたドアがあった。

僕が琴子に目配せをすると、彼女はコンバットブーツで思いっきりスタッフルームのドアを蹴り上げた。

ズドオンというすさまじい音と共に鉄製のドアが爆風に遭ったように消し飛ぶ。
中から男達の悲鳴が響き渡った

琴子は片手に刀を持ったまま悠然とスタッフルームの中に入っていく。
次の瞬間、中から3人の男たちが、琴子にゴミのように投げ飛ばされて、メインホールの中央に転がってきた。

僕は床の上の3人に銃口を向けて錠剤を見せる。
「このクスリ作ったのは誰かな?」

3人の内、いかにもチンピラっぽい男が叫び声をあげる。
「ナアンダオラア!このアマア!オオ!?」
次の瞬間、「パアン」という破裂音と共に、男が足を押さえて絶叫した。

「ぎゃあああああ!」

「悪いが馬鹿と会話をする時間は無い。次。」
僕は隣の店長っぽい人間に銃口を向けた。

「わかった!ごめんなさい!撃たないで!ボクは何も知らないんです!」
次の瞬間、僕は銃で店長っぽい男のピアスを撃ち抜いた。 

「ぎゃあああああ!」

面白い事に一人目と同じリアクションだった。(今度は耳を押さえているが)

「馬鹿と会話をする時間はないと言ったはずだ。次。」
僕は残った真っ赤なモヒカン男に銃を向けた。


こいつがドレッド男の言っていたニワトリ頭なのだろう。

「そ、そいつはサンプルで今日店に届けられたモンです!」
「届けたのは誰?」
「ひ、昼ぐらいにフードを被ったヤツが置いていって・・ホ、ホントです!
ウチに売り込みかけようと売人がサンプル置いていくのはよくあることなんで・・ホントです!撃たないで!」

僕は店長っぽいのに再び銃を向けた。

「本当?」
「ホ、ホントです!今日は出荷が多すぎてつい在庫が足らなくなっちゃって・・検品しないで出しちゃいました!す、すいません!殺さないで!」
僕は琴子と顔を見合わせた。二人ともどうも嘘を言っているようには見えない。
しかし何なんだこの馬鹿共は?普通サンプル品をチェックせずに客に売るか?

「よし、君達に命令だ。今すぐ池袋中のクラブを回って今日来たサンプルを回収してくるんだ。『不良品』が混じっているとね。この後本隊が来るから彼らに渡すんだ。いいね?」
「え?た、逮捕はしないんで・・?」
「逮捕して欲しいのか?」
「何でもありません!!」

「それともう一つ・・ブツが欲しかったら陸軍から買うんだ。「自然由来」で「混ぜ物無し」。いいね?」
「り、陸軍・・?ま、まさかアンタら・・!?いや!何でもありません!ごめんなさい!!」
「ダッシュ!走れ!」
「ハイイイイイーーーーーッッ」
店長っぽいのとニワトリ頭は転がるように全力ダッシュでメインホールを出て行った。

ホールに正座しているジャンキー達がその様子を呆然と見つめる。

「君達も本隊の現場検証の邪魔だから帰っていいよ。但しもうクスリは止めるんだ。いいね?」

ジャンキー達は真っ青な顔のまま、なぜ自分達が解放されるのかわからないという面持ちで店を出て行った。

「いいの?帰しちゃって?」琴子があきれたように僕に言う。
「僕たちは警察じゃない。管轄外さ。」

その時だった。さっきのドレッド男が僕にペコリと頭を下げてきた。
「今日はすいませんでした!逮捕しないでくれて有難うございます!もうクスリはしません!」

何だ?コイツ。まともな奴なのか?

「次から遊ぶときはクサだけにします!」

僕は頭痛薬が欲しくなった。


結局その後本隊が到着し、現場検証を行って僕と琴子が帰路についたのは、もう朝の太陽が昇っている5時過ぎであった。
琴子は途中から完全に寝てしまい、結局僕一人で大半の報告事項を作成する羽目になった。
ズタボロの状態で迎車のタクシーに乗り込む。

「お疲れ様でした」
タクシーの運転手だけが僕たちを労ってくれる。

「9時に五十嵐少将より本件を直接報告するようにとの事です」
全く労ってもらってない。今何時だと!?

「直接の報告は必要ありません。緊急事項無し。僕と琴子は二人とも学校です。学業優先です。僕達は予備役なんですよ?」

運転手は諦めたように嘆息した。
嘆息したいのはこっちだ。
せっかくあの「島」を出たのに僕と琴子の平穏は一体どこにあるのだろうか?

毒々しい朝焼けが僕達を照らす。

僕と琴子は全くもって安全ではなかった。
(続く)
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