虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐

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四章 月下香

黒豹族

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———彼女から発せられた言葉。

それは月光

彼女の足元に月色の魔法陣が浮かび上がる

魔法陣から漏れ出る澄んだ輝きが彼女を包み込む

彼女を中心に風が吹き荒れ、収束していく

「これは‥‥身体強化魔法の一種か?」

閃光の如き輝きが止み、光に包まれていた彼女が姿を露わにした
その姿は女子供関係なしに誰もが目を奪われる程に美しかった

———月色の鎧が彼女の体に纏っていた

鎧は重要な箇所だけを守る様なデザイン。その他は褐色の皮膚が露わになり、動きやすさ重視の軽装の鎧。まさに夜を駆け巡る狩人。黒豹族の俊敏性を活かした斬新かつ繊細なデザイン

この姿を見ている観客達は盛大に騒ぎ、驚きを隠せないでいた

「「な、何だあの姿は?!」」

「「あれが、エリーの魔法なのか?!」」

「「す、すげーよエリー!優勝しちまいな!」」

「エリー」「エリー」「エリー」

またも観客はエリーコールを始める。その中で彼女の麗しい紅口が開く

「———これはあのお姫様との対戦まで取っておくはずでした。しかし、貴方には私の全力を出したいと血が騒ぎます。この姿は黒豹族の受け継がれる魔法」

そして彼女の黄金の瞳が俺を射抜いた

現在、彼女の視界は色が無く、白黒の世界
無駄な色彩を自ら遮断し、必要最低限の色だけを兼ね備える

「貴方でさえも追い付けない‥‥行きますっ———」

滑らかな構えと共に、彼女は足を踏み込む動作をする

しかし踏み込む動作であって実際には踏み込んではいない

なのに10m程あった俺との距離が僅か拳一つ分まで迫っていた

「———く、そっ!」

一瞬の出来事で俺は無理やり腕を交差して咄嗟に防ぐ
しかし、そんな無理やりの防御など意味を成さず、骨が折れる音が体に響き渡る

危機を感じ距離を取ろうとするが彼女の攻撃は隙を許さなかった

彼女の軌跡を目で追うことすら出来ない

「———はああぁぁあぁああ!!」

光の速度で何度も攻撃を仕掛けてくる彼女に俺は防御一択

避ける事すら出来ず、全身に打撃を受け続ける

流星のように駆け巡る光

四方八方から連なる打撃の嵐

闘技台が一種の花火を想像させられる

「あ、ありえねえ‥‥」

「あのエリーがあんなに強かったなんて‥‥」

「今年は番狂わせが起こるのか」

戦闘を見ている観客は唖然としていた。なぜなら攻撃が見えないのだから

光の速さで攻撃をするエリー。他の者には星が俺の周りをグルグルと駆け回るようにしか見えないだろう

またこの光景を貴賓席から眺めている女王ストレニアと娘のリコリスも驚愕していた———

「———あれが黒豹族の魔法か、初めてお目にかかった。何と美しい‥‥そして強い。リコリスどう思う?」

女王は驚愕しているリコリスに感想を促す

「はい。去年とはまるで別人です。これが黒豹族の魔法ですか‥‥」

「どうだ?あの花魁に勝てそうか?」

女王は娘に挑発気味に話しかけ‥‥‥

「もちろん勝てます。黒豹族だけが最上級魔法を使用できるのは軽率です。私の魔法の前では無力ですから」

娘の自信ある発言に喜びを覚える女王。笑顔を浮かべ、娘の成長を感じていた

「そうか。この戦いは見ものだぞ。目に焼き付けておけ」

「はい‥‥」

娘との会話が終わり、戦闘を眺めていた女王は気になっていた

(あの少年はなぜ防御しかせん‥‥)

光の速さで動くエリーの攻撃を受ければ防御しかできないのが当然の見解

あの背格好で防御ができればむしろ良い方だ。なにせ見えないのだから

女王の目には若干の動きしか見えないが選ばれし者セレツィオナートである彼女は匂いや音だけで反応できる

しかし女王の目には、あの少年がただ防御している様には見えなかった 

(あの光の速さのエリーを見切っているとでもいうのか‥‥もしも、この戦闘であの少年が勝利したのなら‥‥いいや考えすぎか)

女王はある仮説を頭に思い浮かべていた。しかしそれは早とちりだと考えるのをやめ、両者の戦闘を見る

(この少年が勝利したとして、一連の事件を重ねるのは流石に酔狂というもの)

しっかりと見定めなければならない

女王はこの戦闘を瞬きせずに見守る事にした
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